僕の艦隊これくしょん ~提督になれば艦娘とイチャラブできると思っていた~   作:荒井うみウシ

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ボノたんなのにクソ提督と言わせられなかった…


提督と羊羹

ほんと、私何してるんだろう。

折角一緒にご飯食べられたのに、勝手に嫉妬して、勝手に先に出て、勝手に後悔して。

潮みたいにかわいい娘だったら私も提督にかまって貰えるのかな…

言いたいことは言っちゃうタイプの私じゃ無理な話なんだけど。

そのくせ重要なことは、かまって欲しいって提督に伝えられないんだもの。

我ながらひねくれ具合がひどいわ。

 

あの調子だもの。潮は平気そうね。

きっと愛想の悪い私は真っ先にお払い箱よ。

同じように愛想の悪いタイプでも叢雲や霞はなんだかんだ頼りにされているし。

白雪をはじめとした真面目ちゃんタイプは上官として扱いやすいと思う。

とすればやっぱり私が真っ先にいらないわね。

 

ほんと、どうせならさっさと解体してくれれば良いのに。

 

 

 

うそ。本当はずっと彼の力になりたい。

どこまでひねくれているのだろう、私。

ため息ばかり増えるわ。

 

 

「ぼのさん、突っ立ってどうしたん?」

 

振り向くと提督が居た。

口調は軽いけど、私のことを心配してくれているのだろう。

正直うれしいと思ってしまった自分が嫌になる。

勝手なことをして心配させて、それで喜んでいるのだもの。

 

「別に、どーでもいいでしょ」

 

今は放っておいて欲しい。

優しくされるともしかしたらと思ってしまうから。

 

「うーん、じゃあとりあえず中に入りません?」

 

そういえば私が執務室の前に立って塞いじゃっている。

慌てて慌てた様を見せないように扉を開けて中に入る。

 

「仕事始める前にちょっといいかな?」

 

そう言ってソファに手招きする提督。

 

「さっさとやらないとまた叢雲に怒られるわよ」

 

今は提督と何も話せる気がしない。

 

「まぁ、そのときはそのときで僕が怒られれば良いから。ほら、座った座った」

 

ぽんぽんとソファを叩く。

仕方ないから少しだけ付き合ってあげよう。

 

「さてと」

 

提督は奥の棚から何かを取り出し作業を始めた。

 

「何してんのよ」

 

「ちょっと待っててー」

 

返事になっていないし。

少しすると提督がお皿とお茶を出してくれた。

お皿の上のは…羊羹?

 

「こんなのいつの間に用意してたのよ」

 

「ミンナニハナイショダヨ」

 

また変な発音で言うし。何なのよ。

 

「さてと。曙さん、あなたは今とても気になっていることがあるでしょう?」

 

「その言い回しむかつくんだけど」

 

正直彼のこういうセンスはよくわからなくてついていけない。

 

「まぁまぁそういわず、聞いてくださいな。それでね、チミにその答えを示してしんぜよう!」

 

「はぁ…で、何を示すって言うのよ」

 

「端的に結論から。曙さんを解体するつもりは一切ありませんよ」

 

「…」

 

どこまで潮から聞いたのだろう?

というかそんな冗談風な話し方からいきなり真面目に言われても信じられないわよ。

いや、信じたいけど、無理でしょう?

 

「ありゃ?僕の勘違いだった?」

 

「…ど、どーして私がそんなこと気にしてると思ったのよ…」

 

自分でわかるほどすごく動揺してる。

提督は本当のことを言っているのか?よく言う冗談か?

どこからどこまで冗談なのかよくわからない…いや、むしろ提督はほとんど本気で言っているわね。

じゃあやっぱり本当?でも私よ?口を開けば()()()()て言う私よ?自分で言うのもおかしいけどクソなんて言ってくる部下なんてうざいだけでしょう?

ドMなの?ドMだったら付き合いきれないわよ私!

