デスゲームでオワタ式を強制されたのでゾンビプレイします 作:にゃー
これすごい便利ですね。どこどこが間違っているよと伝えるだけの機能だと思ったら、ワンボタンで修正できるんですよね。
これの味を知ったら自分で誤字を見つけて修正する気が……。
感想も何個かいただけました。励みになります。
アルゴと飯を食った翌日、最前線の迷宮区で閉所での戦い方を確認しながらレベリングしていると、ついにレベルが二十に達した。
安全地帯に戻り、四番目のスキルはどうしようかなと悩む。
一番優先順位が高いのは出血に対する耐性だ。
現状俺が死ぬ要因はスリップダメージによりHPが九割を下回ることが主だからな。
流石にここまで進んでくるとどんな敵でもダメージを貰う=HPが吹き飛ぶ=【食いしばり】でHPが全快する(【食いしばり】の熟練度は既に初期HPより高くなっている)ので、攻撃によって普通にHPが九割を下回ることは考えなくていいだろう。
そして出血という属性は、俺が知るスリップダメージの中ではそこまで脅威ではない方だ。
まず、出血を使ってくるのは基本的に曲刀か刀を持った敵、例外的に見るからにヤバそうな爪を持った敵のみである。
さらに、出血は延焼や毒とは違い、直接攻撃でしか付与されることはないのだ。
その代わり放置した場合のダメージ量は多かったりするのだが、俺の場合は20ダメージ受けるだけで致命傷なのであまり関係がない。
回復方法も専用POTで時間をかけて治す毒や、転がり回って火を消す延焼とは違い、出血部位にポーションをかけるだけと簡単なので、その脅威度はまずまずと言ったところなのだ。
出血耐性の他には、昨日アルゴに言われた【疾走】や【軽業】。ソロのストレージには限界があるので【所持重量拡張】、敏捷ファイターの強みであるクリティカルを出しやすくするための【精密動作】などがあるがどれも有用で迷う。
とりあえず、ここの迷宮区には出血モンスターはいないみたいだしほかの候補を試してみようか。
まずは【疾走】
初期熟練度でも走る速さが上がったことが実感出来た。
ただ、俺の全力速度は【成長の代償】でかなり高いのでそこまでの恩恵は感じなかった。
次は【軽業】
初期熟練度だと一秒ほどしか立体的な動きはできなかったが、壁を走るのが楽しい。育ったあとの使い勝手が楽しみである。
【所持重量拡張】
ただストレージ容量が増えただけ。まだモンスターの素材なんかは軽めだからそこまで必要じゃないことを思い出した。
最後に【精密動作】
これも初期熟練度なのでそこまで恩恵は感じなかったが、狙った部位の狙った場所へ攻撃がしやすくなった気がする。
俺的にはこの四つの中だと【軽業】が面白くて閉所で敵の後に回るのも楽になって結構好きだったかな。
スキルを試しているうちに思い出したが、俺には封印の酒壺がある。
スキル熟練度をそのままにスキルを付け外しできるアイテムだ。
出血を与えてくる敵がいるところでは出血耐性、そうでない時は【軽業】を付けるようにすれば枠が無駄にならなくていいかもしれない。
欲をかくなら【軽業】と【精密動作】も使い分けたいが、それは仕方がないことだ。
次のスキルスロット増設までお預けにしよう。
それからは、昨晩アルゴと寄った食事処のテイクアウト品を食べて日が暮れるまで【軽業】で壁を走りながらモンスターを倒しまくった。
【軽業】の裏技とでも言おうか。壁を走っている時にジャンプをして、空中で体の向きを180度反転し、反対側の壁に着地してすぐさま走り始めると、【軽業】によって壁を走り続けられる時間がリセットされ、無限に壁を走り続けることができると知った時は驚いた。
迷宮区を出て近くの街へ帰ろうとすると、アルゴから急いで九層の主街区に来いというメッセージが入った。
すぐそこの街で寝泊まりしようと思ったが、仕方がない。
二十分ほど待てと言って封印の酒壺に【軽業】をしまい、空いたスロットに【疾走】を入れる。
移動速度上昇。走るぞ!
