旭日は昇っているか ~鹿屋基地攻防記~(休止中) 作:くろしお
UA800を更新致しました。皆様ありがとうございます。<(_ _)>
さて、今話も前後編形式(題名は異なりますが)での展開です。
アクションは、もう少々お待ちを…。
それと…事前に申し上げておきます。今話も長いです。
それでは第6話です。どうぞ。
追記:一部文章の追加・改変を行っております。…場面説明が抜けると全然印象が変わってしまうものですね…。
5月30日 午前10時22分 ―JR貨物 吹田貨物ターミナル駅(大阪府吹田市)―
大本営から送られてきたメールが指定した時間に基づき、鹿屋基地から派遣されてきた艦娘たちが、吹田貨物ターミナル駅の事務所にやって来ていた。
艦娘も扱い上は人であるため、任務でもプライベートでも普通に移動ができる。今回は、鹿児島空港から関西国際空港までのJAL機と、JRを使って大阪・吹田へとやって来た。
国内の制空権は、完全に確保されているわけではないが、自衛隊が全国各地に設置しているレーダーサイトの捕捉と、各航空自衛隊基地から飛び立った戦闘機群により、ある程度(95%くらい)の迎撃は成功している。このため、国内線の航空機は安全性が確保された状況で飛ばすことが出来ている。
一方で国際線は、残念ながら未だに完全正常化には至っていない。太平洋の公海上の制海権・制空権が確保されていないためだ。現在多くの航空機は、千島列島~カムチャッカ半島~ベーリング海~アンカレッジを経由する旧北極圏経由ルートをとっている。(太平洋横断機の場合)
話を戻して、吹田貨物ターミナル駅にやってきたのは、神通・村雨・夕立・満潮の四名。このメンバーに加えて、あとで朝潮も合流する予定になっている。(なお、朝潮が合流する場所は、四人とも知らされていない。)
「一体、何で私たちがこんなところに来ないといけないわけ? 大本営の考え、意味が分からないわよ。だいたい何で折角の休みの時に…。」
満潮が恨み節を言う中、神通は、
「これもまた任務ですから。それに、この任務は、私たちの鎮守府に運ばれるものを守ることですし。私たちに直接関わる、大切な任務ですよ。」
と、満潮を諫める。
「まあ、三日間ちょっとした旅行が出来ると思えば、いい感じじゃないかしら?」
「村雨~。そうは言っても、どこにも降りられないなら、この任務つまらないっぽい~。」
「…それも、そうね…。」
うまく発想の転換を提案しようとした村雨だったが、夕立の元も子もない意見で封殺されてしまう。
神通たちは、積み荷の護衛任務の打ち合わせを行うため、駅事務所内に居るであろう担当職員を探していた。
すると、駅事務所の運輸課にいた職員が、四人に話しかけてきた。
「どうも、運輸課の者ですが、どなたかお探しですか?」
「はい。実はこういう者なのですが…。」
と、神通は持っていた艦娘の身分証明書を彼に見せた。
「…⁉ 少々お待ち下さい。今日の列車の護衛ですね! 直ぐに担当者を呼び出します!」
タッタッタッ…
「そんなに慌てるようなことかしら?」
「気になることでもあるっぽい?」
満潮と夕立は、去りゆく職員を見ながら不思議に思った。
五分後、先ほどの職員がもう一人の人物を連れて来た。どうやら彼が担当職員だったようだ。
少し年のいった男性だったが、神通たちを見て合点がいったような素振りを見せていた。
「あなた方が、今回の護衛に携わる方達ですか。はじめまして。私は、ここで助役を務めています、鈴川と申します。」
鈴川助役は、そう言うと神通達に名刺を渡した。
ちなみに助役とは、駅長や所長などの指示の下で部下たちを指導・監督する役職のことである。副駅長という扱いを受けることもある。つまり、彼はこの吹田貨物ターミナル駅で、二番目に偉い人物ということになる。
