旭日は昇っているか ~鹿屋基地攻防記~(休止中)   作:くろしお

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くろしおです。

今回は、鹿屋基地迎撃戦の最終話です。

それでは、どうぞ。


第13話 鹿児島・鹿屋基地迎撃戦 後段  大隅海峡海戦

 6月6日 午前2時13分 ―佐多岬沖 東南東11㎞付近 大隅海峡上―

 数多くの艦をASM-3により失った、深海棲艦の空母機動部隊は太平洋へと脱出するルートに航路をとっていた。

 当然のことながら、生き残った艦も大なり小なりの損傷を受けており、10ノットほどの速度で陸地から遠ざかっていた。

 もはや反撃する力もないため、旗艦のヲ級は、ともかく全艦に対してダメージコントロールの徹底を呼び掛けるほかなかった。

 自身も上部艤装を損傷する被害を負ったため、未だに艤装内では黒煙が漂っていた。

「艤装内の消火急げ!」

 格納庫内で炭酸消火器をかけ続ける、ヲ級の艦載機整備妖精。

 幸いなことに、弾薬庫誘爆という危険は回避されていたが、それでもなお艦載機の炎上が続いているため、不安要素が残る。

「艦娘たちに追いつかれなければいいけれど…。」

 募る懸念を抑えずにはいられなかった。

 

 午前2時15分 ―佐多岬沖 南西38㎞付近 大隅海峡上―

 その頃、鹿屋基地の艦娘たちに撃破され、海峡上で睨み合っていた深海棲艦の水上打撃部隊は、東シナ海側に向かう準備を整え始めていた。

 生き残った戦艦や重巡を殿に後退する。

 

 

「チッ!マダ撃ッテクルノカ!」

「…!旗艦代理!コイツラ鹿児島カラ出テキタ奴ラジャナイ!」

「!?何ダト!」

 撤退中の水上打撃部隊は、撃沈された旗艦ル級flagshipに変わり、タ級が代理で指揮を執っていた。

 砲撃を行っていたのは、演習から帰投途中だった佐世保の艦隊。既に友軍艦隊としての指示が佐世保から飛ばされていたこともあり、撃ち漏らしを出来るだけ減らすようにしていた。

 鹿屋基地所属の艦でないと分かった理由だが、夾叉の精度だ。

 鹿屋基地所属の艦隊は、砲撃時夾叉が二発ほど必要だったのだが、佐世保鎮守府の艦隊は一発もしくは直撃弾をもたらしていたためだ。

 「全艦一斉射!絶対に逃すな!」

 旗艦長門の号令のもと、逃げる水上打撃部隊を殲滅せんと動く。

 負けじと応戦する水上打撃部隊。

 だが、練度・戦力共に艦娘たちに軍配が上がっている以上、この状況を打ち破る力はもう残っていなかった。

 

 

 次々と沈みゆく水上打撃部隊。海上に残っているのは、旗艦代理のタ級とリ級flagship、ワ級2隻のみとなった。

「旗艦代理、モウ駄目デス!」

「諦メルナ!一隻デモ多ク艦娘タチヲ沈メロ!」

「シカシ!」

ドォン!

 

「リ級flagship!」

「オ逃ゲクダサイ…。旗艦代理…。」

 

 海底に引きずり込まれるリ級flagship。

「クソッ!」

 後方を振り返ると、炎上しているワ級の姿がそこにはあった。そして、また1隻が沈んでいった。

 (ドウスル…コノママデハ全滅ダ…。)

 代理とはいえ、艦隊の旗艦。艦隊全滅は、戦術レベルに於いて最悪の選択である。

 とはいえ殲滅を望む艦娘が、こちらの降伏を受け入れるとも思えない。

 (一カ八カ…。試シテミルカ!)

 タ級は、国際信号旗で降伏と停船を表す旗を掲げた。

 それと同時に、汽笛と発光信号で減速することを残ったワ級に伝えた。

 あとは、タ級自身天運に賭けるだけであった。

 

 

 丁度この時、鹿屋基地所属の艦隊も現場海域へと到達していた。

 その鹿屋基地所属の艦隊旗艦は、航空戦艦への改装を終えた山城であった。錦江湾で水上打撃部隊の迎撃に当たり、損傷を負った金剛に変わって引き受けることとなった。

 

