僕の艦隊これくしょん ~提督になれば艦娘とイチャラブできると思っていた~ 作:荒井うみウシ
side:大淀
「に…大淀さん。こちらの書類をおねがいします」
大淀です。
「はい。それでしたらそこの篭に入れてください。後は私が処理をしておきますので」
白雪さんに書類をどこに置けば良いか指示を出す。
なぜか
どうにも初出は提督のようですが、正直戸惑っています。
最近はそれを私が不快に思っていると思われているようで、控えられてきましたが、今みたいに言いよどむことが多いです。
別に愛称をつけられること自体はかまわないのですが、脈絡もない呼び名だとどうにも違和感を覚えてしまうのです。
「はぁ…」
そんなことを考えていると自然と溜息がこぼれてしまいました。
私は明石と叢雲さんと一緒にこの鎮守府が設立された当初から一緒に仕事してきました。
確かに正確には本営からの貸し出しという扱いで、しかも表向きには新人提督の補佐として派遣されました。
しかし、実情は監視役としても扱われていますし、それを提督も把握しています。
だからヘイトを集めるのも判りますが、意味不明な呼び方はなんとももどかしいです。
本営から任務が来た際は私を介して通達されますが、どちらかというと事務をやっていることのほうが多いので、"事務員さん"とか言われたほうがまだ理解できます。
他の娘に比べて会話は多いと思いますが、すべて仕事の話ですし、提督のことは未だによくわかりません。
4月に提督たちと一緒にここに来て、今は10月。そういえばもう半年も一緒に仕事してきたんですね…
と、時間といえばもう提督が帰ってきててもおかしくない時間ですね。
律儀なところがあるので、おそらく顔を見せにくるとは思います。
ほら、ノックの音が聞こえました。
「はい、どなたですか?」
まぁ提督じゃなくてだれか他の娘でしょうけど。
「わしじゃよ、わし」
提督?普通の返事だったらうれしかったのでしょうけど、そういうおふざけでは素直に喜べませんよ…
「お遊びに付き合う暇はないのでまたにしてください」
まだ仕事が残っていますし。
たまに提督はおかしなことをし始めます。それが最大の欠点といえるかもしれません。
「そうつれないこと言わないでくださいよ」
そういって入ってくる。
普段忙しいときには無理に続けないので意外ですね。
何か時間的にすぐにしなければならない悪戯でしょうか?
「お疲れ様です。それとお帰りなさい提督」
「ただいまです。ちょっとだけでいいので、手、貸してもらえますか?」
どうにも急ぎで手伝うことがあるみたいですね。
ただ区切りが悪いので少し待っていただかないと。
「何でしょうか?先に概要を確認させてください」
聞きながら区切りの良いところまで進めちゃいましょう。
「たいしたことじゃないよ。ほら、手」
妙に今回はひっぱりますね。
何事でしょうか?
仕方ないのですぐに手を止めて提督に向き直る。
「はぁ。わかりました。それで何をすれば良いのですか?」
「いや、ですから手を貸してもらえます?こう、手のひらを上にしてこっちに」
提督が手をお椀型にして差し出す。
私にそうして欲しいようなので、真似する。
「こうですか?」
手を貸して欲しいって言葉通り手に何かしたかったのでしょうか?
「そうそう。はいこれ」
口調は軽いけれど丁寧な手つきでそっと私の手を包む提督。
なんだかいつもと違う雰囲気…紳士的な態度にちょっとドキッとしてしまいました。
と、なんだか手の上にそれなりに重い物が置かれました。
それほど大きくはない
「はい?これは…」
ラブラドールレトリバーでしょうか?
デフォルメされた犬が寝そべっているデザイン。
一体これは?
「プレゼントです。普段お世話になっているので。大淀さんのために感謝をこめて特別に用意したものなので、他の娘には内緒ですよ?」
少し照れたように頬を掻きながら言う提督。
内緒ですよのところで人差し指を立ててニコリとする。
いきなりの出来事で頭の中がパニックです。
「犬の…置物。でしょうか?見た目以上に結構ずっしりしていますね」
そこはお礼を言うところでしょう私!
