デスゲームでオワタ式を強制されたのでゾンビプレイします 作:にゃー
一応原作3巻に触れたかな?
多分というかほぼ確実に次回はあの人が登場します。
定期メンテ→緊急メンテに修正
俺は詩乃を探すためにブラブラと都内を走っていた日課を辞めることなく今日も走っていた。
ルートを設定するのが少々面倒だが、走るというのは楽しいものだ。
SAOもたくさん走っていた気がするし、スピード中毒になっているのかもしれない。
ちなみにスピードとは速度のことで、怪しいお薬の別名ではない。
今日はALOの緊急メンテだったため、昼間に走っていたのだが、スーパーを通りがかった時に日常ではありえないような風景を目撃した。
それは、黒く、大きく、主婦というにはあまりにも大きすぎた。
つまり、エギルである。エギルが白いTシャツの上にエプロンを着て両手にまん丸膨らんだビニール袋を持ってスーパーから出てきていたのだ。
声をかけるかは迷ったが、エギルならあの世界を憎んではいなさそうだし、何よりそうだったとしても大人な対応をしてくれると思った俺は、よーす。とSAO時代にエギルの店に入る時の挨拶をした。
エギルは一瞬戸惑っていたが、俺が前髪を上げると誰だかわかったようで、久しぶりだなと笑ってくれた。
リアルでも中の名前で呼ぶことはオフなどではよくあることだが、ゲームがゲームだ。
その事を考えてくれたのか、エギルが自己紹介をする。
アンドリュー・ギルバード・ミルズ。それがエギルの名前だった。
こっちも自己紹介。
エギルは今年で二十七歳らしい。
俺は今年で十七だ。十七だけど四月から高校一年生だ。
立ち話もなんだしと案内されたのは、スーパーからほど近いバーだった。
近いけれども、裏通りにあるので精神的な距離は結構ある知る人ぞ知ると言った感じの店だ。
カウンター席に座らされたのでとりあえず飲み物を注文。
白ワインが欲しいな。SAO時代には何度も飲んだ飲み物だ。
うちを潰す気かとエギルに軽くチョップされ、コーヒーを出される。
SAO時代は酒を飲んでも酔わなかったのでうまいうまいとガブガブ飲んだのだが、リアルではまだ飲める年じゃない。
コーヒーを一口飲んで、軽く話をする。
この店はSAOに囚われる半年ほど前に開店して、軌道に乗ったところでエギルがSAOに囚われたらしい。
二年間たち、今でもなお残っているのは奥さんが一人で店を回してくれていたからとのこと。
エギルはリハビリを頑張って年末前には復帰、それ以来はバーテンとして頑張っているらしいが、客の人気は奥さんが独り占めしているらしい。
俺も筋トレ頑張ったんだぜと腕を出せば、その細腕でか? と笑いながら握ってくるエギル。
しかしその表情は一転し、中身が詰まっていて甲殻類なら美味そうだなというよく分からない答えを出す。
今ならエギルとの腕相撲でも勝てるかもなと冗談を言えば、エギルがカウンターに肘をつき、試してみるかという。
受けてたった俺は、数秒後には肩を抑えて痛みを堪えていた。
結論、エギルの筋肉すごい。
そう言えばと、キリトとアスナが生きていることを伝える。
あの時は二人とも死んでしまったと思っていたのでいつかエギルとクラインには絶対に伝えてやろうと思っていた。
ちなみにエギルは既にキリトと連絡を取っていたらしい。
先月末、つまりクリスマスや年末行事のある頃にキリトから連絡が来たんだとか。
あいつもSAO対策うんたらのお偉いさんに目をつけられていたらしく、協力ついでに俺たちの番号やらを教えて貰っていたらしい。
なにそれこわい。
俺はエギルにキリトのリアルを教えてもらい、これから会いに行くことにした。
そこまで遠い距離ではない。いつもより走る距離が長くなるのはあまり好ましくないが、まあいいだろう。
コーヒー代を払って店を出ると、携帯端末でエギルの店にGPSのピンを立てるとキリトの家に向かった。
◇
キリト――桐々谷和人の自宅には二時間も経たずに到着した。
インターフォンを鳴らせば女の子の声。
和人君の友人なんですけどーといえばおにーちゃーんと和人を呼んでからヤバッと、インターフォンから聞こえてくる音がなくなった。
慌てて通話を切ったのだろう。
しばらくすればSAO時代より子供になったのではと感じさせる少年が出てきた。
雰囲気がそうなだけで顔は変わらないのでよっすと手を挙げて声をかける。
少年はバ――と一言出そうとして止めてから、頭を掻いて久しぶりだなと言う。
やはりSAO時代のプレイヤーネームは禁句なのだろう。
知ってるかもしれないが、猫神黒虎だといえば、
ゆーは何しに我が家へ?
と問われるが、理由はない。強いていえば一方的に情報が抜かれていると聞いたから来ただけだ。
誰に聞いたと聞かれたのでアンドリュー・ギルバード・ミルズと答えると、ああエギルかと納得する和人。
ここまでは電車できたのかと聞かれ、走ってきたと答えればマジかと驚かれ、とりあえず上がっていくかと提案される。
そんじゃあお言葉に甘えて。と、玄関から上がろうとしたのだが、縁側というのだろうか。
庭に面した廊下のようなところが目に入り、何となくそちらでいいかと和人に問いかける。
縁側に座れば和人が「直葉ー」と妹ちゃんに声をかけてお茶を持ってくるように頼む。
少しすると、パッツンでスタイル抜群の女の子が風呂上がりっぼく肌を紅潮させ、髪を濡らしてお茶を持ってきてくれた。
お礼を言って受け取ると、彼女に和人との関係を聞かれる。
SAOの中でのことはあまり話さない方がいいかなと和人に目配せすれば、最低限になと目で返ってくる。
SAOの中で知り合いになったんだぜーと言えば、SAOのことを聞かれる。
お兄ちゃんは何も話してくれないんですとのこと。
まーそればっかりはな。
当事者とはいえ部外者でもある俺が妹ちゃんに話すわけにはいかないといえば、そうですかと残念そうな顔をする。
見た感じ高校に上がるか上がらないかと言ったところだろうか。
これくらいになるとお兄ちゃんなんて知らない!
