デスゲームでオワタ式を強制されたのでゾンビプレイします   作:にゃー

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証拠はあるんですか証拠は! 偶然の一致です。 記憶にございません

 路地裏に入っていくことを怖がる詩乃の背中を押してたどり着いたのはエギルの店。

 よーすとドアを開けばいらっしゃいとエギル。

 詩乃は完全に怯えてしまって俺の背中に隠れるが、俺がカウンターに向かって進むのでエギルとの距離もだんだん近くなる。

 カウンター席に座ると、今日はどんなようで来たんだ?

 とエギル。

 俺が、用がなければきちゃいけないのか? と言えばそんなことは無いけどな返される。

 

 今日来た理由は和人に呼ばれたからだといえば、なるほど。と頷いて、二度手間になるのは面倒だから和人が来るまでコーヒーでも飲んで待ってろと言われ、コーヒー三つとショートケーキが二つ。

 亜子と詩乃の分だけで俺の分はないようだ。

 

 とはいえエギルも客が俺たち以外におらず暇なのか話しかけてくる。

 具体的には俺と二人の関係だな。

 エギルに大きめの液晶のタブレットを貸してもらい、国民的マスコットである鼠を表示、ちょうど耳のあたりだけが亜子の頭からはみ出るように倍率を調整して亜子の頭の後ろに持っていけば――なるほど! と手を叩いて納得するエギル。

 お察しの通りネズミのアルゴこと、春――猫神――亜子でございます。

 おい、被せるな。春園さんです。

 んでこっちの眼鏡をかけたかわいこちゃんは、俺の妹分のようななんというか、つまり幼馴染? とも少し違う気がするがSAO以前の知り合いである。

 名前は朝――猫神――詩乃。

 お前も被せてくるのか。朝田ね。

 亜子も詩乃もしてやったりという顔をしているので、つい二人がとっておいたショートケーキのイチゴを二つとも食ってしまった。

 最初はエギルを怖がっていた詩乃だが、ショートケーキにつられていつもの調子に戻ったらしい。

 

 もぐもぐとイチゴを食べながら二人の紹介が終わると和人がチリンチリーンと入口から入ってきた。

 よーすと手をあげれば同じように返してくる和人だが、なんとなく急いでいるようだ。

 そのままカウンター席に座ると、あれはなんだとエギルに問う。

 あれってなんだよという顔の俺たち三人を見て、エギルはカウンターの下から一枚の写真を取り出す。

 金色の格子の向こう側に白で統一された調度品たちがあり、そこに腰掛けている一人の少女。

 画像が荒く、はっきりとは言えないがアスナに似ているな。

 どう思うとエギルが聞き、詩乃以外の三人が似ている。と一斉につぶやく。

 詩乃ははてなマークを浮かべていたが、あいつ(和人)のSAO時代の恋人に似てるんだよとだけ言って話を進める。

 

 エギルは俺たちの返答を聞いて、やっぱりなとつぶやいた。

 和人はこれはどこなんだとエギルを急かす。

 エギルはカウンターの下からひとつのソフトを取り出すと、この中だ。と言った。

 

 そのソフトはALOと呼ばれ、SAO事件から未だ醒めない三百人の被害者たちが幽閉されている可能性があると、対策本部のお偉いさんが考えているソフトで、実際そのデータはSAOのものをほとんど流用されて作られているものだ。

 

 世界樹、全プレイヤーの到達目標であるその木の上に正規ルートではなく多段ロケット式で飛んでいこうと考えたやつがいたらしい。

 そいつらが限界まで飛んだ先でスクリーンショットを撮りまくった結果、その中にこの写真の拡大もとが入っていたらしい。

 もっとも、それに対して運営は緊急メンテナンスを行ってプレイヤーが入れないように障壁を設置したらしいが。

 和人はパッケージを舐めまわしたあとに、ある一部分をみて何やら思いつめた顔をしてから首を振り、エギルにアスナ以外の未帰還者が写っている写真はないかと問いかける。

 そんなものがあったら警察に連絡してるよとエギルは言って首を振る。

 

 和人はエギルにALOを貰うこととなり、ソフトを受け取って店を出ていこうとした。

 ので引き止める。

 俺が来た意味ある?

