僕の艦隊これくしょん ~提督になれば艦娘とイチャラブできると思っていた~ 作:荒井うみウシ
side:霞in鎮守府
司令官はもう向こうに着いただろうか?
時計を見るとまだ一三○○を過ぎたところ。
おそらくまだ車で移動中だろう。
留守中は私たち艦娘だけで大丈夫なように事前に指示された内容をこなす。
普段よりも少ない出撃や遠征。そして訓練も少なめにされている。
それ故空き時間ができる。
これをどう使うかは個々に判断をゆだねられている。
だから私がこれからしようとしていることも他者から咎められることは無いはずだ。
「あれ?霞ちゃん?どうしたの?」
磯波が声を掛けてきた。
「どうって、どうもしないわよ?ただちょっと時間があいたから休息をとるつもりだけど」
「そっか。お疲れだもんね。私はこれで」
「えぇ。またね」
磯波は特に気にかけずに去っていった。
そして私は目的の場所に着く。
執務室。
普段は司令官が居るはずの部屋。
でも今日は居ない。
報告書なんかも叢雲がまとめてるからそっちに渡しにいけばいい。
ここに来る予定のある娘はいない。
だからこそチャンスなのだ。
左右を確認し、他に誰もいないことを確認。
扉の外から中の気配を探る。
よし、だれも居ない。
静かに扉を開け、中を確認。がらんとしてる。
滑り込むように入り、静かに扉を閉める。
普段の彼の席に近づく。
パソコンといくつかの筆記用具、そして仕事に使う資料の一部が置いてある。
今まではこのままこの席に座るところだ。
しかし今回はもっと先に行ってしまいたいという欲求にかられてしまった。
潮から話を聞いたからだろうか?
彼にもっと近づけるのではないかと思い始めている自分が居る。
いけないと思いつつも部屋の奥へ行く。
司令官の席の奥、ここに一つの扉がある。
元は資料室として使われていた部屋。
今も一応そういった扱いもされているが、どちらかというと司令官の仮眠室として利用されていることが多い。
ゆっくりと深呼吸をしてから扉を開ける。
中は薄暗かった。窓はすべてカーテンがかかっており、ほとんど日の光が入らない。
いくつか本棚があったが、すぐ傍にある簡易ベッドから目を離せなくなった。
ここで司令官はよく寝ているのだ。
ゆっくりと近づく。
シーツや枕などは置かれたままだ。
なんとなく彼の匂いがするような…
自然と腰を下ろしていた。
簡易ベッドとして折りたたみや運べるようなつくりになっているが、意外としっかりしているようだ。使っているマットがいいのだろうか?
そのまま横になる。
こうしてみると確かに感じる彼の匂い。
なんとも形容しがたいが、とてもやすらぐ匂い。
彼に包まれているのではないかと錯覚してしまいそうになるほどに心地よかった。
「…随分と心地良さそうね」
不意に声が掛けられ体がこわばる。
恐る恐る入り口の方を見ると叢雲が睨みつけていた。
「こ、これはその…」
上手い言い訳が思いつかない。
叢雲ははぁと大きくため息をついた。
「いいわ。何も言わないで。ただひとつ、いいかしら?」
「な、なによ…」
「10分したら交代して。そしたら彼には話さないわ」
そういって横を向く叢雲。
交渉は成立した。
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side:山城in鎮守府
提督は出張で居ない。
毎度のことだが、連れて行くのは駆逐艦だ。
唯一の戦艦級としてここを守る重要性はわかるけど、それでも選んでくれたならと妄想してしまう。
でも彼と二人きりになったところできっと何も起きないだろう。
私は何もできないし、彼は何もしないだろうし。
「不幸だわ…」
妄想ですら上手くできない自分がどうしようもなくダメに思えてくる。
そんなこと思いながら歩いていると多くの艦娘が固まっているのが見えた。
一体何が起きているのだろうか?
そちらに近寄ってみるとどうやら執務室の前に集まっているようだった。
特になにも考えずに歩いていたのだが、どうやら自然とここに来ていたようだ。
「ちょっといいかしら?」
近くに居た赤城さんに声を掛ける。
「はい?あぁ、山城さんもですか?」
も?なにが私もなのだろう?
