僕の艦隊これくしょん ~提督になれば艦娘とイチャラブできると思っていた~ 作:荒井うみウシ
「それで提督は勝ったんでしょう?どんな仕掛けだったの?」
ちょっと興奮気味に敷波が問う。
「そんなころから変わった編成を好んでいたのですね」
白雪がしみじみと言う。
「司令官ってやっぱり水雷戦隊の扱いが得意なの?」
満潮が一人考察し始めた。
「まぁ続きを話すわよ」
わいわいと湧き上がる皆をなだめながら続きを話しはじめる。
―・―・―・―・―・―
「…判定の結果は甲側の戦術的敗北・乙側の戦術的勝利。以上だ。解散」
乙側。どうやらこちら側のことらしい。
ヒャッハーと隼鷹さんが徳利を傾け、他の娘たちも喜んでいる。
対して相手側の娘たちはある者は申し訳なさそうに、ある者は悔しそうにしていた。
「おかしいでしょう教官!こんなの何か仕込んでいるに違いないです!」
相手の訓練生が教官に詰め寄る。
「控えろ。厳選な審査の上での判定だ。無論違反行為等も認められない。単にお前の力不足だ」
苦々しく言う。おそらく教官もこの結果を認めがたいのだろう。
こちらとしてはしてやったりだ。しかし、一体手品の種はなんだろう?
「ですが!そうだ、貴様ら!アイツに何かされたんだろう!?言「待てよ」」
相手が相手の艦隊の娘たちに言い寄ろうとするといつの間にか司令が彼と彼女らの間に滑り込んで止めていた。
「な、なんだよ。お前、何かしたんだろう?じゃなきゃこんな結果はおかしいはずだ!」
「はぁ…」
呆れたようにため息一つ。そしてとても厳しい目つきになって口を開く。
「黙ってろ。彼女らに当たるのはお門違いだ。なんなら艦娘を交換してもう一度やろうか?前提として教官と彼女らの了承が必要だが」
「うぐっ」
強面を怒りでゆがめながら言う。口調は冷静かつ淡々としているが、非常に重圧を感じるものであった。
先ほどの軽い口調を使っていた人とは同一人物とは思えないほどそれは威厳にあふれ、前にした者はそれに気圧されるだろう。
現に相手はもしかしたら粗相をしでかしているのではないかと思えるほどおびえている。
「ま、結果は分かりきっているがな。もちろんやりたいなら当然君が交渉しろよ?」
「うぅ…くそっ」
相手は逃げ出すようにその場を後にした。
「…貴様。程々にしろよ。次は喧嘩とみなして処罰する」
明らかに司令官は悪くないのに教官が注意する。
彼は艦娘らを守っただけなのに。
周りの艦娘らもそれを理解しているため、教官を睨みつける。
それに耐え切れなくなったのかいそいそと教官は立ち去った。
「ふぅ。君たち、補給と入渠を済ませて後は自由に休むと良い。自分の指揮官の指示無しに行動することを咎められたら僕の指示に従ったことにしておいてかまわないから」
相手側の娘らに伝える。
向こうを向いているから表情は分からないが、とても柔らかな口調だ。
「ありがとうございます…」
代表して旗艦の伊勢さんが頭を下げ、皆を引き連れようとする。
皆も習って頭を下げてついていく。
が、鳳翔さんが伊勢さんに何か伝えてからこちらに近寄ってきた。
「あの、提督ありがとうございました」
鳳翔さんが改めて頭を下げる。
「いえいえ、提督たるものこの程度のことは。まだ訓練生ですけどね」
先ほどの剣幕はどこへやら。私に声をかけたときのように茶目っ気を含んだ軽い口調で話す司令官。
「して、何かご入用で?」
「えぇ、その、よろしければ先ほどの戦闘について差し支えがない程度にお話を伺いたくて」
「あ、そうよ。私もそれ聞きたいのよ。まだ全部説明されていないわ」
私が鳳翔さんに続くと自分も聞きたいと他の娘たちも声をあげた。
「いやぁ、なかなかおもしろかったよ。言われたとおりの仕事はできたかな?」
隼鷹さんがへらへらと千鳥足で近づきながら言う。
「えぇ、十二分です。というか入渠しなくて大丈夫ですか?大破してますよね?」
隼鷹さんをちらちらと見ながら言う司令官。
服がボロボロで色々こぼれている。
このスケベが。
「あっはっは。大丈夫。模擬戦用のだからダメージはないし、服もすぐに大丈夫になるさ。ふふーん、まぁちょっとは提督にサービスしてあげようって思ってね」
そういって体をしならせる隼鷹さん。
「隼鷹さん、はしたないのでおやめくださいな」
鳳翔さんがたしなめる。口調は優しいがこれは結構本気だ。
「へ、へいへい。すぐに直してきますよ。というか一旦着替えた後に再集合して解説してくれない?私も自分のすべきことはわかったけど、理由とかわからないし」
