旭日は昇っているか ~鹿屋基地攻防記~(休止中) 作:くろしお
…長かった。(筆者がこう言うのもおかしいですが)
いい加減話を前に進めようとは思うのですが、やっぱり中々進まない…。
前話より少し長くなっておりますが、最後までお付き合いください。
それでは第5話です。どうぞ。
最後に夜間警備任務に就いていた五十鈴と由良は、今晩の三組の中で、最も巡回する場所が多い担当になっていた。
二人は水雷戦隊の旗艦としてだけでなく、深海棲艦の通商破壊部隊や空母機動部隊とも殴り合いを経験している、この鎮守府の中でも実戦経験に富んでいる。
そんな二人ではあるが、陸上に上がればそんなことは関係なく、一人一人の個人として互いに言葉を交わすこともしばしばである。
「由良、倉庫の見回りってどのくらいで終わると思う?」
「うーん。一時間半もあれば全部回りきれるんじゃないかな? 流石に提督さんも、『渡しているこの書類の地図通りに回れば問題ない』、と仰っていたし。」
「そうねえ…。あっ、見えてきた。」
二人の視界には、夜間にうっそうと建ち並ぶ倉庫群が見えてきた。
第1から第6まであるこれらの倉庫群のうち、第4倉庫は兵站関係、つまりは食料や日用生活、小銃等の弾薬関係が主に置かれている場所だ。先日倒れているところを発見された山城は、この倉庫内で見つかったのである。(その時の顛末は第1話を参照)
鎮守府建物の配置順は艦娘寮・鎮守府本館・別館・工廠・倉庫、滑走路を挟んで反対側に病院や自衛隊基地設備となっている。
鎮守府本館や工廠に最も近い第1倉庫は、基本的に艤装置き場で、徹甲弾・魚雷などの弾薬庫も兼ねたものになっており、こちらは工廠からしか入ることが出来ない。このため、夜間警備任務でこの倉庫は巡回しない。その代わり、夜戦や遠征などで夜間に帰ってくる艦娘もいるため、夕張や明石など、必ず誰か二人の艦娘がここにはいる。
その第1倉庫からだいぶ離れた場所に位置しているのが、第2~6倉庫である。これは、倉庫の間に海上自衛隊のP-3C・P-1哨戒機や訓練用ヘリコプターの格納庫(ハンガー)群が設置されている、という元々の基地の土地区画の関係からである。ちなみにこの格納庫群のうち、工廠寄りの3つは、艦娘たちの艦載機や陸上攻撃機の整備のために利用されている。
二人はその第2~6倉庫の第2倉庫側に来ていた。
第2倉庫は、通信機材や大型サーバーなど、主に通信関係のものが置かれている。トランシーバーやモールス信号の打電に使われる機材も、ここで保管されている。
第3倉庫は、艦娘たちが遠征で運んできた燃料や弾薬の一部が保管されている。ここまで徹底して弾薬を分散している理由は、仮に空爆や破壊工作が行われた時に、一ヶ所に集中して保管するのと分散して保管するのとでは、被害が雲泥の差になるからだ。もし仮に一ヶ所に集中保管した場合、誘爆が更に大規模な誘爆を引き起こしかねないからだ。
史実でも日本国内では、終戦直後に進駐軍(と言っても米軍だが)が、建設中の鉄道用トンネル内に隠されていた旧日本軍の弾薬を焼却処分しようとして、山一つを吹き飛ばし、数多くの住民が死傷する大惨事が起こっている。(詳しくは二又トンネル爆発事故で検索)見た目ではそう危険なものとは感じにくいが、それほどに危険なものだったりするのである。
第4倉庫は上記で述べた通りで、第5倉庫は鋼材の保管庫になっている。艦娘の建造や改装時には、ここから鎮守府用の私有ホッパ車やタンク車、
第6倉庫はボーキサイトの保管場なのだが、この倉庫の横には大規模なアルミニウム製造工場がある。…最も、なんで工場併設にしたのかは疑問ではあるが。(実際のところは、現場で製造した方が安上がり…だったらしい。)
