僕の艦隊これくしょん ~提督になれば艦娘とイチャラブできると思っていた~ 作:荒井うみウシ
先日、健康診断を受けるよう大本営から通達が来た。
艦娘を束ね、従えている提督はこの国に百数十人らしい。
適性を持つ人自体はもう少し居るようだが、あまりにも最大保有数が少なかったり、人格的に不適切だったりしてこれぐらいの人数に落ち着いているとのこと。
人格的に不適切と言っても年齢が低いため責任能力が認められないというのが大半らしい。
だから将来的には増加するかと思えばそうはいかないのがつらいところ。
色々な理由で提督を続けられなくなる人が後を立たないのだ。
最大保有数がなぜか減り始めて所属している艦娘にすら提督と判別されなくなったり、仕事のストレスから体を壊してしまったり。
それ故か提督の年齢は18~35歳程度がほとんど。40歳を超える提督は片手で数えられる程しか居ないらしい。
だからまぁそれなりに希少性のある提督は定期的に健康診断を受けることが義務付けられている。
通常は医師が鎮守府に来て診察することが大半なのだが、特定の提督は指定された施設で受診しなければならない。
僕もその一人で、理由は最大保有数の多さ。
そんなこんなで出張の準備をしているのだけれど…
―・―・―・―・―・―
「急に呼び出して悪いね。ちょっと二人の意見を聞きたくてね」
呼び出したのは叢雲と霞だ。
名目は健康診断のため留守にするから、その為の打ち合わせ。
その実、駆逐たちで蔓延している誤解を解く為だ。
「…何?」
ソファに座るその姿は普段よりもだいぶ険しく見える二人。でも意識してみると険しいのではなく暗いというほうが近いのかも知れないと思った。
「近々健康診断で留守にするのだけど、その際の運営や護衛についてね。ある程度運営の方は指示を残して置くけど、一応僕の代理的な娘を用意したいんだ。その人選をどうしようか悩んでいてね。まずは前情報なしで君たちの意見を聞かせてくれるかい?」
順当に建前の話題を進める。いや、これも一応大事な話なのだけれどね。
「そうね、司令官代理と護衛の娘を選ぶのでしょう?代理は赤城さん、護衛は白雪あたりが良いんじゃないかしら?霞はどう?」
「私もそれでいいと思うわ」
「理由は?」
「代理なのだから冷静な性格で、視野が広いほうがいいわ。空母の赤城さんなら戦況を冷静に見られるでしょうし、多くの艦載機を扱っているから視野も広いので適任。護衛の方は小回りと機転の利く娘が良いわ。それに今回は一泊してくるのでしょう?だったらうちの駆逐艦の中でも対応能力の高い白雪が適任でしょう」
仕事の話はちゃんとできるな。
「なるほど。参考になった。で、君たち自身を候補に挙げなかった理由を教えてもらえるかい?」
少し動揺している様子だ。
「適任なのをあげたらさっきの二人になっただけよ。彼女らのほうが優れている、ただそれだけ」
霞が言い捨てるように言う。
「そうかい?じゃあもし君たちのどちらか一方に代理を、もう一方に護衛をしてもらうと言ったらどうする?」
二人は顔を見合わせて悩んでいる。
「私が代理で霞が護衛ね」
「私は逆が良いと思うわ」
あはは、やっぱり君たち僕と二人は嫌だと。そうだよねぇ…
「そっか。わかった。ありがとう。そうだ、ついでに少しお菓子を食べていってくれ」
「いらないわ。まだやることがあるもの」
本題をストレートに聞くよりちょっと捻った方が逃がし難いだろう。
立ち上がって棚からお菓子を取り出す。
「そう言わずに。今日食べないとダメになっちゃうんだよ。それに君たちの今日の業務はもう終っていると思うのだけど?それでも嫌なら無理にとは言わないさ。で、みたらし団子と餡蜜と大福があるけれどどれにする?」
一つずつ置いていく。
彼女たちの様子を見るが不機嫌そうなままで変わらない。
もうちょっと動揺とかしてくれたら進めやすいのだけれど。いや、僕が読み取れていないだけかも…
「あぁ、それと一人ひとつだからね」
おずおずと二人が手を伸ばす。
先に叢雲がみたらしを取り、同じくみたらしを取ろうとしていた霞の手が空を切る。
二人が見合わせ、沈黙する。
「二人ともみたらしが好きだったのか。けど一つしかないから、ジャンケンかなにかで決めたらどうだい?」
二人とも同時にため息をつく。
仲良いな君ら。
「アンタ、色々分かっててやっているでしょ?」
