僕の艦隊これくしょん ~提督になれば艦娘とイチャラブできると思っていた~ 作:荒井うみウシ
「それでは留守を頼みますね」
目の前に居る叢雲、霞、白雪に声を掛ける。
「「「了解」」」
敬礼をして出発前最後のミーティングを終える。
出発の時刻までまだ早いが、先に荷物を持って行ってしまおう。
そう思って執務室を後にする。
「…ぁ」
執務室を出たすぐのところに潮が居た。
「あ、ごめん。驚かせたかな?」
「い、いえ。その…。ていとく、が行く前に、もう一度、挨拶しておきたくて…」
もじもじしている潮。
かわいい。
「そっか。ありがとう。歩きながらでも良いかな?まだ少し早いけど荷物を持っていこうと思っていてね」
「あ、はい!」
笑顔で頷く潮。
かわいい。
ぽんと軽く肩を叩いて歩き出すことを促す。
それに従って潮は歩き始めた。
「その、提督。帰ってくるの明日、なんですよね?」
「うん、そうだよ。たぶん夕方かな。短い間だけど指示は残してあるし、よろしくね。何か有っても君たちなら大丈夫だろうし」
「は、はい!がんばって資材、取ってきますね!」
潮は遠征組だったな。
「うん、期待している。ただ君たち自身のほうを大事にしてね。資材よりも潮たちのほうが大事だからさ」
そう声をかけ潮を見ると、頷いて応えてくれた。
「さて、荷物持ってくるからここで待ってて」
話していたら私室の前まで来ていた。
流石に部屋の中まで入れるのはまずいだろうから、部屋の前で待つように言い、荷物を取りに部屋に入る。
とはいえすぐに出られるよう既にまとめてカバンに入れてあるのだが。
「その、早いですね。それだけで足りるのですか?」
カバンの大きさを気にしているようだ。
「まぁ、男はこういうとき持ち出す物が少ないからさ、楽だよ」
着替えと外出用日用品。それと携帯ゲーム機ぐらいしか入っていない。
健康診断だから仕事用具は必要ないため、これで充分だ。
「その、お持ちいたします」
「いいよ、そんなに重くないし。どうせなら僕の手を持って欲しいな」
なんて冗談を言うと潮はうつむいてしまった。
「あはは、冗談だよ。冗談。気にしないでくれ」
ちょっとセクハラになっちゃったかな?
手をつなぎたいとは思うけどさ、ちょっと調子に乗りすぎたかな?
潮とは打ち解けてきたと思ったけど流石にまずかった。
「…わかりました」
「へ?」
空いている僕の右手を潮がそっと両手で握る。
そのままにぎにぎといじり始める。
「えっと、潮。両手だとちょっと歩き難くない?」
僕の声にハッとした様子で顔を上げる。
少し悩んだ後、片手を離した。
「嫌じゃない?」
「…こうしてたいです」
「じゃあこのままいこっか?」
コクリと頷く潮。
玄関まではあまり会話しなかったけれど、とても暖かい時間を過ごせた。
―・―・―・―・―・―
玄関に着くと既に榛名と敷波が待っていた。
「ありゃ、一番乗りかと思ったらドンケだったでござるの巻」
「あ、提督。お早いですね」
「まだ15分ぐらい余裕ある…」
声をかけたら二人ともこちらに気づいた様子。
そしてなぜか固まる敷波。
「敷波さん?どうかしました?」
「…」
「しーきなみさーん?」
「提督、そちらも手荷物ですか?」
くすくすと笑いながら榛名が僕の右側に視線を移す。
ん?右側?
「あぅっ」
潮と目があったと思ったら伏せられちゃった。
「あぁ、潮は見送りに来てくれたんだよ」
「そうなんですか。仲良しさんで羨ましいです」
まだ笑いながら榛名が言う。
「フフン。羨ましいでしょー。榛名さんもします?」
誇らしげに軽く右手を上げる。
潮とは身長差があるので、彼女の負担にならない程度にだけど。
「あらあら、よろしいのですか?」
「それは潮次第かな?どう?榛名さんとも手繋ぐ?」
「えっ?」
潮がおろおろし始める。
「そういう意味ではないかと…」
「?榛名さんも潮と手繋ぎたいんじゃないの?」
「えぇと、んー、今回は遠慮させていただきます」
「そっか。まぁ潮もそろそろ時間だろうし、あんまり引き止める訳にはいかないからね」
そう言ってそっと手を離す。
「あ、はい。では、いってらっしゃいませ」
「うん。いってきます。何かあったら皆で乗り越えてね」
ぺこりと頭を下げた後去っていく潮に手を振って見送る。
これじゃあどちらが出かけるんだか。
「さてと、敷波さん、ちょっといい?」
「…うん」
一体何の間なんだろう?
