デスゲームでオワタ式を強制されたのでゾンビプレイします 作:にゃー
とても嬉しかったです。自分の作品を読んでくれて、ダメなところを指摘してくれてありがとうございますです。
設定に関連するものでしたので改善は厳しいですが次回作があれば頑張ってみようと思います。
スキルを入手してから五日日、スキルの使い方や下がったステータスとの向き合い方にも慣れてきた。
十九層も突破され、明日は二十層のフィールドボス戦だし、アルゴはとりあえず外面だけなら情報屋として復活した。
アルゴの快復が表面的なものと言ったのは、夜――二十時以降からはバーストニウムとかいう謎成分が足りなくなって行動に支障が出るらしいのだ。
なので十九時には狩りを切り上げて拠点に戻るのが最近の基本である。
そのため、ちょっと狩りができる時間が減って、ステータスが弱体化したことにより経験値効率が落ちる――と思っていたのだが、敏捷以外は普通だった時とは違い、【インカーネイト・オーバーライド】適用下ならば敏捷を頭に、それぞれのステータスが一定値上がるのでダメージ量自体は伸びている。
尤も、まともなダメージを受けてしまうと狩りの効率は大きく落ちるのだが、そのおかげか【食いしばり】によってある程度の被弾を許容していた時とは違い攻撃への反応速度が二日だけでも分かるほど向上した。
【猫神の加護】で性能が上昇している防具で一番嬉しかったのはバーストを倒した時に入手した靴。元は敏捷が高まるだけだったのだが、空中歩行限定解除、空中動作制限緩和というオプションが生えて空中を足場に一歩だけ動けるようになったのだ。
これが楽しくて楽しくて【軽業】と組み合わせて木が大量に生えている密林を縦横無尽に飛び回ったものだ。【軽業】で木に着地するだけで歩数制限は回復したので木を蹴って宙を蹴ってもう一度木を蹴ってと本当に楽しかった。
他にもコンタクトに夜間視覚補正が付いたり、黒猫のコートに寒さ無効だけではなく凍傷無効もついたりと、数値だけの上昇で済まない強化が行われた。
「明日のボス戦は夜にやるって通知が来てるけど大丈夫か?」
机の向かい側で椅子に座っているアルゴに問いかける。
二十層のフィールドも、全体という訳では無いが、森があり、『ひだまりの森』という名前の通り陽の光がよく通る森である。
そんなフィールドで戦うのはカマキリ。昆虫なので暗ければ戦いやすくなるのではないかという意見が出て夜に戦うことになったのだ。
こっちの視界も狭まるが、俺たちは慣れているからな。
ゲーム側で最低限の補正もされるし、月光があれば十分に戦える。
「出かける前にちゅーしてくれたら我慢するよ」
アルゴの話し方は以前からの鼠という皮を脱いだときの話し方なのだが、その話し方に混じって幼さを感じさせる部分が出てくるようになったので、その度に心臓がキュッとなる。
からかい甲斐は無くなったが、俺が浮ついたことを言うといいよってなったりするのでこの変化も悪いことだけということではない。
だからといってまたアルゴを傷つけようとは思わないが。
明日のことが決まったので明日に備えて寝ることにする。
◇
昼、ひだまりの森でカマキリと戦いながら考える。
俺の体からは白色の光が鱗粉のように漏れており、この光が【インカーネイト・オーバーライド】の効果が適用されている証拠である。
俺の考え事は、カマキリの目についてだ。
昔の俺はカマキリがどこを向いても黒目で見てくることに興味を持って調べてみたのだが、その結果なにかがわかった気がするんだよな。
カマキリの目を見ながら戦闘をしていたが特に思い出せないまま戦闘は終わった。
うーん。気のせいかな。ちょっと気分転換ついでに場所を変えよう。カマキリの肉はバステトが嫌いみたいだし。
ちなみに、猫は雑食である。ライオンを見れば分かるが魚が特別好きというわけじゃないんだな。
バステトの最近のお気に入りはブッシュスネーク。藪から蛇の肉である。
こいつは名前の通り薮の中に生息していて、戦闘能力はそこそこと言ったところだ。
薮それぞれにポップ確率が設定されていて、そのポップ率は3パーセントないくらいだと言われている。
バステトはこいつを見つける達人で、勝手に薮を漁って蛇をアクティブにするのだが、こいつに戦闘能力はない。
急いで俺の元に戻ってくると俺の体を駆け上がり、肩の定位置に陣取って早く倒せと急かすのである。
蛇特攻もついている俺は楽々倒せるが、自分で倒せないなら刺激するなと言いたいところだ。
因みにブッシュスネークはB級食材を落として、その価格は1万コル前後と高めなのだが、その全てはバステトの腹の中に収まっている。
