デスゲームでオワタ式を強制されたのでゾンビプレイします   作:にゃー

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オワタ式デスゲームとかなんの冗談だよ

 あなた達は人間の耐久力の限界と聞いて何を思い浮かべるだろうか?

 頭大のコンクリートブロックに直撃すること、地上数メートルから無抵抗で落下すること、人間の耐久力を超え、それを死に至らしめる方法は山ほどある。

 

 だが、俺はこう答えるだろう。

 

 化け物(敵性エネミー)の攻撃を受けること。

 

 今、俺がいる世界は所謂仮想世界。

 ただし、物語でよくあるデスゲームが行われている仮想世界だ。

 

 デスゲームの形式はわかりやすくロールプレイングゲーム。

 スタート地点から数多のダンジョンを攻略し、ゴール地点のラスボスを撃破することが目標である。

 

 そして、ロールプレイングゲームの常識に漏れず、レベルアップ、ステータスアップの概念がある。

 

 ステータスアップの方法はキャラクターごとに決められた最大値を最大レベルで割ってその数値ずつ上がるものではなく、レベルアップごとに貰えるポイントを任意のステータスに振り分ける方式だ。

 

 まあ、その振り分けられるステータスは筋力と敏捷しかないのだが。

 HPはレベルアップでの上昇の他、筋力に振ることでも多く上昇する。

 敏捷の1.2倍程度らしいが。

 

 その代わり敏捷は非公開ステータスのスタミナの回復速度が上がると言われている。

 

 防御力は防具での補強の他、防御力を上げるスキルを取得することで向上する。

 

 なぜ、俺がこんな話をしているかといえば、デスゲーム初日、こんなふざけた世界を作り上げた男の宣言とともにスキルスロットに強制的に嵌められたスキルに原因がある。

 

 そのスキルの名前は【成長の代償】

 

 スキルの効果は振り分けたステータスに対するポイントあたりの効率が五倍になるというもの。

 ふざけたスキルであり、ここまでならばデスゲームで生き残るのにこれほどのものはないと言いきれるものであっただろう。

 

 だが、スキル名の通り、代償が付いている。

 それは、HP上昇率0%というものだ。

 

 つまり、レベルアップ、ステータス振り分け、恐らくはスキルでの固定値上昇やバフなどの上昇も打ち消されるだろう。

 もう一度いうが、このゲームはデスゲームである。

 ここでの死が現実での死に直結する。

 今いる街の付近の敵ならばクリティカルでスタンしたところにスタン補正で倍増された攻撃を4、5回受けてもHPは全損しないだろうが、進んでいくにつれ敵の攻撃力は増し、防具やスキルで防御力を高くしたところで貫通してくるダメージは初期HPを軽々と上回るようになる。

 

 ベータ時代のトップタンクの俺が言うんだ。間違いない。

 

 これはべータ時代には『ゴミスキル』『スキルスロットの無駄』『死偽装(死んだフリ)の方がマシ』と言われたスキルを取らざるを得ない。

 

 ちなみに、この世界で死んだ場合、ポリゴン片となってリスポーン地点に戻されていたのだが、【死偽装】は高度な死体の振りをシステムが勝手にやってくれるだけのスキルである。

 

 そんなスキルより劣ると言われたスキルの名は、【食いしばり】

 名前からしてなんとなく分かるだろうが、体力が全損する場合、固定値残して耐えるというものである。

 固定値はスキルの熟練度とイコールで最大1000である。

 ベータ時代のトッププレイヤーの武器スキルが最高で300程であり、そのHPは軽く数千を超えていたのでいくら熟練度が高くなったところで焼け石に水であった。

 

 さらに、【食いしばり】がクソだと言われる理由があり、それはHP90%以上から一撃で全損するダメージを受けた場合に発動するというものである。

 自分のレベルに見合った攻略をして、防具もしっかり更新しているならばHPが90%以上も削られることはほとんどない。

 というか、ボスの強攻撃でも単発ならば6割行くか行かないかと言ったところだ。

 連撃ならば10割コンボもあったのだが、連撃には【食いしばり】は発動しない。

 故にゴミスキルと言われていたのである。

 

 ただ、食いしばりを取得するのは暫くあとにありそうだ。

 理由としては【成長の代償】が強制的にスロットを埋めてしまったために、使えるスロットがひとつしかないからである。

 初期スロットは二つ。レベルアップしていくとひとつ増える。十上がるごとにひとつずつである。

 つまり、レベルが十になるまではクソザコナメクジなHPでなんの保険もなく戦わなくてはいけないのである。

 

 ちなみに、レベル十の適性の敵は、朧気な記憶だがタンクとして防御を固めていた俺のガードの上から初期HPの八割近いダメージを与えてきていた気がする。

 

 つまり、今回は【成長の代償】とかいうクソスキルのせいで実質的に敏捷ファイターにならなければいけない俺の防御力では全損する可能性もあるということである。

 

 【成長の代償】のメリットとデメリットを思いつく限り上げていくと

 

 『メリット』

 ・ステータスがHP以外ものすごく高くなる

 ・【食いしばり】の熟練度が初期HPを超えれば毒などを除いて実質的に不死身となれる可能性がある。

 ・序盤も序盤最序盤では圧倒的な狩り効率をたたき出せる(攻撃を食らっても全損せず、高ステータスであるため)

 

