僕の艦隊これくしょん ~提督になれば艦娘とイチャラブできると思っていた~ 作:荒井うみウシ
本当に申し訳ない。
side:山城
時々ぶつぶつと何かをつぶやきながらも真剣に画面を見つめ、作業をしている提督。
彼は公私の切り分けで、同一人物なのか分からないほど雰囲気が異なる。
徐々に仕事中であっても私の部分を出しているかのようになってきたけれど、それもおそらくは私たち艦娘が作戦中以外はよりリラックスした環境でいられるようにする配慮のように思える。
私たちは彼のことを実は全く知らないのかも知れない。
いや、知ろうともしてこなかった。というのが正しいのかも。
それをすることで彼から嫌われたくなかったから。
指示や作戦に疑問を持つことには彼は肯定的だ。
ただし、私情の詮索をするような行為には否定的なように見える。
軽く探りを入れようとした娘がいた。
その時の彼の目はとても印象的だった。
たまたま近くに居合わせただけで、見つめられているのが私自身ではないのにも関わらず、あの目で見られたくないと、二度とあの目をあの人にして欲しくないと思ってしまう類のものだった。
それはとても冷たく、まるで機械のように感情が感じ取れないものだった。
おそらくそういった経緯はあのときの一件だけではないようで、多くの艦娘が彼のことを詮索しないと不文律にした。
あの娘が来るまでは。
戦艦"榛名"。
金剛型の3番艦で、性格は慎ましく思慮深い。
誰からも好意的に見られる良い娘だ。
性能面でも単純な火力という点では他の戦艦に劣る部分はある物の、高速戦艦とも言われるほど戦艦の中では速く、総合的な能力は高い。
また、火力が劣るといってもあくまで他の戦艦に比べてのものであり、艦娘の中では十分上位に組み込まれる。
端的に優秀な娘。私みたいな火力だけの欠陥戦艦とは大きく異なる。
通常ならば彼女が戦列に加わることは喜ばしいことだ。
だけど、今回は事情が複雑になる。
提督の彼女に対する扱いは明らかに異質だ。
提督は確かに艦娘それぞれに対して異なる扱いをしている。
だがそれは艦の性能という面や艦娘の性格という面から考えればおかしいといえるほどの差は無い。
榛名さんに対してはどうだろうか?
言葉にするのは難しい。
でも私たちとは違う。
表情も、言葉使いも、気のかけ方も。
それが私たちをざわつかせる。
忌避感や嫌悪感といったものではない。
どちらかというと羨望?焦燥?
はっきりと断言できる偏ったものではなく、複雑に絡み合っているものだ。
それが不快というほどではないが、気にはなってしまう。
彼女と提督の過去に何があったのか、と。
「どうかなさいましたか?」
「いえ別に」
ふと榛名さんと目が合い、にこやかに聞かれた。
こういう仕草一つとっても、私みたいな可愛げの無い艦娘よりも魅力的よね…
「溜息など吐かれてやっぱり何かあるのでは?」
心配そうにこちらを見る榛名さん。
無意識に溜息を吐いていたらしい。
「いえ、何も」
「先ほどの件を気になさるのですか?提督はああいうのを喜ばれますよ?」
先ほどの件。
提督にクッキーをあ、あーんしてあげた。
うまく榛名さんの口車に乗ってしまって、提督に失礼なことをしてしまった。
まぁ提督自身は喜んでいたから良いのだろうけれど、流石に恥ずかしくてそう何度もやれることではない。
「別にそのことではないわ」
「では何事でしょう?」
どうすれば提督からあなたの様に扱ってもらえるのか?
