旭日は昇っているか ~鹿屋基地攻防記~(休止中)   作:くろしお

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第2話です。

戦闘場面はもう少し先になります。楽しみにしていた方、申し訳ありません。
今回は、山城たち新規着任の艦娘たちの、着任式・歓迎会です。
少しずつ艦娘たちが登場してきます。

それでは、どうぞ。


第2話 着任歓迎会、艦娘達の思い

 山城が発見されて一週間後、鎮守府では山城をはじめとする、新たに着任した艦娘たちの歓迎会を兼ねた着任式の準備に取り掛かっていた。これは提督がこの鎮守府に配属されてから、欠かすことのない言わば恒例行事になっている。月一回程度の頻度で行われており、新しく来た艦娘たちの緊張をほぐすという意味合いも兼ねている。

 

 

 一週間前に故障した、大食堂の厨房設備の復旧工事は素早く行われた結果、大食堂は3日と経たずに通常通りの配膳が行えるようになった。

 第4倉庫にかなり大量にあった、消費期限の近い戦闘糧食は、配膳の行われない間に少しずつ減っていった。

 だが、三食全てがずっと戦闘糧食では、同じような味に飽きてきて食べる気も段々起らなくなってしまう。

 そのため翌日に提督が、各艦種の戦闘糧食の消費量が多かった1~3位の艦娘には、甘味処間宮の割引券(7割引、1位:10枚 2位:7枚 3位:4枚)を配布することを伝えたのだ。

 そこからの艦娘たちの戦闘糧食の消費速度は、正に高速で爆走する、燃焼効率の悪いスポーツカーのようであった。

 ただし、不正が行われないようにするため、自分が食べた戦闘糧食の種類や数、掛かった時間を0コンマ数秒単位までを計測し、大食堂で勤務する妖精たち(日替わりで勤務)と秘書艦にその記録データを確認してもらって、確認済みの押印をもらってはじめて正式な記録になるという、かなり大掛かりなものになった。

 勿論これは強制ではなかったのだが、鎮守府に所属する多くの艦娘がこれに参加した。

 そして、僅か2日ほどで消費期限の近い戦闘糧食の在庫が尽きた。甘味処間宮の割引券の効果、恐るべし。

 ちなみに結果は以下の通り。

 

<戦艦・航空戦艦>      1位 陸奥 2位 日向  3位 霧島

<空母・軽空母・水母>    1位 加賀 2位 千代田 3位 赤城

<重巡>           1位 高雄 2位 羽黒  3位 利根

<軽巡・雷巡>        1位 長良 2位 神通  3位 北上・夕張(同数)

<駆逐艦>          1位 夕立 2位 漣   3位 雪風・曙(同数)

<潜水艦・海防艦・その他艦> 1位 明石 2位 松輪  3位 伊58

 

 また、山城の救護活動に関わった五月雨・涼風・陽炎・不知火(あと医療妖精たち)にも、間宮の割引券(2枚)を渡している。

 これは提督が、見返りなく手伝ってくれたお礼として渡している。なお、甘味処間宮で割引される差額分は提督のポケットマネーから支出されている。

 

 

 

 

 5月25日 夜

 山城たち新規配属艦の着任式が始まった。この日は皆戦闘や演習、遠征も早めに切り上げて着任式の準備に取り掛かった。

 着任式を催す場所は、3階のイベントスペース。基地航空祭や年度初めの際の行事などで使われているのだが、それ以外の時期は現在の提督が着任する前まで荷物置き場と化し、事実上デットスペースとなっていた。

 現在の提督着任後、必要な資材や装備、設備などが見直され、不用品や廃棄物を一括処分した結果としてイベントスペースが常時使用可能になった。

 まあ、これ自体は前任者がその辺りをおざなりにしていた結果でもあったわけだが。

 

 

 午後7時

 着任式・歓迎会が始まった。今回着任した艦娘は山城のほか、戦艦 陸奥、重巡洋艦 妙高・羽黒・衣笠、軽巡洋艦 名取、駆逐艦 漣・荒潮、航空母艦 加賀・蒼龍の計10名。特に正規空母である加賀・蒼龍、ビッグセブンの一角である陸奥には多くの艦娘たちが集まってきた。 

 

 

 山城は、歓迎会が始まってから窓際の少し端の方に腰掛け、グラスを片手に少し考えごとをしていた。

 「姉様はまだここにはいらしてないのね…。不幸だわ…。」

 そう呟きながら、喉に飲み物を流し込む。

 

