僕の艦隊これくしょん ~提督になれば艦娘とイチャラブできると思っていた~   作:荒井うみウシ

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前半和やか、後半シリアス目です。




健康診断_初日夕

時刻は一八四五。

健康診断はまぁ、有体に言ってしまうと人間ドックだった。

明日も引き続き検査があるから二○○○以降は固形食ダメだし、飲料も水やお茶のみとなる。

とりあえず敷波と合流して食事を取ってから中将に会いに行くとしよう。

 

()()()の電源を入れて伝える。

 

「今日の検査は終了。一旦食堂で食事を取りたいからそこで合流かな」

 

傍から見れば独り言に過ぎないので、その口調として見逃されそうな言い回しで連絡をする。

予算やらの関係で向こうの発言を受け付けられない仕様なのだが、やっぱり不便だ。

 

食堂へ向かう途中で敷波が見えた。

どうやらこちらの希望通りに動いてくれたようだ。

 

「敷波さん」

 

声を掛けると立ち止まり、周囲を確認。すぐに僕を見つけると近寄ってきた。

 

「司令官、お疲れ。斉藤さんも食堂に向かってくれているらしいから、一緒にご飯を食べた後中将に会いに行こうって」

 

ここもこちらの希望通りになったのか。

そういえば向こうも健康診断という話だったし、行動が似通うのも当然かもしれない。

 

「わかった。じゃあ一緒に食堂へ行こう。ところでどうして敷波さんだけでこっちに?」

 

「え?そ、そりゃ…まぁ、気にしないでよ。いいから行こう」

 

斉藤と行動を一緒にしていたならそのまま一緒に食堂で待っていればいいはずだが…

まぁ向こうも暇しているわけではないだろうし、分かれる事情でもあったのだろう。

 

―・―・―・―・―・―

 

「お、敷波ちゃんオッサンと合流できたんだね」

 

斉藤が食堂の入り口で待っていた。

 

「やいゴトウ。うちの敷波さんをほったらかしてなにしてやがったんだぁ?」

 

「いや、ちゃんと面倒みて…たっていうよりはみてくれてたな・・・」

 

「ちょっと司令官!それどういう意味よ!」

 

「誠に遺憾だ」

 

暁と響が批判する。

どうも彼女らの面倒を敷波がみていたようだ。

 

「んじゃなんで分かれてたんだ?敷波さんも連れてここで待っていればいいのに」

 

「おまえ…、はぁ。それは俺が口を出さないほうがいいことだよ。自分で考えな」

 

盛大にため息をつかれた。いや、まるで意味がわからんぞ。

 

「まぁ、それは後で考えておくよ。とりあえず中に入って何か頼もう。そんなにすぐには出てこないだろうし」

 

「はぁ…、敷波ちゃん。こいつが上官で君ら苦労するね」

 

「あはは…、でもそういうところも司令官ですから…」

 

斉藤と敷波がなんだか通じ合っている。うらやましい限りだ。

 

「おい君たち、何仲良さそうに通じ合っているの?僕、はぶられるの?榛名さんだけでなく敷波さんも連れて行く気!?ゆるさんよ?」

 

「いやいや、敷波ちゃんはお前の艦娘だろう!?俺に反応した榛名とは訳が違うし、連れて行けないよ!」

 

「でも腹が立つ。一発殴らせろ」

 

「断る。むしろお前が敷波ちゃんに殴られろ」

 

「OKわかった。敷波さんかもぉん!」

 

「はっ?え?んぇ?」

 

「敷波ちゃん、乗らなくていい。このバカに付き合うのは疲れるだろう?はやく夕食にしよう」

 

「そうだな。敷波さん行こう?」

 

「やっぱりこの人変だわ」

 

なんて斉藤とバカをやっていたら暁からの評価がまた下がった気がする。

 

―・―・―・―・―・―

 

「なんで…なんで暁のご飯はお子様ランチなのよ!レディに対して失礼よ!!それに今はディナーの時間でしょう!?」

 

出てきた食事に対して暁が叫ぶ。

 

「いや、チキンライスもハンバーグもポテトも好きだろう?」

 

「好きだけど!そうじゃないのよ!そもそもお子様メニューってお子様にしか出さないものじゃないの!?」

 

「じゃあ出してくれたから暁はお子様なんだね」

 

