デスゲームでオワタ式を強制されたのでゾンビプレイします   作:にゃー

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VRゲームでリアルな〇〇とか勘弁して欲しい。

 とりあえずは森へ行ってみる。猫族の祠も木に囲まれたところにあったし、なにかあるかもしれない。

 豊穣の神としての側面も持っているので可能性は十分だろう。

 森を探索してみるが、比較的弱いモンスターが多い。

 昆虫型に特攻がついているのも原因だろうが、単純にレベルが低い。

 これは期待できそうにないと思い、探索を切り上げようとした時に木の影となって隠れていた地下への入口を発見した。

 それを見るなりバステトが地下へ潜っていき、バステトの5m圏外に出ると弱体化する俺は慌ててバステトを追いかけた。

 

 中に入ってみると、坑道のようだ。

 しかし、備え付けの照明がない真っ暗な坑道だ。

 太陽神の瞳があるので見通せているが、明かりを持たずに入ったり、中で明かりが切れたら迷ってモブにやられて死ぬかもしれないと思わせるくらいには真っ暗だ。

 中にいる敵は犬、ジャッカル系というのだろうか? そんな感じの奴らだ。

 エジプトで犬といえばアヌビスか? いや、セトもそうだったかな。セトはアヌビスの父って話もあった気がするし。

 そんなことを思いながら進んでいくと、坑道には似合わない川が現れた。

 川って言えばナイル川か? ナイル川とセトといえばオシリスか。オシリスのバラバラ死体を引き上げたのはイシスとアヌビスだから、もしかしたらあの犬達も敵対関係があるのかもしれないな。

 川に沿って進んでいくと一枚の石碑が。それに触るとウィンドウが表示される。

 内容は石碑のものだ。

 といっても文字は書かれていない。絵で何かが説明されているのだ。

 

 川に飛び込む絵と川から何かを持ってくる絵、その何かを集めて石碑の前に置く絵。

 つまり川に潜ってなんかを探してこいということか。

 実は俺、猫科の例に漏れず水が苦手なんだよね。

 カナヅチってわけじゃないけど水が苦手なのだ。

 アイテム収集がアクティブ行動であるバステトに頼んでみるが、こいつも水は苦手らしい。

 仕方ないのでバステトを首にかけてある勾玉にしまい、(この状態でも【猫神の加護】によるバフ効果は続く)意を決して水に飛び込む。

 いつかのククルカンの遺跡とは違い、水が澄んでいて幾らかマシである。

 空中歩行限定解除や、空中動作制限緩和などが若干効いているのか、水の中でもそこまで不便せずに底を歩くことが出来る。

 因みに水深は三メートルから五メートルほどである。

 息継ぎを何度かしてそこにあるアイテムを拾い集めていく。

 三百メートルほど川を逆走して底にあったアイテムを全てストレージに入れた俺は浮上して石碑の前に戻る。

 明らかに関係がありそうなのは牛の手足と顔、胴体。

 それに加えて人間の手足と顔、胴体と男根。

 

 多分どっちかを並べるんだと思うんだよね。

 ただ、男根はおかしいんだよ。オシリスは魚にバラバラ死体の男根を食われていてミイラとなってもついてなかったから。

 となると牛なんだが、オシリスと牛って関係あったか?

 いや、そもそもここは前提としてバステト関連のものであるはずだ。

 【猫神の加護】は、名前の通りバステトに関連のあるものが強化されるのだから。

 極端な話エジプトと全く関係なくても強化されるはずだ。

 オシリスとバステト、もしくはセトとバステトに関係はあっただろうか?

 バステトと習合された神の中にはハトホルがいて、ハトホルはオシリスの息子のホルスと関係があると言われているが、流石にその程度の関係ではないだろう。

 一から思い返してみる。

 この階層は鍛冶が盛んなところだ。

 ここは陽の光が一切ささない坑道だ。

 

 ……。そうか! 鍛冶に使われる鉱石、それが取れる陽の光が一切ささない坑道。

 鍛冶の守護神で暗いところが好きな神は、セクメトを妻に持つプタハ。プタハはミイラであり、地下資源――地下つまり冥界と関わりがあるとされてオシリスと紐付けられることもある。

 となるとセクメトと習合されたバステトの夫は間接的にオシリスとなり、関係性もできる。

 

 ……で、牛と人間どっちを並べればいいの?

 川から引き上げられてミイラとなって冥界の神となったオシリス=プタハなら、男根はかけてないとおかしい。

 消去方で牛となるのだろうが、牛となる理由が思い浮かばない。

 プタハは確かバステトや、ほかの神のように半神半獣とはならなかったはずだ。

 オシリスも確かそんなものはなかったし……。

 

 ああ、そうか。アピスの牛、またはオシリスの雄牛。

 牛に特定の特徴が何十個もあると、その牛は神の化身とされて崇拝されたんだ。

 新しく同じ特徴を持つ牛が見つかると、古い方は川に沈められたというし、つまりそういうことだろう。

 

 それにしてもよく俺の頭は都合よく情報を引っ張り出せたな。

 昔から思い出そうとしても思い出せないのに何かに関連したことを体験したりするとそれに引きずられるように色々思い出すんだが、この記憶の思い起こし方ってたしか女性的なものなんだよな。

 

 まあいいか、とりあえず牛のパーツを並べよう。

 

 プタハの化身が復活し、それと同時に石碑の正面の床、つまり俺が立っている地面が割れて下へ落とされた。

 その時牛からのテレパシー的なもので冥界の蛇を倒してくれと言われた。

 