 一週間前に発見されてからというもの、山城自身も何故倉庫で倒れていたのか、未だによく分かっていない。おまけに自身の記憶であろうはずの洋上での出来事も、そんな事実が存在しないということで余計に不安に思うしかなかった。

 ただし、この鎮守府の提督や所属する艦娘たちは、彼女を暖かく迎え入れた。

 山城が発見された翌朝、提督がこの鎮守府に所属する全員に対して、山城が発見された経緯と今後について話をつけた。霧島や那智からは、

「所属も分からないうえ、倉庫で倒れる前までの記憶がないというのは不自然ではないか?」

 などといった趣旨の意見も出た。

 当然と言えば当然で、山城が素性も分からない何か得体の知れない艦娘である、という認識も間違ってはいなかったからだ。

 だが、提督は彼女たちに対して、

「もしもの場合は、全責任を俺が負う。それで異論はないか?」

 と言うと、納得して矛を収めた。

 それからというもの、ここでの生活に慣れていない山城に対し、艦娘寮の部屋の扱い方から鹿屋基地や鎮守府施設の紹介、一日の流れまで、懇切丁寧に様々な艦娘が教えてくれた。

 

 時雨と五月雨が、歓迎会の中心から少し離れたところに居た山城を見つけた。

「山城。」「山城さん。」

 二人が寄ってきたのには少し驚いていた山城だったが、

「何かしら?他の娘たちと話さなくていいの?」

「もう他の人との話は済みましたから。」

「山城、ここの鎮守府には慣れたかい?」

「ええ、まあ。何から何までだいぶ教えてもらったわ。寮の部屋や構造にはちょっとばかり驚かされたけれど。」

 どこか遠くを見る山城。ふと五月雨が、

「そういえば山城さん、この辺りのことってあまり知りませんよね?もしよろしければ、今度の週末に市街地を案内させてもらえないでしょうか?」

 と、藪から棒な提案をしてきた。山城は少し目を閉じたが、

「じゃあ、お願いしようかしら。まだよく分からないことの方が多いし。」

と返した。

「五月雨、山城。僕も一緒でいいかな?」

「勿論。むしろありがたいわ。」

「私だけだと不安だから、時雨の申し出には感謝です!」

 ここで三人の約束が結ばれた。

 

 

 二人が離れたあと、山城の下へとやって来たのは金剛だった。

「Oh!山城!楽しんでますカ?」

「まあ、程々には。あなた、相変わらずテンションが高いわね。」

「何かマズいことでもありましたカ?」

「べ、別にそんなことは言ってないわよ。にしても、あなたが私と話すなんて少し意外ね。」

「そうですカ?私はそうは思いませんけどネー。」

「そうかしら?性格的に真逆だと思うのよ。あなたと私とでは。それも水と油くらい。」

「ウーン。I don’t knowですネ。なんでそう言うのカ。」

「そう。そういえばあなた、この鎮守府に最初に来た戦艦の艦娘なのね。あなたが来た頃の、この場所ってどうだったの?」

 金剛は口元に左手人差し指を押し当てながら、少し押し黙った。そして、

「まだ、こんなに沢山の娘たちが集まる前でしたかネ。それも二十人もいなかった頃だったと思いマース。」

 そこから金剛は、自身がこの鎮守府に着任して以降の話をひと通りした。

 深海棲艦、しかも戦艦ル級やタ級との砲弾の殴り合い、赤城しか正規空母がいなかった頃に遭った深海棲艦の空母機動部隊との戦闘での苦労、着々と拡充されていった艦娘たち…。

 気が付けば三十分ほど経っていただろうか。それほど金剛の熱の入った思い出話に、山城が耳を傾け続けていたということでもあるが。

 別れ際、金剛が

「ここのみんなは、とても良い人ばかりネ。山城も辛いことがあれば、誰かに相談してみるといいヨ。あっ、でも提督のハートを掴むのは私なんだからネ!そこは譲らないデース!」

 といったのを聞いて、山城はちょっと顔を綻ばせながら、

「大丈夫よ。私が愛しいのは姉様だけだから。提督にはお世話になっているけど、それとこれとは話が別だもの。」

 と返した。

 金剛はそれを聞いて、ちらりと山城の顔を見た。その後右手を片手半分に挙げて、イベントスペースの奥の方へと向かっていった。

 

 

