僕の艦隊これくしょん ~提督になれば艦娘とイチャラブできると思っていた~   作:荒井うみウシ

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今話で提督視点の話と時間が同期します。




赤城さんと鍛錬_裏2

私のわがままにより、提督に行射を見ていただけることになった。

 

すこし気高ぶっているのを自覚する。

普段通りに。良い結果を見せてほめていただけたら、という欲はもちろんある。

でもそれを野放しにはしない。今行うのは精神を御するためのものなのだから。

 

 

 

足踏み(立ち)

 

胴造り(弓を手に)

 

弓構え(矢を持ち)

 

打起し(構え)

 

引分け(徐々に弦を引き)

 

()

 

離れ(矢を放ち)

 

残心(見届ける)

 

基本に忠実に。8つに分かれながらもつながった動作を行う。

 

矢は正鵠(的の中心)に刺さっている。

 

提督はどうしているだろうか?

いや、今は彼ではなく弓道(こちら)に集中しなければ。

 

もう一度射法を丁寧に繰り返す。

 

一射目とほぼ同じ箇所に(あた)る。

 

提督は静かに、ただただ見守っている。

 

三射目。

 

射った矢は右にずれる。

 

いけない。彼を気にしている。集中しなければ。

これで最後だ。しっかりと落ち着けば大丈夫。

 

そう自分に言い聞かせながら最後の矢を放つ。

 

 

 

 

 

 

残心を解き、一息つくと提督が口を開く。

 

「皆中・・・であっているんでしたっけ?さすがですね」

 

的には四本の矢が刺さっている。

すべて中っているのだから皆中である。

喜ぶべき事柄ではあるが、私の気は沈んでいた。

 

「お褒めの言葉、ありがとうございます。皆中であっていますが、まだ鍛錬が足りていませんね」

 

彼の方を向き答える。

いいところを見せようと欲を、雑念をもって矢を放ち、その上それが結果に反映されているのだ。

褒め言葉に酔いしれてはいられない。

 

提督は不思議そうな顔をしていたので説明をする。

 

「後の二射ですが、雑念が多く含まれていました。それでズレているんです」

 

的を見直した後、提督がたずねる。

 

「あれだけできていればいいと思ってしまうのは僕が素人だからですかね?」

 

的に残った結果だけを見れば良かったといっていいだろう。

だがそれで満足してはいけない。それは慢心につながるものだ。

 

「私がここで行っている鍛錬は精神を対象としたものです。自覚できるほどの雑念を抱き、その上それに影響を受けてしまった、という事実が未熟な証拠なんですよ」

 

上手くできているから、自分には実力があるのだから。

これに胡坐をかいた結果は悲惨だ。

 

どれだけ後悔をしてもそれを取り返すことはできない。

失った仲間は帰ってこないのだ。

 

「未熟な精神でありながら慢心をして、それで()()・・・」

「大丈夫ですよ」

 

ハッと提督を見る。

やさしく、おだやかな声であったが、同時に力強く、頼もしい声でもあった。

彼はただただこちらをしっかりと見つめてくる。

おちゃらけた様子はなく、真摯な姿に見惚れそうになる。

 

「今赤城さんはこうやって慢心しないようにしています。だから貴方のせいで仲間が危機に陥るなんてことは無いでしょう。

というか現状貴方がたは僕の指揮下です。なにかあったときは貴方たちではなく、僕の責任です。そのときは僕のせいだーって叱ってくれればそれでいいんですよ」

 

しっかりと私の目を見ながら伝えてくれる。

根を詰めすぎるのも良くないと伝えてくれる。

気負いすぎるなと伝えてくれる。

そしてなによりも、私は独りではないと伝えてくれる。

 

後半の普段通りな言い回しに反してその真剣なまなざしに、ただただ私は魅了されるばかりであった。

 

 

 

まったく、ここまで気を使わせてしまって申し訳がたたないですね。

それに、こんな(とても安らかな)気持ちにさせていただけた報いをせずにはいられなくなってしまうわ。

 

心の中でそうつぶやく。

 

「・・・。ではその際にはたっぷりとお説教させていただくので。えぇそれも霞さんや曙さん、叢雲さん以上にたっぷりと」

 

気持ちは十分に伝わったということと、ちょっとだけの茶目っ気で答える。

 

「それは勘弁願いたいので、そうならないようがんばりますよ」

 

手を振りながら大慌てで断る提督の姿が面白くて、つい笑ってしまう。

 

「ではまず慢心しないようにこちらをやってみますか?微力ながらお手伝いいたしますよ?」

 

洋弓を提督に教わるのであれば私でなくてもできてしまう。

でも和弓を提督に教えるのであれば少なくともしばらくは私だけしかできない。

そんな風な考えの元、小さなわがままをもう一度言う。

 

「いえいえ、すでに慢心しないよう見張る娘らがいるので、赤城さんにまでなってほしくないですよ」

 

見張る娘ら、ですか。

その娘らはきっと私よりも提督に近いのでしょう。

そうなれた娘らへのうらやましさと、自分はそうなれていない悲しさで落ち込んでしまいそうになる。

いや、まだ自分にもチャンスはあるはずだ。

そう鼓舞してこの空気を壊さないように言葉を紡ぐ。

 

「それは残念です。提督なら結構いい線いけると思うのですが」

 

それでも。

やっぱり二人きりで何かできるということへの魅力は捨てきれない。

逃した魚は大きかったのだ。

未練がましくまたわがままを言ってしまう。

 

「また、ここでご一緒してもよろしいでしょうか?」

 

するとへらへらと普段の調子で提督は答える。

 

「あまり多くの機会は取れませんけど、ご希望ならこれそうな時はまた赤城さんの鍛錬を見させてもらいますよ。といっても見るだけで助言も何もできませんがね」

 

どうにも私の行射をまたみてほしい、という意味で受け取っているようだ。

私としてはここでまた彼の弓を引く姿を見たり、二人きりで話をしたいということなのだが。

意味合いはちがうが、彼と二人の時間をとれるという目的は達成できるのなら些末なことだ。

 

「そういう意味ではないのですが。それでもかまいませんので、よろしくおねがいします」

 

頭を下げて礼を言う。

 

まったく、私を含めてどれだけの娘をこのような気持ちにするのだろうか?

この先提督の部下(艦娘)は増えていくだろう。きっとその娘らの内の多くもこうなっていくことは想像に難しくない。

 

先に出会えたということに慢心しないよう心がけなくてはいけないわ。

 

そう心密かに誓った。




作中ではまだ正規空母という枠どころか空母という枠でも赤城しかいないという状況です。

あと弓道は即席で調べた限りの内容なんであまりつっこまないでください。
ふいんき(なぜか変換できない)で読み取って下さい。

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