旭日は昇っているか ~鹿屋基地攻防記~(休止中)   作:くろしお

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皆さま、お久しぶりです。くろしおです。<(_ _)>

艦これは現在2期への移行に向けてメンテナンス作業中ですが、皆さま方はいかがお過ごしでしょうか?(執筆時点)

今回からまた話が変わって行きます。
…やっと艦これらしくなったと思いたい。(過去話見ながら)

おそらくは過去最長のお話となっておりますが、よろしくお願いします。
それでは、第10話です。どうぞ。

追記:数合わせのため、深海棲艦の数が一部変わっております。(36→37隻、ヲ級が1隻追加)


第10話 鹿児島・鹿屋基地迎撃戦 前段  ダブルアタック

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 前回までのあらすじ

 大本営から、鹿屋基地行きの貨物列車の護衛任務を引き受けた、神通たち一行。

 途中、列車の爆破未遂やトレインジャックに遭遇し、最終的には艦娘排除派のテロリストによって、護衛任務対象の貨物列車が暴走させられてしまう。

 負傷した貨物列車の運転士や村雨の機転により、燃料弾薬を満載したまま、鹿屋市街へと突入しようとしていた暴走中の貨物列車は、無事に停止した。

 少なくとも鹿屋基地・市街への攻撃事案は収束する方向に向かったが、国内では不穏な動きも起こっていた。

 一方、日本側の事情とは関係なく接近する、深海棲艦の空母機動部隊を中核とする中規模艦隊。その目的とは…。

 

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 世間では、戦後日本国内で起こされたテロとして、史上最悪の死傷者数を出した「根岸事件」と、国内史上初のトレインジャックにより、鹿屋市街と鹿屋基地への攻撃を狙って未遂に終わった、「日南線列車強襲・暴走事件」(警察や自衛隊等の文献ではこれが正式名称に)のニュースが話題となっていた。

 発生から数日に渡って、経済を中心に扱っているテレビ関東を除いた民放各社・NHKでは、報道特番が組まれるなどの大騒ぎとなっていた。

 こうした話題が大きくなった一方、SNS上では、今回のテロリストの動機について議論が紛糾する。その議論を極論からいえば、「艦娘の存在を認めるか、否か」ということである。

 十余年に渡って、深海棲艦との戦闘の最前線に立ち続けた艦娘たちへは、多くの人々が感謝の念を抱いているのも事実だったが、一方で、厳密には艦娘は人間ではないという点から、一部の人々からは、

「人間ではない、得体の知れない何かが、この国に取り込んでいる。排除すべきだ。」

 とか、

「そもそも深海棲艦と艦娘はグルで、この国を間接的に貶めているのではないか?」

 とかの声が上がった。

 最も、それらの話はただの妄想や憶測に過ぎないのだが、実際問題として、戦後七十余年にわたって非戦を貫いてきたこの国が、国家ではないものの、深海棲艦との戦闘を選択した。

 交戦権の放棄を内容に含んでいるはずの、憲法九条を放棄するような形を、艦娘が登場して以降、事実上確かに選んだのである。(解釈改憲の実施)

 

 

 とはいえ、艦娘登場以前の日本の状況では、自衛隊(+在日米軍)による専守防衛の選択には限界があった。何しろ、日本や他国船籍の船舶に深海棲艦の攻撃が加えられていたとしても、当時としては、自衛隊は動くことができない。

 何故か。日本近海でも、領空・領海12カイリ内での攻撃でない限り、自衛隊の防衛出動要件を満たさないからだ。勿論、例外は複数ある。だが、第二次世界大戦の敗戦国であり、軍部、ひいては国民が戦争を推し進めてしまった過去を持つこの国では、迂闊な軍事行動などとれるはずもない。まして、深海棲艦の所属国家さえ分からない当時の状況では、交戦権の否認がそのまま適応されるため、尚更身動きがとれない。

 なお、本作品の現在の時間軸では、深海棲艦に支援、もしくは援助する国家はいないとされている。(国連発表に基づく)

 初期の深海棲艦の攻撃に、日本が全く動けなかったのは、有事の際の国内向けの法整備が間に合っていなかった事情もある。現在この世界では、緊急事態条項や戒厳令を敷くことは禁じられているものの、日本版NSC(国家安全保障会議)による権限を多少強化することでバランスをとっている。

 最も、この議論が前に進むこととなったのは、皮肉にも世界規模で数十万人単位の死傷者を出した、深海棲艦の攻撃によるブラッドフォールダウン以後のことであるが。

 艦娘が登場して以降は、こうした対深海棲艦の攻撃許可は、国連の一部委任のもと、なし崩し的に自衛隊・艦娘の軍事行動が可能なようになった。

 

 

 話を戻し、SNS上の議論は活発だった。

 艦娘肯定・擁護派と艦娘排除派との意見比は7対3くらいだった。

 勿論、今回のテロリストの行為に対して、擁護するようなものはほぼ無かった。だが、上記の経緯もあって、やはり自衛隊・艦娘への憎しみ(ヘイト)は高まりを見せていたのは事実だった。

 ここ最近の自衛隊基地や車両への攻撃、大湊警備府の艦娘を狙った襲撃事件などが示しているように、国内では陰鬱な空気も漂い始めていた。それだけに、今回の「根岸事件」や「日南線列車強襲・暴走事件」が連続して発生したことは、世間に衝撃を与えると同時に、艦娘排除派は本作の便宜上、テロリズムに訴えるべきではないが、早期あるいは長期的に艦娘を退場させることを考え行動する派閥(以後、艦娘を日本からなくす会)と、「根岸事件」などの破壊工作を正当化し、武力闘争も辞さない過激派閥(以後、艦娘殲滅部隊)とに分裂することとなった。特に後者は、この事件以後活動を活発化させるようになった。

 このことは後のこの世界の日本の歴史での、一つのターニングポイントでもあった。

 

 この時点では、まだ「根岸事件」などは収束しておらず、被害の全容(特に根岸駅周辺のエリア)は掴みきれていなかった。製油所の石油タンク火災が鎮圧に向かい、本格的に救助や復旧作業が行われ始めるのは、発生から4日も経過した頃だった。

 さることながら、SNS上でやり取りする彼らは知らない。意見を出しているその時においても、あらゆる場所で闘いが続いていることを。

 それは無論、危うく被害を受けるところだった鹿屋基地も例外ではない。

 

 

 

 

