笛吹いてたら弟子に推薦された   作:へか帝

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白状しよう、出涸らしであると
ていうか前回弟子の名前書くの忘れてるやんけ!?
セレノアちゃんです。かわいがってあげてくだしあ



おうちにかえして

 どうしてこうなったと、俺は声を大にして叫びたい。この喧噪の中ならそう目立たないだろうし。

 迷惑だからしないけど。俺は分別のつくおっさんなのだ。

 

「本当は私のバディになってほしかったんですよ?」

 

 新大陸行きの船の中で、俺がやべぇ奴の疑いをかけている教え子セレノアが、いかにも諦めきれていないような声色で言う。

 ああそうとも断り切れなかったんだよ。聞けばセレノア一人の為に出航を遅らせていたとかでなぁなぁ連れ込まれた瞬間即船が出航してしまったっていうもののやつ。

 

 なんかセレノアは随分と期待されているようで、凄腕だったりするらしい。お前そんなにすごかったんか。いやしょっちゅう装備を変えてるくらいだから狩りに狩りまくってるとは思っていたけどさ。

 なんだかんだで教え子と一緒に狩りに行ったことはないからなぁ。身に着けている装備で推察することしかできん。

 そして困ったことに、その凄腕のハンターが師と慕う人物というレッテルが俺に貼られてしまったことだ。なにそれこわい。ハードルあがりゅぅぅぅぅ。

 

「編纂者ってのは情報管理のエキスパートだろ? 余所から破格の待遇で引き抜いてきてるって話じゃないか。笛吹きしか能のない俺にゃ務まらねぇよ」

「私はそうは思いませんが」

 

 セレノアが何言ってんだこいつみたいな顔でいいよる。編纂者って新大陸の情報とか植生とか記録したり、地形のスケッチとかとって地図作るんでしょ?無理無理。

 ギルドが勝手に俺を編纂者に仕立て上げたりしてなくてよかったよ。いやあり得ないことだとは思うけど。

 

「そもそもセレノアが俺を推薦したっていう何とかアドバイザーってのもよくわからん。こりゃあ一体どういう役職なんだ」

「特にないです」

 

 ん?

 

「今なんて言った?」

「私が"月の狩人"を呼ぶって言ったら、ギルドの偉い人が新しく役職をでっち上げてくれてですね」

 

 あ?

 

「月の狩人ってなに?」

「"月の狩人ゲールマン"。師の名はどこの街でも耳にしますよ。

 曰く、月を背負った腕利きのハンターがいる。金月の調べがクエストに絶対の成功を保証する。といった具合で」

「ナイスジョーク」

 

 月ってオルゲールの黄金の円盤のことですか。確かに見えないことも無い。

 でもさすがに誇張しすぎだと思いまーす。絶対名前負けするって。第一恥ずかしい。

 ていうか本当に俺のこと編纂者にでっち上げられてないよね?この一瞬でギルドに対する信用が地に落ちたんだが?

 

「本当のことですよ。師はパーティを組んでクエスト失敗したことないでしょう」

「それは、まあそうだが。パーティのクエスト成功率を押し上げるのが狩猟笛使いの務めだろう。そう珍しい話でもあるまい」

「それをできるのはあなただけですよ。新米ハンターならまだしも師ほどのハンター歴でその成功率は異様に過ぎる。そんなだから伝説になるんです。

 一時期、あなたと接点を持つために新人を装って指導を受けようとするハンターもいたんですから」

 

 大げさすぎわろす。俺はしがない笛吹きだぞ。

 モンスターの正面をキープして殴り続け、適時オルゲールを回す簡単なお仕事です。

 ていうかあの偽装新人どもそういうつもりだったのか。いや別に狩猟笛の人口が増えるならいいやと思って教えてたけど。

 オルゲール以外に武器を用意しない都合上、金が溜まっていく一方なんだが、どうにも使わないのに金をためるも気分が悪いってんで余りがちなゼニーで手ごろな笛を作っては新人どもに押し付けてたからな。

 

「かくいう私もその一人ですよ。狩猟笛使いに限らず、あなたに憧れるハンターはずっと多かった」

「狩猟笛使いに限らないのか」

「はい。全てのクエストにおいて、共に戦うパーティメンバーを必ず五体満足で帰してきたという実績は、やはり同業者として感じ入るものがあるのでしょう。ハンター稼業も命ありきですから」

