デスゲームでオワタ式を強制されたのでゾンビプレイします 作:にゃー
バーストとの戦闘の後、帰るのもめんどくさかったので九層の主街区に転移結晶を使って転移してきた俺は、最高級の宿のベッドの上で寝転がっていた。
今回の狩りは結晶二桁使って転移結晶も使ったけどそれでも黒字。
本来レイド用の素材も独り占めだから真っ黒黒で大儲けだ。
この素材はフロアボス攻略後の分配にさりげなく混ぜるとして、一人でフィールドボス倒しちゃってどうしよう。
少なくとも俺だと分かる奴はいない。
アルゴは俺のこと知ってるし、分かるかもしれないが、確信を持つほどではないだろう。
何が問題かといえばフィールドボスはフロアボスの練習になっていることもなくないんだよね。
攻撃パターンの一部が、とかそんな感じ。
これ、巻物の情報を持ってる俺がソロでやっちゃった方が良かったりするか?
まだここに来てから日は経ってないし、攻略が進んでいるとしてもフィールドボスの情報が集まったくらいだろう。
それなら急いで迷宮区をマッピングして、運良くボス部屋を見つけられたら気付かれずにソロでやれるはずだ。
フロアボスが勝手に倒されるのも一度だけ、それもフィールドボスと同じ階層ならイベントだと勘違いするんじゃないか?
十八層のブバスティスの奴らは神様神様って感じだったし、太陽神の娘が邪悪なる子らを討ち滅ぼした。みたいな感じでどうにかならないか?
流石にフロアボスじゃならなそうだなぁ。
最悪バレてもクエストの一環で弱体化したやつと戦ったみたいなことを言えばいいか。
デスゲームでも自分の利益を求めるとかゲーマーというか、廃人というか、内側しか見ないで行動を決定する癖が出てきているが今回はやらせてもらおう。
アルゴには街の情報を聞いてみることにして明日は迷宮区に向かって移動して探索だな。
◇
九層の転移門から十八層に転移――ではなく、猫族の祠へ向かう。
あれ以来ボス攻略前には毎回訪れているので猫達も快く迎えてくれ、軽くお祈りを。
といっても神社でのお祈りの作法すら把握していないので適当にパンパンと手を叩いてお願いしますと心のうちで呟くだけだ。
というか、この祠を通して信仰するバステトは俺の首の勾玉らしいけどね。
主街区に戻って転移門から十八層へ。
主街区から遠くに見える迷宮区の方へ移動していく。
蟻地獄や蠍という初見のモブに若干苦戦しながら迷宮区にたどり着けば、中は普段と変わらぬ石畳がのぞく。
これなら蟻地獄なんかには苦戦しないで済むなと考えて迷宮区の奥へと足を進めた。
迷宮区に潜って四時間ほど。途中で昼休憩を挟んだりしたが、分かれ道で現れる猫に先導されて迷宮区を歩いていると、モブは猫を見て逃げ、進む先には新しい分かれ道と猫がいてとそんな感じで歩き続け、ボス部屋を発見した。
マップを開いてみれば無駄な道は一切通っていない。
猫の道案内はリアルでも何回かお世話になったし、なんの抵抗もなく付いてきてしまったが、相変わらず猫はすごいな。
猫にお礼を言ってからボス部屋の扉を開いてボス戦に臨む。
と言っても偵察戦だ。中にいるのは身長二メートルほどの半人半獣の神。
HPバーは三本で、猫の尻尾を生やしていた。
あーはいはい。完全に理解したわ。
とりあえず武器の予備を補充してないので帰らせてもらいますね。
踵を返して帰ろうとしたその時、本来ならば開きっぱなしのはずの扉が音もなく閉じられた。
……。転移結晶もダメですか。
バステトイベントは辛いなぁ。
それじゃあ倒してやるよ。俺を殺せなければお前が死ぬだけだぞ。
◇
このボス戦はおかしい。どこがおかしいかと言えばまずはボスの大きさ。本来ならもっとデカいはずなのだ。
次に入口の扉が閉じられること。結晶が転移結晶のみ使えないこと。
つまり、これは完全なイベント戦だ。
本来のボス攻略ではないと考えてもいいだろう。
だからあの巻物で得た情報はボス情報ウィンドウに追加されなかったのだろう。
ボス――セクメトは炎のような息を吐く。その息は実際に石畳を燃やしたり、疫病の状態異常を付与してきたりと同じモーション、同じエフェクトから別の効果を与えてくる。
炎の攻撃は問題ない。しかし疫病は結晶がそこまで余裕が無いのでできるだけ避けたい。
なので炎の息はすべて回避する。
手に持った錫杖のようなものを戦いの女神の名に恥じない技量で振り回す。
まともに取り合うのは危険だと判断し回避する。
壁ぎわまで下がって【軽業】で後ろを取る。
本来なら一発くらい入れられるが、即座に振り向かれ、錫杖の一撃に吹き飛ばされる。
吹き飛ばされる前にぎりぎりかすらせることが出来たがそれではそこまで削れていない。
まるで対人戦をしているみたいだ。
これを九回殺さないと行けないとか嘘だろ?