「言いたいことがあるならハッキリ言いなさい」
綺麗な顔立ちだから睨まれると余計怖いんだよ。
「はいはい、降参。最近君たちの間で広がっている
二人とも目を逸らす。
しばらく沈黙が続く。
とりあえず叢雲の手元にあるみたらし団子を取って食べ始める。
「あんたねぇ…」
叢雲が非常に呆れた声を出す。
「いや、食べながら聞こうと思って」
「はぁ…。わかったわよ、話せば良いんでしょ」
うん、適当に選んだやつだけど結構おいしいぞこれ。
「…あんた、新しい娘もっと欲しいんでしょう?」
「うん、欲しいね。それで?」
「それでって…まぁ、いいわ。それが理由よ」
吐き捨てるように言う叢雲。それが理由といわれても意味が分からない。
曙の話を踏まえて考えれば最大保有数のことを勘違いしているのだろうけれど、それをこちらから言うつもりはまだない。
あくまで彼女らがどう考えているのか、どう感じているのかを知りたいのだ。
こちらから逃げ道を用意してしまったらそこに流れて話は終わり。
根本的な解決には至らないだろう。
勘違いを訂正するのはそれに対処してからだ。
「いや、それだけじゃまったく腑に落ちないので詳しく話してくれる?」
「どうせ私みたいにお小言がうるさい娘より別の可愛い娘がいいでしょう?で、抱えられる艦娘の数に限りがあるなら当然他の娘を選ぶじゃない」
「ふむ、霞さんはどうだい?」
ずっと黙っている霞にも話を振る。
「そうね、私よりも朝潮姉さんとかの方が好みなんでしょう?なら私から言うことはないわ」
なぜ朝潮指定?
「妙に具体的だね。理由を聞いても?」
「司令官がそう言っていたと聞いたけど?心当たりないのかしら?」
そういえば前に朝潮ちゃん来てくれーって言った覚えがあるし、それのことか?
でも霞の前で言った覚えはないのだが。たしか満潮だった気が…伝え聞いたのか。
「あー、うん。あるわ、心当たり」
ほらねという顔でそっぽ向く霞。
いや、朝潮ちゃん可愛いじゃん。
それは置いておこう。
「うーん、ちょっと引っかかることがあるからいくつか確認させて欲しいのだけど」
二人を見ると反応がない。続けよう。
「とりあえず二人とも、艦娘の最大保有数についていつ知った?」
「訓練校にいた頃よ」
「私はこの間叢雲に聞いてからよ」
「霞さん。それは具体的にはこの間の、そうだな、榛名さんが来てくれた頃かい?」
「えぇそうよ」
なるほど。つまり叢雲が重要か。
「じゃあ叢雲さん。僕の下につく初めから知っていたということだろうけど、
そう。叢雲はここに来るとき、鎮守府に着任するときから一緒だった。
であればそういった不安をいきなり持つのは不自然だ。
初めから持っていた?だとしても現状に至るまでのきっかけがあるはずだ。
そういったところを知らなければまた繰り返される危険がある。
「どういう意味よ」
叢雲にはこちらの意図が分からない様子だった。
「最近知った霞さんはともかく、僕の下につくことが決まったときには知っていたはずのキミが、ここで急にその情報を周囲に開示し、その上自分が排斥されるかのような言い回しをしているのか。これはとても不自然じゃないかい?」
仮に叢雲が自分は排斥されないという可能性が高い上での開示ならば筋は通る。彼女の性格からしてしないだろうけれど、この場合なら周りの不安を煽り、自滅を促すことでより自分の立ち位置を保持しやすくできるからだ。
だけど彼女自身が自分が排斥される側だと思い込んでいる現状ではこの仮説は成り立たない。
「それは…」
言いよどむ叢雲。
黙って待つ。
「…司令官、榛名さんのことどう思う?」
霞が口を開く。
どういう意味だろう?
だがここで適当に流したりするのは悪手だろう。
「榛名さん?うーん。正直僕の娘じゃなくて残念だったなぁと。それが?」
「それだけ?それにしてはなんだか思い入れが激しいように見えたけど」
思い入れねぇ…
来てくれた当初から他所の娘と分かったからそんなに変なことはしないように気をつけてたけど、どれのことだろう?
「悪いけど思い当たらない。他所の娘だから扱いに差があるのは確かだけど、むしろ君たちのほうがとても思い入れがあるけれど?」
「…へぇ、思い入れもない娘なのに手料理を振舞ったりするのね」
手料理?あぁ、ひょっとして前にパスタを振舞ったことか。
それが一体なんの関わりが…え?ひょっとしてそれがきっかけで排斥されるのかもと思い始めたの?