応接室に通された四人は、鈴川助役と先ほどの運輸課の職員と共に、今回の護衛任務の概要と諸々の確認を行うこととなった。
「お茶をお淹れ致しました。どうぞ。」
「ありがとうございます。頂いていきます。皆さんも。」
神通がそう言うと、他の三人もお茶に手を伸ばす。
この様子を見て、鈴川助役は、
「統率の良く取れた方たちだ。これなら心配は要らないな…。」
と発したのだが、神通は、
「いえ、我々はまだまだです。皆様の生活を守っていくのは、私たちの責務ですから。」
と、こう返したのだった。
「そう、気負わ過ぎなさんな。…でも、あんたらのお蔭で私たちの生活が維持できているのも事実なんだ。一人の人間として、お礼を言わせてくれ。いつもありがとう。」
鈴川助役がそう言うと、彼は艦娘たちに向けて頭を下げる。驚いた運輸課の職員も頭を下げる。
神通や他の艦娘たちも流石に驚いたが、神通は鈴川助役たちにむけて
「頭を上げてください。私たちは、まだ完全に深海棲艦を倒し切れていません。皆様の平穏な暮らしを取り戻すには、多くの時間が掛かります。本来我々は、お礼を受けるどころか、お叱りを受けて当然な立場です。そのお礼は、皆さんが過去に過ごしてきた平穏な暮らしを取り戻してから、改めて頂かせてください。」
と、こう言葉を紡いだ。
「…すまない。どうしてもお礼がしたかったんだ。中々、艦娘の方々と会う機会なんて無いからね。さて、取り乱して申し訳ない。早速本題に入ろう。」
落ち着きを取り戻した鈴川助役は、西日本版の日本地図を広げながら艦娘たちへの今回の任務概要の説明から始めた。
今回の護衛任務は、三日に渡って行われる。簡潔に説明すると、
・吹田貨物ターミナル駅から鹿屋基地へ向かう3695レ*1(以下貨物列車)を艦娘たちが護衛する。
この貨物列車の運行経路は、東海道本線(吹田貨物ターミナル~神戸間)⇒山陽本線(神戸~幡生操車場~門司間)⇒鹿児島本線(門司~北九州貨物ターミナル~西小倉間)⇒日豊本線(西小倉~西大分~南宮崎間)⇒日南線(南宮崎~志布志間)⇒大隅線(志布志~大隅野里)⇒鹿屋基地貨物線となっている。
この貨物列車の運行上の難所は、山陽本線瀬野~八本松間にある大山峠(通称瀬野八)と、鹿屋基地手前にある鹿屋駅のΩ型超急カーブ(R190、カーブの半径が190m)である。
・運転士以外で、乗務員含めてこの貨物列車に乗り込む者はいない。(起点から終点まで艦娘のみが乗り続ける)
・貨物列車を牽引する機関車は、JR貨物幡生操車場(山口県下関市)及び北九州貨物ターミナル駅(福岡県北九州市)の二箇所で交換する。
この区間には関門トンネルと、交流2万ボルト/直流1500ボルトの境界線(デッドセクション)が有り、必ず機関車を交換する必要がある。
北九州貨物ターミナルから鹿屋基地までは、ディーゼル機関車(DD51重連)の牽引になる。こちらは、日南線田吉駅以南が非電化区間であるため。(志布志駅で接続する大隅線も非電化区間)
・貨物列車は、広島貨物ターミナル駅と西大分駅(大分駅の一つ別府寄り)で一晩滞泊。運転停車は、各地域の乗り換え駅くらい。(幡生までの山陽本線区間は高速貨物列車と同じ運用。日豊本線以南はのんびりと進む)
・この貨物列車の積み荷は、主に鎮守府で使われるものが多いが、一部車輌には修理に出していた艦娘の艤装や、酸素魚雷などの危険物、鹿屋基地の航空機や艦娘の艤装で使われる燃料も積載している。
というような形だ。
「この貨物列車に艦娘の艤装が積まれているから、私たちは呼ばれたんですかね?」