「相変わらず広いわね。ここの倉庫。」
「そうね。まず回るのは…第2倉庫ね。」
二人は提督が渡した書類の地図通りに進みながら、倉庫内の点検や無人であるかの確認を行う。
第2倉庫は、一部精密機械を置いていることもあって、内部はかなり綺麗に清掃されている。特に慌てることも無く、すんなりと確認項目を全てチェックし終えた二人は、第2倉庫の鍵を閉め、そのまま第3倉庫へ向かう。
燃料や弾薬を保管している第3倉庫は、危険物だらけの場所である。そのため、倉庫の入口には『火気厳禁・取扱注意』の文言が書かれた看板が掲げられている。
今見回っている五十鈴と由良は危険物取扱者ではないものの、配属時に危険物取扱者と同様の内容の講義を受けている。このため、基地内に限り燃料を扱う場所の出入りが許可されている。これは、この鎮守府に配属された艦娘全員が受けることになっている。
「相変わらず、ガソリン臭い空間ね。ここは。」
「まあ、換気もしているし、艤装に燃料を入れるときは基本ドラム缶で工廠まで運ぶしね。ここで缶を開けることは、まず無いわよ。」
そう答えた由良ではあるが、実は過去に他の艦娘がここでドラム缶を開けてしまったことを、彼女は知らない。
ちなみに開けてしまった艦娘は、意外にも吹雪だったりする。最も、たまたま同じ倉庫内に居た提督が気づき、大惨事は防がれている。提督は流石に怒ったが、彼女たちのことを想ってのことだったため、その時以降燃料は、だいぶ厳しく安全に扱われるようになったが。
艦娘の艤装に給油される燃料は、主に軽油と重油だが、航空機を扱う艦娘には艦載機用としてJP-4・5・8が使われている。
※JP-4・5:自衛隊で主流の航空燃料 JP-8:米軍で主流になっている航空燃料
当然のことながら、第二次世界大戦時よりも燃料(石油)の精製技術は上がっているため、艦載機などの調子はすこぶる良いそう。(艦載機を扱う艦娘たち談)
…なので、万一の火災の場合は(爆発的に)とても良く燃える…。
ドラム缶入り燃料の保管数の点検と弾薬の状態確認も終わり、二人は第3倉庫を後にする。
第4倉庫と第5倉庫は、今晩は夜通しで装備品の入れ替えや搬入出作業が行われ、今日の警備任務からは外されている。なお、装備品の入れ替えに使われているのもまた、JR貨物の19D型コンテナだったりする。(倉庫横の側線にコンテナ車も留め置き)
倉庫群としては最後の見回り場所となる、第6倉庫。ボーキサイトの保管場なので、普通の人が寄ることは稀だ。
ましてや深夜2時半を過ぎようとしているなか、五十鈴と由良も誰かがいるとは思っていなかった。だが、居たのである。
「ん?あれっ?こんな時間に電気が点いているなんて。…由良、どう思う?」
「そうねえ。…ボーキサイトと言えば…。私が思い当たる人物は、一人しかいないわね…。」
「やっぱり、あの人かしら。」
五十鈴と由良は、念のため警棒と自動小銃(五十鈴はなぜかサブマシンガン)を引き抜き、五十鈴が突入役を務めることに。
由良が、第6倉庫の正面の小入口の扉を引く。その瞬間、五十鈴は目にも留まらぬ速さで倉庫内に突入していった。
「警備の者よ!誰かがいるのは分かっているわ!抵抗しないのなら、手に持っているものを地面に落として頭に手を乗せなさい!そしてこちらの方へ来なさい!」
五十鈴はサブマシンガンを構えながら、大声で倉庫内に居るであろう人物に呼び掛ける。
…シーン。
返事は、無い。
「よろしい。そちらがその気なら、私たちも実力行使で臨ませてもらうわ。」
