僕の艦隊これくしょん ~提督になれば艦娘とイチャラブできると思っていた~ 作:荒井うみウシ
「司令官、もう着くよ」
声と揺さぶりで目が覚める。
周囲を見るともう鎮守府の近くまで来ていた。
5分足らずで到着するだろう。
「あぁ、ありがとう。起きたよ」
敷波に礼を言う。
意識をしっかりさせるために少し顔をこすり、軽く頭を振る。
よし、大丈夫だ。
玄関口が見えてきた。
何人か立っている。
どうやら曙、山城、赤城のようだ。
珍しい組み合わせだな。
車が彼女たちの前で止まり、順に降りる。
出迎え組は敬礼をしたので、返礼をする。
「ただいま」
「…」
「帰ってくるのが遅いのよ、このクソ提督」
「お帰りなさい、提督」
ボーっとしている山城となんだか不機嫌な曙、そしてニコニコと迎えてくれる赤城。
「出迎えてもらって悪いんだけど、皆に伝えたいことがあるんだ。悪いんだけど、そうだな、1時間後に第一会議室に全員集まるよう伝えてきてくれる?」
指示通りに動いていて、何も問題がなければ30分後には全員揃うはずだ。
「わかりました」
ちゃんと返事をくれたのは赤城。
山城はコクリと頷くだけ。
曙にいたってはブスッとしたまま行ってしまった。
出迎え係を誰かから押し付けられたのかな?
「敷波と榛名さんはのんびりしてても良いよ。向こうで起きたことを伝えるだけだから。それとも参加する?」
「参加させていただきます」
「する」
「じゃあ荷物を置いたら同じく一時間後に来てね」
「「了解!」」
さて、僕も片付けたり準備しないと。
その前に…
―・―・―・―・―・―
「や、ただいま」
執務室に入り、中に居る娘らに声を掛ける。
「遅かったじゃない。どこで油を売ってたのかしら?」
「お疲れ様です」
「あら?曙は?」
叢雲、白雪、霞が返事…?をする。
まともな返事は白雪だけじゃないか。
「とりあえずお疲れ。現時刻を持って代理業務は終了。何か問題はあったか?」
「ないわ。しいて言うなら討伐した深海棲艦が普段より多かったけど、誤差の範疇ね」
「鎮守府内は平穏でした」
「遠征も問題なく。むしろ順調に回収量が増えていっているわ。最後の遠征も後30分で戻ってくるそうよ」
順調だったようでなにより。
「了解。こっちからは少し話がある。一時間後皆にまとめて話すが、君たちには事前に概要を伝えておこうと思う」
真面目な態度で発言すると彼女らもそれを感じ取ってくれたようで姿勢を正した。
「まず、良い話をしよう。榛名の提督が見つかった。早めに移籍を希望していたため、手続きを終え次第譲渡する」
一旦区切り、内容を飲み込む時間を取る。
「次いで、悪い話。少々厄介ごとに携わることになった。他所の鎮守府で艦娘の扱いについてゴタツキが起きた。これに関与するようにある人物から依頼された」
叢雲が手をあげる。
「叢雲」
「関与って言い方が気になるわ。その辺りを聞かせて」
流石に察しが良いな。
「良い着眼点だ。ややこしいがしっかりと聞いてくれ。まず、ゴタツキが起きているのはタウイタウイ泊地。ここに横須賀鎮守府の人間が解決しようと突っ込みかけている。だが横須賀鎮守府の上にいる人物はこの件に自身の部下が介入することを避けたがっている。そこで介入しようとしている人物に協力するフリをしながら、時間稼ぎをしてほしいとのことだ」
霞が手をあげる。
「どうぞ」
「随分とややこしい内容だけど、それをどうして引き受けたのかしら?うちで引き受ける道理がないように思えるのだけど」
「そこも重要だ。どうやら渦中のタウイタウイでは不当に艦娘を保有しているらしく、その中には僕の艦娘も含まれている可能性が高いらしい。だから僕としては彼女らの確認、および実在するのであれば回収を目的として動くつもりだ」
「なるほどね」
納得してもらったようだ。
「ただもう一つややこしくする点がある。榛名だ。榛名の移籍先は横須賀鎮守府。それもタウイタウイに介入したがっている側。つまり、時間稼ぎすることや僕の目的を榛名には伝えないでコトを進める必要がある。それ故に早めに移籍するよう仕向けた」
榛名が斉藤のところに行くのは確定している。
となれば、その斉藤を通じて中尉に中将からの依頼がもれる可能性がある。
対策は大きく二つのうちどちらか。
一つはこの作戦が終るまで榛名をうちで押さえておく。
もう一つは榛名に中将からの依頼を悟られる前に送りだす。
今回は後者を選択した。