なにのんきに観察結果を述べているのですか!?
「えぇ。実はそれ、文鎮として使えるんですよ。大淀さんにはただ可愛いだけの物より、実用性もある物のほうが喜んでもらえるかなって。あ、気に入らなければ無理に使わなくても「いいえ!大切に、大切に使わせていただきます!!」
折角提督が
大切に、大切に使いましょう。
本音を言えばもったいないので使わずにしまっておきたいのですが、提督は私が使うことを考えてくださったのです。
だったら使うしかないでしょう。
「大淀さん?」
急に声を掛けられてビックリする。
提督を見ると手にはお菓子。
どこに置けば良いのかわからないのでしょう。
「あっ!はい。そうですね。えっと、それも受け取ります」
手を出すとポンと置かれました。
流石に今回は包んでもらえませんでした。
って私は何を…
「あと、ちょっと今後について話したいことがあります。なので明日時間をください。用件は以上です。ではお疲れ様~」
「はっ、はい。お疲れ様です」
提督はひらひらと手を振って去っていった。
明日時間を作らなきゃ…
って待って。今後について?
それって
え、えええええええええええええええええええ!?
えっと、確かに好意的には感じていましたけど、提督からもそれなりに信頼されていると感じていましたけど!
そういうことですか!?
こ、このプレゼントも!?
その、えっと、少々混乱が続いています…
あとで明石に相談しよう…
―・―・―・―・―・―
side:明石
「よし、これで点検終わりっと」
霰ちゃんの艤装を点検し終えて、一区切りついた。
あとは遠征にでてる娘たちの分か…少し手が空きましたね。
「あ~か~し~さぁん!」
提督が大きな声で呼ぶ。
そういえば提督が帰ってくる時間でしたか。
「あ、提督。おかえりなさい」
返事をしてから近づいていく。
「あ、今大丈夫ですか?作業中なら出直しますが」
私の格好を見て中断したかのように思ったのかな?
煤や油だらけだし。
「はい、区切りが良いので大丈夫ですよ。どうしましたか?」
手袋を外しながら近づく。
「お土産を持ってきました」
そう言ってお菓子を差し出す提督。
梱包されているからこのままさわっても大丈夫でしょう。
「あら、わざわざありがとうございます」
礼を言いながら受け取る。
それにしてもわざわざここまでそのために来るとは珍しい。
どうにも提督は機械系が好みみたいで、時間があると顔を出して見学していくことがある。
今回もソレが目的だったのかな?
でも帰ってきたばっかりなのにそんな時間あるのかな?
「皆さんにもありますよ。仲良く分けてくださいね~」
妖精さん達に大袋入りの金平糖を渡す。
「ワーイ」
「テイトクアリガトー」
「コンペートー?」
「カンミジャー!」
「オチャガホシクナルネ」
なんてみんな盛り上がりながら受け取る。
「あ、ちょっと明石さんと二人にしてもらっても良いですか?」
妖精さん達は見合ってからそそくさと退散していく。
私に意味深な目配せを残して、金平糖はしっかりと持っていく。
そんなんじゃないと思うんだけどねー。
提督は冗談を多く言うけど根っからの真面目人間だ。そういうことを考えるタイプじゃないと思う。
ましてや私相手だ。もっと魅力のある娘ならともかくね…
「急にどうしたんですか?内緒の話でも?」
「えぇ、そのとおりです」
!?
正直驚いた。でも落ち着け私。いつもの冗談だ。
「これを」
小さな箱状の物を渡された。
何かを梱包しているものみたいだ。
「これは?」
「プレゼントです。こういうのはあまり詳しくないので合わない様だったら捨ててください。一応普段のお礼ということで。他の娘には内緒ですよ?」
プレゼント?私に?
しかも他の娘には内緒で?
「…はぁ…」
ちょっと状況が飲み込めない。
唐突になんなんだろう?
え、本当にそういうのだったの?
「それと明日辺りに時間ください。ちょっと今後について話があるので」
「ふぇっ!?わ、わかりました」
いきなりプレゼントなんて用意して、しかも今後についてお話!?
きゅ、急すぎないかな?
