デスゲームでオワタ式を強制されたのでゾンビプレイします   作:にゃー

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時間よ止まれ! そなたは少しせっかちすぎる。

 俺はいつの間にか色がついていたパーティ欄に表示されている二人の体力バーを確認する。

 先程まで――少なくともオーク狩りをしている時は――はログアウトしていることが分かるグレーの表示だった。

 時間を確認してみれば既に二十二時を回っていた。

 キリトにフレンド申請を飛ばし、シルフとキリトに生き残りのメイジの尋問を任せる。

 そもそも俺は当事者ではなく巻き込まれたようなものだ。

 術者のリメインライトが消滅し、連動するように土の壁が消えたため入場できるようになったルグルーに入れば、その門の左右の柱には寄りかかるように二人がいた。

 二人にお礼を言い、助けてもらえなかったら自爆魔法のペナルティを払うところだったと安堵する。

 俺のリスポーン地点は宿屋で休憩したことによりここ、ルグルーとなっている。

 キリトたちは道中の街かスイルベーンがリスポーン地点だろうから時間的に俺が死ぬのが一番手っ取り早い。

 しかしそうすると、通常より大きい自爆魔法のペナルティに加え、俺のスキル熟練度はBSPが殆どを占めているため全スキル熟練度値半減なんてことも起こりかねない。

 本当に、最終手段だったということだ。

 

 アルゴとシノンには夜間の空腹を紛らわせるという建前でカロリーが高い(=値段が高い)出店のアイテムを何個か買わされ、しばらくするとキリトからメッセージが届いた。

 一段落したから合流だと。

 キリトの位置情報を検索して二人を連れて行くと、そこにはログアウトしている(中に誰もいませんよ)先程のシルフの姿もあった。

 

 同行者がいるとはいえ中立街の宿屋以外でログアウトするのは如何なものかと思ってキリトに確認してみれば、俺と合流少し前に彼女のフレンドから意味深なメッセージが届いていたらしい。

 そのメッセージの送り主は既にログアウトしており、しかしリアルでの知り合いなためリアル側で連絡を取ろうという考えのもの一時ログアウトしているのだと。

 

 彼女が戻るまでに キリトたちがサラマンダーから聞いたことを聞く。

 ニュースサイトで見た通りに近々サラマンダーは大規模作戦を決行するらしく、そのための不安分子を処理しに来たとのこと。

 今キリトたちを倒して不安分子の排除と言えるとしてもこの世界はデスゲームではないのでリスポーン地点から作戦決行地点までの移動時間のあいだだけしか不安は取り除けない。

 つまり、ここよりはスイルベーンの方が作戦決行地点には遠く、かつスイルベーンからここまで移動するまでには作戦は終了しているような場所――

 

 そこまで考えたところでシルフがログインしてきたらしく、大変!

 と何やら焦っているようだ。

 彼女は俺たちを見るなりケットシー!? と驚いていたが、君たちにも関係あるかも!

 そう言ってアルゴとシノンの手を引いて移動していってしまう。

 俺とキリトはなにがなんだかわからないまま彼女を追いかけた。

 

 彼女に並走しながら話を聞くと、シグルドという古株がサラマンダーと内通していて今日の会談の情報をサラマンダーに売り飛ばしたらしい。

 つまり、そういうことか。

 サラマンダーの大規模作戦とやらはシルフ、ケットシーの領主を討つことだと。

 確かに一回やっただけで勢力争いから抜け出し、一強とも言われる行為だ。

 それを二回目、さらに二種族の領主をまとめて倒したらどうなるか。

 

 アルン高原に続く洞窟の前にたどり着くと、シルフ――リーファは勢いで引っ張ってきちゃったけど……と俺たちは来なくてもいいと告げる。

 まあ俺は行くし、キリトも行くと言っている。

 アルゴとシノンも俺が行くならということで来るそうだ。

 しかし、今からまともに移動しても間に合わない。

 アルン側に続く洞窟はルグルー回廊と比べれば短いが、それでも抜けるのに一時間はかかる。

 

 俺はアルゴとシノンを担ぎ、キリトはリーファを担ぐ。

 俺たちは洞窟に踏み出し――一迅の風となった。

 キリトのプライベートピクシーに先導され、最短距離で洞窟を抜けたその時、パーティメンバーとは別枠で視界の隅に表示されていたアリシャの名前の横の騎士アイコンが赤く塗り替えられた。

 会談開始まであと三十分もあるんだぞ!?

 

 先程から騎士のアイコンはずっと点灯していたのだが、それはシルフと合流したからだろうと考えていた。

 メッセージも送られてこないし、HPは全く減少していなかったし、なによりアイコンの色が青みがかった騎士のマークだったからだ。

 ――赤の騎士マーク。それは他種族との戦闘を始めたと言うことを伝える印だ。

 

 山の側面に出入口がある洞窟から最大速度で空に飛び出した俺たちは、翅を使って移動していた。

 アルゴとシノンも自身の翅を使って飛んでいる。

 もう時間が無い! というリーファに対し、悪いが俺は先に行く。と告げてキリトにアルゴとシノンのことを頼む。

 

 リーファにはどうやってと首をかしげられてしまったが、ストレージからひとつの結晶を取り出すとリーファは驚きの声をあげた。

 

 SAO時代から使い慣れた転移のボイスコマンドを発声すると、俺の体は光に包まれた。

 

 ◇

 

 転移の先は真っ平らに切り均された巨大な石の上だった。

 近くには見慣れた執政部のメンバーと、シルフ側のメンバーがいた。

 上を見上げればサラマンダーの大部隊がいる。

 

