僕の艦隊これくしょん ~提督になれば艦娘とイチャラブできると思っていた~   作:荒井うみウシ

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いい加減既出組と新参組の衝突について書かないとアレかなと思いまして。



強敵出現(?)

───時は少し遡り、まだ榛名たちが来たばかりの頃。

 

side:霞

 

ニコニコと静かに佇む榛名さん。

状況が把握しきれていないのかきょろきょろしている瑞鶴さん。

マイペースにのほほんとしている北上さん。

 

それらに対峙するのは私たち。

本来ならば歓迎会の一つでもやるべきなのでしょうけれど、そういった空気はなく、あるのは戦場へ赴く際に近い張り詰めた空気。それも勝てる見込みの少ない強敵と相対する際のものだ。

 

出撃している娘たちや一部を除いて、ここに所属する艦娘のほとんどが集まっている。

 

「本来なら手放しで歓迎すべきなのでしょうけれど、こんな形になって悪いわね。でも共に戦う仲になるのだからこそ、垣根が生じる可能性は排除したいの。わかってもらえるかしら?」

 

全くもって悪いと感じていないものいいの叢雲。

 

「垣根が生じるのは確かに避けたいですね。しかしそういったものができそうなものに皆目見当がつかないので、そこからお話いただきたいですね」

 

表情を変えることなく、やわらかに言う榛名さん。

 

「見当がつかない…ね。とりあえず司令官との関係を教えてもらえるかしら?その指輪も含めてただの提督と艦娘という関係には思えないのだけれど?」

 

指輪。一般に左手薬指のそれは既婚者であることを示すことが多い。場合によっては婚約者でもつけているだろうけれど、真っ先に思いつくのは既婚者であるということだ。

 

それを榛名さんがしている。しかも指輪の送り主は他ならない司令官なんだから、どういった経緯があるのか同じ司令官に仕える艦娘である以上無視することは難しい。

 

「そのことですか。まず、提督とは提督がこちらで提督になる前から知り合っていたのです。この指輪はその時にいただいたものです。この指輪についてですが、これには艦娘の能力を向上させる機能があります。とはいえ無条件というわけにはいかず、いくらか条件があります。入手経路は榛名にもわかりません。提督に直接お尋ねしてください。榛名と提督の過去に関しては少々事情があるので、榛名の独断で全てをお話しすることはできず申し訳ありません。提督に尋ねていただき、提督の許可があればお話しさせていただきます」

 

司令官はあまり詮索されるのを好まない。

その上でのこの説明だから、榛名さんは暗に何も説明する気はないという意味だ。

 

「…そう、あくまで経緯を話すつもりは無いのね。じゃあ聞き方を変えるわ。司令官に対しての行動について少々気軽過ぎるわ。ここは鎮守府で、榛名さんと司令官は部下と上官の関係よ。榛名さんの司令官への態度は鎮守府内の風紀を大きく乱しているわ。これに関しては北上さんも同様よ。以後謹んでもらえるかしら?」

 

叢雲は榛名さんと司令官の過去について意外とすんなり見逃した。

司令官に問わなければどうしようもないという言い方をされ、司令官自身もそれに対して肯定的な言動している以上突っかかり続けるのは無理だ。

無理に聞き出そうとしても、彼のあの何も見ていないような冷たい視線を向けられるのは非常に耐え難い。

苦々しいけれど、そのことを伏せて話を進めたようだ。

 

「提督への態度…ですか…。これについても具体的にどういった態度が問題なのかおっしゃっていただけますか?少なくとも榛名は提督が望まれていることの範疇で行動しているので。北上さんはどうです?」

 

自分は何もおかしいことはしていないという感じね。

事ある毎に…いや、事が無くてもくっついて仕事と関係ない話をして、あんな優しい笑顔を見られて…

 

コホンッ

 

司令官と多くコミュニケーションをとっているという点で、一部の、そう、私とかを含まない一部の艦娘たちから八つ当たりに近い物があるのは事実でもある。あくまで叢雲はそれを代弁したわけよ。うん。私もそうするわ。

ただ、上官に対する態度として不適切であるというのも事実だから、前者で話すわけにも行かず、後者で話すしかない。

 

「私も同じー。あー、ちょっと確認したいことがあるんだけどいいかな?」

 

確認したいこと?

 

「うん。キミたちはさー、提督ともっとくっつきたいとか、甘えたいとか、甘えられたいとかそういうの感じてない?」

 

北上さんは一体何を言っているのだろうか?

た、確かに司令官ともっとこう、私たちのほうを見て欲しいとかあるけれど…

って私は何を…!?

 

「はい、じゃあ磯波!回答し(こたえ)て頂戴」

 

「ふぇっ!?」

 

いきなり北上さんに指名されて慌てる磯波。

比較的最近来た娘で、引っ込み思案気味だが良い娘だ。

 

「わ、わたしは…」

 

左手で右肘を抱きかかえるようにし、身体を竦める磯波。

その恥ずかしそうな顔つきから答えを言っているようなものだ。

 

「ふむふむ、表情からだいぶ答えはわかるけれど、言葉で答えて欲しいかな?」

 

北上さんが急かす。

 

「わた…しは。ないと、言えば嘘に…なります。けど!そんな不敬なことできません…」

 

磯波…

ま、その回答は多くの娘が持ちうるものじゃないかしら?