あー、乙女心は分からん。
「客人をもてなすのに料理を振るうのは普通だと思うけど…。えっと、即興で作れるもので良いなら今晩君らの分作ろうか?」
「…いらないわよ別に」
黙っていた叢雲がぼそりという。
なんだ、これがきっかけじゃないのか。
「そう。で、結局霞さんは何が言いたかったのかな?」
「艦娘によって扱いに差があるんじゃないのかってことよ。それが榛名さんのときにハッキリしただけ」
あー、これは僕の方針の問題か…
言い訳に思われそうだけど、これは伝えておくべきだな。
「艦娘によって扱いに差があるねぇ…。うん、この際だからハッキリ言うと有るよ。だって君らは一人ひとり別の娘じゃないか。同じに扱うのはおかしいだろう?近しい対応で問題ない娘はまぁ似たような対応になるけれど、そうじゃない娘とは当然差が出る。だけれどそれは単に各個人の性格に合わせたものであって、特定の誰かが要らないというわけじゃないぞ」
あんまり反応が返ってこない。
うーん、やっぱりただの言い訳に取られちゃったかな?
正直このあたりは信頼の問題だ。一夕一朝でどうにかなる話じゃない。今後の態度で示していくしかないな。
「…まぁ君らが今の対応に不満があるならどのように対応して欲しいか言って欲しい。可能な限りそうするから。それと、叢雲さん。キミの最大保有数の認識、ちょっと勘違いしているから。結論を先に言うと自分の保有する艦娘を解体しても何のメリットもないし、デメリットばかりだから選択肢に存在しないよ」
ここでようやくこちらを向く叢雲。
「勘違い?」
「うん」
ここで曙に伝えたように保有数について説明する。
「…つまり叢雲が勝手に勘違いして暴走したってことね」
霞がまとめる。
叢雲はうつむいてプルプル震えてる。
「うーん、正直キミたちをそういう発想に至らせてしまった僕にも責任があるけどね」
「そうよ!アンタの責任よ!普段から引きこもってないでもっとコミュニケーションとりなさい!」
なんというか横暴じゃないかな…
「いや、仕事有るし。もう少し人手が揃ってルーチン化できれば問題ないのだけど…」
「言い訳無用!せめて食事くらいは一緒に取りなさい!」
「あぁー、はい。善処します」
「善処じゃなくて改善しなさい。それで今回の件は流してあげる。他の娘にも私からフォローするわ」
あー、叢雲にあわせておいたほうが色々とよさそうだな…
「わかりましたよ。と言っても毎食はまだ無理だろうから昼食だけは何とか食堂で食べるようにするよ」
「ま、今のところそれが落としどころかしらね。叢雲、それぐらいにしておきなさい」
霞がアシストしてくれた。これで勝つる!いや、勝ち負け関係ないけどね。
まだフーフー息を荒げている叢雲も、霞にそういわれて抑えているようだ。
「まま、お茶飲んでお菓子食べて落ち着きましょうや」
大福と餡蜜を勧める。
「ふん、今回はこの位にしておいてあげるわ」
ありがたやー。
とりあえずこれで今回の件、駆逐側は何とかなりそうだ。
そういえば那珂ちゃんが重巡以上の娘らもフォローしてやれって言ってたな。
次はそっちもやるか…
「あ、そうだ。さっきの健康診断の件だけど、叢雲さんに僕の代理やってもらうから」
「!?」
ゲホゲホとむせる叢雲。
「大丈夫かい?」
「大丈夫じゃないわよ。いきなりなに言い出してビックリしたじゃない。それでなんで私?」
「一番僕と付き合いが長くて、僕ならどうするかということを把握してそうだから。余程のことにならなければ指示書通りにして報告書をまとめておいてくれれば良いから普段よりは楽なはずだよ。出撃とか抑えているし」
「まぁやれというならやるわよ」
「よろしく。それと霞さんは叢雲さんのサポートよろしく」
「その流れなら私は護衛じゃないのかしら」
「いや、正直君たち二人をここから離したくないんだよね。正確には君らと白雪さんの三人のうち二人は残しておきたいかな。で、今回は二人とも白雪さんを護衛に推薦してたから、それを採用する形を取ろうと思ったんだけど、どうかな?」
「そういうことならいいわ」
霞も納得してくれたしこの件はあと白雪さんに話すれば問題なし。
さて、遠征から白雪さんが戻ってくるまでにキリの良いところまで仕事を終らせなきゃな。
そんなことを考えながらのんびり三人でお茶を飲んでいるとノックの音がした。
保有数に関する騒動はそろそろ落ち着きそうです。
また、ちょっとだけ誤解が解けたようですが、まだイチャラブには遠いですねぇ…
それはともかく、ノックは一体誰からなのでしょうか。次話をお待ちください。