 6月5日 午前9時10分 ―鹿屋基地 艦娘寮二号棟 2311号室―

 起床して、洗面所で歯磨きや洗顔などを済ませる山城。

 昨晩のうちに鍋に作り置きしていた、野菜多めのカレーを皿に移し、電子レンジで温める。

「姉様、早く来ないかしら。一人で料理を食べるのも、段々空しくなってくるわね…。」

 まだ来ぬ(扶桑)のことを思いながら、スプーンをカレーに入り込ませる。

 …部屋にテレビなどがまだ無いので、スプーンと皿が擦れ合う音以外は、沈黙が支配する。

 

 10分程して、手作りカレーを完食する山城。

「…さて、そろそろ演習に向かいますか。」

 そう言うと、自室でいつもの制服に着替える。

「行ってきます、姉様。山城の活躍、見ていてくださいね。」

 誰もいない部屋に、こだまする声。

 見送る者はいない。

 

 山城は、部屋の鍵を閉め、一人執務室へと向かう。

 

 

 

 

 午前9時20分 ―鎮守府本館 執務室―

 執務室では、既に何名かの艦娘と提督、副司令が集まっていた。

「おはようございます。提督。副司令。」

「ああ、おはよう山城。」

「なんかもう、既に臨戦態勢ね。」

「ええ、少しずつ強くなっているのが実感できてますし。…最も、船速が遅いのはどうしようもないですけど。」

「それは仕方ない。…それと、今日の午前中の演習メンバーと、演習相手はこちらだ。」

「拝見させてもらいます。」

 提督から手渡されたレポートと、既に執務室に来ている艦娘達とを見比べる。

 

「ありがとうございます。…あと、二人ですかね? まだこの場にいないのは。」

「そうだな。」

 …タッタッタ

 バンッ

 勢い良く執務室の扉が開かれる。

「すみませ~ん。朝食食べていたら、こんな時間になってしまいました~。」

「申し訳ありません、提督。副司令。」

 遅れてやって来たのは、大潮と古鷹だった。この二人が先程言われていた、残りの演習メンバーである。

「遅いぞ、二人とも。…さて、今日午前の演習メンバーが揃ったところで、演習内容の打ち合わせだ。」

 

 本日午前の演習メンバーは、山城や古鷹、大潮の他に、比叡、祥鳳、重雷装巡洋艦に改装された北上の6名だ。山城はまだ戦艦であるため、今回の演習での経験値によって、航空戦艦への改装レベルに達する見込みとなっていた。

「今日の演習相手は、佐世保の提督のところからだな。」

 そう提督が言うと、相手陣営の艦娘を告げる。今日午前の演習は、5回行われる。

 以下佐世保側 演習艦隊陣容

・第一演習、第二演習

 長門・摩耶・衣笠・五十鈴・吹雪(改二)・千歳(航改二)

・第三演習~第五演習

 那珂(改二)・睦月・如月・卯月・不知火・伊58

 

「水上打撃部隊と水雷戦隊+潜水艦、といったところでしょうか。佐世保の提督さんもなかなか考えてくれていますね。」

 山城はそう言うと、提督に対して

「でも、12隻も派遣してくださるとは思いませんでしたがね。何かあるのですか?」

 と疑問を吹っ掛ける。

「ああ、そういえばまだ言ってなかったな。実は佐世保の提督とは相互協力体制、いわば友軍艦隊という形で協力を行うことになったんだ。」

 ほんとは早めに言うつもりだったんだが、と提督は付け加える。

 まだ、艦娘排除派の一件が収まっていないこともあって、佐世保に書類を渡しに向かった朝潮くらいしか、この件を知っている者がいなかった。

「なら、さっさと言えば良かったじゃないですか。」

「悪い。今日中には全体に伝えるつもりだ。」

「そうですか。…では、これより山城以下6名、演習に行って参ります。」

「ああ。頑張って来いよ。」

「気を付けてね~。」

 …とは言ったが、提督や副司令は、出撃や遠征等に向かう艦娘たちを、工廠横まで見送ることをいつも欠かさない。なので、今日もいつも通り彼女たちを見送ろうとする。

 

 

 鹿屋基地鎮守府 工廠横プラットホーム

 DE10重連が連なる14系客車改造の艦娘専用列車が、艦娘たちの乗りこみを待つ。

 鹿屋基地に艦娘を配置する際に問題となったのは、艦娘の出撃手段だ。通常、艦娘は海岸線沿いから出撃用の港湾設備を使って出撃する。横須賀基地や佐世保基地など、海岸にある自衛隊基地(鎮守府)は主にこうした方法で出撃している。

 ただ、内陸に位置する海上自衛隊鹿屋航空基地に関しては、その方法は使えない。

 では、どうするか。

 

 

 何のことはない。

「基地のそばに線路があるんだから、鉄道使えばいいじゃん!」

 …と、防衛省の中の人が言ったどうかはさておき、鹿屋航空基地からは艦娘を鉄道輸送方式で、海岸線にある別の出撃拠点施設へと向かう方法を選択したのは、ある意味合理的であろう。

 鉄道輸送のメリットは、ある程度の重量物であっても高速に、かつ大量に輸送ができることだ。また、安定的にかつ定刻に輸送が行えることは、迅速性が求められる軍事輸送においても、その強さを発揮する。

 こうして鹿屋航空基地と、出撃拠点の置かれた荒平駅間を結んでいる大隅線が、この対象区間に選ばれることだった。

 該当区間の複線化を行うことで、JR九州の運行ダイヤに支障が出ないように図られた。

 当然、国民生活を守るための自衛隊あるいは艦娘が、国民生活に支障を与えるようなことがあってはならないという、彼らなりの意志の表れでもあったが。

 

 後に、旧岩川基地跡地を一部再徴用して基地整備及び新規鎮守府設置を行った際、岩川基地鎮守府の艦娘に対して、航空自衛隊所属のC-130・C-2輸送機による艦娘の空挺降下方式(往路のみ)がとられたのは、制空権の確保が進んだこともあったが、鉄路が利用できない事情もあったためである。なお、復路は鹿屋基地の荒平側出撃拠点を使い、トラックもしくはCH-47J/JA輸送ヘリコプターによる回収を行うこととなった。最も、現時点ではまだ岩川基地自体がないため、出撃拠点は鹿屋基地鎮守府のみの利用となっている。

 

 

 