 金剛が離れて少し経った頃。山城に近づく影有り。

「山城、隣座ってもいい?」

 山城の隣に座ろうとしたのは、川内だった。

 この鎮守府では着任した順番的に中堅にあたるが、彼女も水雷戦隊を率いて戦果を挙げる一人だ。

 他の鎮守府では夜戦バカなどと揶揄されることも多い彼女だが、この鎮守府ではそんなこともなく、常識人的なポジションに立っている。最も他の鎮守府と比べて、ここは夜戦そのものが比較的多い方に入るようだが。

 夜戦、夜戦と騒がないのがそのおかげなのかは、本人以外には分からない。

 

「珍しいわね。あなたが私に声を掛けてくるなんて。」

「そうかな?私は別にそう思わないけれど。」

 確かにこの二人の接点というのであれば、ここではそう多くない。

 水雷戦隊を率いる川内と、演習や決戦時以外の出撃回数は多くない山城。出撃回数の少なさに関しては、山城以外の他の戦艦などにも言えることだが、彼女の場合ここに来てそう日が経っておらず、用意された艦娘寮の部屋で、色々考えながら過ごす時間が多かった。

 顔合わせや自己紹介も一部の艦娘にしかしておらず、ここの鎮守府に所属する艦娘全員と、顔を合わせるのは今日が初めてだった。川内とも何回か話した程度で、山城自身そこまで深い仲でもなかったからだ。

 

 ふと、川内が

「山城って、ここの倉庫で倒れていたのを見つけてもらったんだっけ?」

 と思い出したかのように、山城に質問を投げかけると、山城も

「ええ、そうよ。最もなんであそこに倒れていたかまでは、未だに私自身もよくわからないけれど。」

 と、こう返した。

「なんか不思議だよね。海上で発見される艦娘も多いのに、建造じゃなくて陸上で見つかるなんてさ。」

「結局、私自身もどうしてこうなったかが分からない以上、ここの皆へ見つけられた恩に報いるつもりではいるわよ。あと、姉様が来るかもしれないなら待ちたいし。」

「そっか。」

 川内は、山城の顔を覗き込んだ。山城は少し驚いたが、川内が

「あんまり無理し過ぎないようにね。ここの皆は相談に乗ってくれるだろうし。」

 と、彼女を気遣うように言った。山城も、

「大丈夫よ。そこまで不幸だなんだと、抱え過ぎて自爆するなんてことはしないわよ。」

 と返した。

 今の山城は、後ろ向きながらも前に進もうとしている。少なくともそう思わせてくれたのは、ここの提督や艦娘たち、基地職員の人々だった。なら、もう過去の事ばかりに囚われない。

「そういえばさっき、提督が何か話したがっていたけれど?何かあったの?」

「え?…そういえば今朝、何か言われたような…。」

「行ってきなよ。提督が待ってるよ。」

「…分かった。気遣いありがとね、川内。」

「いいって。じゃあ、また。」

 川内は手を振りながら、提督の元へと向かう山城の背中を見送った。

 

 

 ところ変わって、イベントスペースの中央付近では、新しく着任した加賀・蒼龍と、以前から鎮守府にいた赤城や軽空母組とで会話が弾んでいた。

「加賀さん、もう少し飲みませんか?」

「赤城さん…、久し振りの再会で何故大食い飲み競争になっているんですか?」

「まあまあ二人とも、こういう時くらいどんちゃん騒ぎましょうよ。提督が、ある程度の量の料理は準備してくださってますし。」

「そうだぞ、加賀。こういう時くらいパーッと飲んでいいじゃねえか。」

「隼鷹、あなたは自重しなさい。」

「飛鷹、そう言わなくてもいいじゃないの。ただ、飲み過ぎなのは事実だしねえ。千代田も、飲み過ぎてはいけませんよ。日頃からしょっちゅう、隼鷹と一緒に飲んでいるみたいですし。」

「お姉、ちょっ、それは黙っておいて欲しかったのにー!」

「…隼鷹、千代田。後で私とお・は・な・し、しましょうか。(ニッコリ)」

((アカン、終わった))

 この場には、赤城・加賀・蒼龍、隼鷹・飛鷹・千歳・千代田が顔を合わせていた。そこから1つテーブルを挟んで、鳳翔・龍驤・祥鳳が騒ぐ空母達を見ながら、酒を飲み交わしていた。因みに歓迎会のある時、居酒屋鳳翔は臨時休業している。

 

「ここも、人が増えましたね。寂しいような、嬉しいような、ちょっと感傷に浸ってしまいますね。」

「鳳翔、言いたいことは何となく分かる。せやけど、あのあたりを見てみい。皆、楽しそうにしとるでぇ。少なくとも人が多ければ多いほど、その楽しみを分かち合うことがもっとできるようになるってことや…。」