と言うと、五十鈴は構えていたサブマシンガンを倉庫の天井に向け、
バババババババッ
おもむろに引き金を引いたのだった。…威嚇射撃なので、中身は空砲ではあるが。(流石に使うとしてもペイント弾かゴム弾程度のもの)
『バババババババッ』
「えっ、噓でしょ五十鈴!まさか…。」
銃声を聞いた由良は、大急ぎで倉庫内に入っていった。
元々、五十鈴が中にいる人物を確認し終えたら、連絡を受けて中に入るつもりだったのだが、流石に何かあったのだろうと分かったため、当初の打ち合わせとは異なり、五十鈴と合流することにした。
「何があったの!五十鈴!」
大慌てで五十鈴に駆け寄る由良。
「…っ。由良か~。もう、脅かさないでよ…。」
突然、由良に後ろから声を掛けられて驚いた五十鈴。
「ごめんなさい。それよりもさっきの銃声は!?」
「ああ…、あれ空砲よ?」
「えっ、そうなの!? …てっきり誰かを撃ったのかと思って…。」
「バカ言わないで!幾ら私でも、撃っていい時とそうでない時くらい分かるわよ!」
…ちなみに、五十鈴はトリガーハッピーなところがあるが、射撃の命中率は九割越えと驚異的な実力も持ち合わせている。(付いたあだ名が、スナイパー五十鈴)
なお、由良の射撃の腕も、上手な程の命中率を誇っている。(八割五分くらい)
「それよりも。居るんでしょう?居るのならこちらに出てらっしゃい!次は実弾を撃つわよ!」
勿論これは噓(撃つという部分は本当)なのだが、流石に中にいた人物も観念したのか、
「…すみません。撃たれたくないので、投降します。」
という声が出てきた。
「五十鈴…、威嚇とはいえやり過ぎよ…。」
「…すみません。」
反省も済ませ、二人は第6倉庫に居た人物の下に向かった。
第6倉庫に居た人物、それは赤城だった。(予想通りだったとか言わない)
ただ、赤城の名誉のために言っておくと、彼女は別にボーキサイトを食べに来たわけではなく、飛行甲板や艦載機の修理・整備のための資材として、ボーキサイトの量を確認しに来ていただけだった。
本当は確認を終えて直ぐに帰るつもりだったのだが、真横にあるアルミニウム製造工場のほうが気になって見ていたため、そこへやって来た五十鈴たちに気が付くのが遅れたためだった。
その証拠に、赤城の持っていたタブレット端末には、ボーキサイトの使用量とそれによって修理・整備される艦載機数の計算が載っていた。(動作時間も丁度五十鈴たちの来る直前だった)
このため、五十鈴は赤城に対して威嚇射撃を行ったことへの謝罪、赤城はこの時間帯に来ていた自分の行動の無責任さを、五十鈴と由良に謝罪した。
この件がきっかけになり、各倉庫にはカードキー式電子ロックが取り付けられることになる。(これ以降、倉庫の入出場管理は執務室内の専用PCで行われている。)
…結局、二人の倉庫の見回りは一時間半で終わることはなかった。
赤城を見送った二人は、工廠へと向かった。
第1倉庫は夜間警備任務で巡回する場所ではないのだが、工廠については巡回する場所に含まれている。
これは、工廠で何か起こっていないか、工廠にいる艦娘が異常を来たしていないか、などの確認を含めて回っているためだ。
今晩は、明石と夕張が工廠に居た。
工廠の扉を開けると、由良の視界には夕張が入り込んできた。何か、作業中のようだ。
「夕張、お疲れ様。相変わらず機械いじりが好きね。」
「ああ、由良。それに五十鈴も。こんな時間に来るってことは、今日は二人が当番なの?」
「ええ。…貴女も今日の歓迎会で、多少なりともお酒を飲んでいなかったかしら? その割には、手元がしっかりしているようだけれど。」
