デスゲームでオワタ式を強制されたのでゾンビプレイします   作:にゃー

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原作一巻にようやく入った()


脳筋と敏捷特化では脳筋の方が決定力があるのは当たり前である

 七十四層、その迷宮区で今日も俺はソロで戦っていた。

 ここに出る主要モンスターはリザードマンロード。つまり、トカゲだ。

 俺の特攻は蛇には乗るがトカゲには乗らない。

 故に、普通に戦うことになるので経験値効率はそこまでいい訳では無い。

 何故、そこで戦っているのかといえば、去年のクリスマスに使っていたような性質のフィールドがないから――ではない。

 単体の効率は七十四層に劣るが、時間効率でいえばはるかに優れた俺専用と言ってもいいほどの難易度のフィールドが七十二層に存在する。

 では、何故経験値効率に劣る場所で戦っているのか。

 それは、経験値だけじゃないんだよと嫁さんと攻略組のお偉いさんに言われたからである。

 俺は、今までは気になるダンジョンにアタックしたりレベリングに使えそうなフィールドに入って効率が良さそうな位置を探したりと迷宮区の探索にはあまり参加していなかったのだ。

 あまり、というのは稀に気になるフィールドや、レベリングに使えそうなフィールドが迷宮区だったと言うだけであり、最上層まで探索したことは一度もない。

 

 そう、一度もないのだ。それがバレた。

 攻略組トップクラスの癖に攻略組の目標トップクラスの目標の迷宮区の踏破に貢献してないとは何様? という感じだろう。

 ベータ時代に引き続いて俺は貢献度ボーナスや、ラストアタックボーナスなどの取得率がかなり高い。

 そんなレアアイテムスティーラーである俺がボス戦でしか活躍していないということがバレればどうなるか。

 そんなのは決まりきっている。ソロプレイヤーのことをよく思わない連中が俺たちを追い出そうとするのだ。

 ソロプレイヤーは、その危険さからプレイヤースキルが高い奴が多い。

 といっても上層で活動しているソロプレイヤーは十人ちょっとしかいないし、攻略組の枠組みに入るやつでは俺とキリトを入れても片手で足りるほどだ。

 ソロプレイヤーは経験値をすべて一人で得ることが出来るためにアイテムや経験値を多く所持している。

 それを自己中心的なプレイだと批判するやつも一定数いるのだ。

 なお、ソロプレイヤーの数の話は七十層に入る前の話である。

 七十層に入ってからはエネミーのアルゴリズムにイレギュラー性。つまり事故要素が増えておりソロプレイの難易度が高まった。

 そのため現在のソロプレイヤーは俺とキリトだけ。それ以外のソロプレイヤーは七十層以下で活動し続けているか、コンビ以上で活動している。

 

 なので俺に迷宮区のマッピングが言い渡されたのである。

 なお、キリトはアスナとのコンビで活動している。

 

 話はそれたが、そういう理由で俺は今トカゲ男と特攻の乗らないまともな戦いをしているのである。

 七十層からはイレギュラー性が増えたとともに、AIの学習速度が増している。

 コンビ以上ならスイッチによる撹乱がさらに効果を増すので問題は無いのだが、ソロだとその学習性が厄介なのでさっさと倒すのがセオリーとなっている。

 といってもソードスキルの軌道や移動距離などは固定値なため、ソードスキルを誘発出来れば問題はない。

 下層の頃ではソードスキルは怖いと言われていたが上層ではボーナスとまで言われている。

 なので俺もソードスキルを誘発して立ち回っている。

 距離を取れば曲刀系突進スキルで突進してくるので最初の個体で把握した距離で立ち止まって鼻先を剣先が通り過ぎるのを待つ。

 空振りしたトカゲ男に、こちらも片手剣重攻撃スキルでダメージを加えていく。

 一度で三割から四割ほどのダメージで、二度もやれば学習機能で通じなくなる。

 残った体力は別のスキルを誘発させて削るのだ。

 昔、特攻が乗らない敵は一撃で倒せないので面倒だなというと、キリトはそれが普通なんだよと呆れていたことを思い出す。

 

 バステトが肩でなー、と鳴いて戦闘の終了を告げるベルの替わりになる。

 再び迷宮区の探索を開始する。

 迷宮区は特に目印などないので分かれ道に入ったらどちらかに進んで行き止まりが現れるまで進み続けるのだ。

 正解の道が分からないので一日進み続けて階段が見つからなければ帰って翌日別の道へと繰り返すのだ。

 俯瞰視点で迷宮区を見ることが出来れば便利なのになと思っているところだ。

 

 今日も往復の時間を考えてこの道の探索を諦めて帰ろうとすると、途中の三叉路のひとつからキリトたちが飛び出してきて、もう一方の道へ突き進んでいく。

 その形相から何かあったなと確信し、俺も【インカーネイト・オーバーライド】を起動して追いかけることにした。

 

 その先にはボスエリアを示す柱と扉が。

 異常を挙げるとすれば、柱にはボス戦中を示す青白い炎が灯り、開きっぱなしの扉の向こうでは明らかにフルレイドに満たない人数の重装備プレイヤー達が戦っている。

 その相手は悪魔という言葉がふさわしい山羊頭の巨体をもつフロアボス。

 下層でフロアボスソロ討伐をした俺が言うことではないかもしれないが、本来フロアボスとは偵察をしたあとにフルレイドで挑むものである。

 中のヤツらを知っているらしいキリトいわく、二人足りないらしい。

 