 話を戻し、8両の改造された14系客車は、車両側面が下降型サイドハッチ方式(車両下側を支点に開閉する方式)となっており、ここから艦娘の艤装や装備類の詰め込みが行われる。艤装等の詰め込みは、巻き上げ式リフト方式がとられている。

 

 

 山城や他の演習メンバーが、列車に艤装の詰め込みや演習弾薬等の確認を妖精さんたちと共にやっていた頃、提督と副司令は鎮守府本館の小会議室にいた。

 理由は、今から訪れる者たちを出迎えるためである。

「失礼しま~す。南九州放送でディレクターをしている矢田部(やたべ)と申します。こちらはカメラマンの和島(わじま)です。本日は艦娘の取材許可を取らせて頂きありがとうございます。」

「はじめまして。この鹿屋基地鎮守府の提督と、左に控えているのが副司令です。」

「はじめまして。」

「すみませんな。…こんな時に取材を受けて、そちら側は問題はないのですか? こちらがこんなことを言うのもなんですが。」

「ええ、上も許可していますし、問題ないかと。」

「72時間の密着取材…、艦娘たちのいい画が撮れそうです。」

 矢田部が、にんまりとした顔で提督を見る。

 提督は、その表情に何か得体の知れないものを感じ取ったが、気取られないよう冷静さを装って話を続ける。

「ちなみに、そちらの取材要員は何名ですか?」

「6名です。うち2名はAD(アシスタントディレクター)で、基地の外で待機してもらっています。カメラマンは和島の他にもう一人います。名前は佐々木ですね。」

「…?あと一人はどなたですか?」

 人数の頭数の合わなさに疑念をもっていた提督。

 すると、

「すみませ~ん!遅くなってしまいました!」

 小会議室に一人の女性が飛び込む。

「あなたは…?ここは関係者以外立入禁止なのですが。」

 提督がそう言うと、部屋に入ってきた女性が息を切らしながら口を開いた。

「申し訳ありません。私、こういう者でして。」

 提督と副司令は、女性が手渡した名刺をまじまじと見る。

「「南九州放送 アナウンス部 椎崎(しいざき) (かなで)?」」

「はい!今年の春に入社したばかりです。…入って初めての取材だったのに…、どうしてこうなったのでしょうか…。」

 少し泣き目になっている椎崎だったが、突然の状況に動揺する提督。

「俺に聞かんでくれ…。それと、軍事機密に触れる部分の場所は、法に触れる場合があるので絶対にやめてくれよ…。」

 提督は、矢田部に対して釘を差す。

「分かってますって。じゃあ、これから三日間よろしくお願いします。」

 矢田部と和島は、提督たちににこやかな顔を向けて部屋を出る。

「じゃ、じゃあまたあとで。あっ、艦娘さんたちにインタビューさせてくださいね!」

 椎崎は、先に出た二人を追うように部屋を後にした。

「これから、少し骨が折れそうだな。」

「ですね。」

 部屋に居た二人も、取材班に演習内容等の説明を行うべく、艦娘専用列車へと向かう。

 この十数時間後、先程の椎崎奏が、報道の歴史に残る言葉を残すことになるとは、二人には思いもしないことだった。

 

 

 

 

 午前10時4分 ―艦娘専用列車 2号車―

「さて、あとは提督たちと、マスコミだけね。」

 艤装群を載せ終え、列車内で待つ山城。

 艦娘専用列車は旅客列車ではないが、客扱いを行うこともあるため、運転士のほか車掌が乗り込むこともある。今回は、艦娘の密着取材班が乗り込むこともあって、車掌が乗務している。なお、列車の運行はJR九州に委託している。発車タイミングは、艦娘の艤装詰め込み完了から10分後となっている。これは、大隅線を走っている列車の退避や時間調整を行うためである。

「山城さん。」

「あら、比叡じゃない。どうかしたの?」

「いえ、みんなここ数日バタバタしていたものですから、ちょっと仮眠をとっている娘もいまして。話し相手を探していたら、山城さんを見つけたものですから。」

「そう。…料理の腕はどう? 元々そんなに悪い方ではなかったはずだけれど、あなた御召艦だったじゃない。」

「ええ、少なくとも皆普通に食べてくれていますね。…誰ですかね、私のことメシマズだとか言ったのは?」

「それこそ私に聞かれても困るわよ。まあ、色々言われるよりは良かったんじゃないの。」

「そうですね。…扶桑さん、まだ見つかってないんですよね。」

「そうね…。あなたが金剛と一緒にいる姿を見ると、ちょっと羨ましい気にはなるわね。」

「お姉さまは譲りませんよ!」

「いや盗らないから。…でも、早く会いたいな…、扶桑姉様。」

「提督たちやみんなが探していますから、きっと見つかりますよ。」

「…そうね。」

「あれ?提督たちじゃないですか?」

「やっと来たみたいね。発車準備をしますか。」

 山城と比叡は、提督や取材班一行を出迎えに車外に出る。

 

 

「また古めかしい車両ですね。これをわざわざ改造したわけですか。」

「そうですね。今日はもう艤装の積み込みまで終わっていますから、作業工程は帰ってから撮られた方が良いかと。」

「そうさせてもらいます。」

 提督と矢田部が話すのを見た副司令は、横を歩く椎崎に声をかける。

「あなたのところのディレクター、ちょっと変わっているわね。普通、艦娘の密着取材とか、それこそ横須賀とかでも充分なものでしょうに。」

「あはは…。実は、ここでの密着取材を言い出したのは、矢田部さんでは無くて本局(東京)なんですよね。なんでも、上の方から地方の鎮守府の状況が見たい、とか言い出したらしくて。それで、その場に偶々いた矢田部さんが手を挙げて今に至っている訳ですけれど。」

「まあ、艦娘が映るだけで視聴率自体はとれるみたいだしね。ちなみに、あなたが今回この取材に手を挙げた理由は、さっきのことだけではないでしょ。」

「ええ。…自分の目で見てみようと思ったんです。いつも死と隣り合わせな艦娘さん達がどんな生活をしているのか、とか、なぜそこまでして私たちの生活を守ろうとしているのか、とか。画面では分からない、その場の空気を掴もうと思ったんです。出来ればそのまま伝えたいくらいには。…入社数ヶ月の人間が何を言っているんだ、とは思われそうですけれどね。」

「いいんじゃない?そんな理由でも。マスコミはともかく、あなた自身がどう思うかというのは結構大事なことよ。ジャーナリズムなんて言葉、今では死に体だと思っていたけど、あなたみたいな人がいれば、まだこの国も、この国のジャーナリズムも安心ね。」

