デスゲームでオワタ式を強制されたのでゾンビプレイします   作:にゃー

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原作の流れをなぞりなぞりー

キリトと合流するとどうしても原作沿いになっちゃうね、しょうがないね。


今思い起こせば神聖剣vs二刀流の戦闘時間は異常だった。

 戦闘は長くは続かなかった。

 そもそもタンクとタンクがかち合ったならばともかく、アタッカー同士の戦いで十分以上かかるのが異常なのだ。

 

 キリトのようなヒットアンドヒットの超インファイターは、敵の攻撃を剣で防御し、弾き返して隙を生み出す戦いを行う。

 そのため敵との距離は必然的に近くなり、俺のようなヒットアンドアウェイのプレイヤーと比べて敵の攻撃を受ける機会は多くなる。

 

 しかしキリトはヒットアンドヒット、敵の攻撃は複雑怪奇な飛行で躱し、隙を見つけて攻撃する。

 少しすると、キリトが仕切り直すためか、幻惑魔法の煙幕を放った。

 

 煙幕の中を何かが動くのを風の動きで認識したあと、ユージーン将軍が煙を切り払った。

 そこにはキリトは存在しなかった。

 逃げたのでは?

 そう疑うプレイヤーも執政部のメンバーにいた。

 しかし、リーファがそれを否定する。

 それと同時に上空からジェットエンジンのような音が聞こえてきた。

 全員揃って――ユージーン将軍も――上空を見上げるが、その先にあるのは太陽だ。

 目をやられたユージーン将軍は、しかしそれから目を背けることなく上空のキリトに向かって突進した。

 

 片手を後に隠す構えのキリト。

 リアルで剣道を行った時も空を飛んでいて上下が逆さまだということ以外は似たような構えをしていた。

 しかし、キリトのあの構えは本来二刀流でサブアームのレンジを悟らせないためのものだったのだ。

 

 あの世界を、黒の剣士を知らないユージーン将軍は無謀、苦し紛れと見たのだろう。

 二刀をもつキリトを見て笑うと、その剣をキリトの首筋に向けて振り抜いた。

 キリトの左手に持たれた細い白銀の片手剣はグラムと交差するように振られ、グラムの特殊能力によってすり抜けられる。

 が、その直後。白銀の剣をすり抜け、実態化したグラムに右手の巨剣が叩きつけられた。

 今まで回避されてことはあっても防がれたことは無かったのだろう。驚愕の気配を漏らすユージーン将軍に向けてキリトの本領が発揮された。

 

 二本の剣による芸術のような剣技。

 ユージーン将軍も後退しながらキリトの剣をすり抜けて打撃を与えようとするが、先程の攻防から分かる通り、連続での透過は出来ないグラムは二刀を持ったキリトの連続パリィによって防がれ、どんどんと上空からキリトに押し込まれる。

 行き着く先は地面。これが水平の戦いならばまだ話は分からなかっただろう。

 しかし、地面に押し付けられればもはや後退は不可能。キリトの剣技に押しつぶされる。

 

 ユージーン将軍は雄叫びをあげて何らかの装備の特殊効果を使用し、僅かにだがキリトを押し返し、その隙に致命打を与えようとグラムを叩きつけた。

 しかし、透過が行われるよりも早くグラムの刀身に接触した白銀の長刀がグラムを弾き、胴体をがら空きにしたユージーン将軍の胸に右手の巨剣が突き刺さった。

 

 最初の打ち合いの再現のように地面に墜落したユージーン将軍は、しかしキリトのように空へは戻らなかった。

 土煙が晴れ、そこにはユージーン将軍のリメインライトが残る。

 

 それを確認し、キリトの勝利が確定した瞬間、シルフ・ケットシーの両陣営から歓声が沸いた。

 サラマンダー側も今の勝負に見とれていたようで、そちらからも拍手が続く。

 

 確かにすごい戦闘だったが、俺だってあれより凄いことをしてなかったか?