30万コルくらいは食ってるんじゃないかなこいつ。
そのおかげで蛇特攻の倍率が上がったり、バステトの敏捷値とHPが上がったりしているので全くの無駄ということではないのだが。
因みに以前倒したククルカン。あいつも肉を落としていたのだが、その肉もバステトの腹の中に収まっている。
うちのエンゲル係数はこいつのせいでめちゃくちゃである。
道中で三匹ほどブッシュスネークを倒して廃墟に移動する。
この廃墟はひだまりの森とは対照的で昼でも建物内は真っ暗で、照明アイテムがなければ足元を見るのも厳しいところだ。
俺には太陽神の瞳があるので問題なし、ここに出る敵は霊系ばかりということもあり、聖水の出費を気にして攻略組でもここで戦っているやつは俺以外に知らない。
アホみたいな倍率の霊特攻で壁から次々に現れる敵を一刀両断し続けること数時間。
レベルはひとつ上がり、高位の聖水の素材ともなる霊魂の欠片を大量に入手した。
NPC売りでも15万コルは硬いな。
時刻は十七時と少し早いが、アルゴとの約束があるので宿へ戻ることにする。
宿に戻って先に帰ってきていたアルゴに帰宅を告げる。
いつもならここから夕飯を食べに行って一日の報告をしたりするのだが、今日は少しお預け。
軽く話をして、キスをしてから再び宿を出る。
集合時刻に遅れると問答無用で置いていかれるからな。
集合場所に来ると、キリトが寄ってくる。アルゴの様子を聞きに来たのだ。
ある程度は回復したよと言うと、良かったと胸をなでおろすキリト。
今回のボスはカマキリ、つまり高い攻撃力だろう鎌の一撃が予想されるためタンク隊が多めだ。
ひだまりの森への移動中もバステトがブッシュスネークを釣ってくるので今回も同じパーティとなったキリトたちは苦笑いしている。
ボス戦が行われる場所までのエンカウントはブッシュスネークだけで、随分と楽にたどり着くことが出来た。
ここまで人数がいるともう少しエンカウントするのが基本なんだけどね。
比較的開けた場所でカマキリを待つ。
三つ戦闘可能場所があり、その中で一番戦いやすいところがここだ。
時計を確認するとあと五分ちょっとでここに飛んでくることがわかり、最後の作戦確認をする。
といっても作戦は簡単で、タンク隊ふたつが両手の鎌を止める。そのスイッチ要員にタンク隊ふたつ。
斧やハンマーのような重い一撃ができる奴らは足を集中的に狙い、俺たちはヘイト取りすぎないように気をつけながら頑張ってねという感じである。
特殊ギミックがないボスでの基本戦術だ。俺が一人で十八層を突破してしまったため若干レベルは落ちているが、それでもまだ三十越えばかりだ。
レベルが高いということはそれだけ強いということだな。
作戦会議が終わってそれぞれが配置につくと、羽音とともに巨大カマキリが飛んできた。
カマキリは着地すると、こちらを確実に睨んできている。
その瞳は完全に黒く染まっており――思い出した。カマキリの瞳は複眼で、黒目に見えるところは偽瞳孔と呼ばれるものであり、黒目とは一切関係がないのだ。
複眼は単眼より光を多く取り込む。そのため暗所でもカマキリは狩りができるのだ。
偽瞳孔について説明すると、ボールの球面にストローを沢山つけて中を覗いて見ても、ひとつの視点からボールが見えるのは一部だけ。残りはストローの内側しか見えないだろう。
しかし視点を変えれば見えなかったところからボールを見ることができるようになる。
これが、カマキリと目が合う理由である。
そして、夜になると偽瞳孔が大きくなる理由は、ストローたちが光を取り込むために大きくなりボールを見ることが出来る角度が大きくなるからである。
詳しく知りたいならば調べてもらうとして、つまりカマキリは夜目が利くのである。
それを知らない軽装のプレイヤーがカマキリに突撃していくが、カマキリは複眼特有の広い視野でそれを確認するとその大きな鎌で一閃する。
軽装プレイヤーは思いっきり吹き飛ばされ、そのHPを赤く染めた。
昆虫系の敵は、弱っているプレイヤーを徹底的に狙う性質がある。
タンクが庇うが、鎌の形、夜というフィールドで距離を見誤ったタンクの盾をすり抜け軽装プレイヤーはポリゴンとなった。
十五層以来か。
リンドとキバオウが喝を入れ――自分のギルドのメンバーでないことで少し心の余裕があるのだろう――前線を構築する。
俺も意図的に切っていた太陽神の瞳を発光させ、少しでも戦いやすいフィールドとする。
五分とは行かないが、少しは戦いやすくなっただろう。
敏捷以外が普通(敏捷だけ突出していてほかのステータスはほかのプレイヤーと同じくらい)