村雨は、今回の護衛任務の理由がこれなのではないかと思った。だが、鈴川助役は、
「いや、それだけじゃないと思うよ。最近、自衛隊や鎮守府を狙った事件が相次いでいるからね。」
と返した。
実際この頃には、防衛省や陸上自衛隊朝霞駐屯地、航空自衛隊浜松基地などへのトラックの突入や、演習から帰っていた自衛隊の車両が、高速道路を移動中に謎の武装集団の襲撃に遭い、多数の負傷者を出すなどの被害が出ていた。
つい三日ほど前にも、大湊警備府では艦娘も含めて十数名が負傷する、大規模な襲撃事件が起きたばかりだった。(死者は出ていない)
このため、各地の鎮守府や自衛隊拠点は軒並み警備が厳しくなっていた。
遠征などで細かな事情を知らなかった四人は、驚くと共に緊張感を持つ任務になることも同時に覚悟した。
駅事務所で鈴川助役たちと別れた神通たちは、護衛任務対象の3695レへと向かっていた。
「何で夕立たちが襲われるのかな? 夕立たちは、深海棲艦を倒したいだけっぽいのに。」
「どこにでもいるわよ、そういう連中。気にし過ぎたら疲れるだけよ。」
夕立と満潮は、こう言い合いながらも、少しこの任務の雲行きの悪さに不安を感じていた。
神通や村雨の表情も、少し強張っていた。
時間は少し遡り、護衛任務の前日である5月29日 午後9時15分頃。
提督と副司令、明日吹田へと護衛任務に向かう四人の艦娘が、執務室に集まった。
「すまない。寝る直前で呼び出してしまって。緊急の用で、な。」
「もう、明日早いんだから早く済ませてよね。」
「じゃあ、単刀直入に。明日から三日間は、陸上での武器使用を許可する。要るものがあったら、明石に頼んどいてくれ。」
「それだけですか?」
「それだけだが、この任務はもしかしたらヤバいかもしれない。出来るだけ手は打っておきたいんでな。」
「そうですか…。じゃあ、帰ってきたら村雨の頑張ったところ、褒めてよね。」
「あー!ズルい!提督さん、夕立も褒めてよね!」
「分かった、分かった。要件は以上だ。もう上がっていいぞ。…あっ、それと神通。」
「何でしょうか。提督?」
「みんなで無事に帰って来いよ。もし神通にとって、この任務は荷が重いと感じたら、同行する娘達に相談してくれ。」
その時神通は提督に、はあ、と気の抜けた返事をしたのだが、彼は既に最近の状況を把握した上での助言だったことを、今更ながら彼女は気付かされたのだった。
一方、朝潮は佐世保の提督のところに寄り、提督と副司令の連名で書かれた、緊急時の対応策に関する協定の最新版の最終原案を、彼に渡していたところだった。
詳細は省くが、要するに友軍艦隊として、万一の場合は鹿屋基地鎮守府の艦娘たちと相互協力をして欲しい(意訳)という内容である。
「鹿屋の朝潮、ご苦労様。確かに受け取った。」
「ありがとうございます。では、私はこれで失礼します。まだ、次の任務がありますから。」
「そうか。襲われないように気を付けて向かいたまえ。」
「はい!」
パタン
「鹿屋は大丈夫なのかね…。
その佐世保の提督の発した疑問に、答える声は無かった。
午前11時25分 ―吹田貨物ターミナル駅―
ピィーッ。
大きな警笛を鳴らして、吹田貨物ターミナル発鹿屋基地行き貨物列車 3695レは、定刻通りに吹田貨物ターミナル駅を出発していった。鈴川助役や運輸課の職員も、手を振って3695レを見送った。
さて、今回の護衛任務対象である3695レのちょっとした説明に入る。