「響、それはちょっとひどいんじゃないかしら?」

 

「ムキーッ!」

 

なごむわぁ…

 

「司令官、鼻の下」

 

「いや、伸びても仕方ないでしょうこれは」

 

「流石に開き直るのはどうかと榛名は思います」

 

「すみませんした」

 

榛名にまでも叱られてしまった。

 

「さて、飯食ったらすぐにあってもらうつもりで話しているのだが、かまわないか」

 

「歯磨きぐらいはさせてくれよ」

 

「そのぐらいの時間は取ってる。そういうボケは今いらん」

 

「あいあい。とりあえず食べたら話すでいいんだけど、その中将に対して注意したほうがいいことってあるか?NGワードとか」

 

「おかしなボケと一般常識で失礼なことをしなければいい」

 

「さよか。ならいい」

 

「本当に大丈夫か?」

 

「ダメだと思うならネゴシエーター引き受けるなよ…」

 

「久々に会って酷くなっているのを目の当たりにした反応だ。もう少しまともだと思ってた」

 

「失礼なやつだ。まるでまともじゃないみたいな言い様で。まぁ否定しきれないからかまわないのだけどね」

 

「…はぁ。ほら、さっさと食え」

 

「面倒になったなおまえ。まぁ食うけどさ」

 

話すことは多くありそうだから時間は欲しい。

確かにさっさと食べ終えて会話を始めたほうが良さそうだ。

 

―・―・―・―・―・―

 

施設内の宿泊用区画の奥、僕に割り当てられた辺りより明らかに造りが豪華になってきていた。

 

「やっぱ偉い人には豪華な場所を割り振るんだな」

 

「まぁ高級感がある場所でもてなすべきという考えがあるのだろう。ただここは外部の人間を招いたりすることも無かったはずだからただの成金主義に見えて好きじゃないのだけどな」

 

そんな会話をしていると斉藤が止まった。

 

「ここだ。飯のときも言ったけど、くれぐれも失礼の無いようにな」

 

「わかってる。懇親会ではなく真面目な話をしに来たわけだからな」

 

斉藤がノックをする。

その隙に()()()を起動する。

艦娘たちは部屋で待たせるよう言われたからだ。だがそれは他者に聞かせたくないような内容を話すといっているようなものだ。相手の出方がわからない以上保険を掛けておくに越したことは無い。

どうぞと若い女性の声が返ってきて、斉藤が扉を開く。

 

中に入ると奥に若い女性が一人ソファに腰掛けていた。

 

「はじめまして、お噂はかねがね聞き及んでおりますわ」

 

随分とお嬢様風な喋り方をする女性。

歳はおそらく20前後。髪型に詳しくないから上手く表現できないが、前髪はおかっぱのように切りそろえてあるが、後ろはショートヘアのようになっている。

座っているから身長はわからないが、どちらかというと低めで体つきも華奢な部類だ。

 

とりあえず自己紹介をすると席に座るよう進められた。

部屋にはテーブルが一つ、その左右に三人掛けのソファが一つずつ。

彼女が座っているのは入り口から見てテーブルの奥側、お誕生日席とかいわれたりする場所にある一人用のソファだ。

斉藤が彼女の右側に座ったので、とりあえず斉藤の隣に腰掛ける。

 

「向こう座れよ」

 

「ん?あぁ、そういうものなのか?すまないな」

 

指摘されたので反対側、斉藤の向かいに座る。

 

「さて、少尉、ご足労いただき感謝しますわ。私は鷹富士と申します。階級は中尉ですわ」

 

中尉?中将じゃないのか?

 

「中尉は話をしていた中将のご息女だ」

 

斉藤が注釈を入れてくれた。なるほど。で、その中将は?

 

「父はあなたよりも遅くに検査が終ったようで、失礼ながらまだ食事中なのです。なので、今回の件について任されている私から概要等を先に説明させていただきますわ」

 

「そういうことなら後ほどいらっしゃるということでしょうか?」

 

「はい。さて、斉藤君からどの程度話を伺っているか確認させていただいても?」

 

「わかりました。彼から聞いた内容は、一部の鎮守府にて艦娘が不当な扱いをされていること、中将の指揮下で救出作戦を行うこと、その救出作戦に参加してほしいということです」

 

なんとなく違和感を覚えるが、漠然とし過ぎていて何がおかしいのか判別仕切れていない。

安易に請け負わずある程度ぼかした返答をして情報を聞き出すべきだな。

 

