デスゲームでオワタ式を強制されたのでゾンビプレイします 作:にゃー
攻略会議の広場への集合や、道中は特に問題がなかったので端折らせてもらう。
ボス部屋の前ではリンドの勝とうぜ! という単純な、しかし効果がある呼びかけと、キバオウの熱血系バリバリの円陣が出来ていた。
どちらでも士気が上がり、ボス部屋へ突入する。
タンク隊が入り、ファーストタンカーがハウリングをしてタゲをとる。
そしてアタッカーたちがヘイト値を気にしながら攻撃を加えていく。
指揮を執るために後ろ側で控えているリンドにアイコンタクトで確認をし、仮に発光してタンク隊の防御を邪魔しないように攻撃が終わった瞬間に矢を放つ。
矢は、常識的な光量で(矢が光ることが非常識という指摘は置いておいて)サイクロプスへ向かって飛んでいき、直撃。
サイクロプスのHPバーには変化はないが、サイクロプスは蹲り、大きな隙ができる。
こんな隙ができた時は一人二人全体を見渡せるやつを残して総攻撃。
ヘイト値なんて気にせずに殴り続けろ。
三十秒か、一分か。比較的長めなボーナスタイムが終わり、サイクロプスが立ち上がる。
その六段あるHPバーの最上段をほぼ削りきり、今にも五段目に突入しようとしていた。
立ち上がる際の腕を使ったなぎ払いも後ろで見ていたプレイヤーがその前兆を告知していたのでそれに巻き込まれるプレイヤーはいなかった。
ヘイトが誰に向かっているかわからない状態。
タンク組がそれぞれ別のパーティのヘイトを一身に集めるタンク最大のスキルを使う。
タンクの人数は五掛ける二パーティで十人。
八パーティあるうち、二パーティがタンク隊なので、六人がスキルを使い、別々のパーティにいる二人がその後にスキルを使用する。
すると、ヘイトの回り方は以下の通りになる。
その他パーティ×6→タンクa組3名&タンクb組3名→タンクb組3名→タンクa組1名→タンクa組4名→タンクb組1名。
簡単に言うならば、全プレイヤーが稼いだヘイトを個人のプレイヤーが背負うということである。
タンクは【隠蔽】も所持しているのが基本で、【隠蔽】には瞬間的にヘイトをゼロにするスキルもあるため、POTローテを行う場合は、それを使用し、直後にスイッチ要因がハウリングをすることでタゲをタンクに固定しながらPOTローテが行えるということだ。
この、パーティ単位のヘイトを奪う強烈なスキルだが、当然弱点もあり、【挑発】のスキル値によりある程度短縮されるものの、冷却時間が二十分以上というとんでもない切り札なのである。
が、考え方を変えれば序盤に使うことが出来たということは終盤には再使用が可能になっている可能性があるということである。
四十人以上が稼いだヘイトが固まったため、ここからはダメージディーラーはヘイトを気にする事はない。
各々隙を突いて攻撃をすることになる。と思われたが、最後にスキルを使用したプレイヤーを差し置いてサイクロプスは俺に向かって突進してくる。
仮に、俺が俺以外のプレイヤーが稼いだヘイト値よりもヘイトを稼いでいたとしても、タンカーのスキルでそれもなかったことになっているはず。
つまり――
「特殊ヘイトだ! 何分かはわからんが俺が絶対的に狙われる! 全部避けてやるからその隙に攻撃しろ!」
特殊ヘイト、それは文字通り特殊なヘイト値である。
今回のサイクロプスは、太陽の弓で射ることがその特殊ヘイトのスイッチだったのだろう。
サイクロプスの攻撃の際に発生する踏み込みによる衝撃波を軽くジャンプして躱し、その圧倒的な力で振るわれている剛の棍棒をその力を利用して受け流す。
空振りさせるより大きく体勢を崩し、目玉の位置が低くなったサイクロプスの瞳を切りつけてクリティカルでダメージを与える。
弱点に攻撃をもらったサイクロプスは数秒頭を抱え、隙ができる。