「今日は、ノンアルコールビールを飲んでいたのよ。さすがに、工廠に入っている時に酒なんか飲んでいたら、手元が危なくって仕方ないでしょ。」
「そうですよ。由良さん、五十鈴さん、警備任務ご苦労様です。」
建造ドッグの方から、明石が三人の下へ歩み寄って来た。
ここの明石は、艤装が確保できていない関係で、主に鎮守府に残って作業を行っている。前線に出られない分、仕事をキチンとやり遂げてくれるのだ。…たまに、変わった発明品を生み出してしまうことがあるが。
ちなみに、現在この鎮守府で稼働している建造ドッグは3基である。
「明石さん、お疲れ様です。建造ドッグで、艦娘の建造でもなさっていたんですか?」
「いえ、開発用の機材の整備をしていまして…。少し煙が出ていたので、何事かと思って調べていたんですよ。」
「ふ~ん? じゃあ、明石さんに聞くけれど、今後ろに回している右手に持っているものは、一体何なのかしらね?」
「…っ。さ、さて、何のことやら。」
ちょっととぼける明石。
カツカツカツ
五十鈴は、明石の下へと近づいた。
バッ。
五十鈴は、明石が右手に持っていたモノを取り上げた。
「これって…、開発に失敗した時に出る、ペンギンと雲みたいなやつじゃない!まさか…」
「五十鈴さん、勘弁してください。主砲系の装備を狙っていたら…、うっかり資源減らしてしまいまして…。」
「ええ~!明石、何してるのよ!」
突然の告白に、驚く五十鈴。
「言い訳のしようもございません。」
「あちゃー。結構減っているわね、資源。…朝一番で、提督に謝るしかないわね…。」
由良は、工廠内にある資源残量を確認してそう呟いた。
夕張は、顔を真っ青にしながら、
「私が気づいておくべきだった…。明石さん、私も一緒に行きますから、提督に謝りましょう。」
と明石に提案した。明石も、
「…ハイ。」
と答えるほかなかった。
結果、明石の尻拭いを一緒にすることになる夕張。翌朝、提督のもとへと謝りに行った。提督が下した二人への罰は、一週間の鎮守府本館にある全てのトイレの掃除だった。(ここの鎮守府は連帯責任も生じることがある)
その間の鎮守府本館のトイレは、便器が光で反射するほどとても綺麗に磨かれていたそうな。
今晩は遠征もないため、五十鈴と由良は、線路に面した工廠のシャッターが下りているかも確認する。
建造ドッグが無人であることも確認し、ドッグ内の電気を落とす。工廠で点検することは大体終わった。後は、二人に挨拶をするだけだ。
由良は、先に工廠と建造ドッグとの出入口付近へと向かった五十鈴を追いかけるように、工廠内で待っている明石達の下へ戻った。
「明石さん、夕張。二人とも、くれぐれも無理をしないで下さいね。私たちは夜間警備任務に戻ります。…明石さん、人があまりいない時の開発はダメですからね。今度から気をつけてくださいね。」
「明石さん、良い装備があったら今度私に試させて。電探系か対空兵装がいいわ。」
「分かりました。五十鈴さんたちも気をつけてくださいね。」
「由良、当番頑張ってね~!今度はちゃんと明石さん見張っておくから!」
二人に後押しされるように、五十鈴と由良は再び警備任務を続けるのであった。
この日最後の見回り場所は、入渠施設である。まあ、見た目はスーパー銭湯であるが。
ここでは、艦娘が戦闘から帰還し、被弾があった艦を入浴することで修理している。
入渠用のドッグ(個別の浴槽が振られている)が4つある。これらは、防衛省直轄の防衛装備庁と全国の(主に医療・化学分野においての)民間企業が共同開発した、高速修復材や遅効性修復材(入渠中に艦娘の負ったダメージを修復する液体)が使用されている。
