デスゲームでオワタ式を強制されたのでゾンビプレイします 作:にゃー
最初から迷走してましたが。
あと1話か2話で完結すると思います。
なお、あとはほとんどキリトが主人公するのではないでしょうか。
スタートボタンを押しても問題なさそうです。
あの決闘から数日、俺はレベリングに行く気力も湧かないままアルゴの護衛として上へ下へ右へ左へとアインクラッドの情報収集の補佐をしていた。
そんなある日、久しぶりに猫族の祠へ一人でお参りに来たのだが、祠の扉のようなものが開かれ、中にワープしますよと言わんばかりの渦が出現していた。
久しぶりのバステト関連イベントか?
最近そこまで強いやつとは戦っていないが大丈夫だろうか?
……多分大丈夫だろう。そう思って渦に手を伸ばすと、転移する時特有の感覚とともに視界が光に包まれた。
転移先は、明らかに今までのSAOとは気色が違う場所だった。
そもそもアインクラッドの外に来ている。
空中にある透明な床を確かめながら、先へ進むと、今度は金色の渦。もうどうにでもなれと再び俺は渦に飛び込んだ。
次の転移場所は、黄土色の石で作られた超巨大円形闘技場だった。
俺の向かい側にいるのは、百九十ほどのがっしりした巨体の頭に巨大なフンコロガシがくっついている――否、頭そのものがフンコロガシであるエネミーだ。
ついに来たか。と思わされる。敵の名前は“ラー”エジプト神話の創造神とされる神である。
HPバーは脅威の九本。これは復活はしないだろう。
直近のバステトイベントは比較的な楽なものばかりだったから油断していたが、バステトイベントはフロアボスの討伐をさせようとする頭がおかしいイベントであることを忘れていた。
少数攻略は懲り懲りだと思ったところに単数攻略。
全く、めんどくさいことをしてくれる。
とりあえずは予備の剣からかな。
クイックチェンジで予備の剣を取り出し、構えるとラーは距離を詰めてその手に持った杖で薙ぎ払ってくる。
地に伏せるように上体を屈め、攻撃を回避したあとに切り上げるように攻撃を繰り出す。
その攻撃は正中線を綺麗に切り裂き、ラーのHPバーを目に見えて削った。
……バステトの農業ボーナスの昆虫特攻が効いてそうだ。
これなら比較的楽に倒せるだろう。
俺は切り上げで伸びきった体を、上側に縮めるように跳ぶと、ラーの胸板を蹴りつけて離脱する。
距離をとった俺に再び距離を詰めて横凪の一撃を加えてこようとするラー。
その攻撃はさっき見たばかりだ。
同じ手段で回避しようとすると、屈んだところで左肩に激痛がはしる。
見てみればそこにはラーの杖が叩きつけられていた。
HPバーはギリギリでイエロー。
俺の回復速度はかなり早いので攻撃を受けた直後はレッドまで削られていたのかもしれない。
転がるように離脱してHPが回復するまで反撃は考えずに距離を取り続けて時間を稼ぐ。
三度ほどラーの突進を受けたが、杖が振られたあとの空気の動き方や、土煙の舞い方がおかしかった。
横に凪がれたのならば土煙は横に舞うはずだし、縦に叩きつけられたのなら左右に割れるように舞うはずなのだ。
それなのに振られ方と舞い方に差がある。
つまり、ラーの攻撃は見えているのと違う方から飛んでくる。
さて、どうやって攻略するか。
攻撃のあとにどのように振られたなと理解するのは簡単なのだが、カウンターを入れるためにはその前に攻撃の軌道を看破してそれに合った回避をしなければならない。
やろうと思えば急速接近、急速離脱で攻撃を入れることは出来るだろうが、カウンターとしてダメージボーナスが乗らないし、何より疲れるので九本ゲージがあるこいつにやりたくない。
それからHPが満タンになるたびにラーの攻撃を近距離で回避しようと試してみるのだが、なかなか上手くいかない。
そして、何となく違和感がある。土煙も違和感の一因なのだが、それ以外になにか、絶対的に変なところがある気がするのだ。
この普通ではありえないようなものを見た時のムズムズした感覚はそう感じるものではない。
考えて、距離をとって、よく見て、理解する。
ラーの腕と影の動きが一致していないのだ。
そりゃあ違和感を感じるはずである。