先頭の機関車を除いて、1両目が海上コンテナ改造の艦娘たちの控室を載せたコキ107(-102)、2両目から11両目が基地の消耗品や食料品などを載せたコンテナ車(コキ50000・12ftコンテナ)、12両目から17両目はボーキサイトを搭載したホッパ車(太平洋セメント所有*2:ホキ1100-500)、18両目から29両目が艦娘の艤装や酸素魚雷などの弾薬を積んだ有蓋車(ワム380000)、30両目から39両目がガソリンなど各種燃料搭載のタンク車(日本石油輸送所属:43t積みのタキ43000×5両・45t積みのタキ1000×5両)、40両目から43両目が鹿屋基地内の配達物を載せたコンテナ車(コキ104・20ftコンテナ)、そして最後尾44両目(コキ107-205)は1両目同様の仕様になっている。
なお、一部の鉄道コンテナは自衛隊の標準色(OD色)の塗装がされている。
40ft海上コンテナ改造の控室は、二人までが同時に眠れる構造になっている。中には無線機や衛星電話といった通信機器以外は、寝る時に使うハンモック用の支柱や、トイレ、テーブルと椅子、荷物置き場くらいしかない。(風呂・シャワー・キッチン機材なんぞ無い→長時間停止するところで賄え、という無茶振り)
そんなコンテナ二つに分かれて、四人はこの列車の監視と護衛の任に就いたわけである。
…一つ言っておかなければならないのは、この中で眠ることは基本的にお勧め出来ない。少なくともコンテナ車は、コンテナ貨物輸送主体で人が乗ることを想定していない設計なので、そこまでいい乗り心地の良さを持っているわけでもない。
眠るとしても止まっている時か、一日位ならばどうにかなるだろう、と割り切って眠るのが一番良いだろう。
…こんな中で、うら若き艦娘たちを寝かせる大本営も大概だが。
吹田貨物ターミナル駅を出発した3695レは、大阪の繫華街を抜け、大阪湾を左手に見ながら明石へ向かう。
前方の控室コンテナには満潮と村雨、後方の控室コンテナには神通と夕立が分かれて乗り込んでいた。
前方のコンテナ内では、積み荷のモニターを行う満潮が、村雨に声を掛ける。
「ねえ、村雨。本当にこの任務で何か起こると思う?」
「…正直言って五分五分くらいかしら? ただ、鉄道を攻撃することは、とてもではないけれど、正気の沙汰では無いことだけは確かね。」
「そうよね…。ごめん。変なこと聞いて。」
「ううん。それだけ不安なのね。朝潮ちゃんが来たら、思いっきり甘えるといいわ。」
「…そうする。」
やはり、不安はあるらしかった。ただ、貨物列車はまだ出発したばかり。本当に大変なのはここからであることを、村雨は何となく感じていた。戦闘艦としての勘なのか、そうなのかは分からないが、この時の村雨の懸念は、後々悪い方向で的中してしまうこととなる。
一方、後方では神通と夕立が、過ぎ行く線路を見ながら、後方側で担当する各車両のモニタリングを行っていた。
少し外の空気を吸おうと、コンテナの外に出ていた神通は、穏やかな波を立てる大阪湾を見つめながら、ため息をついていた。
「やはり、海を見ると、海が恋しくなるもの何でしょうかね。…私ったらいけない。任務中に何考えているのかしら。」
神通が今もたれかかっている場所は、コンテナ車のデッキ部分。本来なら入換作業以外での立ち入りは出来ないが、今回のような場合は国土交通省とJR側が特別に許可を出している。ただし、転落防止対策を実施の上でだが。
ガタンガタンと規則的な音が、列車が線路の継ぎ目を渡るたびに轟く。
どうにもモヤモヤした感覚が抜けない神通だったが、気を取り直してコンテナ内に戻った。
コンテナに戻ると、夕立がパソコンを使って、貨物列車の各車両に設置されている、小型カメラのリアルタイム映像をチェックしていた。
「神通さん、お帰りなさい。外はどうだったぽい?」
「穏やかな天気でした。今までに何か変わったことはありましたか?」
