笛吹いてたら弟子に推薦された   作:へか帝

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新生活とお引越しで多忙なんじゃ。やっとネットにつながったんじゃ。
とりあえず時間を見つけて書き上げたものなので推敲不足でも多めにみて
さて、ここでは狩猟笛始めました が挨拶だ。
わかったな? よし通れ


恋するドラゴン

 半ばから朽ちるように崩れた石の壁、そこかしこに横たわる折れた支柱。砕け剥がれた石床。そして虫の声さえも聞こえぬほどの不気味な静寂。どこを見ても一目でここが無人の廃墟、それも大規模な廃城であると分かる。

 更に鉄柵の重厚な城門や見上げるほど高い城壁、各所に備えられた大砲とバリスタ、そして極めつけの撃龍槍まで目を向ければここが対モンスターを想定した空間であるのも分かる。尤も、この有様からして撃退には及ばなかったようだが。

 

 撃龍槍の起動台には仄かに輝く白のドレスに身を包んだ妙齢の女性が腰かけていた。重苦しい雰囲気の廃城とかけ離れたその姿は、しかしそれこそが彼女の美しさを一層際立たせていた。

 ぼんやりと空を眺める彼女は、所在のない両足をばたばたとふらつかせながら何かを考えているようだ。

 

「うーん。今回はちょっと遠いかな」

「遠い? 一体何がです」

 

 彼女がぽつりと呟くと、黒衣の少女が城の奥から現れた。その姿は埃を被り足元には煤や灰が纏わりついている。つい先ほどまで城内で何かをしていたようだ。彼女の衣服の惨状から、この城塞の末路が窺える。

 この城塞が既に対峙した何らかの存在に敗れたのは明らかだが、彼女に積もった煤や灰からして更にその後余すところ無くこの城は焼き尽くされたらしい。以来人の手は一切入らず、建物の内部に至るまで放置され続けているようだ。城内は埃まみれとみて間違いないだろう。

 

「彼の居場所。装いを新たにしたから、見てもらいたくって。彼のために魅力的な女性の姿を調査したのよ、言葉遣いだって勉強したんだから。気に入ってくれるといいんだけど」

「……古き王よ。いたずらに人化するのはおやめください。それに突然容姿を変えてしまうと、彼に気づいてもらえないかもしれませんよ」

 

 体に降り積もった埃をぱたぱたと払いながら、黒衣の少女が不躾に言う。それは不安をあおる言葉であったが、白い女性に動揺は無く、余裕を崩さずにゆったりとそちらへ視線を向けた。そこにあるのは一種の信頼であろうか。

 

「いいえ、臆病で抜け目のない人ですもの。きっとわかってくれるわ。もし気づかれなくたって、私はそれくらい楽しんで見せるわ。ひょっとして彼の新しい一面が見られるんじゃないかしら。

 ……でももし。もし本当に気づいてもらえなかったら、やっぱり少し寂しいかな」

 

 か細く庇護心を煽るような微笑みはさながら深窓の令嬢のよう。泡沫のような儚さの内に強かな熱を伴うそれは、ともすれば国を傾けんばかりの魔性の笑みであった。直視すれば魅了されること請け合い、彼女がである。幸いにもこの場に心奪われた哀れな犠牲者はいなかった。

 

「というか、人化を控えろって言ってるあなた自身が人化してるじゃない。それじゃあ納得がいかないわ」

「これは閨の清掃の為です。あれらは我々にとっては有象無象ですが、彼にとっては同胞の亡骸。彼を招くにあたって失礼があっては申し訳が立ちませんから」

 

 黒衣の少女が城の奥から引きずり出したのは、真っ黒に焦げた炭のような物体であった。かすかに人型の面影が見えるそれは、この城とともに焼かれたかつての兵士であろうか。見れば城内に続く廊下には鉛筆で線を引いたように黒いすすの道が伸びていた。

 

「やだ、まだ片付けてなかった? 面倒だけどどこかにまとめて影も残さず処分しないと」 

「いやはや、数ばかり多くて敵いません。建物を破壊すれば手っ取り早いんですけど」

「だめよ、彼に瓦礫だらけのみっともないところは見せられないわ。私もあとで手伝うから丁寧にやりましょう」

「承知していますよ。取りこぼしを彼が見つけたら怯えて逃げてしまいます」

「そう? 彼なら案外逃げも怯えもしないんじゃないかしら」

「それでも、礼は尽くすべきです」

「なら彼のために人化の練習をするのも礼を尽くすうちに入るわね」

「む」

 

 してやったり、と言わんばかりに白い女性が笑みを浮かべた。黒衣の少女はすぐさま反論が浮かばず、渋い顔をしている。

 

「遊びでこの姿になっている訳じゃないのよ。あの古い巫女の似姿と違ってこの姿は慣れてないから、長くはもたないの」

「それはまぁ、わかりますが」

「あなたも練習する口実ができていいじゃない。訪ねた先で彼と一緒に居られる時間が延びるわ」

 

 白いドレスの女性が楽しそうにニコニコと笑っており、黒衣の少女はばつが悪そうにたじろいだ。

 