まぁ、確かに嫌とかじゃないんだけど、こう、ね?物事には順序とかさ…
「失礼しますね」
あ、提督が行っちゃう。
「あっ、はい!お疲れ様でした!」
えっと、どうしよう?
とにかく大淀に相談しようかな…
その前にプレゼントを確認してみましょう…
破かないように包みを開けると、よくわからない文字が。ブランド名かな?
それなりに高級感のある何かでしょうか?
包みの中にあった小箱を開けるとなにやら缶が入っていました。
これは一体?
あ、箱の隅に紙がある。説明書だといいな。
…ハンド…クリーム。
手荒れケアに使うもの?
そういえば提督も合わなければどうのとか言ってたっけ…
ふと自分の手を見る。
作業は手袋をしてすることが多いが、素手でやることもある。
それゆえあまり女の子らしさがない私の手。
だからこれでもう少し気を使えってことかしら?
ううん。彼はそういうタイプじゃない。
もっと私たちを気にかけてくれるタイプだ。気にかけ方がすごく不器用だけど。
お礼とも言っていたし、たぶんこれは私を労わるために用意してくれたものなのだろう…
あれ?急に涙が流れてた。
なかなか止まらない。
物語なんかでうれしさのあまりにぽろぽろと泣くヒロインに、現実じゃそんなに泣かないよねって思ってたのに…
うれしさが全身を満たすどころか涙としてあふれでてしまう。
前の鎮守府ではただの整備士扱いだった。
艦娘であっても戦闘能力は皆無だし。
そんな私を必要としてくれるだけでなく、ここまで大事にしてくれるということがこんなにもうれしいとは。
今はまだ本営所属扱いだけど、ここに所属を移してもらえるようもっと懇願することにしよう。
―・―・―・―・―・―
side:大淀
「大淀、いる?」
夜、夕食後に残っていた書類を片付けるため事務室に戻って作業していたら明石に声を掛けられた。
「えぇ。ちょうど良かった。明石、今日このあと時間ある?」
「私もちょっと大淀と話がしたくて。私の部屋…はちょっと散らかっているから大淀の部屋で良い?お酒持ってくよ」
「まったく、整理は普段からすること。肴はどうします?」
「お菓子持ってくつもりだったけど、だめ?ちゃんと柿ピーもあるよ」
「仕方ないわね。あと5分待って」
「はーい」
さっさと作業を進める。
「にしても作戦中でもないのに大淀が残るって珍しいね」
「ちょっと上の空気味になっちゃってね。その辺りについてもちょっと話したかったのよ」
提督のことを考えてたら普段よりも遅れてしまった。
「そっか。じゃあ私の話は後にするね」
しばらく明石を待たせて作業を終えた。
「遅くなってごめんなさい」
「いいよ。そんなに待ってないし。それじゃ行こ」
「えぇ」
私の部屋へ行く前に途中で明石の部屋に寄り、お菓子とお酒を取りに行く。
「酒盛りですか?」
明石の部屋の前で待っていると叢雲さんと白雪さんが通った。
まだ消灯時間までにはゆとりがある。
自由時間なのだろう。
「えぇ、たまには息抜きしないとね」
「そう。そういえば大淀さんは先ほどの会議に居ませんでしたが、司令官から今後の作戦について聞きました?」
作戦?
叢雲さんが言う作戦とは何のことでしょうか?