「体調悪いなら変わってもらうかい?今ならまだ「大丈夫」…そう、なら信じよう。それはともかく、本題。これを渡しておくね」
そういって自分のカバンを下ろし、そこからある物を渡す。
「これは?」
「無線機の一種。バッテリーは連続8時間稼動できるらしいけど、余裕を持って6時間で交換するようにして。こっちが替えのバッテリーね」
バッテリーを追加で3つ渡す。
「こんなのどうするのさ?」
「保険さ。まぁ無用だったならそれに越したことはないのだけどね」
そして、取り出した
「提督、普段はメガネを掛けていませんよね?」
「これ、メガネ型のデバイスなんだ。これで音を拾ってその無線機に送る。そばに居なくても両方起動していればそっちに連絡がつくってことさ」
榛名の問いに答える。
「こっちは連続稼動時間が短いから必要に応じて起動したりする。そっちは僕と離れている間は可能な限り起動しててほしい。」
そして使い方を軽く説明する。
「うん、わかったけど…」
腑に落ちない様子の敷波。
それもそうだろう。今までこういったことはしてなかったからだ。
「まぁそう深く考えないでいいと思うよ。これが必要になる場面なんてまず無いだろうし」
そうこう話していると車のエンジン音が聞こえてきた。
「来たみたいだね。表に出よう」
声を掛けてカバンを持ち、歩き出す。
二人とも後をついてきた。
―・―・―・―・―・―
「少尉、お迎えに参りました」
黒塗りの乗用車から運転手が出てきて敬礼をする。
こちらも返礼をする。
階級は軍曹のようだ。
「ご苦労。こんな僻地まで良く来てくれた。今回はよろしく頼むよ」
「ハッ」
向こうの方が年上だろうが、こちらのほうが階級は上だ。
顔見知りという訳でもないし、一応それっぽい対応を心がける。
軍曹にトランクを開けてもらい、荷物を詰める。
そして皆で車に乗り込む。
全員後部座席で、運転席側から敷波、僕、榛名の順だ。
「予定では休憩を含めて3時間後に到着予定です。昼食は到着後と伺っていますが、よろしいですか?」
エンジンを掛けながら軍曹が問う。
「あぁ、かまわない。出発してくれ。私は少し休ませてもらう。何かあったら声を掛けてくれ」
「かしこまりました。それでは出発いたします」
車が進み始める。
さて、しばらく眠らせてもらおうかね。
「司令官、寝るの?」
「ん?うん、そのつもり。何か用があったかい?」
「…ううん。おやすみ。休憩のところに着いたら起こすね」
「わるいね。よろしく」
腕を組み、後ろにもたれ、目を閉じる。
「あの、提督。それでは眠り難くないですか?よろしければ榛名にもたれてください」
マジか。
「それだと榛名さんに負担かかりませんか?」
「榛名は大丈夫です。さ、どうぞ」
うーん。むしろ逆に榛名に寄りかかられたいけど、眠いし、厚意に預かるとしよう。
「じゃ、じゃあ失礼します」
「はい」
榛名に少し寄りかかる。
榛名の方が体温が高いのか暖かく感じる。
あと良い匂いがする。
これじゃあ逆に眠れん。
が、ここで下手な反応をすると折角のチャンスを棒に振ってしまう。それは避けなければ。
とりあえず、何とか目を閉じたままおとなしくしておこう。
しばらくしてればまた眠気が戻るだろう。
―・―・―・―・―・―
車が走りだしてどれほど経つのだろう?
少しかもしれないし、結構経つのかもしれない。
とりあえずね、眠いのに寝付けない。
だってこんな良い状況、興奮を抑えるので精一杯、というか抑え切れてないけどね。
ただただ目を閉じおとなしくし続ける。
「…司令官、やっぱり疲れが溜まってるんだね」
静かに走る車の中で、ポツリと敷波が言う。
「毎日書類やぱそこんに向かい続けていますからね。休める間は休んでいただきましょう」
榛名が答える。
だけど起きているんだよなぁ。
申し訳ない。
「うん。そうだね」
「ところで敷波さん。この役目、榛名が引き受けててよろしいのですか?」
ん?何の話だろう?
「えっと、うん。その方がいいと思うよ、体格差もあるし。それにあたしと榛名さんじゃあ榛名さんの方が…」
「榛名はそうは思いませんよ。提督はきっちりした方です。よくも悪くもね。ですから榛名もここだったら…いえ、提督は他所の艦娘よりも自分の艦娘を優先していますよ」
流石にそこは一線を引かなければならない。
榛名には榛名の提督がいるのだ。僕が彼女にあまり何かするのは良くないだろう。
寄りかかりながら眠らせてもらってる身で言える台詞ではないだろうけれどね。
「…うん。たぶんあたしの方がよくないんだと思う。潮から話を聞いたり、さっきのアレを見てて思ったのは、あたしが悪い。だからその分榛名さんの方が良くされているように見えちゃうんだ」
本当に何の話をしているのかよくわからない。
たぶん僕に関係しているのだろうけれど…
さっきのアレとは?
潮から何を聞いた?
「では今回のチャンスをがんばりましょうね。応援しています」
「ありがとう、榛名さん」
よくはわからないが、敷波が僕に対して何かを起こそうとしているようだ。
上手く拾ってあげられるよう注意しよう。
と言っても普段以上に敷波に気を掛けるぐらいしかできることはないのだけれどね。
かわいい女の子に寄りかかったり寄りかかられたりしたい人生だった。