影の動きは土煙と連動している。つまり、影の動きから予想して動けばなんとかなるはずだ。
太陽神が影の動きで攻略されるとは何たる皮肉か。連撃となると流石に影の動きを追えないために離脱することになるが、単発攻撃にカウンターを重ねていき、ようやくゲージを三段吹き飛ばした。
すると、東側の空に浮かんでいた太陽が真上に移動し、ラーの姿もフンコロガシの男からハヤブサ頭の男へ変化した。
ハヤブサのラーの攻撃手段はフンコロガシの頃と変わらず、杖による攻撃だ。
しかし、先程まで脅威であった実際の動きと目に見える動きが違うということがなく、防御係数も低く設定されているのか、あっさりと再び三段のゲージを吹き飛ばし、あと三段だと思った瞬間、HPが減り、黒く染まっていたゲージに緑色の光が灯る。
それは、HPの回復を意味していた。
回復されたHPは三段。こいつがハヤブサになってから削った分と同等である。
ギミックを解除しないとHPが回復するボスなんかはたまにいる。
が、こいつの話は今まで全く聞かなかった。
そもそもバステトイベントはすべてが突発的なのだから当たり前だ。
つまり、ノーヒントでギミックの突破が必要というわけか。
デスゲームでこんなことをさせるなんて絶対におかしい。
さてさて攻撃を避けながら思考タイム。もう一回くらいは攻撃してもいいかもしれないが、どうせギミック持ちだ。
ラーは多くの神と習合された存在であり、様々な姿を持つ。さっきのフンコロガシはその形態の一つであるケプリ。別の神という訳ではなく、ラーの別形態とされているものだ。
いまの姿はハヤブサ。ラー・ホルアクティ――ラーとホルスが習合されたものであり、ラーの昼の姿はハヤブサとされている。
夜の形態もあるが今は関係なさそうなので省略。
多分、いまのラーはホルスの性質が前面に出ているものだと思う。
ホルスは太陽の目と月の目を持ち、ハトホルを妻にする太陽神だ。
少なくとも再生に関連する逸話は……。
いや、昔セトとホルスが戦ったということを思い出した気がする。
ホルスはセトの左足と男根をもぎ取って、ホルスは左目をセトに持っていかれたという話があったはずだ。
その後、左目は月と時間の神、トートに癒されてホルスの元に戻ったという。
そのことからホルスの左目は再生の象徴として見られることになったとか。
そもそも、月とは満ちて欠けるものであり、それそのものが再生の象徴でもあるか。
つまり、左目が無くなれば回復はできないだろ!
そう思って俺は、
左側。
どうしてこんな簡単なミスをしたかと聞かれれば、答えは単純だ。
戦闘中に考え事して左目が弱点だと看破して、テンションが上がって考えなしに攻撃をしたとか、そもそも戦闘中に左右を考えたことがなかったとか。色々あるが、俺が切り裂いた右目は、そのまま地面に落ちると、雌ライオンの頭を持つ女性となった。
ホルスの左目は月の瞳、ウアジェトの目。
ホルスの右目は太陽の瞳。では、その名前は?
ラーの瞳である。
ラーは片目を作り替えて地上に落とし、その女神は、破壊の限りを尽くしたという。
その女神は、ご存知セクメトである。
ふざけんなと叫びたいが、これは俺のミス。
ホルスの左目も切り裂いて視界を奪った後に、セクメトを見て戦いを始める。
今回は中に誰もいなさそうだ。
AIとしての戦い方のような気がする。
セクメトも基本的には杖での攻撃と、いつかのように二種類のブレスをうち分けてくる。
躱して攻撃、躱して攻撃。
疫病をもらったらステータス低下がめんどくさいので結晶を割る。
視界を奪ったはずのラーも攻撃をしてくるのでしっかり躱してから遠くに吹き飛ばす。
こいつらの優しいところはボスなのにでかくないところである。
普通のボスならば吹き飛ばすなんてことは出来ないのでとても優しい。
でも、どうせ優しいならタイマン勝負して欲しい。
セクメト自体はメイン討伐目標ではないからか、意外と体力が低く、いつかのように復活することもなかったので撃破。
セクメトとの戦闘中に何度か吹き飛ばしたラーのHPもそこそこ削れていたので、四段目を削りきって残り三段。
回復されることはなく、無事に次の段階に進みそうだ。
次も変身するのだろう?
