僕の艦隊これくしょん ~提督になれば艦娘とイチャラブできると思っていた~ 作:荒井うみウシ
「提督の人物像について…ですか」
一度資材や設備の資料について解説し終えて、自身の仕事に戻っていたところ、視察に来ていたお二方が
提督抜きで訪ねて来たため確認したところ、彼がどういった人物なのかというのも調査の一環とのこと。
彼らの行動は提督が事前に想定した内容の範囲内だったため、慎重に言葉を選ぶ。
彼らがこの鎮守府を視察する理由は榛名さん達がこちらに引き抜けるだけの価値があるか確認するためである。
少々気にさわることではありますが、傍から見ればこの鎮守府は辺境の地。本営の主力として扱える練度の高い艦をおいそれと渡すことはしたくない。
難癖をつけてくるのは目に見えている。
しかし、もしもこの鎮守府に価値を見出したとしたら?
自分の派閥に入れるために譲歩するかもしれません。
提督はそういったものを嫌っているとのことですが、榛名さん達を引き入れるためなら仕方ないと割り切っているご様子。
であれば、私たちは提督が派閥内で印象を良くするために媚を売っておくのが良いでしょう。
あの人の実力であれば引き入れようとされるのはほぼ確実ですから。
「非常に良い上官です。各部下に対してそれぞれがどういったことに秀でているかを判断し、その分野で十全に働けるよう手配してくださるため、私たちもただ提督の意向に従ってさえいれば自身の性能をいかんなく振るうことができ、大変やりがいを得ることができます」
私の言に視察の方の片方は無表情だが、もう片方の表情が和らいでいる。
悪くない印象を抱かせることができたと思うけど、油断はできない。
気を緩めずに待機していると、礼を言って去って行った。
あんな短くてよかったのでしょうか?
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「ここでの生活について…ですか」
再び視察の方々が来たかと思えば今度は提督がいない。
これは提督がおっしゃっていた通りの流れみたいですね。
大淀が下手に取り繕うより素のままで答えたほうが好印象を与えられると提案して、提督が承諾したから私もその通りによう。
「楽しいですよ。自分を必要としてくれているというのがしっかりと伝わってきて、それがこんなにも幸せなんだとは知らなかったです。私の仕事は間接的なものが多くて上の人には分かり難い分野でもあるんですが、提督はしっかりとそれを汲んで評価してくれますし。それゆえにどれだけ期待されているのか、頼りにされているのかも感じますから。これほどうれしいことはないですよ」
私の回答を受けた後、仕事量が多かったりしないか質問された。
多いけど素直に多いというのは印象を悪くするかもしれないよね…
「提督は決してこなせない量の仕事はさせませんからね。そういったところの調整は頻繁にしてくれますから」
そのおかげで他の娘よりもちょっと気を使ってもらってる実感を得られて優越感があるなんてところは話す必要ないよね。
でも仕事関係だけの話が中心なのはちょっぴり物足りない。
その後2,3工廠の扱い方についてやり取りして、彼らは去っていった。
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「提督の指揮能力について、ですか」
運動場で汗を流していると、見慣れない男性2名が現れた。
どうにも通知されていた視察の人たちらしい。
提督自身のことについても聞きたいから彼らのみでまわっていると説明を受けた後、質問をされた。
この場には駆逐の娘と
「私は提督以外の方を知らないので比較は出来ませんが、良いと思います。多くは語らず、私たちを信じ、私たちの行動を後押ししてくれる。そういったやり方を好むお方です。けれど決して主体性がないわけでなく、私たちを先導しながらも見守ってくださるとても良い指揮です」
提督は特に戦闘に関しては多くを口にしません。
問うと私たちの自主性を尊重しているとのことでした。
共に戦う仲間であってもその場にいるのは私たちだけ。
戦術に指示をだそうにも時間差が生じてしまう。
そこを提督は艦娘自身に思考させることで時間差を無くすことを選んだ。
俯瞰した情報を旗艦を中心に提供しつつ、判断は各自のため迅速な行動選択をさせる。
これが彼の基本的な戦術方針だ。
叢雲さんから聞いた話では訓練生時代に編み出し、卒業までに精錬させていった方針で、他の候補生は一切