「大筋その通りですわ。今回あなたにお願いしたいのは救出作戦を実行する際に、救出した艦娘たちの誘導と一時的保護です。具体的には救出に海上をつかうルートを考えていますので、枠の空いている艦隊を編成し、それを指定の位置へ出撃。艦娘を回収後、あなたの鎮守府で建造したという体で別命あるまで保護をお願いします」

 

深海棲艦の影響によるものか海は陸地沿いに移動する以外、妖精さんの力を借りずに移動することが難しくなっている。

一定以上陸地から離れたところにでると、とたんに方向感覚が狂うらしい。

妖精さんの力を借りるとしても制限がかかり、基本的には6隻までしか通常の航行を続けることができない。

7隻以上で移動しようとすると誰かしらがまともに航行できない状態に陥る。

そのため艦隊は6隻までで組むのが常識となっている。

彼女が言うことを端的にすると、6隻未満で艦隊を出して救出した艦娘を艦隊に組み込み、鎮守府へ持ち帰れということだ。

 

「私への指示は理解しましたが、他の詳細を教えていただけませんか?具体的にどの鎮守府へ向かうのか、どう救出するのか、救出すべき艦娘はどれほどなのかなど」

 

「対象はタウイタウイ泊地です。救出すべき艦娘は現状把握しきれていませんわ。なぜなら彼女らは()()()ことにされているため、正確な数等は外部から測定できないのです。少なくとも10以上は居ることは確かですが、それ以上はまだわかっていません。救出方法は私が該当鎮守府の提督たちの気を逸らしている間に私の艦娘らで海上に誘導、あなた方の艦隊で回収していただくといった流れです」

 

なんていうか、陳腐な作戦だな。それで通用するのか?

そもそも救うべき対象を把握していないって大問題だろう。

何か裏があると考えるのが普通だな。

かと言って掘り出そうとしても簡単にだす訳がないから、どうにか立ち回らなければ。

こういう交渉術は不得手なんだよなぁ。

とりあえず相手の要望を受け入れるように見せかけて、時間稼ぐ。焦れて尻尾を出すのを待つ作戦で行こう。

 

「ふむ、ということは可能な限り出撃させる艦娘は少ないほうが良さそうですね。ですが本土まで連れてくる際に少なすぎるともし深海棲艦に遭遇した場合が危険ですね…」

 

「お話が早くて助かりますわ。流石、というべきでしょうか。今後作戦を実行するまでの間にどうにか艦娘の把握を進めて行くつもりではあります。それについては私が行うので、あなた方にはこれまで以上に資材の収集や艦娘たちの受け入れ準備を進めてください」

 

把握は任せろねぇ…

違和感の一つは異様にこの人が自信を持っていることだな。

作戦概要も陳腐、事前準備も万端といえない。なのに失敗することが無いような話の進め方。

開示している情報に制限がある?協力を仰ぐにしては不自然だ。

そこが違和感を醸し出している一因だろう。

 

「具体的に救出する艦娘を把握する方法はどのようなものでしょうか?」

 

とりあえず探りを入れるがまともな返事は期待できないな。

 

「そこは私を信じて待っていていただけませんか?現在行おうとしている方法は可能な限り秘匿としておきたいのです。斉藤君にも教えておりませんわ。これの成否はお伝えしますので」

 

ふむ。斉藤に伝えているか否かはこの際どちらでもいい。隠しておきたいことの一つはここの方法ね。

だがこの段階を成功したところで全体が成功するとは限らない。

気にはかけるべき案件ではあるけれど、些細といえば些細だ。

 

「わかりました。中尉を信じましょう。連絡方法の取り方はいかがなさいますか?正規の手続きとなると他所からもあからさまに我々が何かをしようとしていることが筒抜けです。何らかのカバーストーリーか裏道を使うべきでしょう」

 

信じてないけどね。むしろ信頼度は低い。

中将に直接話をしないとだめだな。

場合によっては僕一人で救出作戦を再考、実行することも考慮しなければならない。

 

「…それでしたら研修制度を使用するのはいかがでしょうか?」

 

研修制度?そんなものあったっけ?