 いや、確かにアスナの居場所はしれたから意味はあったけどさ。

 それに、ALOの中にアスナがいるなら俺も十二分に協力できる。

 和人を座らせると、対策本部のお偉いさんがALOを睨んでいることを教え、とりあえずエギルに番号を教えて伝えてもらうことにした。

 俺の名前を出してもらえれば多分平気だろう。

 エギルがカウンターの奥に引っ込んでいったあと、和人と、ついでに亜子と詩乃にALOのことを教える。

 合流すれば詳しいことは中で伝えられるのだから簡単なことだけだ。

 それが終わったあとに解散し、エギルから対策本部の動きを聞く。

 どうやらこれだけでは証拠が足りないらしい。

 動けないとは言っていたが、ALOの調査にさらに力を入れるとは返ってきたようだ。

 それを聞いて俺たちはボロアパートに戻った。

 

 帰りの電車で、ほとんど話がわかっていなかったであろう詩乃に補足をする。

 あの写真に写っていたのは、和人のSAO時代の恋人で、その写真が撮られたのはALOの中。

 つまりALOの中には未帰還者であるアスナは確定として、そのほかの未帰還者達もいるかもしれない。

 三百人の精神がどこにあるかを探している機関があって、そこに連絡してみたけど企業のゲームに決定的な証拠がないまま踏み込むのは難しい。

 だから俺たち――というか俺と和人は証拠をつかむか、直接アスナをログアウトするのが目的である。

 その為には未だクリアされていない世界樹を登らないといけないんですけどね……ハハッ。

 

 俺は多分だが、と前置きして少なくとも楽しんでゲームはできないかもという。

 だから俺と一緒にではなく自由にやることを勧めるが、亜子はあーちゃんを助けるんダロ?

 とネズミのアルゴとして返答し、詩乃もこういう悪事が許せないのか私も手伝うわと返してくる。

 レベル制ならば足でまといになるかもしれないが、スキル制なので二人がいて不利になるということはないだろう。

 亜子は情報屋として活動していたが戦闘が全くできないという訳では無いし、詩乃も運動神経はそこそこある。

 装備の類も俺がSAOから引き継いだ通貨を使えば買い揃えられる。

 二人には悪いが手伝ってもらうことにしよう。

 

 ◇

 

 ボロアパートにもどり、俺のベッドから布団を剥ぎ取り、いつ使うのかもわからず押入れに押し込んでいた予備の布団と組み合わせて三人寝転がれる場所を確保すると、俺たちはそれぞれハードを被ってダイブする。

 

 和人にはログインしたらとりあえずアルンまで来るように言ってあるし、ログアウトするたびに進捗を伝えるように言ってある。

 あいつもナーヴギアでログインすると言っていたので恐らくSAO時代のものが引き継がれているから一人でもアルンまでは来ることが出来るだろう。

 本当に、SAO時代のフレンド登録していなくても名前がわかればメッセージが送れるインスタンスメッセージが恋しくなる。

 魔法でも何個かあるのだが、完全に無関係の人間にメッセージを送れるのは【音魔法】の高位スペルのみだ。

 【闇魔法】にもフレンドのフレンドまでならメッセージどころかテレビ通話を行えるものがあるのだが、和人とのフレンド登録がないことから完全に無意味だ。

 

 俺はALOにログインしたあと、二人を待った。

 二人は俺と同じくケットシーでキャラクターを作り、俺が初日にログインした広場に現れた。

 

 アルゴとシノン。二人とも安直だな。俺も猫神から連想して付けているので変わらないかもしれないが。

 