 てっきり、自分の考えがバカにされると思っていた椎崎が副司令を見ると、彼女は穏やかに微笑んでいた。

「あっ、ありがとうございます。」

 思わず、彼女は副司令に礼を言っていた。それは何故なのかは彼女自身も分からなかったが、彼女が後にインタビューを受けた際に、自身の生き方の方向を固めてくれたのは彼女であると話している。

 

「お待ちしていました、提督。副司令。取材班の皆様も、よろしくお願いします。」

「どうぞ、列車の中へお入りください。最も、お世辞にも綺麗とは言えない車内ですが。」

 一行を待っていた山城と比叡が、彼らを案内する。

 提督たちは、先頭の1号車に乗り込む。ちなみに、列車の号車番号順は、国分・鹿児島方向側から1号車、鹿屋・志布志方向側が8号車となっている。

 

 

「座席の方は…、なかなかいいものですね。」

「これでも、JRの方々が内装等には、色々と便宜を図って下さいましたからね。」

 提督たちや取材班一行は、座席下に付いた通路側にあるペダルを踏み、座席を向かい合わせにして対面に座った。

 

 特急や急行といった優等列車の多くは、転換式クロスシートと呼ばれる種類の座席を採用している。提督たちが先程いじったのは、この座席のタイプである。

 この座席は、中・長距離を運行する優等列車においては必須のものであった。特に新幹線においては、東海道新幹線の0系新幹線から最新のN700Sに至るまで、現在においても座席の角度や硬さなどに改良が重ねられている。

 近年では、このシートのある車両が通勤客向けの通勤ライナーとして、専用の車両が導入されてきているが、艦娘専用列車においてもこれは例外ではない。

 ただ、艦娘専用列車は通常の列車とは異なり、中間に連結している2~6号車は艤装や演習・実弾薬の搭載されているスペースがあるため、座席そのものは数える程度である。編成の両端にある1・8号車に関しては、ほとんど改造前の車両のまま転用している。経費削減の側面もあるが、演習などでデータを取りに向かおうとした際に人が乗れない状況では困る、というのが主に座席が残された理由でもある。

 

 話を戻し、車内では提督や副司令が、取材班からインタビューを受けていた。

 なお、南九州放送は東京・汐留にスタジオを構えているテレビ日本の系列局で、熊本・宮崎・鹿児島を中心としたエリアで放送している。たまに福岡の方でも報道されることもあるとか。

 矢田部の進行のもと、椎崎が二人に切り込む。

「お二人は元から自衛官だったのですか?」

「ええ。最も、なぜ私のようなものが提督として選ばれたのかは、今に至ってもわかりませんが。」

「私の方は、提督(かれ)と同じ部隊の所属だったのですけれど、なぜかこちらの方に来ることになりまして。部隊が一緒の時にはあまり話すことがありませんでしたけれど、今では公私共に信用の置ける人物だと思います。」

「そうですか。ありがとうございます。ちなみにですが、お二人はその…、艦娘の皆さんについてはどうお考えですか? 例えば、面倒だなあとか、恋愛感情があるとか。」

 椎崎は、比較的なあなあにされそうな話題に対してストレートに聞く。

 提督は、椎崎のことをなかなかセンスのある人間だな、と感心しながら答える。

「そうですね…。端的に言ってしまえば、私にとっての艦娘たちの存在は相棒みたいなものですかね。どちらか片方が欠けても、物事が上手くいかないという意味においてですが。」

「私にとっては…、そうね。妹…みたいなものかしらね。見た目や中身が女の子であるのもそうだけれど、私がしっかりしなければこの子たちを不安にさせてしまう、とかね。」

「なるほど…。お二人もそれぞれ考え方が違うものなのですね。」

「人間、全て同じ解答を出すことはまず無いでしょうしね。」

「はい、ありがとうございます。ここで一旦撮影を止めます。」

 矢田部が撮影終了の合図をする。

 

 

「ふう、終わったか…。」

「そうね。…あなた、あの答え方で本当に良かったの?」

「何の…、ああ、あれか。…よく考えたら、あいつらも視るんだよな…。このテレビ番組。」

「だから、尚更気をつけているものかと思ってね。…まさか、何も考えていなかったとか?」

「というよりは、まだそんなに一緒に居るわけではないからな。現時点では、ああいう答えになるだろうな。」

「提督。お疲れ様です。副司令も。」

 提督が声の主のもとへと振り返ると、二人の戦艦娘がやって来ていた。

「おお、山城、比叡。さっきのやり取り、見ていたのか?」

「いえ、司令たちのインタビュー自体はそこまで聞けていませんでしたね。…何かマズいことでも言ったんですか⁉ 言っておきますが、金剛お姉さまは渡しませんよ!」

「落ち着きなさい、比叡。…他の娘たちは後ろ(の車両)かしら?」

「ええ。まあ、あまり関わりたくないというのもあるでしょうが。」

「それもそうね…。山城と比叡。二人も取材受けてみる?」

「えっ、いや私はその「わかりました!」ちょ、比叡!」

 山城は副司令の提案を断ろうとしたが、比叡の同意でそれは憚られる。

「いいじゃないですか、山城さん。それに、扶桑さんが見つかった時にいい記録として残せるじゃないですか。」

「そうかもしれないけれど…、姉様に無様な姿は見せられないのに~。」

「そうと決まれば。山城、行きますよ!」

「ちょ、比叡、アンタ力強いわよ! 待って、待ってってばぁ~!」

 比叡に引きずられるように、山城は取材班のもとへと連行されていった。

 

 なお、その時のインタビュー映像を、後にやって来た扶桑が見た際には

「山城、いい顔しているじゃないの。どうして、その時は恥ずかしがったのかしら?」

 と、山城の予想とは逆に褒めちぎられたため、山城自身は顔を真っ赤にして少しの間固まっていたそうな。

 

 

 

 

 山城たちの取材も終わる頃、一行の乗る艦娘専用列車は荒平駅に到着した。

 艦娘専用列車が荒平駅に滑り込むと、少し間をおいて鹿児島方面からやって来た九州標準色のキハ40系が、反対側のホームへと進入してくる。

 

 キィリィィー。

 

 金属同士が擦れ合う音が響く。

 艦娘専用列車は、先程荒平駅に入ってきた鹿屋に向かうキハ40系を見送った後、機関車の向きを入れ換えて海岸側の引込線へと進む。その先に艦娘たちの出撃拠点がある。

 

