何気ない日常が、彼女たちの一番大切な時間。

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即興二次で書いたけど、向こうで流されていくのはなんか癪だったので名前が残るこっちに置くことにしました。


はみ出し芸術家

 カリカリ、カリカリ。

 鉛筆が紙面を走る小気味いい音が響く静かな教室で、今日も二人の少女が芸術活動に励んでいた。冬の日が早々に落ちようとしている黄昏時、窓から入る赤い光が、一人の少女のキャンパスを照らした。

 原稿用紙に漫画を書いていた少女――御園かりんが顔を上げると、ちょうどそのキャンパスが目に移った。

 暗い配色、まるでまとまりの見えない、絵画の素人であるかりんには何を描いているかすらわからないその絵。しかし、その作者である少女――アリナ・グレイは、高校生にして数多くの芸術賞を受賞している新進気鋭の芸術家である。教室の端で趣味の漫画を描く程度のかりんには、到底想像のできない世界を描いているのだなあ、という感想しか、かりんは持ち合わせることができなかった。

 

「アリナ先輩。それは、なんなの?」

 

 なんとなく、かりんが口を開く。アリナはそれで初めてかりんの存在に気付いたように、うざったそうな目で後ろを振り向いた。

 

「あー……集中が途切れた。帰る」

 

 アリナはそれだけ言うと、テキパキと自分の荷物を鞄に詰め始めた。集中しているアリナに声をかけたことをちょっと後悔しつつ、かりんは席から立ち上がって、アリナのキャンパスの前に立った。夕日に照らされたその絵からは、かりんは底知れぬ何かを感じて、そしてこう形容した。

 

「……地獄、みたいなの」

「ヘル……まあ、間違ってはないヨネ。あんまり詳しい話をしても、フールガールには分からないだろうケド」

 

 一通り片づけを終えたアリナは、かりんの隣に立ってそう言った。「フールガール」ことかりんは、しげしげと未完成の地獄を眺めて、そして少し唸った。

 

「うーん……よく分からないの……」

 

 後ろで紙が擦れる音が聞こえて、かりんは後ろを振り向いた。いつの間にか後ろにいたアリナが、かりんが描いていた漫画の原稿用紙を持っていた。アリナはしばらくその漫画を眺めて、そして興味もなさそうに机の上に無造作に戻した。

 

「こっちは相変わらず、漫画未満のゴミだヨネ。少しはグロウしてるかと思ったケド」

 

 アリナはかりんに辛辣だ。それは今に始まったことではない。レベルの差がありすぎることはかりんも理解しているし、妥協を許さないのがアリナの信念である事もよく分かっている。しかしもう少し口を優しくしてもいいんじゃないか、とも思っていたりもする。

 

「うう……それはまだ未完成なの。発展途上なの!」

 

 かりんなりの弁解も、すでに興味を失ったアリナには届かない。「それじゃ」と部屋を出て行ったアリナに取り残されて、かりんは一人ぼっちになった。

 かりんは一人で改めて、アリナの描いた絵を見る。それは本当に何か分からない。けれど、そこから力強い何かを語りかけているようで、その絵に圧倒される。いまだ未完成であるものの、既にそれにはアリナ・グレイという芸術家の魂のようなものがあるような気がした。誰にも見られないように、かりんはそっと、保護布をかけた。

 世界に名を轟かす新人芸術家、アリナ・グレイの描きかけの絵。かりんはいつも一緒の教室で、それを見てきた。一応芸術家の端くれとしても、一人の後輩としても、かりんはそれが何よりも好きだった。こうして一人で未完成の絵を見るときはいつも、尊敬する先輩の、誰も見ることのできない一面を独占しているような気がした。かりんはそれが、何よりも嬉しかった。

 

「……さ、わたしもそろそろ帰るの。マジカルきりんの最新刊が待ってるの!」

 

 かりんはささっと後片付けを済ませて、学校を後にする。大好きな先輩と別れて、大好きな漫画と、大好きな祖母の待つ家に帰れる自分はなんて幸せなんだろう。かりんはそんな風に考えて、日の落ちた帰り道を歩いていった。


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