 

「斉藤、悪いが研修制度ってなんだったか説明してくれるか?ちょっと記憶があやふやなんだ」

 

「あ、あぁ。研修制度ってのは新人提督育成研修制度のことだな。ですよね?」

 

頷いて肯定する中尉。

 

「で、この制度は名前の通り新人提督を対象として、自身の所属する鎮守府以外のところに一度ないし複数一時的に移籍し、知見を広げることを目的とした研修制度だ。と言っても実態はある鎮守府が他の鎮守府に居る新人提督の艦娘を使って資材集めさせたいとかそんなところだけどな。ある程度大きくなってくるとどうしても大型の艦娘が多くなって、資材が足りなくなる。それを補填するのに小型艦を多く持つ比較的若い提督を貸し借りするって話だ。新人なら遠征で手に入る経験もバカにできないし、経験豊富な艦娘から学ぶこともできる。名前と違って艦娘主体になることが多いな」

 

確かに新人のうちは小型艦が主体になる。出撃できる艦隊数も少ない。遠征主体の資材集め艦隊を一人の提督に任せきるという方法が取れるんだな。

 

「なるほど。しかし私は一人で鎮守府を運営しています。私が抜けている間、鎮守府はどのように扱われるのでしょうか?」

 

「…実を言うと私もそれはわかりかねますわ。その場合の対応については本営とコンタクトを取る必要がありますね」

 

あくまで隠れ蓑としてではあるが、実際に研修に行く必要がありそうだな。

いや、待てよ…研修制度か。一考の余地があるな。

まぁ今はこっちの話を進めよう。

 

「わかりました。そのあたりは私の方からも確認を取ってみます。研修先の鎮守府を指定することって研修を受ける側、つまり私の方からできますかね?」

 

「そういった例があるのかもわかりません。そこから調べる必要がありそうですね」

 

「すべきことが色々とでてきましたね。他に私がすべきこと、しておいたほうが良いことはありますか?」

 

「私の方からは申し上げたとおりですわ。斉藤君はなにかありますか?」

 

「いえ、俺のほうからもなにもありません」

 

「これ以上のことは調べ物を終えてからのほうが良さそうですね。…思った以上に早くお話が終りましたわ。伺っていた以上に有能な方のようで安心ですわ」

 

こんな詰めの甘い作戦会議でええんかいってこっちは思っているけどな。

 

「いえいえ、これほどスムーズに進んだのは中尉の手腕です」

 

「まぁお上手で。素直に受け取らせていただきますわ。ところで斉藤君やおと…父からあなたが水雷戦隊の扱いに秀でていると伺っているのですが、よろしければご教授願えませんか?」

 

斉藤と父…斉藤の上司である中将か。この二人の話というと訓練生時代のことかな。

 

「特別なことは何も。教本に載っている程度のことですよ。それ以上のことは人に教えられるほどではありません」

 

「あら、内緒にするのですか?いいですわ。今は無理でもいずれは教えていただくこととしましょう」

 

本当に教えられるほど詳しくないんだけどなぁ…艦娘に投げてるだけだし。

 

などと軽く雑談をしていると扉が開いた。

中年の男性が入ってくる。

身長は180前後、髪は白髪交じりの短髪。

年は40を過ぎているだろうが、服の上からでもわかるほど鍛えられた身体から実年齢よりも若く見えるタイプだと思う。

斉藤が立ち上がり敬礼をする。

真似て立ち上がり敬礼をする。

 

「楽にしててかまわない。話はうまく進んでいるか?」

 

「えぇ、作戦のほうについての大筋は終りました。彼から艦隊の指揮や艦娘の扱いについて伺おうとしていたのですがなかなか手の内は教えていただけませんでしたわ」

 

中尉が答える。

 

「そうか。君が…、ふむ。私は鷹富士義雄。斉藤君らの上官だ。そちらの話が終ったらでかまわないので二人で話せる時間をくれないか?」

 

醸し出す空気は威厳を持っている。意図して威圧しないようにしているのだろうが、それでも充分なほどの老練さを滲み出していた。

 

「二人で、ですか。わかりました。中尉、他にお話すべきことが無ければ今から中将のほうへ行こうと思うのですが、よろしいですか?」

 

「えぇ、かまいませんわ」

 

「そんなに急がずともいいのだが、折角だ。厚意に甘えよう。こちらに来てくれ」

 

さて、ここからが本番かな…

 

 




中将の話とは一体!?

六駆は癒し。

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