 二人。それが意味する価値はかなり高い。現在の人数は十人、元の人数は十二人。

 フルレイドから二人が抜けただけなら問題なく立ち回ることが出来るが、二パーティーから二人ではまともにボスと戦うことも出来ないだろう。

 

 キリトが転移結晶を使うように呼びかけるが、中のメンバーは結晶が使えないと叫び返してくる。

 結晶が使えない。つまりHPを瞬間回復させることも、転移結晶での離脱も許されない。

 ここにいない二人のメンバーはポリゴン片となって消え去ったのだろう。

 リーダー格の男は撤退など許さんと叫び、突撃命令を下す。

 突撃命令は下策も下策である。

 以前俺がオレンジプレイヤーの集団を相手にしたように、複数で単数に同時に挑んでも意味が無いのだ。

 同時にではなく、連携するように戦わなければいけない。

 そうしなければ圧倒的強者であるボスに一蹴されるだけなのだから。

 

 突撃するメンバー達に山羊頭から炎のブレスが放射され、その勢いに負けて突進が緩む。

 そこに巨体が持つ剣が突き刺さる。

 そのまますくい上げられるように切り飛ばされ、ボスの頭を超えるように俺たちの前に落下してきたのはリーダー格の男だった。

 そのHPバーは全損しており、蘇生アイテムの期限である十秒を超えてポリゴン片となって霧散する。

 アスナは目前の死に堪えられなくなったのかボス部屋に突進し、キリトと俺、あとからやってきたクライン率いる風林火山のメンバーも追って入場する。

 

 若干冷静さを欠いているアスナを補佐するようにキリトが立ち回り、俺とクラインが二人の作った隙に攻撃を加えて軍のメンバーからヘイトを奪い取る。

 その隙にクライン以外の風林火山のメンバーが生き残りをボス部屋の外へ運び出す。

 が、俺達が戦っているのはボス部屋の中央、対して生き残りがいる場所は入口の正反対だ。

 なかなか運び出すことが出来ず、そのうちにアスナの補佐で防御を繰り返しているキリトのHPがどんどん削れていく。

 

 ボスの攻撃がキリトの体を捉えると、そのHPを大きく削る。

 それを見て我に返ったアスナと俺たちに、キリトはボスの攻撃にソードスキルをぶちあてて空白の時間を生み出すと十秒持ちこたえてくれと要請する。

 

 俺もアスナもクラインも、速度重視の武器であるために武器防御には適さない。 

 二人はわからないが、そもそも俺は【武器防御】のスキルすら持っていないのだ。

 それを分かっていてそう頼んだということは、キリトには切り札があるということだろう。

 

 思いつくのは【二刀流】クリスマスのあの日に感じた違和感と、リズの打った剣が使われていないという事実。

 だが、ただ一つのスキルでボスを打ち倒すことが出来るのだろうか?

 俺も【成長の代償】と【食いしばり】でフロアボスを倒しはしたが、あれはGMに回収されるほどの反則スキルである。

 【二刀流】がそこまでの力を持っているのかは疑問だが、少なくとも状況を好転させる力は持っているだろうと信じてキリトを待つべくボスのヘイトを維持する。

 三人でタゲを分散し、ボスの振り向きにより時間を稼ぐという面倒な戦い方で十秒を稼ぎ、キリトが二本の剣を持っているのを横目で確認すると、ボスの胴体にソードスキルをぶち当てて再び一瞬の空白期間を作りキリトとスイッチする。

 

 それからのキリトはすごかった。

 左右の剣にライトエフェクトを纏わせ、何回ソードスキルを使っているんだと言わんばかりの連撃を繰り返す。

 その剣速は【急制動】を使用している時の俺を上回るのではと思わされるほどで、ボスの攻撃をギリギリで躱すような頭がおかしい攻防の末、ボスのHPバーを吹き飛ばした。

 キリトのHPバーはドット単位まで削られており、本当にギリギリの戦いだったことが見て取れる。

 本当ならば俺達も参加するべきだったのだろうが、キリトとボスの打ち合いがギリギリの綱渡りであることを理解していた俺たちは参加することでその均衡が崩れることを恐れて攻撃することが出来なかったのだ。

 キリトが吹き飛ばしたボスの体力は、早めのレッドゾーンに入ったラストゲージの三割ほどだったが、それでもまともな防御も回復も行わずに一息で成し遂げたキリトは凄いと思う。

 なぜなら、ソードスキル一回でゲージの三割を吹き飛ばすことが出来るというのならば、その瞬間火力は凄まじいものとなるからだ。

 あの時【二刀流】を取得しておけばと思う反面、あれはキリトが扱う脳筋剣だからこその結果だと思わされるところもある。 

 そもそも俺は器用ではないのでソードスキルはともかく普段の戦いで二本の剣を使うのは難しそうだ。

 

 ボスがポリゴンとなったことを見届けたキリトは、いつかの俺のように崩れ落ち、そこにアスナが駆け寄る。 

 HPバーが消滅していないこと、ポリゴンとなっていないことから生存はわかるが、やはり心配なのは心配なのだ。

 

 キリトほどではないが、俺達もさすがに疲れ、床に座り込む。

 もうフロアボス少数攻略は懲り懲りだ。




バーストはしょっちゅうイエローバーやレッドバーにまで削られているという裏設定があるのですが、それ用のエクストラスキルを考えておけばよかったと思いました。

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