デスゲームでオワタ式を強制されたのでゾンビプレイします   作:にゃー

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どうあがいても終了

 強制ログアウトした俺は嫌な汗を流そうとシャワーを浴びていた。

 ALOはSAOより歴史が短いからか心意の力を扱うのが困難であった。

 心意なんていうのはチートもいいところであったためにアスナを救うためとはいえ出来れば使いたくはなかった。

 今回を逃せば両種族は破産、世界樹攻略は月単位で見送られていただろうから使ったが、心意を乗せられる程のデータを持ち、広範囲に拡大する魔法が自爆魔法しかなかったのは残念と言わざるを得ない。

 恐らくプレイヤーネーム«Bast»黒髪のケットシーは今頃黒髪猫耳付きのレネゲイドとしてどこかの中立都市がリスポーン地点として登録されているだろう。

 

 フレンド、領地、スキルポイント、所持金。

 装備こそ糧とはしないものの、ステータスは初期値に戻っているはずなのでもはや装備は叶わないだろう。

 新しいキャラを作成するのもいいが、そのキャラクターがSAOのデータを引き継いでくれるかは分からない。むしろその可能性は極めて低いだろう。

 そうなると二年近く助けてもらっていたバーストともお別れしなければならない。

 当分はあのキャラクターで更新されたリスポーン地点であるどこかの中立都市を拠点にスキル上げなどをするとしようか。

 シグルドと会うこともあるかもしれないな。

 

 風呂から出て対策本部のお偉いさんに電話をかける。

 さっきキリトが世界樹の上に到達したはずだからもう時期証拠やらが出てくるなり、アスナが目覚めるなり、和人がALO――世界樹の上に幽閉されるはずなので二人を見張っておいてください。

 

 そう言うと、了解。といわれ、直後に君はゲームをゲームとして楽しむのはいいが、VR世界という第二のリアルとも言える世界でデスゲームでないとはいえ簡単に自分を殺せる考え方はどうにかした方がいいんじゃない?

 とも言われた。

 

 中のこと知ってるのか。

 そうは言われてもSAO時代から現実感を喪失してゲームとして楽しんでいたからな。

 アホみたいに強いスキルを不正規の手段で入手したって言うのもあるかもしれないけど。

 デスゲームですらそうだったんだ。なかなかゲームをゲームとして認識しつつリアルとしても認識するなんて言うのは無理かなぁ。

 というか、MMOなんて死んでも仕方が無いゲームだと思っていたんだが。

 VRになって、二年間たってその認識も変わったのか?

 ジェネレーションギャップ感じちゃう。

 考えておきますと言って電話を切る。

 考えないときの常套文句なのだが、今日は珍しく考えてみる。

 

 ……。

 

 ああそうか、アスナが救出されても、キリトが幽閉されても、多分強制捜査が行われるだろうし、そうなると良くてALOが終了。最悪はVR世界が終了か。

 そうなるとVRワールドともおさらばかなぁ。

 VR空間での在り方なんてもう考えるだけ無駄なのかもな。

 やることがなくなるし、運動と勉強くらいしかやることはないかね。

 PCゲームもあの世界を体験した今では楽しめそうにないしな。

 

 あー……。理解するとなんか寂しいな。茅場が作って茅場が一気に終わりに近づけた世界だとはいえギリギリ延命されていたというのに。

 俺、この先まともに生きていけるだろうか。

 ここ二年間は文字通りSAOにどっぷりであったし、今だってあの世界とのギャップを埋めるために体を鍛えているし、ALOにだってひと月間ではあるけどズブズブだった。

 やべ、本当に生きがいを見つけられるかが分からないな。

 

 今から勉強して、SAO被害者用の学校ではなくVRと離れたところに通って、たまにエギルのところでオフやって、VR世界を懐かしみながら生活して、卒業して大学に行くなり会社勤めになるなりして――

 

 うん。何とかなりそうだな。灰色の学生生活は嫌だし亜子にも高校受験を勧めてみよう。

 なに、俺は中高一貫校とはいえ進学できるくらいの学力はあったんだ。もう一度詰め込み直すくらいならば問題は無いだろう。

 

 そうとなれば、適当なテキストを買うとするかね。

 

 ナーヴギアをいつもより丁寧に片付け、財布と携帯を持って俺はテキストを買いに街へ向かった。

 

 

 社会と理科のテキストを複数買い、時間を確認すればもう八時前だった。

 今から夕飯を作るのもな。そう思った俺はジャンクフード店に向かおうとした。

 しかし、携帯端末のバイブレーション機能がメールが届いたことを告げる。

 立ち止まって確認してみれば、送り主は亜子で、ウチに来て。とだけ書かれていた。

 今日はリアルで何かをすると言っていたし、問題でもあったのだろうか?