「各艦、潜水艦への警戒を怠らないように!もう間もなく敵艦の射程距離よ!」

 山城は対潜警戒を厳として、残った水上打撃部隊の艦隊を追う。

 無線に通信が入る。

『鹿屋基地旗艦、応答願う。こちら佐世保鎮守府艦隊、旗艦長門。』

「こちら旗艦山城です。数刻ぶりですね。」

『ああ。…こちらの状況を伝える。現在、残存艦艇の掃討を行っていたが、敵艦が国際信号旗で停船及び降伏の旨を伝えてきた。騙し討ちの可能性もあるが、現に艦は減速中、発光信号と手旗信号で同じ内容を伝えてきているため、現在攻撃は中断しているところだ。』

「了解です。指揮権をこちらに移譲していただいてもよろしいですか?」

『構わないが…。』

「ちなみに敵の残存艦は?」

『戦艦タ級、及び炎上中のワ級が1隻のみだ。他は、追撃中に落せるだけ落としておいた。』

「分かりました。後はこちらに。」

『うむ。我々は、貴艦隊の到着まで現海域に留まっておこう。』

「助かります。」

 通信を切る。

 

 

 次に、鹿屋基地の提督へと連絡をとる。

「提督、山城です。」

『どうした?急の通信とは?』

「現在、佐世保鎮守府の艦隊から連絡があり、敵艦が降伏の意思を示しているとのことです。現在の現場指揮権は私になっていますが、提督の判断を仰ごうと思いまして。」

『そうか。敵艦隊は?』

「海上に残っているのは2隻のみ。うち1隻は炎上中とのことです。」

『分かった。…騙し討ちの危険性が無ければ、降伏を受け入れることを伝えてくれ。』

「!? いいんですか?奴らは鹿児島を砲撃しようとしたんですよ!」

『憎悪は、更なる憎悪を生み出すだけだ。これはどこかで断ち切らなければならない。それに、もし生きたまま深海棲艦の個体を確保できるなら、それはそれで今後の戦闘に大きなヒントになるかもしれない。』

「…大本営は、抑えきれるのですか?」

 山城の懸念はそこだ。提督の判断は、今まで本土への攻撃を行ってきた深海棲艦を、国民感情の観点から生かしておくことなど果たして出来るのか、市ヶ谷(大本営)から権限を行使されて更迭されないだろうか、などという問題も孕んでいたからだ。

『それはこれからだ。だが、殲滅主眼の現在の戦闘から、これ以上の戦闘による艦娘や武力の消耗を抑えることができるかもしれん。』

『確証は無いんですよね?』

「無い。だが、確実にする方法を執ることは出来る。」

「はぁ…。分かりました。私の負けです。」

『もし攻撃を行うのなら、その時は容赦しないでいい。誰も失いたくはないからな。』

「了解です。金剛にもよく話しておいてくださいね。」

『分かった。こちらから伝えておこう。』

 この先の鹿屋基地の命運を左右する決定が、この瞬間なされた。

「はぁ…。皆、これから忙しくなるわよ。」

 同行していた艦娘の多くは、頭上で?マークを作っていたが、この山城の言葉を理解するのはもう少し後のことになる。

 

 

 

 

 午前3時32分 ―佐多岬沖 南西48㎞付近 大隅海峡上―

 現場海域に到着した鹿屋基地艦隊は、佐世保鎮守府艦隊から現状を引き継いだ。

 佐世保鎮守府艦隊の去り際、旗艦の長門が、

「撃沈するのか?」

 と聞いてきたので、

「それはこちらが決めます。ですが、佐世保鎮守府の方に責任は負わせません。」

 と山城は返した。

 最も、この時点で既に決定は為されていたが、これから行うであろう事柄に佐世保鎮守府を巻き込まないため、こうした嘘を吐いたわけである。

「そうか。気を付けろよ。」

 そう長門に言われ、山城も頷いた。

 

 佐世保鎮守府艦隊を見送る面々。

「さて、本題はここからね。」

 停船中のタ級とワ級を見る。

「皆、艦を包囲して。攻撃は許可しないわよ。」

「「りょ、了解!」」

 取り敢えず、敵艦を包囲する。

 

 

「一体、我々ハドウナルノダロウカ。」

 タ級は、一部主砲を大破していたうえ、機銃等もほぼ喪失していた。文字通り満身創痍だった。

 後ろを振り返ると、黒煙と赤炎を上げ続けるワ級の姿。

「貴方モ良ク頑張ッタワネ。モウ、オヤスミナサイ…。」

「ギッ…。」

 涙を堪えるタ級。日頃、表情が分からないワ級の体がフルッと震えた途端、

 

ドカーン!