ルーチンがあるAIだとは考えない。人が入っているようなものだと考えて、ならばそいつの癖を読み取る。
昔やった対人ゲーを思い出してその時の思考回路を発掘していく。
相手の回避の癖、攻撃の癖、間合いを詰める時の癖、画面越しの世界よりも確実にこちらでの方が癖は読み取りやすい。
自分の好きなところを見ることが出来、主観で見えるというのもポイントだ。
ただひたすらに、それこそ自分が相手そのものになると錯覚するほど思考を研ぎ澄ます。
裏に回った時の回転は基本的に右から。
攻撃の高さは俺の胸のあたり。
速度は無理やり振り回すような強引さがある速さ。
故に俺に当たらなければ速度を殺すことが出来ずにふらつく。
裏に回って攻撃を繰り出される瞬間にしゃがむ。
既に攻撃を繰り出していたセクメトは高さを変更できずに空振り。
こっちは攻撃を行っているあいだ、空振りで体勢が崩れているあいだに好き勝手に攻撃する。
正面からの攻防。その技量の高い攻撃は正面からまともに打ち破るのは無理だ。
俺はこの世界である程度剣を振ってきたが、それでもそこまで高い技量を持っていない。
ならばまともに打ち合わなければいい。
俺の最大の特性。体力が全損する攻撃を受けてもHPが二百以上になるように攻撃を耐える。
思いっきり錫杖の攻撃を受け、吹き飛ばないように踏ん張ってから攻撃をする。
カウンター扱いでクリティカルが入ったセクメトのHPはようやく二段削り飛ばせたところだ。
痛いが、必要経費。ゲームの中の演出だ。
牽制の炎の息。何度か受けて気がついたが全く同じモーションではない。疫病の方の息を吐く時だけセクメトの右手が拳となっているのだ。
今回は開かれている。炎の息に飛び込んでそのままセクメトの首へ攻撃を加える。
ようやく一回目。少なくとも攻撃パターンが変わるまではゾンビ上等の精神でやれるだろう。
五回目の復活でセクメトはその頭上にある太陽を模した円盤をもぎ取ると右手に持って盾とし、左手に持っていた錫杖を短く持ち、腰を落とす。盾持ちの片手剣ファイターのようなスタイルとなる。
お前の円盤ってそんな使い方だったのか。
流石に知らなかったわ。
武器が錫杖から片手剣へと切り替わったことで相手の思考を読み取り直すことになる。
攻撃より防御を重視したカウンタースタイル。
後ろを取られた場合は剣ではなく盾を回して攻撃を防ぐことを優先する。
炎の息は忘れたかのように使ってこない。
完全にSAOでのPvPのような戦いになった。
おかしいところを上げるとすれば俺がゾンビだったり相手がボスエネミーなだけ。
相手の防御をかいくぐり攻撃を加えていき、相手は盾で俺の攻撃を防ぎながら希に俺の攻撃の出始めに攻撃を合わせて力押しでダメージを狙ってくる。
違和感。それを感じた時には既に遅かった。
俺の攻撃で絶妙に威力を殺された突きは俺の防御力によりダメージを軽減され、俺のHPを
全力で後に飛んで、予想外のスリップダメージに対応するために持っていた回復結晶を砕く。
これは、高度なAIではない。
確実に中に人間が入っている。そう確信して再びセクメトと向き合う。
打ち合うのはまずい。俺の攻撃で意図的に威力を殺してくるとか頭がおかしすぎる。
中に人が入っているとはいえガワはボスエネミー。ステータスはアホみたいに高いはずなので、わざと威力の低い攻撃をしたところで俺のHPは一撃で吹き飛び【食いしばり】が発動する。
さらに威力を落とすには俺の攻撃を利用するしかない。
ならば後出し。それならば俺の攻撃に当てて来ることは無理だろう。
攻撃ができない体勢への攻撃も有効だ。
とりあえず、ワンパンこそされないがツーパンされる可能性が出てきた。
いのちだいじに。ソードスキルなんて以ての外だ。高い威力のソードスキルを利用されHPが削られ、硬直にもう一発食らうことが簡単に予想できる。
中に誰が入ってるかなんて知らないが、そっちはボスのガワと回数制限の復活。こっちは条件付きの不死性だ。条件は五分だろう。
ちょっと迷走気味。なんか気がついたらこんなボス戦になっていました。
ボス戦後の展開はは? ってなるかもしれないですが一応考えてあります。