一定の艦隊数を保持するまでは戦闘するのは一艦隊だけのため、提督が直接戦闘指揮を執るのが一般的らしく、かなりの異端だったらしい。
他の訓練生はこの戦法の重要な点をこなせないが故にまともに実践することができなかったと自慢げに言っていた。
そういった事情を知っているのか知らないのか不明だが、その後2,3質問した後、視察の人たちは去って行った。
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「…提督をどう思っているか、ですか?」
遠征後の補給を終えて部屋に戻ろうとしていると見知らぬ人たちに声を掛けられた。
そういえば今日は視察の日だったことを思い出す。
榛名さんたちが欲しいから一芝居打って欲しいとあの提督が頭を下げてきた。
確かに榛名さんたちは強力な戦力だし、人柄もいいけれど、かなりの公私混同じゃないかしら?あのクソ提督は。
今でも思い出すだけで恥ずかしくなる。
私に対してもそのぐらいしてくれるのだろうか、なんて潮が尋ねたときの解答。
それが欲されている側からするとどれだけうれしいことなのかを露知らず、故にこっちがどれだけもどかしく感じるかも考えず。
純粋にただひたすらに欲しいもののためならそれ以外をなげうってでも手に入れるなんて生真面目に答えるクソ提督。
さらりとたとえそれが
提督が去った後にニッコニコしながらよかったねという潮を叩いたけれど、どうしようもなくうれしかったのは事実だ。
「まぁ、色々と物申したい点があるけれど、それを踏まえても上司としては非常に優秀だと思っています」
男の人としては落第点だけど。
もっとこう、私に構う時間を増やすなり、私と居るときに他の娘の話をしないようにするなり…
なんだか妙にニヤけている視察官だったけど、もっとまともな人材は居なかったのかしら?
現状の階級はともかく、実力はあるのだからいくらクソ提督相手であってももう少し真っ当な人材が視察に来るべきだと思う。
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「他の提督との違いですか…」
天気もよかったので瑞鶴さんと北上さん、それと赤城さんと山城さんを誘ってお茶会を中庭でしていたところ、視察の方々がお見えになりました。
山城さんたちはともかく榛名たちは他の提督も知っているので、比較してほしいとのことでした。
「一番違うのは私たちへの視線…見方かなぁ?」
普段よりははっきりとした言い方をしていますが、ややのんびりとした話し方で北上さんが言う。
視線…見方?どういうことでしょう?
「あくまで私個人の印象なんですけどね。他の提督たちと違った艦娘の見方をしているんですよ。うん、丁度わかりやすくお二人を例にお話させていただいてもよろしいでしょうか?」
何か北上さんじゃなく感じるほど真面目な雰囲気です。
普段はもっと溶けているような、或いは飄々とした態度なのに、今は凜と地に足ついた鋭い眼光を宿らせています。
視察の方々から許可を貰うと北上さんは話を始めました。
「そちらの方。あなたは艦娘を兵器、道具、脅威という類で捉えているように見えます」
初老のように見えながら力強さを漂わせる方を見て言います。
続いて一見若者に見えるけれど、その佇まいから熟練の軍人を醸し出す方を見て続けます。
「あなたはむしろ艦娘を人、それも女性いえ、少女として捉えている類に見えます」
両者とも何も言わない。
「あくまで私見なので気を悪くしたなら謝罪します。とはいえどちらも正しい見解です。多くの提督たちはこのどちらかで私たちを見ていましたが、彼は違っていました」
続きを促す二名。
「あの人は私たちを、艦娘を兵器と少女
…兵器でありながら少女である。
艦娘とはそういうモノである。
確かに、本営にいた提督たちは基本的に艦娘を兵器として捉え、脅威であり、管理・運用を正しく行わなければならないといった風潮は強かった。
それに対して少女の感性をもつ艦娘を物・道具扱いするのはいかがなものかという疑問を提示している人たちもいた。
榛名としては提督は提督だけだからあまり気にかけていなかったけれど、これは彼らの艦娘たちには大きなストレスになっていたかもしれません。
片や道具として人格を潰され、片や自身の力を信じていないようにも取れる保護などといった拘束をされ。
提督に会える事のみを信じ行動していたため、思い返せばという形になるけれど、榛名にもかなり無機質な扱いが多かったように思える。
それに引き換え榛名たちの提督はどうだろう?