 

 輸送中の弾薬類に引火したのか、大爆発を起こした。

「全艦、ワ級から退避!引火するわよ!」

 山城が檄を飛ばす。

 

 沈みゆくワ級。その姿を見送り続けていたタ級は、ふとワ級が笑ったように見えた。

 顔など、分かる筈も無いのに。

「サヨウナラ…。マタ、逢エル時マデ…。」

 タ級は、ワ級の艦首が完全に海面に没するまでの間、敬礼をしながらも涙を流し続けていた。

 その姿を見ていた山城は、敵ながらも少し心が痛んだ。そして、タ級にそっと近づき一緒に敬礼した。

 同じく鹿屋基地所属の艦娘は、山城の行動に気づくと、静かに敬礼した。

 ただの輸送艦だったかもしれないが、戦闘艦として最後まで生き残ったタ級を、艦娘の保護下に入るまでの間、ずっと彼女のそばに居たのである。

 鎮魂と敬意を表して、現場にいた皆がワ級を見送った。

 

 

 

 

「誰か、タオルかハンカチを持っているかしら?」

 山城は、艦隊内にいる者に尋ねた。

「これなら有りますが。」

 潮が、ハンカチを手渡す。

「ありがとう。少し借りるわね。」

 はい、と潮が答えた後、山城はタ級のもとへと向かう。

「これ、使いなさい。」

 涙を流し続けていたタ級に、山城はそれを手渡す。

「…ズスッ。…イイノカ。敵デアル私ニ…施シナド。」

「今は泣けるだけ泣きなさい。悲しいのに敵も味方も関係ないわよ。」

「ズスッ…。アリガトウ。」

 潮のハンカチを受け取ったタ級は、多くの艦娘が見ているなかでも大声をあげて泣いた。

 同族である深海棲艦をこの戦闘で全て失った彼女が、大声で泣くことを誰が阻むことができようか。

 鹿屋基地所属の艦娘たちは、タ級が泣き止むまでの間、ただその場に立ち尽くすほか無かった。

 

 

 

 

 ようやくタ級が泣き止み、話が出来る程度には落ち着いた雰囲気になった。

「そろそろいいかしら。」

「…アア。」

「これからの貴方の処遇よ。」

「…私ハドウナル。撃沈カ?実験体カ?」

「いや、そもそも撃沈だったらもう既にやっているでしょ。」

「…ソレモソウダナ。」

「貴方はこれから、我々が保護(・・)します。」

「ソウカ。保護カ…。保護!?」

 驚くタ級。

「貴方でもそう思うのね…。」

 山城もそりゃそうよね、という反応をしながら続ける。

「確かに、今から貴方をこれから鹿屋基地の施設へと航送するわ。でも、生体実験なんぞうちの提督が断るわよ。…あってもせいぜい貴方の艤装や生活実態調査位でしょうね。」

「一応聞クガ、私ハ貴様ラノ土地ヲ攻撃シタンダゾ。本当ニソレデイイノカ?」

「いい、とまでは言わないけれど、戦意を持たない相手を撃ったところでね。こちらも後味の悪さしか残らないし。」

「ソウカ…。貴様ラノ指揮官ガドンナ奴カ、気ニナルナ。」

「そのうち会えるわよ。きっと。さて、貴方の砲弾を外し終えたら、この曳航索を括り付けるわよ。」

 同行していた霧島と妙高に、タ級に積まれていた砲弾を載せ替え、山城がタ級に艦娘用の曳航索を括り付ける。

 山城は、タ級のスタイルの良さに息を呑みながらも、サクサクと作業を進める。

 

 

 20分後。

「よし、今から出発します。進路を馬毛島へ!」

 山城旗艦の鹿屋基地艦隊は、種子島近海にある馬毛島へと向かう。

 タ級は、不安と自身の保障がとれた安堵感とがない交ぜになっていた。

 それと同時に、この艦娘たちを信じ始めてもいた。

 

 

 

 

 ―馬毛島 鹿屋基地鎮守府・深海棲艦保護区―

 馬毛島は、種子島の隣にある無人島で、現在では航空自衛隊の中継基地が置かれている。

 最も、その利用頻度もそう多くは無いため、鹿屋基地の提督の要請のもと、深海棲艦の保護区が海岸の一角に置かれることとなった。

 このエリアの適用自体が、今回が初めてであったこともあって、準備が急ピッチで進められていた。

 とはいえ、衣寝食住は整えられていたこともあり、細々とした準備を行う程度で済んでいる。

 

