デスゲームでオワタ式を強制されたのでゾンビプレイします 作:にゃー
俺がぶっ倒れたボス攻略から五週間、ベータテストの情報も完全になくなったにも関わらず、死者三名という犠牲者の少なさ、速さでもって十八層への扉が開かれた。
俺のレベルは今の戦闘で三十一となり、新しく追加されたスロットには【精密動作】が入っている。
武器も一層のキャンペーンクエストで入手したハイスペックな直刀となっている。
ここまで攻略して分かったことだが、この剣は少なくとも二十層クラスである。
つまり、今のところはかなり強い武器ということだな。
特殊効果がある防具は変更していないが、攻略組に馴染むために防具を新調しているため防具の多くが変更されていた。
現在の攻略組の平均レベルは二十九ほどで、若干安全マージンより高いと言ったところだろうか。
いままでそこまで苦戦せずに突破できていたためレベリングの時間が足りないのだ。
アルゴとの関係は良好で、週に三度は食事に行くほどである。
ちなみに、ハデスの隠れ兜は十層攻略がなされる前にプレゼントしている。
その際、ようやく俺の猫目に気がついたアルゴを最大限にからかってやったが、あれは可愛かった。
そして、バステト関連だが、今まで全く進展していな
過去形なのは今、進行している実感があるからである。
十八層は砂漠地帯で、迷宮区の階段から眺めるだけでピラミッドが何個もあるのが見て取れた。
階段から外に出て十八層を踏み締めれば眼前にあるオアシスには無数の敵性エネミーでない猫のNPCたちが。
これで進展していなかったら一体いつ進展するというのだろうか。
キリトや攻略組には悪いが、この階層では攻略のためのクエストやダンジョンのマッピングは一切しない。
バステト関連のイベントを探したい欲がすごいのだ。
フィールドボスやフロアボスには参加するので連絡は忘れないように。
そいつらを俺が倒せれば復活するバステトの力が増すかもしれないからな。
オアシスのにゃんこに話しかける。何を言っているか分からないが、バステトのことを尋ねるのだ。
とりあえず的を射た質問をしていれば何かをしてくれるのは猫族の祠で実証済みだ。
にゃーと鳴いた猫について行くと、ひとつの巻物がある場所へ案内された。
主街区とは逆方向だし、迷宮区の前にあったオアシスから三時間ほど歩かされたが、成果はあったので良しとする。
手に取って広げてみると、一枚のウィンドウが開かれた。
本なんかを開くと表示されるウィンドウと同じものだ。
内容はバステトについて書かれたもので、簡単に言えばこのフロアにバステトの同一体がふたりいるよ! ってものだった。
よく見れば詳細も書かれているし、もしかしなくてもフィールドボスとフロアボスの情報集め終わったのでは?
ボス情報ウィンドウを開いてみるが、追加はされていない。違うのか?
とりあえずこの巻物はここから持ち出せないみたいだし、記録結晶を使ってスクリーンショットをとっておくか。
それじゃあフィールドボスのところにひとまず偵察に行きますか。
巻物には場所も書かれていたし見に行くだけなら十分だ。
巻物の場所からさらに二時間ほど歩き、ピラミッド付近の
【隠蔽】のスキルレベルは初期値だがないよりはマシ。【隠蔽】を発動させながら砂地に伏せてボスを眺める。
ボスの形はいつかのバステトのようなメスライオンだ。
バステトの肉体は今この世界にはないし、となるとバーストかセクメト。
巻物にはセクメトは人の体に猫の顔と書かれていたのであの巻物が正しいならあれはバーストだろう。
見ただけで
クトゥルー神話に詳しくない俺でもそういうのは知ってる。
ちょっかいをかけるのはやめておこう。流石にボス戦直後でフィールドボスは頭おかしいし。
ここから近くの街は主街区ではなくここに来る時に視界に写った街だろうからそっちに行こうかな。
その街の中心には神殿があった。かつては水路であっただろう大きな溝があった。かつては緑が覆っていたであろう痕跡があった。街の入口には大きな建物があり、そこには壮大な彫刻があったが、吹き荒れる砂で覆われていた。
そこは、見るからに死んでいる街であった。
死んでいる街であってもそこに人達は生きていた。
適当な宿を借りてNPCにバステトやバースト、セクメトの話を聞くが、バステトとセクメトの話は聞くことが出来ず、反応を返したバーストの名前にはあれは神ではないと返ってくるばかり。
なにかあるなと思い、明日はこの街でバーストのことを探すことにする。
お世辞にも良いとは言えない宿で夜を過ごし、日が昇ると同時に街を探索する。
まずは宮殿かな。
宮殿に向かってみるが、入口で神官に入場拒否される。
拒絶の仕方からクエスト系で入れるようになるということではなさそうだ。
仕方ないので路地裏に入る。路地裏のNPCは、街の人達が知っていて教えてくれないことを金さえ積めば教えてくれるから割と重宝している。
路地裏にいるおっさんに3000コルを積み、バーストについて教えてもらう。
アレは、神官たちが作り出した女神の化身、といっても正当なものではなく、邪法によって作られた邪悪な化身だということらしい。
そして神官たちは今も尚実験をしているのだとか。
んー。なんか聞いたことがあるな。
ブバスティスだったか? クトゥルー神話のバーストに関係がある街で、半人半獣の女神が現れたとかなんとか。しかし、その女神は女神ではなく神官たちが作り出した化身だとかそうではないとか。
明言はされていなかったはずだが、どうだったか。
やっぱりそこまでは覚えていないわ。まあ、それがわかってもそこまで意味は無いか。
バーストのことは分かっているし。
バステト関連のイベントを知らないプレイヤーがリアル知識を使って推理するところなのだろう。多分。
クトゥルー神話のバーストは名前こそ違うもののほとんどバステトと同じようなものなので、バステトが習合により多くの神の権能を持つようにバーストも同じものを持っていると考えていいのだろうか。
太陽神の娘としての延焼、セクメトとして疫病、多産の神としてのモブ大量生産などが思い浮かぶか。
とりあえず俺一人なら問題ないか?