「いいえ、何の話でしょう?」
「あいつ…。じゃあ何か話があるとか言っていませんでした?」
「話…。あぁっ!そういうことですか!」
うわぁ…盛大に勘違いしてしまいました…
「えっと、大丈夫ですか?」
「急に大きな声だしてどうしたの?」
白雪さんと明石が心配してくれる。
「ううん。大丈夫、なんでもない。ちょっと私が勘違いをしてたことに気づいただけだから…」
「勘違い?」
「えっと…あんまり触れないで…。それと叢雲さん。提督はおそらく私の手が空いていなかったため、通達するのは明日にしたのだと思います。だから漏れているわけではないと思いますよ」
すっごく今自分が恥ずかしい。
仕事の話なのに、勝手に自分と提督の話だと思い込んで、上の空になってしまうなんて…
「そう?まぁ…そういうことにしておくわ。それじゃ、おやすみなさい」
「はーい、おやすみ~」
「失礼します」
二人とも頭を下げてから去って行った。
「んじゃ、私たちも行きましょうか」
明石からお菓子とお酒を受け取って、私の部屋に向かう。
部屋に着くとテーブルの上にお菓子を並べる。
「さて、乾杯はどれにする?」
「その焼酎をいただきましょうか。私は水割りにします」
「じゃあ私もそうするー」
二人で焼酎の水割りを作り、乾杯する。
「それで、話したいことって?」
「明石も何かあるって言ってましたよね?」
「私は後で良いよ。大淀からで」
「私はもう解決しました…。単にちょっと勘違いしてて…。だから明石の話を聞かせて?」
「そう?じゃあ私からで。えっと、今日提督が帰ってきたじゃない?その時にちょっとお話したのだけど、その、提督にさ…」
「提督に?」
「提督に今後について話がしたいって言われちゃってさ…」
「あー。うん。なるほど」
明石も私と同じ勘違いをしたと。
「何よその返事。もうちょっとこう、驚いた反応してもいいんじゃない?あの提督にだよ?」
「ねぇ、それってちゃんと"明石と提督の今後"についてって言ってた?単に"今後"についてって言ってなかった?」
「え?えっと、どうだろう?というかどう違…もしかして大淀…」
「私も同じ勘違いをしたのよ…」
「アハハハハ…。呑もうか」
「呑みましょう」
しばらく二人で呑みました。
…
「一体任務娘ってなんなのよぅ・・・」
「大淀は任務を伝えたりするからわかるじゃない。私なんてアイテム屋よ?アイテムって何よ?それに屋ってことは何?私店員?わけがわからないわ」
お互い変な呼び方をされてるのね。
嫌ではないけど本当に不明すぎて困惑する。
「にしても紛らわしい言い方するよねぇ。ねぇおおよど~」
最初の話かしら。
明石はだいぶ酔ってきたみたいで話が急に変わる。
「まったくね。勘違いさせるのも大概にしてほしいわ」
「…でも正直悪い気や嫌な気はしなかったのよね」
「それどころかってね…。ふふっ」
明石も私と一緒ね。
「はぁ…。本格的にこっちに移籍できないかしら。せめて艤装が建造できればスムーズに手続きできるのだけどねぇ」
「明石はいいわよ。私はお目付け役もさせられてるからそれだけでは簡単に移籍できなさそうなのよ…」
私たちは艤装無しで建造された。
どうして他の娘と違ってそうなったのかは不明だが、本営で建造される娘はそういった傾向が多いらしい。
だから私たちに対応する艤装を建造した鎮守府に配属されることも多々ある。
だけど私は単に派遣されているだけではないのが厄介だ。
「あー、あんまりこっちに肩入れしすぎるなーってなっちゃうのね。損な役よねぇ。でも提督は大淀のことすごく重要に思っているみたいよ」
「何よ急に。何か理由があるのかしら?」
「前に叢雲ちゃんに聞いたのだけど、提督がここを一人で運営する際に条件をだしたんだって。その条件が貸し出しでも良いから大淀を寄こせって」
「まさかぁ?」
そこまでして私を欲しがる理由なんてないはずだ。
「どうも私もそのついでに要望されたらしくて貸し出しされたのよ。本当はあと間宮さんを欲しがったらしいけど、間宮さんは空いてないから無理ってなったらしいわ」
食事は大事。おいしい食事をつくると有名な間宮さんならだれもが必要とするのは理解できる。
「間宮さんは誰もが欲しがるわよね。私たちは何でなのかしら?なんなら明日本人に聞いてみましょうか?」
「それいいわねぇ。私も同席したいわ」
「なら二人で聞きましょう?提督としてもあまりばらけて話をするよりまとめて話したほうが楽でしょうし」
酔いながらも明日の予定を調整して、二人とも同じ時間に提督の話を聞けるようにした。
大淀はむっつりスケベチョロインだと思います。
明石は女の子という点では自己評価が低く、押しに弱そう。
それにピンク髪だし。