なんて正直に聞けるほど私は肝が据わっているわけではない。
かと言って濁し続けても逃してくれそうに無い。
どうにも榛名さんは口も上手い…というか無碍に扱えない空気を醸し出している。
無難な内容で逸らすのが精一杯ね。
「榛名さん。あなたは提督が提督になる前から面識があったのよね?」
「えぇ、そうですよ。それがどうかいたしましたか?」
「あまり提督は昔のことを話そうとしないからね。どうだったのかな?って」
少し悩むそぶりをする榛名さん。
やはり聞かれたくないような何かがあるのかしら。
「提督と榛名の過去は少々込み入った事情があるので、榛名の独断で全てを話すことは出来ませんが、答えられる範囲で答えましょう。どういったことが知りたいのですか?」
込み入った事情ね…
これは提督に話すなと命令されている可能性もあるわね。
私たち艦娘は原則自身の提督に命令されればどんなことでも従うから、そうだとすると榛名さんから聞き出すのは不可能ね。
「そうね。例えば性格はどうなのかしら?仕事中の怖いくらい冷徹な感じか、それとも落ち着いているときの少し砕けたおちゃらけた風な感じか。どちらが素の彼なのかしら?」
この疑問はごまかしではなく、本当に気になっていたことだ。
「どちらかと言えばおちゃらけた方かと。ここでの振る舞いは責務がある関係上少し硬い感じになっているのだと思います」
なら多少は私たちの前でも砕けてきている、とみていいのかしら。
ちらと提督を見ると、なにやら頭を抱えて唸っていた。
「…どうしたのかしら?」
「あ、今は行かないほうがいいですよ」
様子を見に行こうとしたら榛名さんに止められた。
どういうことだろうか。
「ああいうときはしばらくしたら戻りますので大丈夫です。むしろ私たちが行っても邪魔になりかねません」
そういうものなのだろうか?
すごく悩んでいるように見えるけれど。
「本当に危ないのは反応が薄い時や、考えを省みなくなったときですね。思考が狭くなってきている前兆なので」
…よく彼のことを知っている。
本当にうらやましい。
「ほら、戻りましたよ」
榛名さんの言うとおり、提督はまたぶつぶつと何かを呟きながら作業をしていた。
「クッキーのことといい、今のことといい、本当に榛名さんは提督のことをよく知っているわよね」
「榛名もまだまだですよ。たまたま今話をしていたことを知っていただけで、知らないこともたくさんあります」
「榛名さんも知らないことねぇ…」
そんなこと無いように見えるけど。
「榛名だって、どうして提督が…」
榛名さんが話している最中にノックが鳴った。
提督はノックに気付く様子も無く、作業をしている。
榛名さんは言葉を止め、こちらを見る。
頷いてから声をあげる。
「どなた?」
立ち上がり、扉に向かうとこちらが開ける前に開いた。
「やっほー、北上さまだよー。あとずいずいも」
北上さんが扉を開けながら入ってきた。
「ずいずいじゃなくて瑞鶴よ。いい加減にしてよね」
文句を言いながら瑞鶴さんも入ってきた。
「二人ともどうしたのかしら?」
榛名さんと共にこの二人も本営の部隊からうちに来た。
よく二人でつるんでいるけれど、単に北上さんが瑞鶴さんを連れまわしている様子だった。
「ちょっと提督にお話をね。提督ぅー、ちょっといい?」
北上さんに声を掛けられようやくこちらを見る提督。
どうやら北上さんと瑞鶴さんが居ることに今気付いたようだ。
「急になんだ?」
仕事モード、かつ忙しいため口調がすごく硬い。
「提督ってさー。マゾ?」
提督が怪訝な顔をしている。
マゾってなにかしら?
「まずは否定しておこう。少なくとも自覚は無い。悪いが今そういう話の相手をする余裕がない。後に…「まぁ聞いてよ」なんだ?」
「ここの鎮守府に居る艦娘ってさ、すごく偏っているんだよね。これって変だと思うんだ」
偏り?駆逐艦が多いのは普通じゃないかしら?
「例えば摩耶、例えば曙、例えば満潮、例えば敷波、例えば叢雲、例えば…山城」
私?