隼鷹さんも鳳翔さん相手にはタジタジだ。
「んーじゃあそうしましょうか?他のみんなもいいかな?」
「「「「「「「「「はーい」」」」」」」」」
皆が承諾したのを確認して彼はひとつ頷いた。
「じゃあ30分ぐらいでいいかな?それぐらいたったら交流部屋のテーブルに集まってね」
交流部屋とは艦娘と訓練生が交流を深めることを目的とした部屋で、あそこなら特に許可など必要なく大人数集まることができるだろう。
司令官もひらひらと手を振りながらその場を後にする。
戦闘に参加していない娘らは着替えを必要としていないから彼についていく。
当然私もついていこうとすると声をかけられた。
「皆待って。先に装備を戻そうよ」
「せやな。忘れてたわ」
朧が声をかけると龍驤さんが返事した。
そういえば魚雷渡したままだったわ。
「はいこれ」
「うん」
朧に主砲を返し、魚雷を返してもらう。
まわりもほぼ同様に装備のやり取りをしていた。
ただ、伊168と若葉だけはなぜか伊168のほうから魚雷を渡しているようだった。
「あれ?あんたたちは交換していたわけじゃないの?」
「うん、私は元々装備を持ってないから借りていたの」
「へぇ、皆装備はしっかりさせられているものだと思っていたわ」
「駆逐艦はそういう娘が多いみたいね。私たちはほとんど選ばれることも無かったから装備がまわってこないのよ」
確かに潜水艦を主体にする訓練生は見たことが無い。
潜水艦と水上艦を混ぜるのは難しく、潜水艦のみの艦隊ならありえそうだが、ここにそれほど潜水艦娘が居ないため現実的ではない。
交換が終わり、控え組と戦闘組で分かれ、行動する。
「…それにしてもさっきのすごかった」
ぼそりと初雪が言う。
「そうね。あの編成、どう見ても相手側のほうが有利だもの」
「まったくだ。それにしても皆彼に声をかけられたのかい?」
若葉が問う。
「そうだな。長月たちはたまたま一緒に訓練していて、そのときに声をかけられたんだ」
初雪と名取さんが頷いている。どうやらこの3隻は固まっていたようだ。
「せやなー。うちは隼鷹を使いたいっていう奇特な司令官がどんな人か興味もってなー。隼鷹と打ち合わせしにきた彼に手ぇ貸してってな」
龍驤さんは隼鷹さんの近くに居たからか。
「そんで、まぁなんかギリギリまであと一人は欲しいって言うて、探しに行ったらキミをつれてきたっちゅーわけや」
龍驤さんが続ける。
「結局どんな指示を出していたの?私はあのタイミングに初めて会ったから何も聞かされていないのよ」
「うちらも具体的には何も。装備を貸して欲しいって。戦闘組はなんか聞いていたみたいやけど、ほとんど個別に指示されていたみたいで全容を知ってる娘はおらんとちゃう?」
龍驤さんがみんなにも目をやるが、誰もそれを否定しない。
やはり彼に聞くしかないのか。
「…単に雷撃に賭けただけには思えない」
初雪がつぶやく。
この娘も私と同じところまでたどり着いたみたい。
でも私と同じくその先は見出せない様子ね。
「その、隼鷹さんとよくお話していましたが、龍驤さんは何か聞いてませんか?」
名取さんが続ける。
「そやねぇ。半分くらいは酒の話やったなぁ…。戦闘に関してうちが聞いたのはせいぜい航空戦はキミにかかってるって言うてたことかな?でも空母は隼鷹しか編成に居なかったんだから当たり前のことやし…」
龍驤さんも何か聞き取れたわけではないようだ。
結局どんな指示を出していたのか。
そして戦闘中まったく指示を出さずに勝てたのか。
それは誰にもわからなかった。
―・―・―・―・―・―
「話を引っ張るわね…」
霞が苦言をこぼす。
「当時の私たちも結構悩んだのよ。そうね。ここで皆も考えてみて。ヒントはそうね…あいつならではのやり方だったわ」
ほんと、あいつならではよね。
他の人なら
少なくとも私が見てきた他の訓練生では誰一人それをできる人物は居ない。
「…提督ならではの…やり方?」
潮がうーんと頭を捻っている。
「あぁーもう!早く教えなさいよ!」
曙が急かす。
「ま、まぁまぁ、こういうの考えるのも楽しくないですか?」
磯波は結構こういうのを考えることは嫌じゃないようね。
「軽空母と潜水艦が肝なんですよね?」
流石は白雪。そういう情報をしっかりと捕らえている。
「えぇ、そう言っていたわ」
「で、装備の交換もしていたと。というか何でそんなに艦娘を集めたの?」
敷波の疑問は当時の私も思っていた。
「…んちゃ」
霰は…なんなんだろう?
