僕の艦隊これくしょん ~提督になれば艦娘とイチャラブできると思っていた~ 作:荒井うみウシ
「さて、今日は新しい娘がくればいいのだけど」
ぶつぶつと独り言を言う提督に工廠まで付いていくと、聞き捨てならない発言が出た。
確かに現状人手不足の解消が急務ではあるけど、まるで私では力不足のように思えてしまう発言は彼の口から聞きたくは無かった。
とはいえ彼自身はそんな考えは無く、ただ単に人が足りないということぐらいしか考えていないのだろうけれど。
こういった思考に陥ってしまう自分が嫌になってしまう。
「また被りか」
自己嫌悪に浸っていると作業は終ったようだ。
報告書を妖精さんから受け取り、内容を見て顔をしかめている。
嫌な気持ちを振り払うためにも彼の声が聞きたい。
彼にこちらを見てほしい。私を見てほしい。私に話してほしい。
彼の見ているものを教えてほしい。彼のすべてを知りたい。彼に私を知ってほしい。
思考が空回りする。軽く頭を振って現実に目を向ける。
気落ちした表情で書類を見ている彼。
あ、いまならチャンスかも。
「またなの?今回は誰のだったの?」
書類を覗き込む振りをして、彼に近づく。
あまり積極的に私たちにかかわろうとしない彼。
素直に抱きつきたいと言い出すことができない自分の性格。
だからこういうチャンスは逃がさない。
自然と、たまたま、仕事の関係で。
何気なく近づいていったら触れていた。そう、これは偶然なんだ。
もう少しで彼に触れることができると思ったところで彼が書類をこちらに向けてくれる。
「今回は霞さんのでっせ」
おしい。確かに見やすいけど書類を見たかったのではなく、彼の近くにいたかったのだ。
いや、十分に今も近くにいるけど、もっと近く。具体的には接触するレベルで。
いけない。また頭だけ進んでる。
目の前にある書類を確認する。
建造されたのは霞の艤装。
霞自身の着任はなし。
うちにいる霞は1人だが、艤装だけで言えば片手で数えられないほどだ。
ここまで来ると笑い話にもならない。
「ここ、なんで人少ないのに被るのかしら?ここまでくると作為的なものを感じるわ」
感想を述べると彼もまったくもってその通りだといわんばかりの表情をしている。
「朝潮型の艤装なんだし、どうせなら朝潮ちゃんとか来てくれたらよかったのに・・・」
ポツリと。しかししっかりと聞き取れてしまったその一言。
なによ
いや、ときどき変な言い方はするけど、それはこの際置いておくとして、問題なのは司令官は
なに、同じ朝潮型だったら
私はいらないってこと?
私じゃだめってこと?
どんどん嫌な気持ちになっていく。
「ふーん、私とか霞なんかいらないってわけなのね」
つい悪態を付いてしまう。
彼を睨んでしまう。
確かに私はダメなところが多くあるとおもう。
ここぞというときには動けなくて仲間を見殺しにしてしまったような事だってあった。
それでも彼は、司令官は私を求めてくれていたと思っていた。
でも私よりも朝潮のほうがよかった?
かなしい、くやしい、くるしい。
いろいろ混ざって泣きたくなる。
でも泣かない。泣いている私なんて、無様な私なんてきっともっといらないだろうから。
ふと彼を見るととても申し訳なさそうな顔をしている。
そんな顔はしてほしくない。
そんな顔にしてしまったのは私だ。
やっぱり私はダメなんだ。
ちがうちがうちがう!
すこし落ち着こう。
ゆっくりと呼吸をして落ち着かせる。
きっと彼だって私がいらないというわけではないのだろう。
優しい彼だ。そんなことは思わないと断言できる。
それでもと思ってしまう。
「いや、満潮さんに霞さんはもういるので、いない娘が来てくれたらなって意味ですよ。それに満潮さんもお姉さん居たほうがうれしいでしょ?」
フォローしてくれていることが丸わかりだ。
私はやっぱり悪い娘だ。あからさまなフォローであっても、自分を気遣ってくれている。
ただそれだけでうれしくなってしまうし、それを利用して、もっと気を向けようとしてしまう。
「そりゃ居ないよりは居たほうがいいけど、そういう聞き方は卑怯だと思うわ」
表情で判断されないように横を向く。
もう少しだけ、嫌な気持ちをなくせるように、彼の優しい言葉がほしい。
「満潮さん達がまた着任してくれるのであれば話は別なんですけどね」
きっと、彼は人手不足解消のためとしか考えていないのだろう。
そして、私が朝潮に嫉妬していることもわかっているからこそ
わかっている。わかっていてももうひとつのとり方をしてしまう自分が嫌になる。
「ふーん、つまり私じゃない満潮がほしいと。そういうことね」
気分が悪くなる。そういうつもりはないとわかっていても、そうではないと彼に言ってほしかったから。
明言してほしかったから。
私の甘えだ。ゆがんだ甘え方。でもそれも受け止めてくれる。どこまでも彼は優しいのだから。
「いやいや、早合点しないでくださいな。きみという満潮さんはきみだけでしょうに」
うれしさのあまり、一瞬目の前が真っ白になった。
ただ否定してくれれば良かっただけなのに、私だけ、私だからいいと彼は付け加えて返してくれたのだ。
ゆるむ顔をなんとかこらえつつ、体がこわばらないように気をつける。
いつの間にか組んでいた腕を下ろし、一息入れる。
「なら、私以外の満潮がほしいなんていわないでほしいわね」
いまならこんなわがままも通してもらえるわよね?