「別の部類で言えば潮や羽黒なんかもそう…というかこの鎮守府のほとんどがそう。端的に、ここの所属艦娘は他の鎮守府では避けたがる艦娘なんだよね。理由は…明言は避けるけど」
…
「どちらかといえば私もそちらの部類かしらね…」
瑞鶴さん…
「さて、うちでは優秀な娘だということぐらいしか共通点はわからないがな。まぁ話が進まなくなるからそういう前提にしておこう。で、それがどうした?」
提督…
「大淀にこれまでの運営履歴を教えてもらったけど、結構な回数建造を行っている。でも他の娘は来ない。実はこういう経験前に所属していたところでもあるんだ」
本営の部隊…というわけでは無さそうね。
ということは北上さんは他の提督の下に居た経験があるってことかしら。
でも私たちの提督に対応しているってことは、その提督に対応しなくなったってことかしら?
そうなる前に解体されたり沈んだりすることのほうが多いと大淀さんから聞いたことがあるし、結構珍しい経験をしているのね。
「ある程度の地位に居る人は誰かが自分に対応しない艦娘が建造したことを知ることが出来るし、一部の人たちしか知らないけれど、どの艦娘がどの提督に対応しているかある程度調べることができるんだってさ。それを悪用すると、気に入らない提督のところに艦娘が行かないような裏工作ができちゃうんだよね」
確か提督は保有数がとてつもなく多いはず。
建造回数も多いのだから普通に考えればもっと所有艦娘が多くて当たり前。
そのはずなのに他の提督よりも所有数が少ない。
その理由がこれということ?
すごく納得がいくわね。
私の提督にそんなことをする不届き者をどうしようかしら?
「かと言ってこちらから何が出来る?動こうにも駒が足りないぞ?」
そうよね。安易に動こうにも立場は相手のほうが強い。
というか強い相手だからこそ取れる手だから当然か。
「まるで駒が足りていれば何かするつもりだったみたいな物言いね」
「…ひょっとして知ってた?」
提督なら気付いていてもおかしくないわね。
「あくまで仮説の一つだけどな。とはいえ仮説の中では有力な部類だった。思い当たる節も多くあるし」
そういえば駆逐の娘の誰か…叢雲だったかしら?が言うには提督が上層から嫌われているとかなんとかあったわね…
「まぁそれなら話が早いね。こう見えても北上さまは結構色々経験していましてね。コネというものも多少もっているんですよ。使ってみない?というか使って欲しいな」
提督のために自分ができることがあるなら行いたい。
北上さんの心情はわかるわ。
「…正直そっちは驚いたな。そうだな…じゃあ北上に動いてもらおうかな。ただ保険は掛けさせてもらうよ。悪く思わないで欲しいが、北上は信用しているけれど、北上のコネ先である相手を信用できないからね」
「いいよそれで。そんで、わたしが上手くやれたらご褒美ほしいな」
ご褒美…
それは羨ましいわ。
「そういうからには要望があるんだろう?とりあえず内容次第かな」
「一日提督独占権」
なにそれ羨ましい
「へっ?何それ?」
一日だけであっても提督を独占できるなんて、そんなすばらしいことが他にあるのかしら?
「おはようからおはようまで提督と一緒に過ごして、その間ならいろんなわがままを聞いてもらえる素敵な権利ですね!榛名、感激です!」
何で榛名さんが感激しているのかしら?
というかなにその素敵権利。
「んと、まぁそんな感じ?」
「おやすみまでじゃないのよね…その後のおはようまでなのよね…」
瑞鶴さん、顔真っ赤ね。
「…わがままを聞くといっても、無理なものは無理と断る場合はあるからな。それで良ければかまわないよ」
どうにかしてその権利私もほしいわね。
「うん、別に提督に何か無理強いするつもりもないし、いいよ。じゃあ私はコネのためにいろいろ勝手に動くつもりだけどいいよね?」
「あぁ、だけど僕が望まないような行動はしないでくれよ?そこら辺の信頼を裏切らない範囲であれば好きにしていい」
「言質とったからね。じゃ、わたしはこれで」
じゃあねーと出て行く北上さん。
瑞鶴さんはまだ顔を赤くしてもじもじしている。
遅くなりました。
毎回そう書いている気がしますが、事実なので申し訳ないです。
また作者の私情でバタバタしてきたので間隔が不安定になりそうですが、ご了承ください…