デスゲームでオワタ式を強制されたのでゾンビプレイします 作:にゃー
新年度、四月。
俺たち三人はそろって受験戦争に打ち勝ち、奇跡的に三人が同じクラスとなった。
ちなみに三人の学力は、詩乃≧亜子>俺である。
そもそもよく考えてみれば、俺は国語と数学を少し尖った、ゲームに活用できる分野のみ得意としていて、理科と社会は平均点。英語は壊滅的だった。
詩乃はさすが現役というべきか、全教科を卒なくこなしており、亜子もSAOに閉じ込められた当時は中学の学習がすべて終わっていなかったというのに情報屋として培った情報処理能力のせいかすぐに記憶、活用できるようになっていた。
俺も単純な計算速度こそ上がっていたものの、公式やらはさっぱり忘れていたし、理科と社会は覚え直し。英語は相変わらずさっぱりだった。
俺が合格できたのは単に詩乃に頼み込んでとりあえず抑えておくべきところを丸暗記したからだった。
伊達に攻略組としてアイテムの管理をしていない。
その記憶力だけならば自慢できるものだった。
とはいえ付け焼き刃の記憶ももはやすっぱり抜け、放課後に亜子と詩乃に教えて貰っている恥ずかしい年長者なのだが。
亜子と詩乃の高校デビューだが、二人とも自己紹介で全くと言ってもいいほど自己主張しなかったためあまり他人から話しかけられることは無い。
俺たち三人で完結しているのは心地よいが、流石に社会に出ればそれではいかんだろう。
そう思っていた時もあったのだが、クラスでトップクラス、学年全員の顔は確認していないので分からないが、俺主観なら高校でトップクラスの美少女っぷりを伊達メガネの上からでも発揮している亜子と詩乃は、今風。と言えばいいのだろうか? 化粧で素肌が見えないようないかにもカースト高いですよという感じの三人組に絡まれたりしていたのだが、すげなく対応し、その結果何をどうやったのかその三人組は俺たちの過去を暴いて学校中にばら撒きやがりやがったので俺たちは学校の省きものである。
俺と亜子はサバイバーであることをそこまできにはしていないのだが、詩乃は過去が過去だ。そもそもその事を言われたくなくて東京まで出てきたのだからすっかり内向的になってしまっていた。
流石に俺もこの状況でもっと外に目を向けろなどと言えないし、そもそも向けたとしても帰ってくるのは良くない視線ばかりなので向けなくても良いと思うようになった。
ちなみにカーストが高そうな三人組はいつか絶対泣かすと決めている。
俺たちの過去が明らかにされてから接触しようとしてくる男子生徒がいるが、俺か亜子がひと睨みすると去っていくのであまり問題にはなっていないが、何となく嫌な予感がするのでアレとは関わりたくないというのが本音だ。
俺たちの進路のこと以外にも話すことがあるとすれば、VR世界は一度終焉を迎えたがもう一度生まれたということだろうか?
キリトが世界樹の上でゲームマスターと戦闘をした時、茅場晶彦の残滓と呼べる意識と対話したらしく、その際世界の種子を貰ったらしい。
その種はエギルの手で発芽し、誰でも作れる、誰でも運営できるVRゲームの基礎システムというものが全世界にばらまかれ、無数のVR世界を生み出した。
その中にはALOも含まれていたのだが、俺は未だにログインしていない。
なぜかと言えば簡単で、アリシャが酷く怒っているらしいのだ。
時間を置けば置くほど酷くなるのは分かっているのだが、なかなかログインする決心ができないでいた。
しかし、俺は今日の夜にはもう一度あの世界に遊びに行くことになるだろう。
◇
エギルの店、ダイシーカフェには、本日貸切という掛札がかかっていた。
この時間から貸切の札をかけたところでそもそも誰も来ないんだから意味が無いだろうと思いつつもドアを開けようと、ドアノブに手をかけた。
しかし、その手は詩乃によって押し留められた。
「私はSAOに参加してなかったわけだし……参加するのはみんなに迷惑じゃないかしら?」
そんなことを言う詩乃だが、その内心は未だにエギルを怖がっているだけである。
それでも店に入ってケーキを出されれば恐怖心が無くなるのだから将来悪い大人に引っかからないか心配になる。
俺は、いいんだよ。といって詩乃の手ごとドアを開けると、そこには今日の主役以外が揃っていた。
主役というのは和人と明日奈だ。
明日奈が帰ってきて初めて俺たちのSAOは完結するんだとはエギルの弁。
リズがピンク色の飲み物を片手に店内をふらふらと巡回し、SAO時代に見たことある顔からない顔までが勢ぞろいしている。
入店するといろんなヤツらに挨拶されるので挨拶を返していき、カウンター席にたどり着く。
今日くらいは雰囲気に乗じて酒を飲めるのではないか?