こちらのほうがリスクが少ない。デメリットとしては榛名の戦力をこちらで扱えないことだが、元々客員ということを踏まえれば致し方の無いことだ。
白雪が手をあげる。
別に順番にあげる必要はないのだけどねぇ…
「どうぞ」
「確認です。皆さんに伝えるのは榛名さんが移籍すること、タウイタウイ泊地の問題に介入するということを伝え、榛名さんの移籍後にもう一度招集。真の目的等を開示するという流れでよろしいですか?」
流石委員長。こういうのはお手のものだね。
「その認識でかまわない。ここで話した内容もそれまで口外禁止とする。他に質問は?」
霞と叢雲が視線を交わした後、霞が手をあげる。
「霞」
「具体的な私たちへの指示は榛名さんの移籍後ってことで良いのかしら?」
「いや、それだと少し不信に思われる可能性がある。ちょっと僕に考えがあって、試したいことがあるからそれらをやってもらったり、資材集めを中心に行動してもらうことになるな」
最悪の場合を想定して、実験や訓練をしておくべきだろうし。
「それともう一つ。この件に携わる間、時たま留守にする可能性がある。その時のために君たちにはより多くの業務を代理で行ってもらえるよう指導する。悪いが付き合ってくれ」
「「「了解」」」
即答かい。やっぱり心強いね。
「じゃ、真面目なお話終了。一時間後…じゃなくてもう50分後か?に第一会議室ね」
「わかったわ」
「えぇ」
「わかりました」
さて、今のうちにやっとかなきゃいけないことをしよう。
「ところで任…大淀さんはどちらにいるか知っているかい?」
「大淀さん?事務室で作業しているのじゃないかしら?というか昨日と今日の報告書溜まっているのだし、さっさとやりなさいよ」
叢雲が咎める。が、これは早めにしておきたいのだ。
「だいじょーぶ!叢雲さんが問題なしというからのんびりでもいいのさ!サラバダ!」
そういって執務室を出る。
なんだか声が聞こえた気がするが気にしなーい。
―・―・―・―・―・―
事務室の前に立つ。中の気配を探るとなんとなく音がするから誰かが居るのは確かだろう。
とはいえここに居そうなのは任務娘こと大淀だけだが。
ノックして返事を待つ。
「はい、どなたですか?」
「わしじゃよ、わし」
「お遊びに付き合う暇はないのでまたにしてください」
「そうつれないこと言わないでくださいよ」
そう言って中に入る。
「お疲れ様です。それとお帰りなさい提督」
少しだけこちらを見て軽く頭を下げる。そしてすぐに作業に戻る大淀。
バリバリの事務員さんだ。彼女のお陰でこの鎮守府は保たれているようなものだ。
「ただいまです。ちょっとだけでいいので、手、貸してもらえますか?」
「何でしょうか?先に概要を確認させてください」
「たいしたことじゃないよ。ほら、手」
ちょっとしたサプライズをしたいから手を拝借したいのだが、なかなか相手にしてもらえない。
「はぁ。わかりました。それで何をすれば良いのですか?」
ようやく手を止めてこちらに向き直る大淀。
「いや、ですから手を貸してもらえます?こう、手のひらを上にしてこっちに」
素手で水を掬うときの様な形をジェスチャーする。
「こうですか?」
いかにもやれやれといった顔でしぶしぶやってくれる大淀。
「そうそう。はいこれ」
そのまま手をそっと手を掴み、その手の上に
「はい?これは…」
手の上にある
「プレゼントです。普段お世話になっているので。大淀さんのために感謝をこめて特別に用意したものなので、他の娘には内緒ですよ?」
大淀には他の娘と違った活躍をしてもらっているからね。
他の娘にもお土産は用意してきているが、それとは別にプレゼントだ。
艦娘全員を特別扱いしているつもりだが、それでも堂々と特定の娘だけ多くの賞与が渡されるのは他の娘から見て心地よくないだろう。
結果的にばれるのはかまわないが、何らかのわかりやすい表彰でない限り、個別に渡す際は内緒だよとしておくのが吉だと思う。
「犬の…置物。でしょうか?見た目以上に結構ずっしりしていますね」
「えぇ。実はそれ、文鎮として使えるんですよ。大淀さんにはただ可愛いだけの物より、実用性もある物のほうが喜んでもらえるかなって。あ、気に入らなければ無理に使わなくても「いいえ!大切に、大切に使わせていただきます!!」
普段の落ち着いた感じからは想像できないほどの食いつきだ。
胸の前で両手で包み込むように持っている。
気に入ってもらえたようでよかった。
犬、好きなのかな?