「そういうものか」

「そういうものです」

 

 めちゃくちゃに褒めちぎってもらってるんだが、それほど凄いことをしている実感がない。

 俺はずっと笛を吹いていただけだ。

 それが大型モンスターターゲットを俺一人に集中させるためとか、体勢を崩したメンバーを逃がすためだったりとかその都度目的は違うけれど。

 ていうかそれはどうだっていいんだよ。そんなことより。

 

「上が役職をでっち上げたとも言ったな。あれはどういう意味だ」

「そのままの意味ですよ。今回の調査団はハンターを中心に構成されておりますが、既に推薦・志願枠ともに定員分集まっています。五期団のメンバーはみな殺到する応募の中から選び抜かれた実力者たち。通常では新たに枠を設けることはありません。

 

 ────ですが"月の狩人"となれば話は別。

 規則に囚われあなたを引き入れるチャンスを逃がすなど、まさしく愚の骨頂ですからね。上も多少の融通を利かせるというものです」

 

 セレノアがしたり顔で言う。なんだその言ってやった感溢れる顔は。

 というか久しぶりに会った教え子が俺のことを持ちあげすぎてなんだか怖い今日のこの頃。

 あとでお小遣いくださいとか新しい笛くださいとか言い出すんじゃなかろうか。

 あるいはなんか悪いことしたから今のうちにご機嫌取っておく作戦かもしれない。

 

「それに我々第五期調査団は、40年以上続く新大陸調査に終止符を打つことを期待されているのです。私がとどめで、師の存在はダメ押しの一撃といったところでしょうか」

「じゃあ俺いなくてもいいじゃないか」

「いいえ他のハンターのモチベーションに関わります。

 特に私」 

「帰っていいか?」

「できません」

 

 おい待て。ダメ、じゃなくてできませんってどういうことだ。

 俺の知ってる限りではセレノアはつまらない冗談を言うやつでもないし、嘘を吐かれたこともない。ないのだが、不思議とそのせいで今は嫌な予感がする

 

「……まさか本当に帰りの便がないってわけじゃあないんだろう」

「帰りの便は、ですね。その、ないことも無いです」

 

 セレノアが珍しく煮え切らない様子で答えた。普段がストレートかつ端的な物言いだけに余計気になる。たぶん今の俺の顔色は良くない。

 

「ないことも無いってなんだ」

「新大陸近辺の海は非常に不安定なんです。ですので現にほら、通常では船が出せないほど荒れた海を無茶に渡っているのがその証拠でして、船長が言うにはこれでも最高のコンディションだ、っとと」

 

 セレノアが言いながら体勢を崩す。元より安定とは程遠かったが、ここにきて揺れが強くなってきた。どうやら海面の調子がさらに悪くなって来ているらしい。

 テーブルに手をついて体を支えつつ、加えて尋ねる

 

「これで最高のコンディションたぁ、酷いもんだな。

 で、結局のところよ。ここの海はどれくらいの周期で安定するんだ?」

「ぁー……。原則、古龍渡りの時期と一致するそうですよ?」

 

 

 

 船が揺れる。

 俺はセレノアをじっと見た。

 

 

「なあセレノア。古龍渡りの周期はおおよそ十年。そうだな?」

 

 セレノアは目をそらした。

 

 

「……そして今がまさに古龍渡りの時期なんだろ。調査団は古龍渡りに合わせて派遣されるって言ったのはお前だもんな」

 

 

 船がまた、揺れる。

 俺はセレノアから目を離さない。

 

「ってことはだ。次に帰りの便が出せるほど海が安定するのは、十年後。そう言いたいんだな?」

 

 

 船がひと際強く揺れる。

 セレノアは冷や汗をかいている。

 

「わ、私たちが古龍渡りの調査を完遂すれば安定するかも。きっと。たぶん。おそらく」

「根拠は?」

「ないです!」

「何か言い残すことは?」

 

 

 

 

 

 

 

 船が、転覆した。

 

 

 

 

「不束者ですが向こう十年よろしくお願いしますぅーーーっ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 




いかにもクールですみたいな雰囲気してるのにおちゃめな子すき。
ところで皆が必死に環境や道具を駆使してモンスターと戦ってる中、真っ向から笛一本で渡り合って笛吹くような変態がいるそうです。一体どこのどいつだ。

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