その隙に攻略組が全力の単発ソードスキルを当て逃げし、サイクロプスが行動を始める。
変わらず俺を狙うサイクロプスは受け流しが難しくなる素手での掴みかかりを行ってくるが、お前の間合いはベータ時代に散々と学習させられた。
ギリギリ指が届かない範囲まで下がり、指が目の前を通り過ぎた時に指を思いっきり切りつける。
中指が破壊され、恐らくあちらの手では棍棒を持つことは出来ないだろう。
イラついたのかサイクロプスは地団駄をふむ。
それにより発生する揺れを小刻みにジャンプして躱しながら懐に潜り込み、高く飛んで再び目玉を切りつける。
再び大きく隙を晒したサイクロプスにソードスキルが炸裂し、最下段のHPバーが赤になる三割の直前、およそ三割二分ほどまで削れた。
ここまでおよそ二十五分。
現在の【挑発】の熟練度ならもう再使用可能になっていると判断して光の矢を再度放つ。
初撃よりは光が弱いが、たしかに光っている矢が再びサイクロプスに突き刺さり、最初同様大きな隙を作り出す。
最初に出来た隙よりかは明らかに短い隙だが、ボスが作り出すにしては明らかに大きな隙。
ボスのHPはみるみるうちに削られていき、なぎ払いが行われる頃には残すは数ドットとなっていた。
俺は、攻略組に戻るということはこういうことだろうと、再び飛び上がり、目玉を切りつける。
斬った勢いでソードスキルの発動体勢へと移行し、そのままソードスキルを再び目玉に叩き込み、そのHPを全損させた。
サイクロプスがポリゴンとして爆散するのを見ると同時、張り続けていた気持ちの線がぷっつりと切れ、そのまま落下する。
辛うじて受け身をとってダメージはゼロにするが、そのまま立ち上がれずに石畳に寝転がる。
疲れた。
今回の戦闘、最初の数分以外は俺がすべての攻撃を対処していた。
被弾はゼロだ。全て受け流したためダメージもゼロ。
ラストアタックもとったし、恐らくMVPも俺だ。
これが、攻略組に戻るということ。
ベータ時代の攻略組トップタンカーにして、LA取得率第二位、MVP取得率第一位のバーストが攻略組に戻るということだ。
だけど、疲れた……。
トップタンカーだからってボス戦中全部攻撃を対処していたわけじゃないんだぞ。
もはや精神力の問題だったよ。
もうムリ。今日は一層のイノシシとすら戦いたいとは思わない。
キリトの手を借りて起き上がり、剣を高く掲げる。
同時に攻略組から雄叫びが上がる。
これだよ。これが好きなんだ俺は。
ベータテスターも一般も関係ない。ただひたすらに勝利を喜んで、その喜びのままに叫びまくる瞬間が。
昔一緒に叫んだ奴らはベータテスターを糾弾する流れによって姿を隠してしまったり、正式サービス開始直後に死んでしまったりとちょっと悲しかったが、こうやって一般プレイヤーたちと叫べるのはとても嬉しい。
ただ、残念ながら今日は疲れすぎていて叫ぶに叫べないが。
報酬の分配をダイスで行い、転移門のアクティベートを行うことになる。
誰が行うかという話になって元気が有り余っている奴らが行くことになりかけたが、待ったをかけて俺に任せてもらうように頼む。
疲れているが、そのためなら頑張れる。
ここから主街区までは十五分もかからないだろうしな。
リンドの一声で俺と、キリトたちに任せてくれることになり、十層へ向う。
攻略は転移門の有効化までが攻略ですよ。
フラフラながらキリトたちに助けられながらモンスターを倒して主街区の中心にたどり着く。
転移門を前にして、キリトに背中を押されて転移門を有効化する。
有効化を知らせる光と同時に疲労は限界を迎え、意識がぷっつりと途切れた。
戦闘描写難しい……
フロアボスという原作でも出てくる絶対的な力の象徴を前にして初めて俺TUEEEEが出ました。
ネームドボスやらクエストボスやらをソロってる以上今更かも知れませんが。