 そう思った俺は空腹を忘れ、人混みを駆け抜けて亜子の家へ走った。

 

 

 亜子の家に到着したが、窓はカーテンで締め切られ、僅かな光すら外に漏れていなかった。

 恐らく家の中の照明も落ちているだろう。

 

 インターフォンを鳴らしてみるが、亜子は応答しない。

 二回、三回。

 人を家に呼びつけておいて風呂に入っているなんてことはないだろうし、どうしたというのだろうか。

 

 さらに五分ほどまっても応答はない。

 それどころか家の中からは人がいるような音が聞こえない。

 

 なにか冷たいものが背中を流れる。

 ドアの取っ手に触れ、引く。

 鍵はかかっていなかった。ドアが開かれ、家の中が確認できる。

 リビングに続く廊下、その先の扉からは光が漏れていなかった。

 

 ……。なんだろう。なにか、これを一度体験したことがある気がする。

 いつだったか。

 玄関で靴を脱いで家に上がる。

 自然と足音を立てないように歩いていた。

 

 リビングに続く扉のノブに触れ、扉を開けるとそこには――

 

 冷たくなって動かなくなった亜子が――

 

 

 

 

 

 

 

 

 なんてことはなく、俺が扉を開けると同時に照明がつけられ、クラッカーが数発鳴った。

 照明によって目が暗み、クラッカーで聴覚を奪われた。

 敵襲!? なんて思うほど殺伐とした世界観を持っている俺ではなく、サプライズのようななにかなのだろうと納得する。

 見れば、世界樹攻略おめでとう。と書かれた紙が部屋を横断するように貼られていた。

 

 インターフォンがなってから十分近く経っても入ってこないから帰っちゃったのかと思ったわ。

 と、クラッカーを持った詩乃。

 

 テキストなんか持ってどうしたの? と、俺が提げているビニール袋の中身を確認して亜子。

 

 えっと……。こういう時って第一声はおめでとー! とか、そんな感じなんじゃないだろうか。

 とりあえずまともに受けごたえする。

 家に電気がついてなかったり、音がしなかったりしたら普通は入ってこないだろ。

 亜子からのメッセージが簡潔的すぎて何かあったのかと思わなければ普通に入ってこなかったと思う。

 

 テキストは高校入試用。

 そう答えれば亜子はSAO学校があるのになんで?

 という顔をする。

 

 俺は先程の考えを亜子に話すと、なるほどーと納得する亜子。

 詩乃にどこを受験するか聞かれるが、まだ決めていないと答える。

 申し込み期日までは一ヶ月近くあるし、それまでに決めるつもりだ。

 そもそも都内の高校なんて今まで興味もなかったから調べてないし、社会と理科のテキストを買ったのだって国語と数学と違って変化があるかもしれないと考えたから買っただけだし。

 

 すると、詩乃にひとつの高校を勧められる。

 詩乃が進学する予定の高校らしい。

 

 ――なぜ今まで気が付かなかったんだ!?

 都内の高校が危険だというのならば俺が一緒に通えば問題ないということに。

 

 即決。後で受験要項などを見せてもらうとして、とりあえずサプライズのようなパーティ開始しよ?

 

 椅子に座らされると、たくさんの料理が運ばれてきた。

 とはいえ量は三人で食べ切れそうな量で、種類が豊富と言うだけだが。

 

 料理に手をつけながら、この量だとかなり時間がかかったのではないかと聞く。

 少なくとも俺がログアウトしてからの一時間ほどでは作れると思わない。

 

 二人揃って絶対攻略できると信じていたと言う。

 なんか照れるが、流石にゲーム。それもMMOでそこまで信じられると困るぞ。

 

 それにしても、美味しいな。

 世界樹攻略が成功してよかったと思える。

 失敗していたらこの料理は食べられなかっただろうしな。

 

 一通り食べ終えたあとも、トランプなどのパーティグッズから、旧世代のテレビゲームなど、なぜこんなにあるんだという種類のゲームを遊び倒し、やはりこの日常は維持したいなと思えた。

 

 目標――――就職して亜子と結婚する。






――完――

ではありません。四巻末のように少しだけ続くんじゃ。
GGOはどうなるか分かりませーん。
きっとALO終わったあとに別の物書き初めてすぐ飽きて戻ってきます。

それにしてもSao編の終わりもそうでしたが、最後に駆け足になる癖どうにかならないんですかね……

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