 

「これは…、凄いですね。壮観です。」

「横須賀とかだと、これよりもっと大きな施設なのですがね。」

 矢田部の感嘆に、提督が答える。

 一度に12隻が出撃できる、鹿屋基地鎮守府・荒平出撃拠点は、艤装の移動に使われる10tクレーンやベルトコンベアなどが設置されており、さながら工場のようである。

 ただ、拠点内の出撃用カタパルトの先には、錦江湾からの波が押し寄せてきていた。拠点内には潮風が満ちてきている。

「ここが、艦娘さんたちが出撃する場所ですか?」

「そうよ。できれば、カタパルトの部分は映して欲しくは無いのだけれどね…。」

 椎崎の疑問に、副司令が返す。

 椎崎の後ろには、和島が立っており、拠点の全景と椎崎や副司令を上手く入れるカットを撮影していた。

 

 ビーッ

 ウィンウィンウィンウィン

 

 艦娘専用列車のハッチが開くと同時に、拠点内のクレーンが警報音と警告ランプを伴って動き出す。

「凄くメカメカしいですね。」

「あなた方には見えないかもしれないけれど、今妖精さんたちが艤装をクレーンに固定しているところよ。」

 椎崎が、えっ、という言葉を発する前に、再びクレーンが動き出す。

 クレーンが進む先には、比叡の姿があった。まだ、艤装は取り付けていない。クレーンが運ぶ艤装は、その比叡のものだった。

「随分速いですね。」

「カメラマンさんも大変ね。一々アングルを変えなきゃならないなんて。」

「お気遣いなく。…一分のブレも無い…、見事な仕事だ。」

 和島は、クレーンで運ばれる艤装を見ながら、そう言葉をこぼした。

 艤装は、無事比叡の出撃用カタパルトの手前に置かれ、比叡が艤装を点検・調整し始める。

「皆さん、ここから少し外へ出てもらってもよろしいでしょうか?」

 提督が取材班にそう伝える。

「何か撮影をしたら、マズいものでもありますか?」

「いえ、その反対です。映像映えしそうな場所がありますので。…みんなは、準備をそのまま続けてくれ。」

「それならまあ…。皆行くぞ。」

 提督の言に、矢田部は従い、取材班一行は提督の案内のもと出撃拠点の横にある、太平洋側に延びるフェンス付きの防波堤の方へと向かっていった。

 

 

 それから数分後。

「扶桑型戦艦山城、出撃します!」

 今回の演習艦隊の旗艦である、山城が出航合図を出す。

 艤装のセッティングが完了した6()の艦娘は、出撃用カタパルトに足を踏み入れる。靴型艤装の下側から、出撃用電磁カタパルトに艤装を引っ掛けるための、小型取り付け穴が出現する。

「取り付けヨシ!出撃準備完了!」

 全員の作業が完了し、電磁カタパルトの射出準備も整ったランプが点る。

 副司令がカタパルト操作室から、演習艦隊に対しマイクを通して発令する。

「演習艦隊、第一艦隊出撃!」

 そう言うと、手元にあるカタパルト射出のボタンを押す。

すると、艦娘を載せた電磁カタパルトはゆっくりと、しかしながら波を押しのけるように海中へと進んでいく。艤装内にある動力機関の負荷を下げるためにこうした方法がとられたわけであるが、実は防衛装備庁(旧技術研究本部)の実験にも利用されている。この電磁カタパルトも、実用実験の一環として使用しているものだ。

 まあ、国費を投じている以上何かしらのウラはあるのである。致し方無い側面もあるのだが。

 カタパルトから外れ、艤装内の機関を起動する。黒煙が施設内に流れる。

 施設から出ようとすると、東日が彼女たちの瞳に差し込む。

 

 

 

 

「あっ、出てきました!」

「確かに見映えがいい場所だな、ここは。」

「そうですね。艦娘たちの航跡も綺麗に撮れますし。」

 提督に案内された防波堤上のエリアは、取材班一行も納得のいく場所であった。

「我々は、彼女たちを見送ることしかできない。そのことに、時々腹立たしさを覚えることもありますが。」

 提督は取材班に向けて切り出す。それに対して椎崎はマイクを向けていた。

「でも、それがあなた達の仕事なのではないですか?」

「そうかもしれません。ですが、ただ椅子にふんぞり返って指揮をするというのが、どうにも性に合わないんですよね。」

「どうしてですか?」

 椎崎がそう言うと、提督はフェンスに両手を置きこう放つ。

「仲間が戦場に居るのに、どうして自分だけ安全な場所に居ようと思えるのですか?…確かに自分の命を亡くしたくはない。これは、戦闘員である我々自衛官や、ごく普通の民間人であろうが、誰だってそうです。だからといって、我が身可愛さで保身に走るような奴が、本当に指揮官と言えますか?私には、そこが譲れないところです。」

「…ありがとうございます。」

 椎崎は、こんな指揮官なら艦娘たちも大丈夫だろうな、と感じた。

 だが、椎崎からは見えなかった。演習に向かった艦娘たちを見送る提督の表情は、どこか物悲しいものだったことを。

 

 

 

 

 

 

「まもなく演習海域よ!全艦、陣形を単縦陣に!」

 山城は、比叡たちに号令を出す。それと同時に、山城の妖精さんが国際信号旗と発光信号を操作する。

 演習艦隊次位(先頭から2隻目)の比叡から順に単縦陣へと変化していく。なお、鹿屋基地鎮守府側の演習艦隊は先頭から、山城、比叡、古鷹、祥鳳、北上、大潮の順である。

 

 艦隊の数㎞前方に、複数の影が見えてくる。

 山城が、長距離用双眼鏡を持ち出して目視で確認する。

「あれが佐世保の艦隊ね…。全艦減速!挨拶するわよ!」

 山城の指示のもと、比叡以下5隻の艦娘は前方の艦隊を視認後、減速を開始する。

 

 

「今回の演習相手を務める艦隊旗艦である、佐世保鎮守府所属の長門だ。よろしく頼む。」

 長門と握手を交わす山城。ここ鹿屋基地鎮守府では、演習前に必ず両陣営顔合わせと挨拶代わりの握手を交わしている。

「鹿屋基地鎮守府所属の山城です。本日はありがとうございます。では、早速ですが演習に入ってもよろしいでしょうか。」

「こちらは構わんよ。そちらの艦隊の力、見せてもらおうか。」

「お手柔らかに…、お願いします。」

 いよいよ、錦江湾内で演習が始まる。

 