…私も含めて、ね。

 

「不敬…ね。やっぱりそれか…」

 

何か一人で納得している様子の北上さん。

これが一体何の意味を持つというのだろうか?

というかどさくさに紛れて話をすりかえられていないか?

 

「で、その確認がなんになるのかしら?」

 

叢雲が私も思った突っ込みを入れる。

 

「…これは私の自説なんだけどさ。艦娘の思考は自分の提督に影響を受けると思っているんだ」

 

唐突に何を言い出したんだろう?

 

「具体的に言うと、ある提督が艦娘をただ戦う物として見ているとその艦娘は戦うこと以外に興味を持ちにくくなるし、娘のように思っている別の提督が居れば、そこの艦娘は提督を父親として見るようになる。いくつかの鎮守府を経験してきたんだけど、多くの艦娘がこれに該当したのよ。私自身も含めてね」

 

目を伏せる北上さん。

練度が高いと聞いていたけれど、多くの鎮守府を渡ってきたからこそのものなのね。

 

「補足だけれど、北上さんの来歴はかなり稀少よ。私も助っ人として他の鎮守府で指揮下に入ったことはあるけれど、3つ以上の鎮守府、というか3人以上の提督につくことっていうのはまず居ないわ。少なくとも本営に居た私も北上さんほどの娘を知らない程度にね」

 

瑞鶴さんが補足してくれて、北上さんの見識の広さというか経験の多さを強調する。

 

「言われてみて思い返したんだけど、私も前の提督さんの下ではもっと張り詰めていた気がする。決してここが腑抜けているというわけではなくて、余裕というかゆとりみたいなのが無かったという意味でね」

 

瑞鶴さんも同調する。信じられるほどの情報が無いから判断がつかない。

全部の話を聞いてからってところね。

 

叢雲が少し悩む様子を見せる。

訓練校に居た時期もあったはずだから、交流も広く、何かしら近い情報を持っているのかもしれない。

 

「んで、それらの情報と提督の反応や人柄を見ての話なんだけど。提督は多分もっと私たちと触れ合いたいんじゃないかな?ただ、何らかの人間不信の類になっている…単にスキンシップが苦手なだけかもしれないけれど、そういう状態で、私たちの方から会いに行くのが提督の望みなんじゃないかな?」

 

…北上さんの言う艦娘が司令官の趣向に意識が寄るという前提で話せば、私たちの望み=司令官の趣向に沿ったもの…

そうだとしたら、司令官は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「だからもし、キミたちが私とかがしているその風紀を乱す行為をしたいと思ったことがあるなら、むしろ私のほうが提督に対して良い対応をしているとも言えるのよ。そこら辺を考えて欲しくて確認をさせてもらったわけ。全員に答えを聞くわけじゃないけれど、ここまで話してどうしたほうがいいのかは言わなくても通じるよね~?」

 

北上さんは子どもに言い聞かせるようにのんびりとした言い方をしているけれど、その目は真剣見を帯びていた。

 

「艦娘の考えが提督に左右されるかどうかは分かりませんが、艦娘ともっと親しくなりたいという考えを持っているというのは正しいですよ?これは提督自身からお聞きしたので」

 

しれっと何をおっしゃっているのかしらこの戦艦は。

 

「ならわたしのああいう態度は提督的には全然オーケーってこと?」

 

全然オーケーのところが誰かを真似たような変な言い方だったのはスルーするとして、榛名さんの言う通りであれば、先に言っていた通り司令官の望んだ行動をしているというわけだ。

 

「はい。むしろ提督は自分から積極的に関わるのを苦手としていますからもっとグイグイいくと良いですね」

 

笑顔でなんてことをお勧めしているのかしらこの戦艦は。

 

「…そう。その辺り司令官に確認してみないとね…」

 

頭を抱えつつ叢雲が答える。

結局のところ司令官に確認しないと何にもならないのね…

 

「はぁ…結局アイツに話さなきゃならないわけね。悪かったわね三人とも。妙な状況にしちゃって。とりあえず現状はあまり仕事に影響が出ないのと、他の娘たちの気分を害さない範囲にして頂戴。あと、貴方達のことを歓迎するわ」

 

頭が痛いといった様子をしながら話す。

これ、司令官を悪者扱いということを落とし所として一旦切り上げ、色々と情報をまとめるのだろう。

 

磯波を始めとしたいくらかの娘たちが三人に近寄り、どういったことが司令官の好みなのかといった話をし始めている。

もともと司令官のことを除けばかなり友好的に見られていたし、性格的にも面倒見の良い人に好かれる娘たちだ。こうなるのは当然ともいえる。

 

私?私はそのままその場を後にしたわ。

話は一旦終ったし、しばらくしたら出撃もあるし。

 

…さりげなく今度聞き出そうかしら?




ということで全て提督に確認しないとどうしようもないねという話の流れになりました。
皆良い娘なので、それほどドロドロしませんでした。
というか書きたくてもドロドロ修羅場を書けなかったんです…

ストーリーの進行が出来ていなくて申し訳ないです。
気長に待っていただけると幸いです。

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