 

「うーん、色々調べてみると曙さんが、というより駆逐艦全体でそういう心配をしているように思えてね。勝手な勘違いだったら良いんだけれど、いや、よくないか、曙さんが気にしていることがわからないんだから」

 

駆逐艦みんなってことか…

鈍いところが多いのにこういうのは気づくんだ。

いや違う。彼は鈍いけれど、鈍いから丹念に調べて私たち以上に気を使って接してくれているんだと思う。

それ程のことをする価値が私たちにはないのに。

 

「フ、フン!私がそんなこと気にするわけないじゃない!ま、まぁ他の娘でそういうのを気にしている娘が居るかもしれないけれど、私には関係ないわ」

 

こんなときでさえ素直に言う事を聞けず、強がってしまう。ほんとどうかと思うわ。

 

「そう、じゃあそれについて詳しく聞きたいけど、先に曙さんの方を話しましょうか」

 

これ以上何を話すの?

 

「曙さんが何か気にしているのは流石にわかりますよ。それを解決したくてね。これでも僕はここの責任者だから内部のことならある程度融通利かせられる権限は持ってるんだ」

 

どうかな?と目で問う提督。

彼の考えは本当にわからない。私なんかにそこまでしてくれるなんて…

 

「べ、別に提督にどうにかしてもらわなきゃならないようなことなんてないわよ…」

 

素直にもっと傍に置いてて欲しいって言えないのかしら。

 

「…。それはキミ一人でどうにかできるってことかい?」

 

「そうよ。だから放っておいて頂戴」

 

かまって欲しい。

 

「そうかい。曙さんがそう言うなら信じよう。この話はお終いで」

 

折角色々お願いできるチャンスなのに、もったいない。

でもそんなことできないし、これで良いのかもしれない。

 

「ん?どうしたんだい?」

 

「な、なんでもないわよ」

 

「ん。ならさっき話してた解体されるかもと危惧している娘たちについて教えてくれる?」

 

そう言えばちょっとそういうこと言っちゃったわ。

今更黙っているわけにもいかないし。

ある程度誤魔化しつつ話すしかないか。

 

「別に。そういう娘が居るらしいってことだけよ。理由はそうね、提督が新しい娘ばかり欲しがるからじゃないかしら?知らないけど」

 

こんな具合かな?

 

「他に何か知らない?具体的に誰とか」

 

「さぁ?」

 

「じゃあ、()()()()とか()()()()については?」

 

「和菓子ね。それがどうかしたのかしら?」

 

白を切り続ける。

提督はしばらく考えるそぶりをしている。

 

「…そっか、キミからなら聞けるかと思ったけど、僕の勝手な思い込みだったようだ。ごめん、もう忘れて良いよ」

 

そういってすごく冷めた目で見る提督。

そこにあるのは落胆。

食堂の反応からして私が知らないはずがないとわかっているのに白を切り続けた私に失望しているのか。

 

あぁ、そんな目で見ないで欲しい。

どうすれば普段のちょっと困ったような優しげのある目になるのかしら?

ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!

もう隠さないから!

 

「…どうしたの?」

 

「霞の…霞の例え話よ」

 

提督は黙って聞いている。

さっきの冷たい目つきではなくなっているが、いつまたああなるかと思うととても怖い。

 

「始まりは叢雲よ。提督には所属させられる艦娘に限りがあるって。急に建造の方向性が変わったのは限界に近づいてきているからじゃないかって。みたらしはただの例え。みたらしよりも魅力的な大福や餡蜜が手に入るとして、持てる数に限りがあるならみたらしを置くよねって…」

 

私がそういうと提督は腕を組んでぶつぶつとつぶやき始めた。

 

「…ふむ。なるほど。所属できる艦娘の限り…保有数のことか。和菓子なのは重要じゃないと…」

 

少しすると彼は顔を上げた。

 

「ちょっと確認したいんだけど良いかな?」

 

「何?」

 

「所属させられる艦娘に限りがあるって言ってたけど、最大保有数のこと?」

 

「え、えぇ」

 

やっぱりどうしてそれを知っているのかってことかしら?