お湯と一緒に使う遅効性修復材は、各鎮守府である程度の技術が確立され、現場で製造・循環させることができるようになった。
高速修復材は、技術的な解明が解明しきれていない特殊な液体であること(要は試行錯誤中にたまたま出来上がった産物)もあって、残念ながら大量生産できる技術が確立しきれず、現在は防衛省が遠征や戦闘時で得られる結果から、歩合制で各鎮守府に送られている。
…未使用化学プラントくらい有るだろ、とか突っ込んではいけない。(残念ながら、この世界でも防衛省の懐は寒い)
普通の入浴もでき、少し温度を下げているが源泉汲みだしの天然温泉や屋根付き露天風呂など、温泉施設としての機能も持っている。
正面玄関で靴を脱いだ五十鈴と由良は、近くにあるフロントに居た、入渠施設付きの妖精さんに声を掛けた。
「すみません。今、施設内を見回りしてもよろしいですか?」
「ああ、由良さん。それに五十鈴さんも。ちょっと待ってくださいね…。」
妖精さんはそう言うと、奥の方へ向かっていった。少し経って、
「お二方。お待たせしました。今は
と、答えを返してきた。
「ありがとうございます。五十鈴、行くわよ。」
「妖精さん、また後で。…滑らないかしら。」
さて、先ほど妖精さんは「
ここの入渠施設、実を言うと艦娘専用ではないのである。男女関係なく、普通の人間も利用できる施設だ。
当然ながら、ここの土地は海上自衛隊鹿屋基地である。そのため、鎮守府以外の基地施設で勤める職員も多い。そんな彼ら彼女らの意見にも対応すべく、男湯・女湯が設置されたのである。(公序風俗の観点から混浴は無し。)
ただ、入渠施設と大部分の浴場は分離されているため、まず男が進入することはないうえ、もし無理に侵入しようとすれば、番台の妖精にすぐバレる。
最も、そんな試みをした者は現時点ではいないが。
二人は先に、女湯の方から点検・確認を行うことにした。
脱衣所に入ると、榛名と熊野が風呂から上がって談笑中だった。
タオル一枚で話し合うというのも中々なものだが、二人とも、恐らく火照った体を冷ますために少し時間をおく必要があると思ってのことだろう。
「お疲れ様です。熊野さん、榛名さん。いいお湯でしたか?」
「まあ、意外な方々ですわね。ええ。とても気持ちのいいお湯でしたわよ。」
「お二方も、今から入浴なさるのですか? 私たちが言える立場ではないですが。」
ちなみに現在時刻は、午前4時50分である。
「いえ、私たちは警備任務よ。流石に終わったら、ここの温泉に浸かりたいけれどね。」
「そうなのですか。それじゃあ、榛名たちがいると邪魔になりそうですね。早めに出ますね。」
「すみません、榛名さん。…熊野さんはどうされますか?」
「そうですわねぇ…。
「そうですか。分かりました。お二人とも、お休みなさい。」
「「お休みなさい。」」
五十鈴と由良は、そのまま二人と別れて浴場内へと進んでいった。
男湯も含めてここの全ての点検・確認作業が終わったのは、日も昇ってきた午前6時過ぎ。
今晩中動き回った二人は、入渠施設の自販機コーナーの前に立っていた。
「お疲れ様。五十鈴。」
「ありがとう、由良。」
五十鈴にコーヒー牛乳を渡した由良は、クッションに座る五十鈴の隣に腰かけた。
彼女は、先ほど買ったフルーツ牛乳を飲みながら、
「仕事終わりに甘いものを摂ると、今日も一日頑張ったな、って思えるわね。」
と、五十鈴の顔を見て話しかける。
「そうねえ。ちょっと今日は業務量が多かった気がするけど。」
と言って由良にふふっ、と笑いかける五十鈴。
何だかんだいって、今晩のこともここでは艦娘たちの日常の一コマなのだ。これは、艦種や性格が違えども共通したことだ。