たしか、羊だったか。
そう思っていると、円形闘技場が浮き出して移動を始める。
五分ほどでアインクラッドを見ることが出来る所まで移動し、やっとラーの第三形態が現れた。
今までの半人半獣とは違い、完全な羊の姿だ。
一般エネミーと比べれば大きいものの、フンコロガシよりは倒しやすそうだと思っていると、上から何かが降ってくる。
後に跳んで回避すれば、そこにいるのは犬頭の人型。
名前はセト。ああそうですか。
今の俺は太陽の運行を妨げる冥界の悪魔ってことね。
さて、相手はオシリスをバラバラ死体にするくらい強い軍神様だ。
ラーがちょっかいかけてこないとしても厳しい戦いになりそうだ。
セトは普通に強かった。炎の息を吐くわけでも、視界を奪ってくるわけでもないが、単純に強い。
例えるのならば奇抜な攻撃手段を持つエネミーではなく、基礎を固めに固めてきた結果の強さ。
攻略組のヤツらが持つような強さである。
早く巧みな杖さばきに、足での攻撃など、なかなか苦戦させられる。
こちらも杖をくぐり抜けるように肉薄し、攻撃を加え、足での下段攻撃は【体術】のソードスキルでサマーソルトを行い回避する。
超近距離での踊るような戦闘がどれほど続いたか。
俺のHPも何度か赤くなり、その度に防戦へと入りを繰り返したが、最後は足技を読んだソードスキルで左足を切り飛ばして撃破した。
セトがポリゴン片となり消滅すると、宙に浮いていた闘技場が大きく揺れ、羊の姿をしているラーが夜の闇に包まれてそのHPバーを減らしていく。
ラーが闇に包まれたことで暗くなったことにより耳にかけられた太陽神の瞳が発光を始める。
やっとクリアか。と思った瞬間、勾玉からバステトが出てきてラーの闇へ向かって走る。
あれが演出であれば問題は無いが、ダメージ判定があればバステトはあっさりと死んでしまうだろう。
【急制動】でバステトを捕まえるが、俺の腕の中で暴れるバステト。
……もしかしなくても助けたいとかか?
いちおうラーの娘とされることもあるしな。
さて、救うとして、何をするべきか。
バステトがこんな反応をするということはどこかに道があるはずだが……。
闇を中和できないかと太陽神の瞳を近づけてみる。効果はなし。
太陽の運行を妨げる闇、つまりアペブと仮定してアペブを拘束するための鎖を巻き付けてみる。効果は皆無ではないがHPの減少は止まらない。
何かないかと周囲を見てみれば、俺が切り飛ばしたセトの左足が消滅せずに転がっていた。
セトの左足を拾って闇に投げつける。やはり効果がない訳では無いがHPの減少は止まらない。
万事休すか。
最後の悪あがきとして闇を攻撃してみよう。
どうせ当たらないかラーのHPが削れるだけだろうが。
武器は【猫神の加護】が乗る切り札。
バフは【インカーネイト・オーバライド】まで含めた全乗せ。
LAボーナスは頂いていくぞと一閃すれば、闇は切り裂かれ、その直後、ラーのHPバーもゼロとなった。
暗く、太陽神の瞳の光で見通していた空間は太陽に照らされたように明るくなり、俺の足元にここへ来る時に通った金色の渦が出現し、転移の光に飲み込まれる。
報酬貰ってないのだがと思ったが、転移の強制力には適わず、視界が白く染まった瞬間、一瞬の浮遊感とともに転移先へ移動した。