攻略組がバーストの位置を嗅ぎつける前にちょっかいかけて可能なら倒してしまおう。
流石に俺がソロで倒したなんて誰も思いやしないだろうし。
バステトが習合で様々な側面を持っていることで思い出したが、確か性愛の神としての側面もあるんだよね。
今度アルゴと飯に行った時に話してみよう。
バーストの疫病対策に結晶を用意する。
スリップダメージこそ受けないが、ステータス低下が割ときついからな。
ザコ敵が大量に出てきた時用に直刀も何本か補充しておき、これで準備は万端。
いざ、バースト戦へ。
敏捷値を発揮して奇襲をかける。
今までの経験から尻尾を破壊すれば弱くなることは分かっているので尻尾にぶちかます。
やはり【成長の代償】が強いのか一発で尻尾を破壊することが出来、三段あるHPの一段を二割ほど削り飛ばした。
……。明らかにHPが低いな。
しかし、こいつの名前はフィールドボスを表しているし、名前もバーストとなっている。
どういうことだ?
とりあえず経験通りに戦い、基本的な動作はそこまで変わってないことを把握する。
十分ほどでHPを削り飛ばし、そういうことかと納得する。
こいつも復活するのだ。多分九回倒すことになるんだろうな。
そのまま攻撃を続け、三回目の復活から疫病をばらまいてきた。
ステータスが下がり倒す速度が遅くなる。
六回目の復活からは取り巻きの生産だ。
額から蛇の生えた人間、山羊の角の生えた人間、象の鼻を持つ人間、ケンタウロスに良く似た人間、出来損ないの肉塊。
動物と人間の特徴を併せ持った異形たちと、何者にもなれなかった出来損ないの肉塊が多く生み出され、襲いかかってくる。
あれか? エジプト神話の神様は人間と動物の姿が合わさってるから人為的にそうすれば神様になれるみたいな?
しかし、その性能は言うほどではなく容易に切り伏せられる。
予備の直刀に持ち替えてバッサバッサとポリゴンへと変えていく。
バーストへなかなか刃は届かなくなったが、自動回復はないようなので着実に削っていく。
七回目の復活。モンスターを生み出す量が増えた。
八回目の復活。これで残機はゼロだ。太陽は既に落ち、闇の中での戦いとなっている。
異形の者達とバーストと俺の戦いを太陽神の瞳が照らしている。
バーストを完全に倒したのは残機がゼロになってからさらに三時間後であった。
所要討伐時間十四時間。使用結晶数二十四個。使用直刀十二本。レベルアップは二つ。【片手剣】の熟練度は百五十ほど上がり六百の大台に乗った。
途中から完全に作業になった、というか生み出される異形がちょっと正気度を削ってくる見た目になったので焦点をずらして漠然と敵を把握して動いているものを考える前に斬っていたのでそこまで疲労していない。
LA報酬は羽付きの靴。いつかのクエスト報酬とは違い、天使の羽をそのままもぎ取ってミニチュア化したような、翼とも言うべきものだ。
効果は敏捷性ブーストと【軽業】ブースト。
恐らくバステトの持つ天空神の側面を抽出したものだろう。
バステトの勾玉にも変化があり、復活を邪魔する存在が欠けたことが読み取れる一文が追加されていた。
とりあえず帰るか。
ソロでフィールドボス倒すとか俺TUEEEEのタグが大興奮して仕事しまくってる……。