「さあ、執務室に戻りましょうか。行くわよ。由良。」
「はいはい。」
二人は、自販機横のビン回収箱に牛乳瓶を入れ、入渠施設を後にした。
五十鈴たちが執務室に戻ってきたのは、午前6時30分のことだった。
「ご苦労様。随分と時間が掛かったわね。今回は一番最後の戻りよ。」
「今晩は色々ありまして…。後で小レポートを書くかもしれませんが。」
「構わないわよ。お二人さん、今日はもう上がっていいわよ。」
「失礼します。」「副司令、お休みなさい。」
二人は流石に疲れたのか、足早に執務室を後にした。
バタン
「さてと、今日の業務は…」
副司令は二人が去った後、今日の内容を確認しようとしていた。その時だった。
ピピピピピッ。
突然、執務机の提督のPCがアラームを鳴らしたのだ。
アラーム音が鳴る時は、大本営からの通信であることが多い。
副司令は、PCの通信内容確認のため、内線で提督を呼び出した。(基本的に重要な通信は2人以上で確認することになっている。)
副司令からの内線を受けた提督は、大急ぎで執務室に飛び込んだ。
「どうした、急に呼び出すなんて。」
「これを見て頂戴。」
副司令は、提督に向けて彼の業務用PCを見せた。
そこには、今週中の作戦・任務計画書が表示されていた。
「内容は…んん?」
書かれていた内容は、少し首を傾げるような内容だった。
今回、大本営が送ってきた計画書の大まかな内容は以下の3つ。
・重巡洋艦中心の艦隊から成る、深海棲艦輸送部隊への通商破壊作戦の実施
・喜入にある国家石油備蓄基地での、対空・対潜中心の哨戒活動命令
そして、
・鹿屋基地への物資輸送を行う貨物列車(3695レ)への、複数名の艦娘の同乗(実質護衛)命令
であった。
このうち上の二つは、ごく普通の遠征・戦闘任務として重要である。だが、最後の一つである艦娘の貨物列車への同乗命令、これに関して提督は疑問を持たざるをえなかった。
(…一体なぜ艦娘を乗せる必要があるんだ?それこそ警備会社へ委託でもいい筈だ。…何かあるのかもしれないな。)
彼は嫌な予感を感じながらも、任務である以上こちらの拒否権は無い、と割り切ることにした。
「この任務…受ける?」
こう、思わず口に出した副司令も、やはりこの任務に対して疑問を持っていた。
だが、
「やるしかないだろうな。まあ、陸上で鉄道なら襲われる心配もないだろう。」
と、提督は任務を行う判断を下した。
「提督、本当によろしいのですか?」
今日の秘書艦であった高雄は、最後に念のためもう一度確認をとった。
提督は、
「国内で護衛任務だろ。しかも荷物は俺たち向けのものだ。ここで断るのは良い選択とは言えないからな。」
と、こう返した。
高雄は、提督の意見に納得したうえで、
「分かりました。念のため、護衛に向かう艦娘たちには、武器携行の許可を下ろしますね。」
と返した。
「ああ、頼む。」
この時に行われた判断が、後に大きなターニングポイントになることを、提督たちはまだ知る由がなかった。
もう既にこの鎮守府へ、いや鹿屋基地の周辺地域には危機が迫っていたのである。
最後までご拝読頂き、ありがとうございました。
今話で、物語の導入部分はだいたい終わりました。(艦娘たちの戦闘場面や演習風景は、あとでちゃんと出てきますのでご安心を)
次話以降が、筆者が一番書きたがっている部分です。
最後の部分は次話以降に繋がるところでもありますので、頭のほんの片隅で覚えて頂ければと思います。
次話の投稿は遅くなるかもしれませんが、少々お待ちください。
では、また次話でお会いしましょう。