「さ、着いたわよ。」

「ココガ…。」

「あらっ、先約もいるようね?」

「エッ?」

 タ級がそう言うと、彼女の視線の先には、一日ほど前に別れ沈んだものだと思っていた、空母機動部隊旗艦のヲ級の姿があった。

「!? タ級!」

「ヲ級!生キテイタノカ!」

 二人は、再び会いまみえることが叶った。互いに抱きつく二人。

「無事デ何ヨリダ。」

「そちらこそ。全滅したものだと思っていたわよ。」

 そして、感涙する二人。

 

「なんか水を差しそうになるから下がろうかしら。」

「山城さん!」

「その声は…、電?」

「はい、なのです。」

「あなたが、ヲ級の保護を?」

「正確には、撤退中の深海棲艦の空母機動部隊で生き残っていた艦たち、なのです。」

 

 ()(つま)んだ説明をすると、

①撤退中だった空母機動部隊を、鹿屋基地の2つの水雷戦隊が追跡。

②このうちツ級のみ砲雷撃を加えてきたため、止む無く応戦。(一応同時に停戦を呼び掛けていたが。)

③ツ級の撃沈後、電の説得のもと空母機動部隊は降伏を受け入れ。

④無事曳航。しかし、途中でヌ級2隻が、残っていた火が格納庫に引火、弾薬庫にも誘爆を招いた。結果、海峡上で沈没。

 という経過をとった。

 そのため、無事に馬毛島に辿り着いたのはタ級、ヲ級(無印・flagship2隻・elite)とイ級の計6隻だった。

 

 

「…あなたがここの責任者でいいかしら。」

 ひとしきり感動の再会を果たした後、山城はタ級とヲ級を呼んでいた。その際、この保護区の責任者にタ級を指名したのである。

「私ガカ?」

「ええ。」

「…理由ヲ話セ。」

「いくつかあるけれど、一番は貴女の統率力よ。確かに、貴女は戦闘中艦隊がほぼ全滅する事態に陥った。でも、これは旗艦が沈んだことによって、代理を引き受けざるを得ない状況だったから。そこから、なるべく損害を出さないように、戦闘中戦術を組み替えていたわ。…ただ、相手が悪すぎたのだけれど。」

「…ソウダナ。」

「肝心なのはここから。そんな瓦解しかけていた艦隊を、士気を維持させたまま戦闘を続けようとしたことよ。これは、誰にでも出来ることではないわ。」

「買イ被リ過ギダロウ。私ハ一介ノ戦艦ダゾ。」

「そうかしら?少なくとも、私には出来ないことね。」

「…分カッタ。引キ受ケヨウ。」

「ありがとう。提督にも伝えておくわね。」

 こうして、深海棲艦の保護区の問題が一つ解消された。だが、タ級はこれから先深海棲艦の保護件数が増えていくことなど、この時点では知る由も無かった。

 

 

 

 

 午前10時18分 ―鹿屋基地 鎮守府本館・執務室―

「…本日の報告は、これで以上です。」

「お疲れ。山城。…盆と正月が一緒に来たような忙しさだったな。」

「全くもって同感です。…そう言えば、報道の方々は?」

「基地内のあちこちで取材中さ。どっちに転がるかは、正直分からないけれどな。」

「まあ、良くも悪くもマスメディアですし…。」

「被害が完全に特定されるまでは、少し時間がかかるからな。」

 

 鹿児島・鹿屋基地迎撃戦は、航空・陸上自衛隊と艦娘との連携のもと深海棲艦の侵攻を食い止めることができた。

 だが、米軍並みの物量作戦を全国各地で展開された場合、日本(こちら)の選択は非常に限られる。

 ジリ貧でその現状を維持するか、起死回生の一手として打って出るか、主選択肢はこれくらいである。

 

「今回は無事に皆帰って来られた。だけれど、次もそうなるとは限らないな。」

「…私たちが出来るのは、日々演習や訓練に精進すること。あとは装備が良くなるか、くらいですね…。」

「打てる手は打つ。…想定外は無くしておきたいがな…。」

 少し後に迫る、防衛省での提督会議に向けての準備も進めておきたいところでもあった。

 

 

 山城は執務室に照りつける太陽を見て、猛暑のような夏の訪れが近いことを悟った。

 

 一方首都圏では、その暑さの訪れさえも凍り付かせるような事態が起ころうとしていた。




ご拝読頂きありがとうございました。

馬毛島の設定は、現在検討中(執筆時点)の馬毛島基地化を基にしています。
さて、タ級やヲ級は今後どうなっていくのでしょうかね?

現在、刀使ノ巫女のSSも投稿中です。
宜しければ、そちらも読んで頂ければと思います。(趣きはだいぶ異なりますが。)

それでは、また。
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