僕の艦隊これくしょん ~提督になれば艦娘とイチャラブできると思っていた~   作:荒井うみウシ

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摩耶さんと羽黒さんと夜食_裏

side:摩耶

 

視察とやらが終わり、目に見えて鎮守府の空気が和らいだ。

こういうとき、改めて鎮守府(ここ)は提督が中心になっていると感じる。

彼がピリピリと張り詰めれば皆ピリピリとするし、彼の気が緩まれば皆ゆとりをもつ。

 

故に彼はだらけるフリをしようとするし、それを咎める艦娘たちも居る。

気が緩みすぎることに危惧を感じてのことも1,2割はあるだろうが、大半は彼自身がだらけたフリのまま過労に陥ることを危惧してのことだ。

 

だからこそ一見だらけることを咎める側にもかかわらず、本当に彼が疲れてだらけたいときには面倒を見たがる艦娘が多い。

咎める(だらけさせない)筆頭の叢雲や霞が世話係(だらけさせたがり)の筆頭も務めるのはもはやギャグだろう。

 

意外かも知れないが、純粋にだらけていることを咎めるのは川内や那珂である。

とはいえ彼女らも休むなというわけでなく、さっさとやることを終らせて早目に休みを取れ、だらだらと仕事をするべきではないという考えのようだが。

ちなみに神通は咎めない。話を聞いてみるとどうも提督は神通の前ではあまりだらけた姿を見せないからとのことだが、あの娘はなにやら提督を神格視している節があるため、どこまで本当かは不明だ。

 

では重巡組(アタシら)はどうかというと…

 

「やっぱり瑞鶴さんみたいにゲームに誘うのが良いのではないでしょうか?」

 

「誘うったってアタシはゲームなんて全然知らないんだけど。羽黒は?」

 

そもそも会話すらあまり出来ていないのが現状だ。

 

「私もわからないです…」

 

「でもって知らないのにいきなりゲーム教えろってやれるキャラでもないしなー」

 

故に少しでも何か話題を作れないか羽黒と相談中である。

 

「やっぱり瑞鶴さんにお願いして、次回は私たちも交ぜてもらう方針が無難ではありませんか?」

 

「それが無難だけどできるかな?二人用のゲームをやってたって話だし」

 

以前瑞鶴が提督とゲームをして親密になったと話していた。

どうにも提督はゲームの類が好きらしく、それをキッカケに盛り上がったそうだ。

なぜゲームが好きな事を知っていたのか尋ねると榛名情報とのこと。

本当に榛名とはどれほどの仲だったのか気になる…

 

「ではその辺りも含めて瑞鶴さんに相談しましょうか」

 

「結局他人頼りか。自力じゃだめだからしょうがないのだけど、やっぱり不満は感じるな」

 

どうにもアタシたちだけでは提督に近づくのは難しい。

時間をかけるしかないと思っていたが、急遽現れた瑞鶴や北上とはすぐに打ち解けていた。

元々知り合いだったらしい榛名はまぁ別としても、時間をかければどうにかできるものではないと判断すべきだろう。

 

「ま、アタシの不満はこの際置いておいて、今日はこの辺にしておこうか」

 

なんだかんだ話し込んで深夜に差しかかろうとしている時刻だ。

 

「そうですね。あ、寝る前に少し飲み物をいただきに行っても良いでしょうか?」

 

「ならアタシも一緒に行くよ。何かつまめるもの軽くつまみたくなったし」

 

一応消灯時間は過ぎているが、この程度のことなら川内も提督もいちいち問わない。

駆逐あたりだと少し厳し目に見るらしいが、それでも翌日業務に差し支えないレベルであればほぼ不問とのこと。

 

不規則になりがちなアタシたちの生活リズムを規則正しくして体調管理を心がけましょうというのが本意だからだ。

 

 

―・―・―・―・―・―

 

二人で食堂へ向かうと、そこから光が漏れていた。

 

「だれか先客が居るみたいですね」

 

光だけでなく、戸棚を開け閉めする音なども聞こえるため、消し忘れなどではないだろう。

 

「珍しいな。ちょっと覗いてから判断しよう」

 

一応消灯時間は過ぎているのだから堂々とするのは間違いだろう。

静かに気配を消して覗き込むと、そこには提督が居た。

これは本当に珍しい。特に最近は執務室に引きこもっていたのに。

頭を低くしたまま戻り、羽黒に話す。

 

「中にいるのは提督みたい。どうする?」

 

「ど、どうしましょう?」

 

形骸化しているとはいえ規則を破っているわけだから、堂々としすぎるのはダメだろう。

とはいえ提督自身も破っているわけだからそう縮こまる必要は…

 

「ラーメン作るんだが、味噌でいいか?摩耶さん」

 

「ッ!?」

 

バレた!?

だが自分だけならまだどうにでもなる。

羽黒に急いで目配せをして逃げるように指示を出す。

フルフルと頭を振り拒絶する羽黒。

駄々をこねるな!アタシが注意を引くからその間に行け!