「えっと、これは一体何の集まりかしら?」
「あら、ではたまたまこちらに来たということですか?」
「えぇ。そしたらなんだか多く集まっていたので」
「順番待ちですよ。一応山城さんも並んだらどうですか?」
「順番?何の順番待ちですか?」
「執務室の隣に資料室があるのはご存知ですよね?しかもそこでよく提督が仮眠を取られていることも」
確かに彼はよく仮眠を取る際に奥の資料室に居ることが多い。
「そうね。それがどうかしたのかしら?」
「ふふっ。それだけですけど。ただ、提督が普段お休みになられるベッドがある。でも彼はここに居ない。とすれば山城さんはどうしますか?」
提督のベッド…
そうね、誰にもはばかられないのなら…
「顔、赤くなっていますよ」
指摘されて頬に手をあてる。
火照っているのが感じられた。
「
…
問われなくてよかったわ。
「そうね…、横になるくらい…大丈夫よね。えぇ、なら、そうね。並んでおこうかしら…」
「ふふふ。10分交代だそうですよ」
「それで満足できるかしら…」
「できないならもう一度並ぶしかありませんね。私は次で3回目です」
「…そうね」
結局5回ほど並びなおしてしまった。
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side:斉藤
「で、司令官。その同期の人ってどんな人なの?」
前を歩く暁がこちらを向いて問う。
「こら、前見て歩かないと危ないぞ。で、あいつについてかぁ。正直俺も何者なんだって感じだ。歳は同じ21だったはずだけど、異様に落ち着きというか貫禄があったな。それに言動が年寄り臭いからついたあだ名がオッサン。あとは抜群に水雷戦隊の扱いが上手かった」
同期のことを思い返す。
基本は真面目なやつのようだけど、妙にふざけたところもあって、その上結果を残すやつだ。それ故嫌っているやつは教官も含めて多く居た。
嫌がらせの常套手段として使われる一人運営も難なくこなしているというし、訓練生のときはあれでも実力の一部しか見せていないのだろう。
「へぇ、司令官がそんなに褒めるなんて珍しいじゃない」
「そうか?他にまともな提督を知らないだけなんだと思うけどね」
提督になって色々な提督たちに会った。そしてつくづく今の鎮守府に配属されて良かったと思っている。
会ったことのある連中の半数以上はクズという言葉がふさわしい連中だ。
残りの人たちも多くは主体性の無い腰巾着体質ばかりだ。
こんな状況でよくも深海棲艦からこの国を守り続けることができたものだ。
「で、そのオッサンは手を貸してくれそうなの?」
「難しいな。どちらかというと群れるのを嫌うタイプだし、派閥争いはごめんだと前に言ってたこともあったし。頼み込むのではなく、何らかの報酬を提示して協力を仰いだほうが引き受けてくれそうなんだけど、ことがことだからそれも無理だし」
証拠はある種裏道を使ってそろえたものだ。これを元に表立った行動をするとなるとこちらがむしろ不利になる。どうやってそれを調べたのかとなるのだ。
だから決定的なもの、或いは正攻法で証拠を得るしかない。
後者が可能ならとっくにやっている。それ故の今回の作戦なのだろう。
「ふぅーん、大変そうね。できないことはできないってしっかり伝えるのも大人よ?」
たまにこの娘は大人っぽいことをいう。レディを目指しているのは伊達じゃないな…
「ははっ。そうだな。だがまぁダメ元でやってみるっていうのも一手だからね。そう伝えてあるよ」
さて、どこまでうまくやれるかわからんが、とりあえずできることからやっていこう。
まずはどう交渉するか、あいつがどんなことを知りたがるかを考えよう。
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side:???
もうこんな時間。
このままではお昼ご飯を食べ損ねてしまう。
急いで食堂へ行こう。
あれ?あの姿は…!?
間違いない。提督!
どれほどこの時を待ち続けたか。
やっと提督に会えた!
「てっ…」
声をあげようとしたけれど、出なくなってしまった。
「な…なんで…」
笑顔の提督。
その隣には良く見たことのある姿が。
他の娘ならまだいい。彼は艦娘が大好きだから、多くの娘を侍らせていてもしかたないかなと思う。多くの艦娘が彼に惹かれるのもわかるし。
無理やりは好まない彼だからきっとそれは双方合意の上なのだろうし。
だけど、これは許せない。
自分と同じ艦娘が彼の隣に居るのは。
そこは自分の居場所のはずなのに。
その笑顔は自分へ向けられるはずなのに。
その温もりは自分が感じられるはずなのに。
許せないゆるせないユルセナイ!!!
いけない。落ち着こう。でないと好転させる案は浮かばない。
そもそも彼がここに居るのになぜ知らされていない?
彼と出会えるようにすることが協力する条件だったはずだ。
これはひとつ確かめてみないといけないことがありそう。
そっとその場を後にする。
提督、待っていてください。すぐにお傍に参りますから!
最後は一体誰なのでしょうかねぇ?(棒)
さておき、前回とても多く感想をいただきとてもうれしいです。
早めに続きをだせるようがんばります。