鎮守府内においては娯楽など始め、ひとりひとり気にかけていただき少女としての欲求を満たし、作戦となれば兵器として性能を十全に活かせるよう配慮する。
一見兵士の扱いに見えるが、フォローの仕方は兵器としてのメンテナンスに注力する。
船として大事に、しかしながら人として大切に扱う。
この一見分離した内容を上手く混ぜ合わせているのは特徴的だといえるのかもしれない。
断言できないのは他を多く知らないからだ。
北上さんの説明にお二方は非常に惹かれ、驚き、興味深くしている様子でした。
榛名としても当たり前に感じるこの扱いが、実は恵まれていたことを改めて知ることができてよかったです。
瑞鶴さんも榛名と同じような心境みたいでしみじみと頷いています。
「…とまぁ、わたしからの見解は以上です。少々でしゃばった物言いで申し訳ありませんでした」
頭を下げる北上さん。
視察の方々はそれを抑え、許しを出す。
彼らにとっても非常に価値のある評論だったみたいだ。
瑞鶴さんにも話を聞き、概ね北上さんと同じような印象をもっていることを話していました。
漠然と感じていたけれど、明言化できなかったことが北上さんの言葉ではっきりしたという感じでした。
「あ、あと付け加えるとしたらなんていうかゆとりがあるように感じたわね」
しばらく話していた所為かだいぶ砕けた口調の瑞鶴さん。
提督の印象を下げないためにも少々気をつけてもらいたいのですが、いろいろとアプローチをかけても気付いてもらえてないようです…
そしてゆとりとはどんなことを差すのか問われる瑞鶴さん。
「ぴったりの言い方が出来ないんですが、私たち艦娘を扱うときにどっしりとしているというか、長年の付き合いから相手の性格を把握しているため受け入れるような。ごめんなさい、良い言葉が見つからないのですが、そういう"私を受け入れてくれる感じ"が強いんです」
なるほど、確かに提督は榛名たちがどういう思考をしているのか大半は把握しています。
ゲームという形ではありますが、年単位で艦娘と交流をしていたためです。
その分受け入れてくれている…信頼してくれているのは事実でしょう。
瑞鶴さんはそういったことを感じているのではないでしょうか?
流石に口にはしませんけど。
瑞鶴さんの話が終わり続いて榛名の番になりました。
「艦娘との関わり方という面では北上さんや瑞鶴さんと同じなので、榛名からは違った観点、作戦面での差異を述べさせていただきます」
提督のやり方で本営に居た頃と大きく違うのは、指示出しの時期だと榛名は感じました。
提督は作戦開始前の事前打ち合わせに非常に力を入れています。
何を目的としているのか、どのあたりが成功ラインで、可能な場合はどのあたりまでやって欲しいのか、どういったことを優先していくのか、どこまで陥ったら失敗として退却するのか。
基準というモノを徹底的に決めていきます。
そして実行時には直接はあまり指示を出さず、基準の範囲内であれば好きに行動させることが多いです。
故に想定外のことが起きても逐一確認する前に現場で一つ二つは手を打ってから指針を調整することができるようになります。
ただし、このやり方は始めの基準がずれていればどうしようもないですし、現場判断が多くなるため、規模が大きくなると連携が難しくなったりします。
他の方々はここまで念入りに事前打ち合わせは行わない代わりに、実行時に多量に指示が飛んできます。
指示に従って行動すれば良いので考えることは少なくなりますが、中央の情報量が多くなると末端のこちらへの指示が滞ることもありました。
その代わり中央の処理能力が高ければ大規模戦力を運用できますし、末端では戦闘自体にのみ思考を向ければよいので練度が低くとも戦力にしやすかったりします。
まぁ互いにメリットデメリットはあるのでどちらがより良いということはないのですが…
「というように艦娘の行動裁量が他よりも多い点が特徴的かと思います」
瑞鶴さんはまだあまり提督の指揮で動いていないのでピンと来ない様子でしたが、自分が関わらないときでも打ち合わせに参加している北上さんには共感できる点が多かったみたいです。
視察の方々も2,3質疑応答を行ったのでしっかりと把握していただけたようでした。
聞かれたことには基本的に素直に答えるよう通達されていたので従いましたが、これで提督と一緒にいられるのでしょうか?
ちなみに基本的でないことはゲーム…前の経験などといったことです。
お二人は何か少しだけ話しをしてからお茶のお礼を述べて去っていきました。
一応わかるようにしたつもりですが、上から順に大淀・明石・神通・曙・榛名の視点となります。
また、視察は提督と共に一通り重要な箇所は回っているため、大淀と明石には一度面会しています。