 

「どうしてアタシだと分かった?」

 

「そんな空気を感じたからだ。で、こちらの質問の回答は?」

 

…意外と気配を感じ取る力があるのかもしれない。

だが、提督の質問ってなんだっけ?

あぁ、何を食べるかだっけ?

顔だけ出して提督を伺いつつ、手で羽黒に立ち去るよう指示を出す。

 

「…提督と同じで」

 

「じゃ、味噌な」

 

味噌…あ、ラーメンか。

なんていうか夜食にしてはある意味はずれだな…

いや、提督が作ってくれるという意味ではあたりなのだが。

 

提督は時折食事を作ってくれることがある。

その中でもラーメンのときが一番多い。

むしろラーメンは他の娘が作ることが無いため、食事予定の欄にラーメンと書かれているときは確実に提督が作ってくれるときなのだ。

だから多くの艦娘はラーメンの日を楽しみにしている。

無論アタシも楽しみにしているのだが…

今回のように提督は唐突に料理をするときがある。

そういう場合はこちらの要望を聞いてくれたり、珍しい料理がでてくることが多いのだ。

だから普段待っていれば食べられるお手製ラーメンがこういう突発時に出てくるのはすごく微妙な気持ちになる。

いや、提督の料理なのだから良いのだが、どうせならやっぱり特別感を感じたいというか…

 

「で、ラーメンは僕と摩耶さんの分、2人前だけで良いのかな?ん?」

 

長考していたら提督から声を掛けられた。

そう、これは羽黒に気付いているな…

気付いた上で気付かないフリをしても良いがどうするかという質問をしているのだ。

大人しく二人で見つかっておくか。

 

「…私は、その、私も同じので…」

 

すごすごと羽黒が出てきた。

アタシも立ち上がり食堂に入る。

 

「りょーかい。具材のほうの要望は?無いならこっちの勝手にするけど」

 

ラーメンに入れる具材…特にこだわりがあるわけでもないし、どうせなら提督と一緒のものを食べるか。

 

「提督のと一緒で。羽黒もいいよな?」

 

羽黒はまだまだ提督の前だと緊張してしまうので、助け舟を出す。

 

「は、はい」

 

「んじゃ、ちょいと待っててな」

 

あまり台所に立つ回数は多くないのに意外と手馴れた様子で調理を続ける提督。

今も綺麗に卵を割っているし。

アタシがやると殻を割った時点で黄身まで割れるんだよなぁ…

で、提督は卵を入れた器にラップをして電子レンジへ…電子レンジ!?

 

「提督、電子レンジに卵はだめだろ」

 

つい突っ込みを入れてしまう。

卵を電子レンジで温めると爆発してしまう。

 

「うん、マネしないようにね」

 

いや、マネしないようにじゃないだろ!

だけど提督が考えなしに行動するわけないし…

 

「いや、マネとかじゃなくて…大丈夫なんだよな?」

 

「軽く爆発はするかも知れないけど、ラップを破るほどじゃないからね」

 

やはり何か考えがあったようだ。

 

「提督がそういうならいいんだけどよ…」

 

「他の娘にも内緒だよ?羽黒さんもいい?」

 

内緒って…

たまによくわからない。

 

「へぁっ、は、はぃ」

 

その後黙々と調理を続ける提督。

やはり重圧から開放された所為か動きも軽やかで楽しげに見える。

羽黒と二人で見惚れているといつの間にか出来上がったラーメンがこちらに差し出されていた。

 

「ほい、できたよ」

 

ほくほくと湯気をあげるそれはとてもおいしそうだった。

 

「サンキュー。美味そうだな」

 

「ありがとうございます、司令官さん」

 

礼を言い、自分の分を持って席に移動する。

羽黒と二人並び座ったところ、提督は対面に座った。

 

「さて、食べようか」

 

いただきますと小さく声をだし、少しだけ手を合わせてから食べ始める。

なぜだろうか、普段よりもとてもおいしい気がする。

無言で羽黒と見合わせる。羽黒も同じように思ったようだ。

提督と一緒に、提督の傍で、提督の料理を食べる。

うん、これほど大きな幸せは無いだろう。

ゆっくりと、しっかりとそれをかみ締める。

ああ、こんな時間がずっと続けば良いのに…

 

だけど、そうも行かない。

なぜならば彼はここを離れてしまうからだ。

 

「なぁ、提督。近々横須賀に行くんだよな?」

 

今になって撤回されることなど無いのは分かりきっている。

希望を持つこともできない。

だけどつい尋ねてしまう。

 

傍にいられないのはちょっとだけだよな?