叢雲も本来は艦娘が知りえない情報だって言ってたし。

 

「それがどういうものなのか知っている限り話してくれる?」

 

「へ?あぁ、うん。単純にどれだけ多く艦娘を部下として持てるかってことじゃないのかしら?」

 

「それだけ?」

 

「それだけって、それ以上に何かあるのかしら?」

 

「あぁー、なるほど。確かにそういう認識なら解体とか考えるよなぁ…」

 

一人うんうんと納得いっている様子の提督。

 

「どういう意味よ」

 

「うーん、どこから説明しようかな?まず最大保有数って言うけどこれ、かなり不適切な表現なんだよね」

 

「不適切?」

 

「間違っていないけど正しくはないってこと。かと言って他の妥当な言い回しをすぐに思いつくわけじゃないんだけどね。それはともかく、艦娘って自分の提督が判別できるよね?」

 

頷いて肯定する。

 

「最大保有数っていうのは提督がどれだけの艦娘から"自分の提督"と判別されるかっていう数なのよ。だから例えば最大保有数が100の提督が居たとして、その提督には100隻までの艦娘が"自分の提督"と判断する可能性があるって言うこと。しかも厄介なことにこの最大保有数は増減する可能性もあるんだよね…」

 

「ちょ、ちょっとまって、よくわからないわ」

 

というか追いつけない。

最大が100の提督は100隻まで判断する可能性がある?

 

「ごめん、わかりづらかったかな?どの辺がわからないって聞いてもアレか。どの辺までわかった?」

 

「えっと、さっきの例えだと、101隻目の艦娘は居ないってこと?」

 

「うんそう。その通り。だから枠を空けるために既存の娘を解体~とか、する必要がないどころかそれまで育ててたのがパーになるからデメリットしかないね」

 

つまり私たちが危惧していた他の新しい娘を招き入れて、可愛げのない私たちを解体するのは選択肢としてないってこと。

せいぜい可愛い新しい娘に重きが置かれるかもしれないが、傍に居られなくなることはないわけだ。

すごく。安心した。いや、それはそれで色々警戒しなきゃいけないかもしれないけれど、今はおいて置こう。

 

「なんだか安心してもらえたみたいで何より。とりあえず大丈夫かな?」

 

「えぇ、とりあえずは。そういえば増減するとも言っていたけど、それはどうなの?」

 

「増える理由はまだ解明されてないんだって。提督としての技量が上がったらとか言われているけど何をもって上がったと言うのかわからないし、そもそも最大保有数の大小で優秀さは決まらないしね。減るほうは色々あるみたい。例えば沈めちゃった場合とか、酷く艦娘に嫌われたり信用されなくなったりした場合とか。あとは複数の提督に反応する娘が誰か一人に従うと決めた場合にそれ以外の人たちはその分減るとか。そんな感じ。あと聞きたいことは?」

 

この調子ならこれを聞いても答えてくれそうね。

 

「提督の最大保有数は?」

 

「僕の?悪いけれど正確な値はわからないんだ。ごめん」

 

わからない?

 

「どういうことかしら?」

 

「測りきれなかったんだよ。訓練生時代に増え始めてね。訓練校にあった簡易測定器だと99までしか測れなくて、それ以上なのはわかっているけど、いくつなのかはわからないんだ」

 

「なにそれ」

 

「そういわれても僕にもわからないなぁ…」

 

まったく何なのよもう。

 

「さて、もう質問がないなら羊羹食べよう?」

 

そういえばまだ手をつけてなかった。

 

「さっき聞きそびれちゃったけど、曙さんは粒あんとこしあんどっちのほうが好き?」

 

「別にこだわりはないわ」

 

この羊羹、おいしい。

 

「そっか、両方いけるならいいや」

 

しばらく沈黙が流れる。

 

「ご馳走様。悪くなかったわ。それじゃ仕事再開するわよ」

 

「あいあい、了解。食器片しちゃうから先始めてて」

 

あ、それくらいやるのに…

いっちゃったし。

 




感想欄でおにぎり談義ありがとうございました。

保有数騒動はそろそろ終りそうです。
といいつつまだ何話か続きそうですが。


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