そんな甘い考えでつい言葉が漏れた。
私の様子に満足したのか優しげな表情に戻り、明るいトーンで彼が口を開く。
「満潮さんは来てほしい娘とかいないんですか?」
来てほしい娘。
むしろ私以外だれも居ない、彼と私だけで過ごしたいといったらどんな風になるのだろうか。
ちらと彼をのぞき見る。いや、彼はそれを望まない。私がそれを望んでいることを知ったらただただ困惑と疲弊をするだろう。
それはいやだ。私のせいで彼を困らせるのはいやだ。
かまってくれるのはうれしいし、そのために困らせることはしてるのも自覚しているが、これはそれ以上のものだ。
超えてはいけないラインを超えている。
思考を切り替えて、仕事を中心に考える。
やはり現状駆逐艦が足りていない。
いや、全艦種足りていないのだが、他をそろえるよりも先に駆逐艦をそろえなければ運営が困難だ。
駆逐艦で来てほしい娘を考える。
最初に思い浮かぶのは八駆の娘だ。
でも八駆のメンバーは私、大潮、荒潮、そして朝潮だ。
ここで朝潮を含むメンバーを挙げるのは正直気が引けるので却下。
であれば能力の高い島風や夕雲型あたり、或いは燃費などを考慮して、睦月型か。
でもあまり私に縁の無い娘を挙げても彼は納得しないだろう。
あからさまに気を使われたと感じるためだ。
私とかかわりある娘・・・。
西村艦隊を連想した。そうだ、朝雲や山雲、それに時雨なんかはどうだろう?
でも正直他の娘、それも駆逐艦に彼の目をこれ以上取られるのは心地いいものではない。
そこで西村艦隊つながりで、今のこの鎮守府には山城は居るが、扶桑が居ないことを思い出した。
これならまったくつながりの無いわけでもないし、山城をダシに使うのはあれだけど、駆逐艦じゃない理由もしっかりしている。
これでいこう。
「そうね、しいて挙げるなら扶桑かしら」
キョトンとした顔をしている。普段は厳格な顔や疲れた顔をしていることが多く、また普段の落ち着いた振る舞いからある程度年を感じさせていたが、
こういう表情をみると彼もまだ若いのだということを再度認識する。
「意外そうな顔してるわね。ま、私自身がどうのっていうより、山城が見ていてかわいそうなのよ」
思いついた理由を述べると合点がいったという表情になった。
仕事のときにはないこういう素の表情をみれるのはとてもうれしい。
「あー、確かにアレはちょっとかわいそうではあるが・・・」
苦笑いしながら言う彼。
事あるごとに姉さま!?と騒ぐ山城を思い出しているのだろう。
だがすぐに思案顔になる。
「わかっているわよ。そんな余裕ないことも、駆逐艦が足りてないこともね。それに狙った娘を出せるならとっくに人が増えているでしょ」
そう、現状駆逐艦を増やしたいのはわかりきっている。
これは避けようの無い現実なんだと溜め息がでる。
「おっしゃるとおりで。まだしばらく現状が続きそうなので、コンゴトモヨロシク」
よろしくのあたりの発音がちょっとふざけた言い方で笑いを取りに来る。
これも彼なりの気遣いなのだろう。
頭を下げる彼に私はなにか満たされるような気持ちになった。
「ま、私がどうにかするしかないし、しかたないわね」
そう、私を頼ってくれるならそれに全力で応えてみせてみるわ!
個人的に満潮は自信がないけど、強気に振舞うことでそれを隠しているように思うんですよね。皆さんの満潮はいかがでしょうか?
あと朝潮はガチ。
※4/16誤字修正。指摘ありがとうございました。