 

「近々と言っても年明け以降、1ヶ月先のことだけどね」

 

ひと月なんて提督と居ればあっという間だ。

たったそれだけの日数でどれだけ彼と触れ合えるというのだろうか。

 

彼は忙しく働いている。

それを邪魔してまで構ってもらおうとは思わない。

本当はすこしだけ思うけど、理性で押さえる。

だから昼食か報告か、そのぐらいしか顔を合わせることもできない。

本当にいつ仕事以外のことをしているのか不思議に思えるほど働き続けている。

秘書艦がフォローしているが、アタシたち大型艦は一種の切り札であるため、秘書艦をやれない。

在籍数が増えるのを待ち望むしかないのだ。

それにここ最近はなにやらよくわからない訓練も指示されているし…

そもそも横須賀に行くゆとりなんてあるのだろうか?

 

「あとひと月しかないんだろ?色々あったけど大丈夫なのか?」

 

「表向きは勉強しにいくわけだけど、実質はただの打ち合わせだからね。それにここと横須賀なら数時間で移動できる。確かにちょっと留守中の段取りは遅れてるけど叢雲さん達なら大丈夫だろうし」

 

まただ。

また()()だ。

初期艦だからか提督は叢雲を重宝する。悪ふざけもよく彼女に行う姿が見られる。

確かにあの凜とした佇まいに煌く銀髪など魅力ある娘だ。

事務作業の面でも非常にうまくこなし、駆逐艦たちを纏め上げるリーダーシップや頭のよさもある。

…クソが、考えれば考えるほどアタシに勝ち目が無いのが分かる。

ガサツで力任せ。確かに戦場ではより活躍できるだろう。

だがそれも重巡だから駆逐に上回っている分も多い。

そりゃあっちのほうに気が行くのも当然だな…

 

「?叢雲さんに何か気になることでも?」

 

アタシの態度が引っかかったのだろう提督が声をかけてくれる。

このまま叢雲なんかよりアタシを見てくれと言えるのならどれだけ楽か。

 

「別に。叢雲は提督にとって特別なんだな」

 

何でもないと言い繕うことすら出来ない。

つい嫌味のように言ってしまう。

こんなだからダメなのだろう。

 

「僕の艦娘で特別じゃない娘はいないよ」

 

ただの慰めであることはわかる。

それでも、うれしく思ってしまう自分も居て、気が滅入る。

 

「あの…私も司令官さんにとって特別ですか?」

 

珍しく、本当に珍しく羽黒が話す。

羽黒にも思うところがあるのだろう。

 

「もちろん。だって、僕の艦娘だよ?それだけで十分特別で、大事さ」

 

その台詞はとても優しく、残酷であった。

ただ自分の部下だから特別であると。

いや、ただ自分の部下であるということしか彼は言っていないのである。

誰でも部下であれば特別、部下であることが特別ということ。

特別だといってくれることはとても優しい、が、これはとても残酷に感じる。

 

「そう…ですか…」

 

羽黒も同じことを感じたのだろう。

こぼれた言葉に覇気はなかった。

 

間。

 

ほんの一瞬にすぎないはずのそれが酷く長く感じた。

アタシらの何がダメだったのだろうか…

叢雲達とどこで差が出来たのだろうか…

 

「正直まだ君ら重巡をうまく扱えていないのも実感している」

 

提督が口を開く。

真剣ながら少し自嘲を含んだ顔で言う。

まるで…

 

「だから君らにはしばらくもどかしさを感じさせてしまうけど、その分できる範囲であれば融通はきかせるつもりもある」

 

まるで何かを諦めているような、痛みを感じているはずなのに、それに慣れきった様な顔…

 

「だから要望があれば言ってほしいな」

 

正直ズルイ。色々思ってしまうのに、今はそんな顔をさせたくないという思いだけになってしまうのだから。

どうすればいい?

どうすればそんな顔をさせないですむ?

 

わからない。あたしにはわからない。

だからといって留まり続けるわけにもいかない。

 

だからせめてできることを。

 

「…じゃあ今度は甘味でも用意しろ。提督が作るやつな」

 

そう。彼のやり口。

あたしたちを和ませるために素っ頓狂な冗談を言う。

彼が甘味を作ったことなど無いのに、作れとおちゃらける。

 

「あまり本格的なものは期待しないでくださいね」

 

よかった。いつもの彼だ。

厳つい顔つきに似合わない茶目っ気のある喋り方。

しかも本格的なものという言い方からして意外にも甘味も作れるようで驚きだ。

 

「わ、わたしもご一緒して良いですか?」

 

羽黒もこの流れを押したいのか話に参加する。

 

「当然。できるよな提督?」

 

少し困ったようなうれしそうな顔。

本当によかった。こういう顔を見ていたいんだ。

 

「時期はこちらに決めさせてください。用意もありますので…」

 

彼は守れない約束はしない。

本当にいつになるかは予想できないが、いつかは必ず用意してくれる。

その日を羽黒と二人で楽しみにしていよう。

 




好きな人が作ってくれる料理ってそれだけで美味しいですよね。
それが自分のためにと特別にしてくれるなら特に。

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