「龍驤さん、少し飲み過ぎではないですか?あまり無理すると、明日の戦闘に支障がでますよ。」

「祥鳳、今日くらいは飲ましてくれや。飲まんと、少し涙が出そうなんや。」

「えっ。」

 祥鳳が龍驤の顔を見ると、真っ赤にしながらも目元が潤んでいた。

「ウチがここに来た頃、こんな感じにワイワイなるなんて想像もつかないくらい、提督も当時所属していた皆も、浮かない顔をしとったんや。少しずつ提督が立ち直って、今ではこんな風になって。ほんのひと月前くらいのことのはずやったのにな…。」

「龍驤さん…。でも、皆笑顔ですね。こんな時間を、私は大切にしたいです。俯いてばかりでは、嫌ですから。」

「龍驤さん、祥鳳さん。そろそろ赤城さん達のところへ行きましょう。」

「そうやな。」「分かりました。」

 

 

 三人が去ったテーブルには、グラスが三つと一本の酒瓶、オリーブの葉があった。酒瓶にはザクロの実のイラストが描かれていた。

 オリーブの花言葉は、平和。ザクロの実の花言葉は、希望の成就。彼女たちは、何を想うのか。

 

 

 

 

 歓迎会もお開きとなり、時刻は午後11時を過ぎた頃だった。

 山城は、艦娘寮の自室へ戻っていた。彼女の部屋は、二号棟の三階の2311号室にある。お隣さんは熊野と蒼龍なのだが、二人とも飲み過ぎた面々を介抱しているため、まだ寮の方には戻ってきていない。

 

 寮の部屋は、原則として姉妹艦が同じ棟になるようにしているのだが、階や部屋が隣同士かと言われると、そこのところは微妙なことが多い。

 そこのあたりは、今後少しずつ改善される予定にはなっているが、提督曰く、引越し業者の手配もあるため、早くても八月下旬ごろになるとのことだった。

 少なくとも、姉の扶桑が着任していない今の山城にとっては、現在の環境でも不安や不満はない。最も、あるとすれば扶桑の早期着任くらいだが。

 

「ちょっと飲み過ぎたかしら。顔も赤くなっているし。」

 まだ足は確かだったが、それでも酒のまわりは速かった。

「大丈夫か。」

 そんな山城に声を掛けてきたのは、日向だった。彼女の後ろには、伊勢も控えている。

「どうも。ちょっとお酒飲み過ぎたみたいだから。」

「肩を貸せ。」「えっ。」

「部屋まで送ってやろう。この感じでは、いずれ倒れる。」

「いいの?」

「いいのよ、山城。」

 伊勢も同調する。

「危なそうだし、私たちも今寮に戻っている最中だから。因みに何号棟?」

「二号棟よ。三階の2311。」

「私たちと同じ棟だったのね。あっ、私が2507で、日向が2508。階が違うと中々気付きにくいのよねぇ。」

「そう、なの。ヤバい。呂律が回らなくなってきた。ゴメン、お願い。」

「おう、分かった。」

 日向が山城の左肩を、伊勢が右肩を抱えて、山城の部屋へと向かっていった。

 

 山城の部屋に着き、鍵を開けた。

「二人とも、ありがとう。」

「いいって。同じ航空戦艦のよしみだし。」

(※厳密には、山城はまだこの時点では戦艦である。)

「瑞雲のことで気になることがあったら、いつでも言ってくれ。レクチャーしよう。」

「あっ、ありがとう。」

 日向の瑞雲推しに少し引きながらも、二人の気遣いに感謝してゆっくりと扉を閉めた。

 

 

「ふぅ…。今日も色々あったわね。」

 冷蔵庫から、阿蘇の天然水の入ったペットボトルを取り出し、コップに注ぐ。

 ぐぃっ、と一気飲みして気分を落ち着かせる山城。

「やっぱり、水飲んだ方がスッキリするわね。」

 今から特にするようなこともなかったため、シャワーをサッと浴びて、早々とベッドに潜り込んだ。

 

「ねえ…さ…ま…。」

 

 睡魔に襲われるなか、山城は、まだ見ぬ扶桑を想いながら目を閉じていった。

 扶桑はいつ着任するのか、それはまだ、神のみぞ知るところだろうか。




ご拝読頂きありがとうございました。
扶桑姉様はいつ着任するのか…。扶桑好きの方々、もう少々お待ちください。
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