そもそもリズが持ってるのは酒だろ。
白ワインを頼むと、出てきたのはジンジャエールだった。それも、とびきりに辛口な。
亜子と詩乃にはいつものように紅茶とケーキを出しているあたり、俺に対するエギルのあたりはなかなかにきつい。
それだけ打ち解けていると考えるべきか。
炭酸が効きすぎているジンジャエールをちびちびと飲んでいると、酔っ払いにしか見えないリズが絡んできた。
呂律はしっかり回っているが、いつもよりテンションの高いリズに絡まれる。
SAO時代はこれでも真面目な中学生だったのよ。と言っていたが、これではその言葉も信じられないな。
テンションが高く、話が二転三転していたが簡単に言えばなんで
簡単に言えば世界樹攻略と、実質キャラクターの初期化による燃え尽き症候群からくるなんやかんやである。
VRが復活した頃には受験勉強真っ只中でもはや途中で投げ出すなどということはこれっぽっちも考えていなかったし、むしろ詩乃と同じ学校に進学することを考えていた。
そんなことを何度か話したはずなんだけどなあと呆れ気味にもう一度繰り返してやると、シリカなんかねー。と、話がまたまた転がっていく。
シリカは入学式のその日にバーストさーんと校舎を練り歩き、ついぞ見つからずに涙目になっていたらしい。
シリカの反応からして真実なのだろうが、俺がいないだけでそこまでなるものだろうか?
詩乃には、またか。と呆れられる始末。
自己評価が低いとは詩乃によく言われるが、むしろ自己評価はかなり甘めにしているはずなのだが……。
そんな会話をしていると、趣味の悪いバンダナを頭に巻いたスーツのおっさんが話しかけてくる。
言うまでもなくクラインだ。
「イイよなークロ之助はさー女の子にいっぱい囲まれててよぅ。和人の奴だって明日奈ちゃんとずぅーっとくっついてるって話じゃねーか。俺だってよォ……」
と、最初は妬みっぽく話しかけてきて最後には女が欲しいと愚痴を漏らす。
これは何度か会った限り毎回行われていて、初回には亜子と詩乃を口説き始めたので金的を反射的に決めた結果、ナンパ紛いの行為は慎むようになったようだ。
ちなみに、クロ之助とは俺のことで、俺が昔はクロちゃんと呼ばれていたことがどこかから漏れた結果定着したクラインから俺への渾名のようなものである。
俺が到着してから三十分ほど、漸く主役がやってきた。
リズの策略でわざと遅い時間を伝えられていたらしく、すっかり温まった場にSAOクリアの英雄様が現れたこともあり、店内のボルテージか上がる。
リズに連れられて店の奥側にあるステージに上がった和人にスポットライトが当てられ、『SAOクリアおめでとう!』と全員で唱える。
その後、和人は店内を周り、全員と挨拶をした後に疲れた感じでカウンター席に座ると、俺と同じくエギルに酒を頼んだ。
当然出てくるのは酒ではなく、似たような飲み物だ。
度数の強い酒を頼んだこともあり、舌先で確かめるように口をつけた和人は、気の抜けるようなため息のあと出された琥珀色の飲み物を一気飲みする。
どうやらウーロン茶だったようだ。
カウンター席に座った和人のところにもクラインや軍のトップであったシンカーなどが訪ねてきて、馬鹿みたいな話をしたあとに、和人がエギルに二次会の予定を聞く。
エギルは今夜十一時にイグドラシル・シティ集合だ。と、和人ではなく俺に向かって言う。
和人も、「お前のことをみんな――特にアリシャとかアリシャとかアリシャとかが待ってるぞ」と言ってカウンター席を離れていった。