 

 

 

 演習海域は錦江湾内の桜島の南側海域で、奄美大島などの離島を結ぶフェリーや、石油輸送用の大型タンカーの航路に被らないエリアで実施している。

 演習を行っている間、漁船などに演習弾などが当たるといった二次被害を避けるために、事前に防災無線やエリアメール、漁協への連絡を行っている。

 

「みんな、頑張れよ…。」

 鎮守府に戻った提督は、取材班を通信室に通していた。

 彼は、通信室内のディスプレイから艦娘の位置情報を見ている。

 

 この通信室は、様々な通信機材が置いてあるのと、艦隊指揮を執る鎮守府側の中枢でもある。幸いなことに、深海棲艦の影響が宇宙空間には及ばなかったこともあり、日本版GPS「みちびき」シリーズの補完発展版「きらめき」が、艦娘の艤装内に設置された小型GPS発信機を常時追尾している。一見万能そうにみえるが、台風などの超強力気象条件や深海棲艦の拠点とされているエリアに関しては、GPSの電波を捉えることが出来なくなるため、基本的に艦娘の使用する偵察機などを用いて活動を行っている。

 

 提督は、基本的に戦闘時は指揮を執るのだが、演習など比較的轟沈等の危険性がない場合に関しては、旗艦や現場の艦娘たちに指揮を一任している。

 これは、第三者目線で立った時にどういう戦術が良し悪しなのか、ということを見定めるためでもあった。また、艦娘たち自身にも考える力をつけるという意味で効果があった。

 

 

 

 第一から第四演習では勝ったり負けたりの繰り返しではあったが、この午前中の演習にて特筆すべき内容としては、

・第二演習の夜戦では中破判定を受けた大潮の魚雷が、敵役旗艦の長門にクリティカルヒットの命中をし、一気に大破判定にまで持って行った。

・第三演習の際には、祥鳳の天山(艦攻)と彗星(艦爆)部隊が敵役駆逐艦三隻(睦月・如月・不知火)へ一度に命中弾を喰らわせる。大破判定にまで持ち込む。

 

 

 そして、最終の第五演習。

「全艦単横陣をとれ!」

 山城の指揮の下、対潜攻撃に有効な単横陣形をとる。

 潜水艦への攻撃ができない山城・比叡、古鷹は、それぞれ対艦目標を艤装内の測量儀を用いながら照準を合わせていく。祥鳳・北上、大潮は、潜水艦(伊58)に注意しながら航空機を飛ばしたり、ソナーに耳を澄ませていた。

 

 バシュッ

 

 伊58から放たれる魚雷。

 魚雷の向く先は、祥鳳。

 

「全艦、取舵一杯!絶対に掠るんじゃないよ!」

「了解!」

 戦艦などは、回避行動に移行するまでに時間が掛かる。

 軽空母もそれは例外ではない。

「祥鳳さーん!」

 魚雷は、祥鳳の靴型艤装に吸い込まれる。

 

 

ドドーン

 

 

 祥鳳は、なんとか雷撃に耐えた。(判定としては小破)しかし…、

「こちら、祥鳳。山城さんへ、左舷機関室とタービン、3つのスクリューに直撃して航行不能(の判定)。航空隊の発着艦は可能ですが、後方に下がります。」

『了解したわ。…対潜警戒を厳としつつ、この場から離脱して。航空隊の支援、お願いね。』

「はい…。みんな、やるわよ!」

 祥鳳は被弾しながらも、航空隊の妖精たちを鼓舞する。そして、彼らの士気も上々になった。

 続々と離艦していく天山部隊。矢を打ち出しながら、祥鳳は

「みんな、頼んだわよ…。」

 と、念じながら退避行動へと移る。

 

 

「さって、どこに(ひそ)んでるかね~?」

 北上は、海面とソナーを使いながら見渡す。

「ん?ありゃそれか?」

 双眼鏡やソナーを通してよく見る。…海中に黒ずんだ部分が見える。

「よーし。いっちょ撃ってみますか。」

 爆雷投射機を用いて、その一帯に爆雷を叩き込む。

 

『ドワーッ!』

 ソナーから悲鳴が流れ込む。

 …当たりだ。そう思った北上は、もう一度爆雷を同じ場所に投げ込もうとする。

 

 だが、その上を航空機が通過する。祥鳳の天山部隊だ。

 彼らは、北上の爆雷起動時の水飛沫を見てその上空を通過した際、はっきりと潜水艦娘の影を確認した。

 そして、対潜爆弾を投下する。…泡が立ち上ってきた。

 伊58が急速浮上してきたのだ。

「ぷは~ぁ。…スゴイでち。まさか、こんなに早く見つかるなんて思わなかったでち。」

 ゴーヤ(伊58)は、大破判定という意味合いでの白旗を揚げた。

 

 

『祥鳳さん!やりました!撃沈(大破)判定です!』

「お疲れ様。無事に帰って来てね。」

 祥鳳は、航空隊の部隊長からの通信を切ると、ヨシッ、と小さくガッツポーズをしていた。

 …ちなみに、一人退避行動中だったので他の演習メンバーらはこれを見ていなかったが、演習内容を撮影していた中継用ドローンにこの場面が映っていたこともあり、祥鳳さんはお堅いイメージがあったけれど可愛いところもあるんだね、と後で他の演習メンバーや鎮守府の面々から褒め殺しを受けたとか。…いいじゃん。

 

 

「先にやっちゃいましたか…。まあ、私の本命は魚雷(こっち)だしね。」

 ゴーヤにトドメを刺し損なった北上は、未だ健在な敵役駆逐艦に警戒しながら雷撃準備を整える。

 重雷装巡洋艦の真骨頂は、40門(艤装では20門)の魚雷一斉射。その時が来るまで砲撃と回避を続ける。

 

 

 対潜攻撃ができない山城や比叡、古鷹は高速で航行する名取や卯月に向けて砲撃を行う。

「主砲よく狙って!撃て!」

 山城の35.6㎝連装砲4門が一斉に火を噴く。

「気合!入れて、撃ちます!」

 それと同時に比叡も主砲と副砲、高角砲を使い、水平射撃で攻撃する。

「主砲、うてー!」

 古鷹も、20.3㎝連装砲3門や高角砲を用いて、睦月に向けて集中砲火を浴びせる。

 3人が撃った砲弾は、名取や如月を中破に、睦月や卯月を小破にそれぞれ追い込んだ。

 だが、決定打にはならず、雷撃戦へと移行する。

 