 『デメリット』

 ・HPが増えない

 ・ほかのプレイヤーと比べて使えるスロットにハンデがある。

 ・筋力振りのメリットが減り、防御を固めてもワンパンされる可能性が高いので必然的に敏捷振りとなる。

 ・明らかに異常なスキルであるために必然的にソロプレイを強制される。

 ・【食いしばり】が成長するまではこの街の周辺以外ではワンパンされる可能性があるため気を張り続けなければならない。

 ・俺をワンパンできる敵が出てくるあたりからは狩り効率が大幅に落ちる。

 ・元トップタンカーである俺の経験が生かせない。

 

 これくらいだろうか。

 ベータ時代の俺はがっしり耐えて反撃するタイプであったため、敏捷プレイヤーとしての戦い方は見た感じでしか知らない。

 スキル構成はwikiでちらっと見たことがあるので覚えているが、最低限必須と言われていたスキルを取得するのも【成長の代償】と【食いしばり】で枠が埋まるため遅くなる。

 とりあえず、これからの行動方針はこの街の周辺で敏捷プレイヤーとしての戦い方を少しでも把握すること、レベルを上げて【食いしばり】を取得すること、【食いしばり】の熟練度を初期HPの200の9割の180に達成させること。これが俺の当面の目標である。

 その後は毒などのスリップダメージ対策となるスキルをとってからようやくまともに戦闘用のスキルを取得することが出来る。

 初期スロットは二つだから、武器スキルと【成長の代償】、【食いしばり】、スリップダメージ対策のスキルで四つ、つまりはレベル三十からようやくまともにスキルを選べるということか。

 なかなか辛いものがあるな。

 

 ちなみに、【食いしばり】の取得条件だが、こいつはベータ時代最も簡単に取得できるエクストラスキルと言われていて、何もしなくても気がついたら有効化できるようになっていた程である。

 その条件は10回HPが1になるというもの。

 ベータ時代はHPが1を通過して0になってもカウントされていたためダメージを受けて10回死ねば誰でも有効化できたのだが、この世界では違う。

 まずは10回臨死体験をしなければな……。

 

 ◇

 

 始まりの街付近の雑魚をチクチクと倒すこと一週間。

 ワンパンできるため倒した数こそ多かったが、経験値の量はお世辞にも多いとはいえず未だレベル六である。

 最初はオーソドックスな片手剣で戦っていたのだがなんかしっくり来ず、曲刀へ、それでもしっくり来なかったために短剣、細剣といたり、ようやく細剣で落ち着いたところだ。

 細剣はフェンシングに使われるような形であるが、あれよりも刀身はプランプランしてないし、刃も付いている。

 斬ることも出来るし、突くことも出来る。

 もっとも、片手剣に斬ることは劣るし、槍に突くことは劣る。

 その最大の売りは速いことにあると俺は思う。

 といっても細剣歴三日の俺が言ってもというのはあるが。

 そもそも片手剣は剣で攻撃を受け止める戦い方をすることが多いので俺のHPでは合わず、曲刀は癖があり、短剣は短すぎて戦いにくいという消去法で選ばれた武器であるためなんとも言えないものがある。

 

 そろそろ細剣にも慣れてきたのでちょっくら遠出をしてみようと思う。

 この街で最高の防具をつけているし、次の街周辺の敵でも三回は攻撃を耐えられるはずである。それに今の俺の敏捷値はレベル三十まで敏捷に極振りした数値と同じであるはずなので当たることも攻撃を認識していればないだろう。

 

 次の街に向かって俺は駆けた。

 その日、風になったプレイヤーという都市伝説が生まれた。

 

 二つ目の街は一つ目と比べて引きこもっているプレイヤーがおらず、かといって攻略しているプレイヤーは次の街へ行っているため実質的独占でき、到着から日が沈むまでの数時間でレベルをひとつあげることが出来た。

 経験値効率も一つ目の街と比べ倍近かったこともレベルアップの理由だろう。

 この街はベータの時はササッと通り過ぎていたため宿の位置がわからない。

 フラフラと宿を探していると

「ソコのおにーサン」

 と声をかけられた。

 この胡散臭いイントネーションはと思って振り返るとそこには可愛らしい金髪の少女が立っていた。

 

「どうしたお嬢ちゃん。春売りなんてしちゃいけないぞ。お金は上げるから自分を大事にしなさい」

 

 そう言って300コルを実体化させ、少女の手に握らせる。

 300コル――少ないと思われるかもしれないが結構な大金である。

 味もクソもないが量だけはある黒パンが1コルと言えばわかるだろうか。

 

 少女は赤面したあとに目付きを鋭くして、

 

「お前、もしかしなくてもバーストだナ? 実質初対面にそんなことが言えるヤツなんてオイラは知らないからナ」

 

 そう言って少女は俺に詰め寄ってくる。

 

「それで、美少女になってしまった子ネズミちゃんはネコ科の俺のところにきて何がしたいんだ? ――本当に食べられたいなら昔みたいに食ってやってもいいが」

 

 俺が囁くと子ネズミこと鼠のアルゴは顔を真っ赤にして離れる。

 特徴的なフェイスペイントをしていたので一目で分かったよ。

 

 そして俺は閃く。こいつならこの街の宿知ってるんじゃないか?

 

「まあ、なんでもいいけどさ、情報屋としてここにいるならこの街の宿を教えてくれない? 風呂付きででかいベッドかあるといいな。情報料はその300コルってことで」

 

 始まりの街ではボロ宿暮らしだったから少しくらい贅沢したい。

 そう思って条件をつけると「バーストのエロ野郎」と胡散臭いイントネーションも忘れて走り去っていった。

 

 ……自分で探すか。




狩りを終えて広場に転移させられたキリトさんのHPは350ないくらい。
初期レベルなら200くらいでも間違いないと思う

オリ主の名前はバステト様から、女神?なんのこったよ(すっとぼけ)

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