となると聞いていたが、やはり二年間のお兄ちゃんニウムがなければこうなるものだろうか。
話題を変えるべく何かないかとあたりを見回せば、竹刀が壁に立てかけてあった。
二人に剣道をやるのかと聞いてみれば、和人が自慢げにうちの妹は全中ベストエイトなんだぜと言う。
ベストエイトがどのくらい強いのかは分からないが、結果を出せているということは凄いのだろう。
持ってみます? と竹刀を妹ちゃんに渡され、持ってみれば――
「重いな……」
と思わず言ってしまう重さがあった。
妹ちゃんはですよね! お兄ちゃんってば軽いっていうんですよ!?
とまくし立てる。
俺が重いと言ったのは重量的な話ではなく、重心というか、そんな感じだ。
和人も重量ではなく感覚的なことを言ったのだろう。
適当に笑ってごまかすと、和人に振っていくかと聞かれる。
リアルではまだ剣を振ったことないしと頼んで裏手の道場に案内される。
道場で妹ちゃんに教えて貰って振ると、思っていたよりもキツい。
現役剣道部員は素振り千本とかやるのだろうか。
出来なくはないだろうがかなり疲れそうだ。
しばらく振っていると、道場の奥から剣道の防具を着てそれとは別にもうひとつ防具を持った和人がやってきた。
和人に言われて妹ちゃんに防具を着せてもらうと、試合となった。
妹ちゃんは黒虎さんは初心者なんだよ!
と言っているが、本当にそうだ。
剣道の試合形式なんてメンドウコテくらいしか知らないぞ。
和人は軽く笑ってルールとかは気にするなと全中ベストエイトの前で酷いことを言う。
竹刀を受け取って構える。
俺も和人も中段の構えなんて知らんとばかりの構えだ。
俺も和人も左手を前に出し、剣を体で隠すように半身になり、俺はだらんと完全に垂れ下げ、和人は重心を落として下段に構えている。
妹ちゃんは、黒虎さんも!?
と驚いているが、恐らく和人の構えを見たことがあったのだろう。
お互いに構えてぴったり六十秒後、俺と和人は動き出した。
剣道の距離であったため決闘のように距離が開いていた訳では無い。
しかし、現実の体であることでその分は相殺されていた。
ゼロ距離になり、和人が剣を振り上げる。
SAO時代と比べればノロノロだが、俺の体の動きもノロノロだ。
ギリギリで躱し、九十度移動して剣を振り上げている和人の手に下段からの攻撃。
和人は俺から離れるように横に跳ぶと、床に着地してこちらに向き直る。
それからはお互いに打ち込み、躱し合う戦いとなった。
SAO時代は三次元的な動きがあったが、今回は平面的な戦いだ。
お互いに防具を着込み、竹刀を振り続けていると、流石に疲れる。
二人同時に後に跳んで息を整える。
もはや剣道の道具を使った別のなにかだ。
竹刀を左脇側に抱え込み、左手をあげて剣の腹を撫でるように構える。
和人との距離が近くなると左側から水平に剣を振り――後に下がることで躱され、振り終わりに攻撃しようと和人が上段に剣を構えて突進してくる――すぐさま柄を左手で掴んで切り返す。
ばしーん!! という甲高い音が道場いっぱいに響き渡った。
和人は数歩ふらついたが、倒れるまでは行かなかった。
大丈夫か? と聞けば今日二回目だから大丈夫だと返される。
頭の防具を外した和人が道場の床に座り、«スネークバイト»なんて久しぶりに見たわと感嘆の声を漏らす。
リアルでは剣を振ってなかったがALOではさんざん振ってたからな。
あんな試合見たことなかった! ……そもそも剣道じゃない気がするけど。
と賞賛してくれる妹ちゃんに防具を脱がせてもらい、やっぱり剣道じゃないんだと思う。
防具を片付けて見様見真似で礼をして道場を出ると、和人が外出するとの事で今日は解散となった。
和人とついでに妹ちゃんに連絡先を教え、俺は走って家に帰ることにした。
◇
「みつけた」
◇
家に帰った俺は、シャワーを浴びて汗を流す。
和人との試合もそうだし走ったことによる汗の量も半端ではない。
途中のスーパーで買った常温のスポーツドリンクを一気飲みすると、シャワーの水をしっかり拭いてから少し休憩をするために寝ることにした。
流石にハードワークすぎたわ。
猫神黒虎
小さい頃は女の子と見分けがつかないこともあったため、もはや虎(笑)であり、クロちゃんと呼ばれていた。
どこかの飼い猫か!と怒って男っぽくなるためには筋肉だな!
と筋トレをしたものの、体質のせいで目に見えて筋肉がつくことはなく、半年と経たずに筋トレは終了した。
いろんなゲームのキャラクターネームに猫系の神様の名前を使っているが、SAOの少し前からはバステト、バスト、バーストと言った感じの名前が多い。