渡した
結構可愛らしいデザインのものを選べたと思う。むしろ僕も欲しいレベルだ。
「そう言ってもらえるとうれしいよ。あ、あと普通のお土産、他の皆にも渡すつもりのお饅頭があるけど、どこに置けばいいですか?」
一つずつ袋に小分けされているお饅頭も取り出す。
黄色いひよこ型の中身が白あんのやつだ。
大淀の目の前にある机は色々な書類でいっぱいだ。無造作に置くと埋もれてしまいそうなので、確認を取る。
「…」
「大淀さん?」
「あっ!はい。そうですね。えっと、それも受け取ります」
そういって手を伸ばしてきたので、そっと乗せて渡す。
「あと、ちょっと今後について話したいことがあります。なので明日時間をください。用件は以上です。ではお疲れ様~」
「はっ、はい。お疲れ様です」
事務室を後にする。
ちなみに普段から大淀と明石は別枠扱いなので、集合の件は触れない。後に個別で話す予定だ。
彼女らのペースを崩すのは良くないので、普段から彼女らが空いている時間に話すことにしている。
次は明石だな。工廠に向かおう。
―・―・―・―・―・―
「あ~か~し~さぁん!」
工廠に着くや大きな声で呼ぶ。
気分は友達を家の外から遊びに誘う小学生だ。
「あ、提督。おかえりなさい」
なんとも普通に出迎えてくれた。
わらわらとまわりに妖精さん達も居る。
いろいろと整備中だったのかな?
「あ、今大丈夫ですか?作業中なら出直しますが」
「はい、区切りが良いので大丈夫ですよ。どうしましたか?」
そう言って手袋を外しながら近づいてくる。
「お土産を持ってきました」
「あら、わざわざありがとうございます」
大淀にも渡したお饅頭を渡す。
「皆さんにもありますよ。仲良く分けてくださいね~」
妖精さん達にも金平糖がたくさん入っている袋を渡す。
普通の金平糖ではなく、地域限定のおもしろお菓子だ。さまざまなフルーツの味がするらしい。
「あ、ちょっと明石さんと二人にしてもらっても良いですか?」
そう妖精さんたちにお願いすると金平糖を持って奥に行ってくれた。
「急にどうしたんですか?内緒の話でも?」
「えぇ、そのとおりです」
なんだかすごく意外そうな顔された。
「これを」
そういって小さな箱を渡す。
「これは?」
「プレゼントです。こういうのはあまり詳しくないので合わない様だったら捨ててください。一応普段のお礼ということで。他の娘には内緒ですよ?」
「…はぁ…」
すごく気の抜けた返事をされた。
「それと明日辺りに時間ください。ちょっと今後について話があるので」
「ふぇっ!?わ、わかりました」
「?まぁ、そういうことで、失礼しますね」
「あっ、はい!お疲れ様でした!」
すごい勢いで頭を下げられた。
どうしたんだろう?
まぁとりあえず用件は済んだ。
お饅頭用意して第一会議室に向かうとするかな。
鎮守府に帰ってきたので健康診断編終了です。
事務員とか保守要員ががんばってくれるからこその平穏ですからね。
大いに感謝しましょう。