 駆逐艦の最大の武器は、一斉に放たれる魚雷。上手くいけば、戦艦一つ沈ませることも容易である。

 今回、敵役の演習艦隊との接敵距離は約9500m。

 高速で接近する魚雷を、回避速度で劣る戦艦は凌ぎきれない。

 

 

 ドドーン ドーン

「ヒエーッ!お姉さま譲りの装備が! ダメージコントロール、チェック!」

 今まであまり被弾しなかった比叡が、不知火や睦月から放たれた魚雷の餌食となった。

「機関室、大破浸水判定! 第三・第四砲塔使用不能! 後部副砲・高角砲沈黙! 後部射撃指揮所の通信、途絶! 艦右舷側に6度傾斜(判定)!」

 事実上の大破判定だった。

「山城さん、すみません。こちらは攻撃困難です。あと、お願いします。」

『了解。追被弾が無いようにね。』

 前部側艤装の第一・第二砲塔も攻撃できなくはなかったのだが、比叡が傾斜判定を受けている以上、砲撃が困難になることがあり得るためやむなく断念となった。

 

 

「名取さん、やりました。指示、お願いします。」

 比叡に魚雷を命中させた不知火が、名取の指示を仰ぐ。

『不知火さんは夜戦に備えて魚雷の再装填を、睦月さんは主砲と電探の調整を行ってくださ~い!』

 名取は、山城達からの攻撃を回避しながら指示を飛ばす。

 今回の佐世保の名取は、命中率などの精度は低いのだが、回避能力に関してはかなり高い技術を持っている。

 中破こそしているが、舵が故障(判定)していても両舷のスクリュー回転比を変えて航行している。(これは油圧システムを喪失・損傷した旅客機で行われる際の、エンジン操作が例として分かりやすいだろう。)

 緊急時の対処法も、こうした演習では双方とも実践されている。

 

 

『こちら古鷹。魚雷発射管故障!砲撃支援に徹します!』

「お願いね!」

 山城は焦っていた。こちらは二隻が離脱、雷巡と駆逐艦が一隻ずつ、中破し魚雷が撃てない、かつ火力が少し劣る重巡が一隻の四隻。

 一方、相手は潜水艦のみ大破、離脱した以外は全艦健在だった。離脱の報告は、祥鳳の航空隊から入っていた。(中破等の情報は双方とも演習中は入らない。旗艦のみ自分たちの情報が入り、自艦隊の損傷具合を知っている。)

(まずいわね…。演習とはいえ、このままでは押し負けるわね。)

 数で押し切られる危険性が高かったうえ、カットインなどされれば小中破で済んでいる艦さえも一挙に大破に持ち込まれる公算が高かった。

(仕方ない。)

「北上、大潮!聞こえる?」

『ほいよー。』『はーい。』

「敵艦隊と反航戦をとりつつ、敵艦隊から見て左舷側に向かって!」

『『了解!』』

「古鷹!」

『はい!』

「私の後に続いて、敵艦隊の右舷側に回り込むわよ!」

 山城は、艦隊を二つに分け、敵艦隊をサンドイッチ状に挟み込む砲雷撃戦を行うことを決めた。

 この陣形は複縦陣の間に敵艦隊を挟む格好となるが、反航戦をとっているため、いわゆるフレンドリーファイアが起こる心配は低い。

 

 

 

 

 夜戦開始と同時に漸近する山城たち。無論、相対する名取たちも梯形陣(ていけいじん)(いわゆるナナメ)で応戦しようとする。

 だが、山城と古鷹の砲撃に気を取られた名取たちは、北上と大潮から放たれた30発以上の魚雷に気がつかなかった。

 山城は、敢えて自分たちを囮に使うことで、雷跡が見えない夜戦時の魚雷を効果的に使った。

 

「さて。重雷装巡洋艦の実力、見せてやりましょうかね。」

 北上は大潮共々、先程の鬱憤を晴らすかのように20門の魚雷を海中に解き放つ。

 

 

「⁉ 名取さん!ソナーより通信!左舷より複数の魚雷音聴知!回避してください!」

 睦月が名取に進言する。しかし、時すでに遅し。

 

 ドドーン ドドーン ドドーン

 

「きゃああああ!」

 名取に、北上から放たれた四本の魚雷が次々と刺さる。判定は大破だった。

 

ドーン

「くっ、不知火に落ち度でも…。いや、落ち度しかないですね…。」

 不知火にも魚雷は向かい、二発が命中する。(判定は中破)

 

 ヒューン   ドッカーン

「いやああああ!」

 如月には、古鷹の砲撃が直撃。大破に近い中破判定となった。

 

「やってやるにゃしぃ!」

「頑張るぴょん!」

 睦月と卯月も負けじと応戦。山城と古鷹に、それぞれ一発ずつ魚雷をヒットさせる。

 だが、これは状況をひっくり返すことには繋がらなかった。

 

 勝利の女神は、山城たちに微笑んだ。状況は拮抗していたが、勝敗の差に関しては、ほぼ紙一重のものだった。

 

 

 

 

「ありがとうございました。鹿屋基地鎮守府の皆さん。」

 最後の演習艦隊旗艦だった名取が、山城たちに頭を下げる。

「こちらこそ、ありがとうございました。…非常に身に入る演習でした。」

 山城も、名取が差し出した手を握り返す。

 

「ありがとうございました。有意義なものになりました!」

 祥鳳は、ゴーヤと不知火にお礼を言う。

「いえ、こちらこそ。それと、一つ言っておきたいことが。」

「轟沈艦、絶対に出したらだめでちよ。でちたち二人は、佐世保では二代目なんでち。」

「えっ。」

 祥鳳は驚く。

「だから、絶対に沈めるようなことがあっちゃだめでちよ。」

 祥鳳は、ゴーヤの顔をしっかり見て、

「わかりました。提督にもはっきり伝えておきます。」

 と言うと、二人の手を握った。

 

 

 

 