 俺はアルンに続くダンジョンのすぐ近くに転移マーカーを設置しているのだが、あれは個人用の転移で複数人は運べない。

 しかし、進む時間を削ってでも今日は二人にALOを教えようと思う。

 翅と魔法、それからシノンには武器を試してもらわないといけないか。

 

 とりあえず防具はNPC売りの最高級品と、俺がPKで集めたプレイヤー達の二軍装備をプレゼントして防御を固めさせる。

 一軍装備は基本的にドロップしないので二軍、予備の装備となってしまうわけだ。

 しかし、俺とは違ってスキルによるステータス補正が皆無であるためか――俺もスキルリセットしてしばらくは初期装備であった――軽金属どころか革が使われている装備すら装着できなかったためその防御力上昇は微々たるものだろう。

 もっとも、ほかの場所、それこそ俺が愛してやまない敏捷力や正確性は増しているはずなので、装備による強化は成功と言えるだろう。

 

 その後にシノンに武器を試させ、俺が使っている片手剣、アルゴのクロー、短剣細剣曲刀と様々なものを試したが、ALO筆頭の微妙武器である弓に落ち着いた。

 槍以上魔法以下のリーチで、システムアシストによる命中補正のある距離が付かず離れずの距離という把握しにくい場所にあるのでなかなか使われない武器だ。

 しかしそれでも強いやつは存在するらしく、魔法とは違い、やろうと思えば連射できるその特性を活かし、近寄らせない立ち回りをしながら魔法を使うやつがいるらしい。

 シノンは理詰めで動くタイプでもあるので慣れたらすごいことになると思う。

 武装を確定させたあとに、とりあえず何をするにも必須となる翅の使い方を教える。

 二年間SAOにいたアルゴは、その中で人間には存在しない部位である尻尾を人には言えないところから生やして操作した経験があるので三十分ほどの練習の後に随意飛行を取得。

 シノンはVR初体験であったが、翅を触ったり、同じく存在しない部位であり、動かし方が翅よりも多い尻尾を外側から動かしてやると、その本来存在しないはずの部位を動かす感覚が理解出来たのかアルゴに遅れること十分ほどで随意飛行をマスターした。

 ケットシーはほかの種族と比べ、随意飛行可能者が多いという噂があるが、尻尾による経験ができるというのも大きい要因なのかもしれない。

 

 その後は二人のスキルスロットをSAOから引き継いだコルに加え、大量のプレイヤーからもぎ取ったコルにより最大解放すると、スキルの考察を始める。

 まず、インファイターであるアルゴは【軽業】【疾走】や、【精密動作】などのSAO時代から馴染み深いスキルを選択。

 【風斬りの翅】などのスキルと気に入ったという【幻惑魔法】、【音魔法】を取得した。 

 どちらも情報屋として活用できそうな魔法だものな。

 

 シノンは【精密動作】【射撃補正】【視認可能距離向上】などといった弓に関係するスキルと空中でも体勢が安定する【不動の翅】、空中での射撃にマイナス補正がかからなくなり、逆にプラス補正がかかるようになる【必中の翅】などを取得。

 魔法は【光魔法】と【氷結魔法】。どちらも遠くを見通せるようになるスペルが存在する魔法だ。

 シノンさんはどこに向かってるのだろうか。

 

 

 それからはひたすら戦闘し、アルゴは接近戦を、シノンは接近戦を行っている俺たちに当てないように敵に攻撃を当てる練習をした。 

 他にも、魔法を使うより詠唱がない分、敵に気付かれずに特定の敵だけを狙って釣り出すなどのテクニックも習得してもらった。

 

 アルゴはSAOで多少の戦闘経験があるからともかく、シノンも前衛が足止めしている。という条件でならまともに戦えるようになり、かなりいい傾向と言える。 

 無論、装備による補正でステータス値が高くなって熟練度相応の敵では役不足であるということもあるのだが。

 スキル値が高くなればステータスも伸び、そうなれば装備できなかった装備もできるようになる。

 アルンに行くまでに十分に戦闘が出来ればきっと世界樹攻略でも助けになってくれるだろう。

 


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