 キリトにはいつもいい所を持っていかれる。

 茅場に心意を見せつけた時だってそうだったし、今回もそうだ。

 ごく僅かに、黒い靄のような何かが俺の心に生まれかけたその時。

 俺の隣にいたアリシャに、でも――キミの方がもっとカッコよかったヨ。わたしのナイト様。

 そう言われて、俺は素直にキリトの勝利を喜べた。

 

 シルフの領主がキリトの要請でユージーン将軍を蘇生すると、いくつか問答が行われた。

 キリトが初日に倒したというサラマンダーたちの中の生き残りがその時にキリトのそばにウンディーネがいたと証言し、キリトが大使だということは信用されたようだ。

 

 その後、ユージーン将軍はキリトにまたいつか戦おうと言ったあとに、俺の方を指差し、貴様とも純粋な勝負が行いたいものだ。

 そう言って翅を広げると生き残りのサラマンダーたちを連れて空の彼方へ飛んでいった。

 

 サラマンダーが去り、平和が訪れた会談の場で、何にもわかっていないシルフの領主が状況説明を求めた。

 

 同じ種族であるリーファがこの会談をシルフのスパイ(シグルド)がサラマンダーに売ったこと、俺たちと一緒にここに向かったこと、その途中で俺が一人転移していき、急いでこの場に来たことを話した。

 

 シルフの領主――サクヤがなるほど。

 と納得し、確かにシグルドは――とやつがスパイになった原因を話していった。

 

 シグルドへの対応はどうするの?

 リーファがそう問えば、サクヤはアリシャに月光鏡という魔法を頼んだ。

 これは、フレンドのフレンドまでテレビ通話をかけられる魔法だ。

 しかし、昼間だとその効果時間は短くなる。

 

 いいけど、まだ夜じゃないからあんまり長くは持たないヨ。アリシャがそう言うと、すぐに済むとサクヤ。しかしその言葉を聞いていないかのように振る舞うと――なので、わたしのナイト様にも協力してもらうヨ!

 そう言って俺の腕に抱きついてきた。

 ALOでは同じ魔法を使う際、密着することでその効果を増加させることが出来る。

 二発使うのと、強化された一発を使うのでは対応できる状況に差があるのだが、今回に限れば強化された一回にするのが正解だろう。

 しかし、ここまで密着しなくてもいいとは思うが……。

 今のアリシャの服装は領地にいる時よりは露出が少ないが、それでもワンピース型の水着のような、そこそこな露出度を持つ装備なのである。

 

 それじゃあいくヨ? そう言って月光鏡の詠唱を始めるアリシャに追いつくように詠唱を始め、なかなか難しいタイミングを合わせる詠唱を成功させた俺たちは、出現した円形の鏡の向こう側に映る光景を覗いた。

 

 その先はシルフ領の領主館にある執政室らしく、そうならばその椅子に座るのは本来サクヤのはずだ。

 しかし、座っているのは背もたれに体を預け、頭の後ろ側で手を組んで足を投げ出して執政机に乗せている男だった。

 

 サクヤがそれを見て、――シグルド。

 そう声をかければ情けなくバネ仕掛けのようにはね起きる男。

 今頃はサラマンダーに倒されているとでも思っていたのだろう。

 一瞬顔面を青白く染めたあと、開き直って自分が内通者であるということを暴露する。

 開き直って俺を追い出せばお前の政権だって危ういというシグルドはあまりにも滑稽だった。

 サクヤは、シルフであるということに耐えられないというのなら――そう言って領主用のウィンドウを操作すると、鏡の向こうのシグルドの眼前に青いシステムウィンドウが展開された。

 それは、追放用のウィンドウ。

 それが表示されたプレイヤーはごくわずかな時間領主と話す時間が与えられるが、月光鏡が起動していることでその時間が前倒しに使われたのだろう。

 権力の不当行使だと喚いていたシグルドは転移の光に包まれてどこかの中立都市に転移した。

 

 月光鏡が終了し、サクヤは自分の判断がどうだったのかは次回の選挙で明らかになるだろうと締め、ケットシー側に謝罪を入れる。

 シルフ側の問題で――結果的には無事だったとはいえ――危険に晒したのだからこの謝罪は当然だった。

 

 しかしアリシャは、生きていれば結果オーライだヨ! と返答する。

 ほかの人たちには聞こえていなかったようだが、未だに腕に抱きつかれている俺には聞こえるような声量で、騎士様に助けられるお姫様気分を味わえたし。

 と言っているのが俺にははっきりと聞こえた。

 

 その後、謎のスプリガンの少年、キリトの素性を探る両領主たが、キリトがフリーであることを知ると、その強さを買ってキリトを自領に招き入れようとした。

 特にサクヤの勧誘は凄まじく、その双丘をキリトの腕に押し付ける誘惑っぷりだ。

 リーファにキリトくんのは私のです!

 とその反対側から抱きつかれて赤面しているキリトを静かにスクリーンショットに収めると、キリトは相変わらずモテるなと呟いた。

 その言葉が誰にも聞かれていないと思いながら。


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