 午前11時57分 ―鎮守府本館 通信室―

「終わりましたね。」

 矢田部が中継映像を見ながら呟く。

「ええ。これから彼女たちも帰ってきますよ。」

「と、いうことは今から昼食ですか?…どんなお食事なんでしょうかね?」

 提督の言葉に、椎崎が返す。昼食のくだりは、別に椎崎のお腹が空いていたというわけでは無く、次に取材するであろう場所についての許可も暗に指しているものでもあったが。

「私たちはこれから大食堂に向かいますが、どうしますか?」

 副司令が取材班に聞く。

「一緒に行きます。普段の風景を見るのも、取材の一環ですし。」

 矢田部はそう返した。

「わかりました。では、行きましょう「失礼致します!提督、緊急事態です!」…か?」

 突如、一人の自衛官が書類を持って駆け込んできた。

「どうした?何事だ?」

「取り敢えずこれを。五分前の情報です。」

 提督と副司令は、書類の内容に目を通す。

「…奴さんら、いよいよ仕掛けてくるのか。」

「…全艦に伝えてくるわね。」

「ああ。頼んだ。」

 副司令は、通信室内の放送設備から艦娘に向けて館内放送を行う。

 

「あの。一体何かあったのですか?」

 椎崎が、おずおずと提督に尋ねる。

「すみません。…ここから先は、緊急時対応となります。撮影は構いませんが、なるべく艦娘たちの支障にならないように配慮してください。」

「何が、始まるのですか?」

「…深海棲艦の攻撃です。」

 提督は重々しく、はっきりと椎崎ら取材班に対してこう伝えた。

 

 

 

 

 午前11時45分 ―航空自衛隊高畑山分屯基地(宮崎県串間市) レーダーサイト―

 時系列は少し遡って、航空自衛隊のレーダーサイト。

 ここは元々、日本の領空侵犯を行う航空機の存在を探知するために設置されたレーダーサイトの一つである。

 後に、深海棲艦の戦闘機などを補足するための新型レーダーも追加された場所でもあるが、普段はあまり活動することのほうが少ない。だが、今日に関してはそれが違った。

「こちら、高畑山。(西部航空方面隊)司令部へ、深海棲艦機と思われる複数の物体群を探知。日本の領空侵入まで、約1時間半。」

『こちら司令部。了解。E-767とE-2Dを現場空域に向かわせた。五分後には識別がとれると思われる。画面に注視されたし。』

「高畑山、了解。監視継続します。」

 司令部とのやり取りから4分後。

 高畑山分屯基地は、E-767とE-2Dより接近しているのは深海棲艦機で間違いないとの連絡を受ける。

 これを受けて、高畑山分屯基地から鹿屋航空基地の方へと連絡がいったのである。

 鹿屋航空基地では、基地航空隊がスクランブル体制を取っていたこともあり、連絡を受けてすぐに邀撃へと向かうのだった。

 

 

 

 

 ―鹿児島県佐多岬沖 東南東180㎞地点―

 台湾東方沖を進んでいた深海棲艦の空母機動部隊は、ここで戦艦ル級を擁する水上打撃部隊と空母ヲ級を基幹とする空母機動部隊の二手に分かれる。

 今回の深海棲艦の攻撃計画は、空母機動部隊による鹿屋基地や鹿児島空港への空爆と滑走路破壊、鹿児島港及び錦江湾内への航空機雷敷設による海上輸送能力の無力化と、戦艦ル級などの艦砲射撃による鹿児島市街の殲滅、深海棲艦の拠点化への足掛かりとするための大規模侵攻であった。

 この戦闘に参加する深海棲艦側の艦数は、6艦隊37隻。

 但し、陣容は戦艦ル級4隻(うち2隻がflagship)、戦艦タ級2隻、重巡リ級2隻(どちらもelite)、防空型軽巡ツ級4隻、雷巡チ級2隻、軽巡ホ級1隻、空母ヲ級7隻(うち2隻flagship、2隻elite)、軽空母ヌ級4隻(2隻がelite)、駆逐艦イ級7隻(うち3隻後期型)、輸送ワ級4隻(うち1隻flagship)である。

艦隊陣容としては、3艦隊×2に分かれ、ル級・タ級・リ級・ツ級2隻・チ級・ワ級・イ級2隻が錦江湾内へ突入。空母機動部隊がこの海域から空爆を行うことになった。

 

 

「艦娘ドモメ、絶望スルトイイ。コノ圧倒的火力ノ前二、為ス術ナク沈ンデイケ。」

 水上打撃部隊の旗艦ル級flagshipは、艦娘や人類に超攻撃的だったが故に今回の総旗艦に指名された。対して、空母機動部隊の旗艦ヲ級(無印)は、今回の攻撃に消極的な深海棲艦だった。

 この旗艦の差が、後に深海棲艦側の損害に影響を与えることになるのだが、この時に深海棲艦側で分かっていた者はいなかった。

 

 

 

 

 場面は戻り鎮守府本館。提督は一度執務室に戻っていた。

 目の前に迫る危機から、気を落ち着かせるために。

 窓からは、数多くの陸上攻撃機や陸上戦闘機が離陸していった。

「分かっていたことだったがな…。腹を括るか。」

 そう言うと、提督は自分の顔をパンパンと叩き、自分の精神(こころ)に喝をいれる。

「自分の指揮一つ間違えただけで、誰かが沈む。…絶対に皆を生きてここへ帰すぞ…。」

 提督はそう言うと、執務室に置いていたファイルを引っ張りだし、開戦の準備を整える。

 

 遂に、文字通りの殴り合いと化す、鹿児島・鹿屋基地迎撃戦が始まる。鹿屋基地鎮守府の提督や副司令、艦娘たちの未来は、今まさに正念場を迎えようとしていた。

 明日を掴むために。




ご拝読頂きありがとうございました。

途中で出てきた、不知火とゴーヤの話ですが、これは筆者の実体験です。
「帰ろう。帰れば、また来られる。」は、今でも筆者の艦これをやる上での至言です。無茶したらダメ、ということも念頭に置いています。


さて、話は変わりますが刀使ノ巫女のSSの話を前話で挙げていましたが、現在プロット作成段階です。
普段全然泣かないのに、最終話に関しては滅茶苦茶泣いてしまったという、珍しく肩入れしたくなるような作品でしたので、どうにかその魅力を他の方へと巻き込んでみたいな、といいうのもあって思案中です。
(ちなみにとじともやっとります。とじみこ・とじともはいいよ)

ちなみに、各話それぞれのタイトルは必ずその話にまつわるものとなっています。(アラカトルは例外ですが。)

こちらの方も、若干やばそうな雰囲気は漂っていますが、果たして鹿屋基地の面々は深海棲艦の侵攻を抑えることが出来るのでしょうか?

それでは、また次回お会い致しましょう。
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