 冥界の蛇ってあれか? ラーの太陽運行を邪魔する、アトゥムの敵、その娘のテフヌトの倒す敵とも言われるアペブとかアポピスとかいうめっちゃやばそうな蛇。

 

 バステトのおかげで蛇特攻はあるけど最高神の敵とか辛そうだな。

 

 

 落下した先は真っ暗な場所だった。

 少なくとも太陽神の瞳で照らされる範囲では壁のようなものは見えない。とても広い空間だ。

 ここが原初の水、ヌンの中なら太陽神の瞳はすべてを照らせると思うのだが、そうでないということは冥界なのだろう。

 デスゲームで冥界にこさせるとかちょっと茅場は頭がおかしいと思った。

 

 中心――かは分からないが、とりあえず歩みを進める。すると、太陽神の瞳が点滅し、それと同時に何かが飛びかかってきた。

 ギリギリで躱したが、太陽神の瞳の光が切れる。

 慌てて後に飛んで、真っ暗な世界となって姿が見えなくなった敵から距離をとる。

 

 すると、再び太陽神の瞳が発光し、世界を明るく照らす。

 五メートルほど前方には、体の太さが二メートルを超える大蛇。

 アポピスと表示されたそいつの名前に、予想が当たっていたことによる安堵と、アポピスの神話の一部を思い出して同時に恐怖する。

 

 俺が恐れたものは、アポピスが太陽の運行を邪魔して日食を起こすというものである。

 太陽神の瞳はアポピスに付与されたその話からアポピスのそばに近づくとその効果を失うのではないかと予想をつける。

 

 とりあえずは太陽神の瞳が光らなくなる範囲の測定だな。一メートルくらいなら突っ込んで攻撃してそのまま離脱ということも出来なくはなさそうなので、それを期待することにしよう。

 

 あとは攻撃パターンだな。こいつの攻撃手段を俺は知らない。太陽神の敵として語られているので弱いということはなさそうだが。

 単純な蛇の図体を使った物理攻撃だけなら割と楽になりそうなんだが……。

 

 突撃はしないで少しずつ距離を詰めていく。五メートル、四、三、点滅が始まった。二、一、完全に消灯。

 もう一度後に飛んで尻尾のなぎ払いを躱す。

 ……ちょっと面倒だな。

 尻尾のなぎ払いでも俺とあいつの距離が近づけば太陽神の瞳は消灯するようだ。

 一メートルという微妙な距離で視認での把握が無理になるのは少しきつい。

 距離を開けたまま【インカーネイト・オーバーライド】を使っていくかを考える。あれは僅かに光るので戦いやすくなるし、ステータスも上がるので有用だろう。

 ただ、攻撃パターンが剥がれ切ってない状況で使うとなると途中での被弾が怖いところだ。

 

 そう思っていると、太陽神の瞳以上の光で照らされた。

 一瞬の思考の空白とともに結構な勢いでHPが削られているのに気づく。

 光から離れてアポピスを見れば、その瞳から光を放っていた。

 バステトやバーサークキャットなんかのビームとは違う目から光線か。

 うーん。エジプト系は目から何かを出すのが流行っているのか?

 ラーの瞳もそうだし、こっちでの目からビーム系もそうだ。となるとこいつが出した光はなにか。

 アポピス……元太陽神でラーに太陽神の座を奪われたからラーに敵対していた説があったんだっけ。

 となると今の光は太陽の光か?

 遠近対応で真っ暗空間、灯りも近づくと無効化される。ぶっちゃけ今までのボスで最大級にクソボスである。

 こいつの弱点とかないっけな……。確かラーの船に乗ったセトがこいつを退けるとかで天敵と呼ばれることもある。曰く、ラーを守れるのはセトだけだとか何とか。だけどセトとこいつを同一視する話もあるんだよな。

 仮にSAOでセトが天敵だったとして、どうやってセトを持ってくる?

 セトといえばジャッカルだったり、明けの明星だったり、北斗七星だったりする。

 因みに、北斗七星はセトがホルスと戦った際に欠損した左足である。

 ん? 左足……? ありました。誰のものかわからないバラバラ死体が。この左足がセトのものなら大逆転できるだろ。

 左足をストレージから取り出してどうするかを考える。 

 とりあえず相手の攻撃のあとに避けられないように投げつけてみよう。

 と、そう言えばセトはホルスとの戦闘で睾丸ももぎ取られてたんだったな。 

 たま付き男根もセットで投げつけてやろう。

 

 目からビームや尻尾攻撃、噛みつきに巻き付きなどを躱しながら攻撃パターンを見極めつつ、投擲のタイミングを伺う。 

 俺としてはこんなものを持ち続けていると頭がおかしくなりそうなのでさっさと投げ捨てたいのだが、太陽神の瞳が光ってくれないのでなかなか必中を確信できるタイミングがない。

 

 一メートルというのはこちらに向かってくる攻撃を避けるものとして見ると、かなり広い。 

 あちらの尻尾の方が俺が躱す時に出す速度より速いので、最大限に距離を取っていても追いつかれそうになるのだ。

 かと言って離れすぎればこちらからの遠距離攻撃手段がないのでビームにいいようにされる、なかなか大変だ。

 もう【インカーネイト・オーバーライド】解放してもいいか? 接近戦のデータは取れてないけど中距離戦では被弾する可能性はほとんどないだろう。速度も上がるので尻尾との距離も開きやすくなる。 

 よし、使うか。




自分なりにバステトの家系図をまとめてみましたが、家系図の一番上にくるバステトと同一視された神からみると、ラーとホルスが習合された関係から曾孫のホルスが父親になったりしてカオスです。
素人が習合について深く触れようとすると大変そうなので軽くまとめただけで諦めました。

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