「人間は寿命が短いんだから、私たちが足踏みしてちゃだめよ。彼がここに来てくれるのも当分先だけど、それは備えを怠る理由にはならないもの」

「……なぜ彼がすぐに来ないと分かるのですか。先ほども遠いとおっしゃっていましたが、彼の持つ片鱗は今どちらに?」

「海の向こう」

 

 

「え?」

 

 

 

 

 

 

 

「あんたがゲールマンだな。あんたの名は伝え聞いてる。いつか顔を合わせて話をしたいと思ってたんだ」

「おう。しばらく俺の弟子が世話になるだろう。俺からもよろしく頼むぜ」

 

 俺は熱気のこもったドーム状の工房施設の中、ベルトコンベアを間に挟んでゴリゴリの鉄人のような大男、二期団の親方と話していた。その隻眼は、何十年も赤熱した金属をじっと見続け金槌を振るい続けた熟練の加工屋の共通点。彼が鍛冶をする姿はまだ見たことがないが、それでも彼の実力を疑う余地はなかった。大自然がそのまま残るこの新大陸に拠点アステラを築くため尽力した彼は既に第一線を退き、後進の育成に力を注いでいるようだ。

 

「会えて光栄だぜ。狩猟笛使いを歓迎しない職人はいねぇからな」

「そりゃ初耳だな。どういうこった」

 

 まったく繋がりが見えん。素行がいいとかそういうのか。

 

「俺たち加工屋はよ、ただ鉄を叩いて延ばせばいいってもんでもねぇ。そこにモンスターの素材をうまいこと組み合わせていかなくちゃならん。それはモンスターの牙だったり内臓器官だったり色々だが、どれも一筋縄じゃいかねぇ。だから俺たちは夜な夜な特性を研究してる」

 

 確かにそうだ。どんな形であれ生き物の一部を激しい狩りの中でさえ壊れないように組み合わせるのが容易なはずがない。俺たちハンターには知る由もない高度な技術が幾重にも積み重なってできているのだろう。

 

「だが寝る間も惜しんで見つけ出した素材の特色が武器に活かせるとは限らねぇのが現実だ。無理に組み込んで使いにくくなったら元も子もねぇからな。

 そこで狩猟笛なのさ。ゲールマン、あんたの興した狩猟笛ってのはイレギュラーだ。なにせ武器であることと楽器であることを両立させなくちゃならねぇんだ。こんな妙なもんは他にねぇ」

 

 おうおう狩猟笛のこと妙なもんっていうなや事実だから反論できないけど! ナンバーワンよりオンリーワン。どうも狩猟笛です。

 

「すると使い道のなかった素材の特性が活きてくる。強度を保ったまま音を出すってんだ、否が応でも必要になる。せっせと蓄え残してきたものが実るのさ。

 言っちまえば狩猟笛ってのは俺ら職人の腕試しなのよ。単純な技術力は当然欠かせないがそんで良いもん作ろうとすれば素材への造詣の深さが物をいう。同じ狩猟笛っちゅうカテゴリでも、新たに狩猟笛を作ろうとすればノウハウの流用はほとんど利かねぇ。加工そのものが挑戦の連続。だから腕利きの職人ほど狩猟笛の加工に飛びつくし、見習いは上達せんと食らいつく」

 

 はえー。そういえばオルゲール使うまでは確かに世話になってた加工屋さんの眼ギラギラしとったな……。

 

「俺がまだ向こうに居た頃にゃ狩猟笛使いが名を上げたら職人仲間に"あの笛を作ったのは俺だ"って自慢すんのが流行ったもんよ。五期団もいい時期に来てくれた。あんたのお陰で狩猟笛を使ってる奴が多いんでな、当分は退屈しないで済みそうだ。新入りどもにもいい刺激になるだろう」

「今回の連中はとびっきりだぜ。俺の手には余る。掛け値なしの凄腕だ、期待してくれや」

「導いたのはあんただろ? 名高きゲールマン直系の弟子だ、大仕事を期待してるぜ」

「よせ、誰が導いたって同じさ」

「あんたをおいて他の誰が笛を教えられる? あんたに掛かれば道端の石だって宝玉に変えられる」

「偶然目についたのがたまたま原石だっただけのこと。それに最近はいつ引退するか、そればかり考えてる」

「辞めるって、ハンターか、それとも助言者をか?」

「どっちもだよ。少し疲れた」

「まああんたの勝手だけどよ。ならいつ辞めるか目処はついてるのか? 当分帰りの船は出ないって話だぜ」

 

 ああ、知っているとも。セレノアに一杯食わされちまった。弟子入りのために新人を装ったりする程度には狡猾な女だ。ちゃっかりしてやがる。

 俺だっていい加減観念したさ。それにここも案外居心地が悪くない。向こうに帰ったらまた面倒なしがらみがありそうだしな。でも。

 

 

「辞めるのは晴れた日って決めてる。

 ──明日は雨らしい」

 

 

 




白いほうはのびのびとした自由人であってほしいし、黒いほうはそんな白いのに翻弄されていてほしい。需要があるからではなく、供給がないから書く。二次創作ってそんなもん
だって老ハンター(狩猟笛)が弟子と古龍に言い寄られてあたふたする話見たいじゃん?


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