僕の艦隊これくしょん ~提督になれば艦娘とイチャラブできると思っていた~ 作:荒井うみウシ
答えは決まっていた。
「うん、断らせてもらうよ。悪いけど他所を気にかけていられるほど余裕が無いんだ。評価してくれるのはうれしいけれど、期待には応えられないよ」
現状を把握できていない上に、ある意味他所の厄介事だ。不要に首を突っ込んでこっちに飛び火は避けたい。
同期の頼みだから余裕があれば聞き入れたが、それもないし。
斉藤はこちらの回答がわかっていたような風でため息をついた。
「やっぱりか。まぁ仕方ないといえば仕方ないな。わかった、俺の方から断ってみるよ。ただ上官はここに居るからさ、俺が引き止めてもお前のところに来るかもしれない。その時はあんまり失礼のないようにしてくれ」
だったらはじめからその人が来ればいいと思うのだが…
まぁ知人を通してからのほうがスムーズに事を進められると思ったのかな?
「ここに居るってこっちが承諾するの前提で動いているってことかい?」
「いや、元々あの人もここで検査の予定があったんだよ。日程を被せたのは事実だけどね」
流石に僕一人のためだけに来たりしないのは当然か。
「ならよかった。お偉さんに無駄足踏ませると面倒だからね」
「とにかく失礼のないようにな」
妙に念を押してくるな…
「そんなにすごい人なのか?階級は?」
「すごいも何も100隻以上の艦娘を従えて、大規模な鎮守府の長であり、多くの勲章を受け取った経歴もある中将だ。あの人が居なければ戦況はもっと悪かっただろうね」
「へぇ。そこまでの人か。できれば会いたくないなぁ」
「なんでさ」
「そんなすごい人は遠くから眺めているのがいいんだよ。近くに寄ってしまうと色々と面倒になりそうだからさ」
だいたいの有力者には何らかのしがらみがある。
それが飛び火したり、或いはその人の近くにいることをやっかむ連中から何かされたりするのはごめんだ。
「お前のそういうところは未だによくわからんが、本人の前では言うなよ」
「感性の違いだ。流してくれ。言わないから安心していいよ」
「信じておくよ」
「さて、そろそろ時間かな。一応これでも健康診断という名目なんで、受けなきゃまずいのよ」
「そうだな。引き止めて悪かった。行ってくれ」
「あいよ。またあとで…、そうだ。敷波さん、キミは彼らとしばらく居るかい?控え室で一人で待つよりは気楽でしょう?」
いいよな?と目で斉藤に承諾を問う。頷いて返してくれた。
「えっと、司令官に付いていくのは?」
「検査中は僕一人なんだとさ。艦娘は待機させられるんだと」
「えっと、じゃあそうさせてもらう」
「了解。キミたちもよろしくね」
暁たちにもお願いする。
「しょうがないわね。いいわ」
「わかった」
「いいわよー」
「なのです」
「じゃあそういうわけで、いってきまーす」
そういって部屋から出ようとする。
そして敷波とすれ違いざまに囁く。
「通信機、電源付けておいてね」
扉まで行って振り向くと敷波が頷いていた。
それを確認すると手を振って部屋を出る。
さぁて、健康診断を受けましょうか。
とりあえずまだ
ただの検査だけであればつける必要は無いので、ずっとそうだといいのだが…
斉藤の話ではお偉さんが来ていたりするようだし、それに会ったりしたらつけるべきだろう。
「おや?」
施設を歩いていると妖精さんが走ってきた。
鎮守府でもないのに妖精さんがいるなんて珍しい。
それも妖精さんは艦娘や提督の資質がある人以外の人にはあまり会いたがらないため、こういったそうでない人が多い場には好んで出てこない。
一体どうしたというのだろうか?
妖精さんもこちらに気づいた様子で、いそいそとこちらに近寄ってきた。
どうやら目当ては僕だったようだ。
でも僕の知っている妖精さんではないぞ?