「気に入ったの?」
「うん」
どうやらただ漏れただけのようね。
「司令官ならではのやり方で、軽空母と潜水艦が肝…ていうかうちに潜水艦娘居ないじゃない。なのに司令官ならではのやり方ってどういうこと?」
満潮が良いところに気が付いたみたい。
「ふふっ、そうね。そこは別々に考えたほうが良いかも」
「言い回しがイラつくわね」
「あら、ごめんなさいね」
霞はご立腹の様子。
でもきっと答えを聞いたら皆納得すると思うわ。
「じゃあ続きを話すわね」
「あ、待ってください」
「どうしたの潮?」
慌てたようにいう潮。
「えっと、あんまり自信は無いんですけど、半分くらいわかった気がします…」
「何よその中途半端な言い方。わかったならわかった、わからないならわからないってしなさいよ」
曙が言う。
「じゃあ私にこっそり話してくれる?」
そう伝えると潮が近づき、耳元でこっそりと答えを囁く。
「えぇ、正解。でもそうね、半分っていうより1/3かしら」
潮が最初に当てるとは思わなかったわ。
あてられるとしたら白雪かと思っていたけど、意外なこともあるのね。
「1/3ってなによ!」
曙が頭を抱え始める。
「1/3でも折角正解がでたのですから、もう少し考えさせてもらえませんか?」
白雪が言う。
これはおそらく意地があるのでしょう。
「えぇ、いいわよ。もう少し悩んでみて」
「1/3ですか…」
潮がぼやく。
「潮ちゃん、ヒント頂戴」
敷波が潮に掛け合う。
「え、えぇと、叢雲ちゃん、いいの?」
「丸々正解を言わなければ良いわよ」
「じゃあ、えっと、軽空母とか潜水艦とかはわからなかったから、提督らしさっていうのを考えたんだ。で、普段私たちにどうしてるかなって思い返したことを言ってみたの」
「まぁそれぐらいならギリギリかしら」
これ以上踏み込んだ言い方ならちょっと止めてたかも。
「普段?あたしたちに?」
「別段特に変わったことを指示されていないわよね」
敷波も霞も頭を抱え始める。
ちょっと優越感。
「そーね。作戦も大雑把な方針や注意点だけ伝えて具体的な指揮は全然やらないし。私たちを信頼しているって言うのはわかるけど、何か指示出すことなんてほとんどないわ。変わったことを言われればそれこそ覚えられるし」
曙が言う。
「…それじゃない?」
霰が気づいたようだ。
「どういうことかしら?」
「…ねぇ叢雲。さっきのが答えじゃないの?」
意外とこの娘鋭いかも。ぽわぽわ何考えているかわかんない雰囲気なのに。
「そうね。潮が当てたのもその部分よ。残りはまぁ、しょうもないところだし、とりあえず一旦切り上げましょうか」
「え?どういうことですか?」
磯波には通じていないよう…というか半分くらいの娘がわかってないみたいね。
「えっと、私たちに対するように、艦娘を信じて細かい指示は出していなかったのだと思います」
潮の言うとおり、艦娘に全幅の信頼を寄せるやり方。司令官なら何気ないことだと思ってしまうが、他の人ならまず無理だろう。
何せ当時の訓練生は通常艦娘という存在自体にそれまで関わりを持っていないため、ほとんど初対面な相手を完全に信じるということになる。
そんなことは常人なら無理だ。だが彼はそれをやってのけた。
「そういうこと。当時まだ戦闘についてほぼド素人なんだもの。下手に口出しするより普段から訓練を受けている彼女たちに任せるべきと考えてたみたい。だから大まかな方針とちょっとした注意点、というかいくつかポイントとなることをすれば後は好きに戦えって指示したのよ」
彼の異様さを感じている娘はパッと見居ないみたいね。
ここで建造されたわけでない白雪は気づきそうだけど特に変わった様子はないし。
「では残り2/3はそのポイントとなること、というわけですね」
白雪が言う。
だけどそうでもないのだ。
「いえ、そのポイントを抑えることだけでなく、もう一つ。本当にしょうもないことが要だったの。こっちは戦略というかあまりにも普通すぎて逆に驚いた、というか驚きを通り過ぎて呆れたわ」
ポイントのほうはともかく、もう一方は本当に言われれば何を当たり前なと思ってしまう内容だったのだ。
提督の策略とは一体!?
まだ続きます。
それさておき、毎度誤字脱字が多く申し訳ありません。
皆様のご指摘感謝です。