◇
午後十時、俺たちはそれぞれの家に帰っていた。
俺の目の前には回収されてしまったナーヴギアに変わって(ナーヴギアでの洗脳実験がALOで行われていたらしく、流石に回収されてしまった)アミュスフィアが鎮座していた。
これも被るのも数ヶ月ぶりか。
と言っても数ヶ月前に被っていたのはナーヴギアなのだが。
アミュスフィアを被り、ALOにログインすると、アカウント選択画面で旧ALOのデータと、SAOのデータがあると表示される。
少し悩んだあとにSAOのデータを選択する。
なんとなく気が付かれるような気がするがもし気が付かれなければアリシャの怒りをすり抜けられるかもしれない。
俺は久しぶりな人と会うのがなかなか苦手なタチなのだ。
亜子だってSAO後にこちらから会おうとはしなかったし、詩乃だってこちらで再開した時にこちらから声をかけるか悩んだ。
エギルと和人はアレだからおいておくとしても、アリシャにこちらから会いに行くのはなんとなく躊躇われた。
ALO時代のアバターを使っているといかにも会いに来ましたよって感じでなんとなく嫌だったのだ。
そんな俺のめんどくさい思考を汲んでか、かなり長めのログイン時間が終わったあと、SAO時代のデータを使用するために種族の選択が求められる。
さんざん迷った挙句、バステトがいるからと言い訳をして俺はケットシーを選択した。
初期ログインポイントが自領とアルンを選べるようなのでイグドラシル・シティの真下であるアルンを選択してようやくALOの世界に旅立った。
アルンにログインし、時間を確認すればもう集合時間間近だ。
一時間付近も二つの選択で迷っていたなんて自分の意思力のなさには心底呆れさせられる。
飛行制限がなくなったALOの世界での初飛行。
俺は以前までなら障壁がはられていたアルン上空へと飛び立った。
ギリギリ間に合った集合時間に、リズやシリカに手招きされて空を見上げる。
アルゴとシノンには遅いと怒られてしまった。
月を見ていれば、その月がなにかに食われるかのように黒い影に侵食されていく。
その影は完全に月に重なり、そのシルエットを映し出した。
楔形の天空に浮かぶ城。SAO時代にも外から眺めたことがある。
あれは、アインクラッドだった。
流石にこれは知らなかったぞ。しかし、つまり、あの時諦めたSAOの完全クリアが望めるのか。
絶対に攻略してやると、城へ向けて飛び立つと、真横からなにかに追突される。
ぐえっ! と仮想の肺から空気が漏れる。
もう絶対離さない! と追突してきた何かから声が聞こえ、まさかと思いながら確認すれば、金の髪に猫耳。褐色の肌に露出度が高い服と。
なぜここにいるのか、とかなぜ気がついたのとか色々聞きたい人物であった。
つまりアリシャだ。
アリシャは俺に抱きついたまま、俺の背中側でウィンドウを操作すると、俺の眼前に一枚のウィンドウが表示される。
それは、俺と彼女がフィールドに出るようになったきっかけのウィンドウ。
受諾を押すと、視界の隅に彼女の体力バーが表示された。
もはや領主の死亡に重大なペナルティはなくなったため殆ど必要のない職業となった関係が俺と彼女のあいだに結ばれ直され、俺は素直に口を開いていた。
「ただいま。アリシャ」
「おかえりなさい。わたしの騎士サマ」
――完――
アリシャがメインヒロインみたいだァ
出番があるつもりだったDEBANちゃんがほとんど出てこなかった……