◇
十五分ほど文字通り疾走しているとようやく主街区にたどり着いた。
アルゴに到着のメッセージを送ると、詳しい道順が書かれたメッセージが返ってきたのでその通りに路地裏に進む。
案内された先は寂れたバーだった。
客はアルゴ一人だけ。
俺が来たのに気がついたアルゴに隣に座るように促され、とりあえずお茶を注文してからアルゴに問いかける。
「急いでこんなところに来いなんてどういうことだ?」
「ぁ……その……」
怒っているように取られてしまったのだろうか、アルゴには珍しくどもっている。
少しして、アルゴが口を開く。
「昨日の……」
昨日? クエストのことだろうか?
「昨日の、でーとがゴシップ屋にすっぱ抜かれたんだヨ」
でーと。デート。なるほど、逢引か。誰のだ? 攻略組で有名な優男と美少女のか?
アルゴはウィンドウをいじって紙を一枚取り出すと、おずおずと差し出してくる。
受け取って読んでみると、その内容は――
『鼠のアルゴ! 夜の路地裏に消える!
読者様方は鼠のアルゴをご存知だろうか? そう、五分話すだけで百コル分のネタを抜かれると噂されている凄腕の情報屋である。現在も攻略組の情報をまとめ、必要としている人に流すなど、攻略に一枚噛んでいる彼女だが、私は偶然そんな彼女の逢引現場を目撃した。
私は今までも何度か彼女の情報を抜けないかとあとを付けたりしてみたことがあるのだが、その結果は悔しいことに全敗! 情報屋としての格の違いを見せつけられた。今回もダメで元々とつけてみたところ……なんと! 気づかれることなく尾行が続けられたのである。鼠のアルゴは横にいる猫耳フード付きの黒い外套を身にまとった男性の腕に甘えるように抱きつき、男性に頭を撫でられ蕩けるような表情をしている。これが逢引でなくて何だろうか! 再び尾行を続けようとした私だが、彼女らが進む先が路地裏であったことに気が付き、アブナイ匂いを感じたのでここで尾行はうちやめとした。
下記画像は現在の攻略状況では超貴重でレアドロップでしか落ちないと言われている記録結晶を使い撮ったスクリーンショットである』
最後の画像は夜であるため見づらいが、たしかに俺とアルゴのものだった。
言い訳させてもらうなら、あれは路地裏の段差に躓いたアルゴを抱きとめて、気をつけろよ。と、ぽんぽんと頭を叩くように撫でつけたシーンである。
路地裏に行ったのも例の穴場の食事処が路地裏にあるからで、決してアブナイことをするために路地裏に向かった訳では無いのだ。
「よく撮れてるじゃん。保存しとこ。それで、この記事がどうしたんだ? 嘘は書かれていないし、仕方ないんじゃないか? 娯楽が少ないSAOの性質上ゴシップは好まれるだろうし」
そう、嘘は書かれていないのである。
記者の主観で書かれた記事のため、甘えるように抱きついたように見え、路地裏に向かう俺たちからアブナイ匂いを感じ取ったというのは嘘ではないだろう。
「うにゃー! そうじゃなくて、情報屋として自分の情報を抜かれたことが悔しいだけだヨ」
鼠がうにゃーって。つか、それなら俺が来る必要なくないか?
「あ、まあ……そうだナ。そう、今日来てもらったのはこのゴシップ記者を釣るために再び夜の街に繰り出すためだヨ」
「まあ、いいけど俺はそういうの得意じゃないぞ?」
「わた……オイラと一緒に街を歩いてくれるだけでいいゾ」
「まあいいけど、それじゃあ飯食べに行こうぜ。釣るってことは目立つ場所の方がいいのか? なら中心部かな」
◇
その後、普通に店に入り、食事をして、解散となった。
翌日には連日デートと大きく書かれた記事が発行されていた。