しゃがんで彼女(?)に向き合う。
「やぁ、こんなところでどうしたんですか?」
僕の前まで来たら両手をひざに付いて息を整える妖精さん。
少しそうしていた後、深呼吸をする妖精さん。
落ち着いたのか僕に伝え始める。
妖精さんの言葉は人間には聞き取ることはできない。
なので身振り手振りを交えて色々伝えてくれる。
それでなんとなく言っていることがわかるのだ。
えっと、何々?
「テイトクサン…カノジョタチヲタスケテ…」
彼女たちを助ける?
急いで
「彼女たちって?それに助けるとは?」
「カンムス。イヤナニンゲンニダマサレテル。チュージョーニツイテイッテ。テイトクサン、チカラヲカシテ」
艦娘がだまされている?チュージョー?中将か?
「中将ってここに居る提督の人?」
コクリと頷く妖精さん。
「中将の作戦に手を貸して欲しいってこと?」
再び頷く妖精さん。
「タスケルナカニ、テイトクサンノカンムスモイル」
「僕の艦娘?」
肯定。
まとめてみよう。
「ある人が僕の艦娘を含めて多くの艦娘をだましている。それを中将と共に助け出せってことでいいかな?」
「オネガイ」
ペコりと頭を下げられる。
これが誰か他の
が、妖精さんのお願いとなれば話は別だ。
「わかった。協力したいと思うけど、具体的にどうすればいい?」
「カノジョタチニ、コエヲキカセテ。テイトクサンハココニイルッテ」
「声を聞かせる?僕はここにいるぞーってやればいいのかな?」
「ウン。ソレデワルイヒトカラツレダシテ」
「…ちょっと整理させて」
妖精さんは僕の声を聞かせて連れ出せという。
どういう意味かを考えるべきだ。
がむしゃらにやるのは時には必要だが、基本は念入りな事前準備をして、勝てる状況を作ってから挑むべきなのだ。
僕が居ることを伝える…それで何が変わる?
艦娘は誰かにだまされていると言っていた。
誰かは後で確認するとして、どうだまされているかは知らないとダメだな。
「艦娘たちはどんな風にだまされているの?」
「シタガワナイト、テイトクニアエナイ」
なるほど。わかりやすい。
艦娘は自身の提督を求める本能のようなものがあるらしい。
それを逆手にとって、自身に従わなければ提督に会わせないとして言うことを聞かせている人が居るわけだ。
他所の艦娘が出てきたときの対処は大本営が規定しているが、建造されたばかりの艦娘はそれを知らない。となればその場に居る人間の言葉を信じざるを得ない。それもただの人間の言葉ではなく、たとえ自身のではないとしても提督をやっている人間の言葉ならばなおさらだ。
だから自身の提督が迎えに来たら従う必要がなくなると。
声を聞かせてとはそういう意味だったのか。
「なるほど、もう一つ。だましている人は誰だい?」
「ワルイヒト」
妖精さんからしたら悪い人でしかなく、それ以上の表現ができないのか。
或いは僕には読み取ることができない表現をしたのか。
どちらにしろ具体的な内容は中将に聞くしかないな。
「わかった。中将と協力して艦娘たちを助けよう」
パァと明るい顔をする妖精さん。
「アリガト。サキニチュージョーノトコニイル」
「わかった。僕も検査が終ったら合流するよ」
じゃあねと手を振って走っていく妖精さん。
さて、これはちょっと無理をする必要が出てきたな。
「司令官」
振り向くと敷波がいた。
「あぁ、来てくれたのか。話は聞いてたかな?」
「うん。助けに行こう?」
「そのためには色々と下準備が居るな。まずはこっちの仕事を片付けないと。僕は早々に検査を受けてくるよ。敷波さんは斉藤を通して中将と連絡取れるよう掛け合ってもらえます?」
「わかった」
踵を返す敷波。
「さぁて、お医者さんは融通を利かせてくれるかなぁ?」
今焦っても何もできない。
まずは検査を終らせよう。
ということで艦娘増量フラグが立ちました。
作者は扱いきれるのでしょうか!?
それにしても前回の最後の娘に対して良い反応が多くてうれしいです。
早く大丈夫にしてあげたいですねぇ…