 まだ直接的な戦闘は始まっていない――とはいえシステムが戦闘開始と認識する程度にはバフ魔法がかかっていたりするのだが――ようなのでとりあえずは交渉のような何かを行うことにした。

 護衛のバフが乗っていても多分あの数は倒せない。

 具体的な数値が分かればどれほど戦えるかもわかるのだが、ALOは基本的なステータスはHPとMPくらいしか表示されないのだ。

 装備による強化もパーセント強化なのでそれから自分のステータスを推し量ることは難しい。

 

 平らな岩の上に、一本の横線を引いてから一人飛翔する。

 

 指揮官に話があると言えば、正直に出てくれたようだ。

 

 俺は言う、この会談を襲うということはシルフ・ケットシーのみならず追加の二種族も敵に回すことになるがいいかと。

 

 対して指揮官はこんな土壇場でそのような戯言が信用出来るとでも? と、俺の言葉をこれっぽっちも信じていないようだ。

 まあ、当たり前。仕方が無いことだ。だって嘘なんだもの。

 

 しかし、だからといってこのまま引き下がれば敗北だ。

 俺は自分の嘘の強度をあげていく。

 アリシャの護衛に任命されている俺が最初から会談のメンバーに居なかった理由がわかるか?

 それは、この会議に極秘で参加する種族の大使を護衛していたからだ。

 その大使は現在アルン高原をこちらに向かっている。

 俺もその護衛にいたのだが騎士のマークが赤く染まったんだ。

 無事に大使を連れてこれたとしても会談がなければ意味が無い。

 基本的にモンスターが出ないフィールドであるし、護衛も俺の他に三名いる。

 先んじて俺が領主の護衛専用の結晶で転移してきたってわけだ。

 

 しかし司令官は俺の嘘八百だと見抜き、単純にリアルの都合で先ほどログインしたばかりではないかと言う。

 

 ならば、なぜ俺がサラマンダー狩りを最近していなかったかは説明がつくか?

 

 俺がそう言うと、指揮官の顔が曇った。

 後ろにいるメンバーの顔を見て、確認されたプレイヤーは何度か首を縦に振る。

 それを見た指揮官はなるほどな。

 と呟いたあと、しかし大使とやらが来る前に全滅させてしまえばそいつにはシルフとケットシーの罠であったと納得させられる。

 そう言って部隊を展開した。

 

 仕方ないか。我らが大使様(最大戦力)が到達するのを待つ他あるまい。

 俺は後ろにいる会談メンバーにサラマンダーがその線を超えたらお互いの領主を殺せと叫ぶ。

 サラマンダーに殺されるよりかは百倍マシだろう。

 俺の叫びとともにサラマンダーたちは動き出した。

 六十――七十名を超えていそうなサラマンダーたちはひとまずは俺を圧殺することを選んだようだ。

 俺一人でも生き残っていれば噛み付いてでもサラマンダーの退却を許さないと考えているのだろうか。

 確かに、大使が来た時に会談の場所でサラマンダーの大部隊と戦闘をしている俺がいれば俺たち側の罠であると誤解させることは難しいだろう。

 誤解させるためには俺たちを全員殺し、部隊は退却、隠れて大使を待ち、狙撃魔法なりなんなりで殺すのが必須だからだ。

 

 魔法というものがある限り絶対ではないが、六十人、七十人いようが一斉に攻撃できる数は限られている。

 この状況は俺の思う壺だ。

 弧を描いて展開しつつあるサラマンダーの部隊に俺は突進した。

 その中心にいるのはサラマンダーの指揮官。 

 とりあえずこいつを殺せば部隊はパーティ単位まで崩れるだろうし、殺せなかったとしてもこいつの近くにいることで範囲魔法は使いづらいはずだ。

 護衛のバフにより普段の何倍も強くなっている感覚を感じながら指揮官の胴を狙って袈裟斬りを放つ。

 それは指揮官の両手剣に阻まれたが、図体で勝るそいつを数メートル後方に吹き飛ばすことに成功した。

 

 体を九十度回し、孤の右翼の部隊に向けて範囲魔法を放つ。

 【闇魔法】最大威力の自爆魔法を除けば範囲と威力は最上位に上る魔法。 

 俺はせいぜい五、六人も倒せれば十分だろうなという気持ちで放ったものだったが、護衛のバフが予想以上に強力なのか、その魔法は半径二十メートルほどの球体となり、その範囲にいたプレイヤー十数名のHPバーを全損させた。

 

 本来《護衛》とは実質的な効果が薄いものである。

 なぜなら、護衛が活躍するということは領主がほかの種族に圏外で補足されているということであり、それは最大限気を使って避けなければいけないものだったからだ。

 故に、バフの効果は説明文程度しか知られず、本当の強さを知っているものはいたとしても倒された昔のシルフの領主の護衛と、それが効果を話した者だけだろう。

 

 その効果は領主のそばに他種族プレイヤーがいる時に限りステータスを上昇させるというものだ。

 だが、その上限は――?

 

 答えは無限だ。領主のそばにいる他種族プレイヤーの数だけ一律でそのステータスを向上させる。

 サラマンダーの部隊は七十人。シルフの会談参加者は十二人。

 さて、そのステータスはどこまで伸びるのでしょうか?




サラマンダー狩りのバタフライエフェクト

キリト達を倒すための部隊が増員されていた

サラマンダーの大部隊が原作より早く会談会談の場に到着していた(会談参加者は開始一時間近く前から揃っていた)

サラマンダーの大部隊が十人単位で増員されていた

サラマンダーがあとを顧みずに戦闘を開始した(サラマンダー狩りで大打撃を受けているため。多分原作ユージーン将軍ならここまで強引に戦いを始めない)

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