「何もなかったっぽい。何だか、ずっと同じ映像を見ている気がしてちょっと気持ち悪いっぽい。」
「そうですか。…夕立さん、鈴川助役の言葉、どう思いますか?」
「夕立たちが襲われるかもしれないっていう話っぽい?」
「いえ、その前に仰られていた言葉です。」
「う~ん。夕立には分からないっぽい。確かに夕立たちがしていることは、あのおじさんたちの生活を守っていることかもしれないけど、少なくとも夕立は、深海棲艦と素敵なパーティーが出来るからそれでいいっぽい。」
「…そうですか。」
神通は夕立の話を聞きながら、あまりいろいろ考えても仕方がないか、と自身のモヤモヤした考えを割り切った。
午後6時40分 ―JR西日本 山陽本線 西条駅(広島県東広島市)―
広島貨物ターミナル駅へ向けて進んでいた3695レは、この列車の最初の難関である瀬野八越えをするポイントに差し掛かっていた。
ここから先の八本松~瀬野間は、日本の鉄道主要幹線における最後の難所とも呼ばれている。土木・建築技術や鉄道車両の性能が向上した現代においても、山陽本線のこの区間だけは現在においても克服できていない。
主に広島方面から岡山方面に向かう上り列車、特に貨物列車に関しては、現在でも牽引する電気機関車とは別に、最後尾に貨物列車が急勾配を上り切れるよう補助用の電気機関車が連結される。
蒸気機関車牽引の列車が全盛期だった頃は、通常の旅客列車も最後尾に蒸気機関車を補機として繋げていたのだが、現在は電化の進展と電車のモーターの小型・高出力化により電車は自力で上ることができる。ただし、一部電車でさえも未だに運行に制約が付く状況だが*3。
今、3695レが停車している西条駅は、上りの貨物列車に連結していた補助機関車を切り離す場所だ。
ただ、一々駅に停車して切り離し作業を行っていると、他の列車に遅れが出てしまうこともあり得る。(特急が走っていなかろうと、仮にも主要幹線である。)
そこで考えられたのは、「走行しながら連結を解除する」方法である。鉄道車両に興味のある方はご存知だろうが、通常日本の鉄道車両は簡単に車両間の連結が外れないように、連結器に固定用のピンあるいはスプリングが取り付けられている。このピンやスプリングが下りたり、嚙み合ったりすることで連結が外れることを防いでいる。
最後尾に連結された補助機関車は、西条駅でこの連結器のピンを走りながら外していた。
だが、時速数十㎞で走行する貨物列車で、人の手を使って連結器を解除するのは、正直不可能に近い。では、どのように作業を行っていたのだろうか?
解除方法は至って簡単。補助機関車側の連結器のピンに繋がっている、機械式のテコ(自動解放テコ)を持ち上げて連結を解除する。このテコとは、あの「てこの原理」のてこのことである。(興味を持った方は、是非ともその瞬間の動画を見て頂きたい。)
なお、この自動連結解放が行われていたのは2002年頃までで、現在では運行ダイヤに余裕ができたため、西条駅構内で一旦停車して補助機関車を切り離している。
通常、下りの貨物列車に補助機関車は連結されないのだが、今回の3695レは普通の貨物列車よりも重量(積載荷重)が重く、かつ編成が長いため、最後尾側に補助機関車が連結されることとなった。
先頭でこの3695レを牽引してきたEF210重連も、流石に約1961t*4もの重さを急な下り坂で支え切ることが難しい*5と判断され、最後尾側に補助機関車(EF210-300)が2両繋げられることとなった。なお、この2両は元々広島貨物ターミナル駅へと回送予定だったのだが、3695レに合わせて一緒に戻ることとなった。
神通と夕立は、最後尾に連結される補助機関車がゆっくりと近づいてくる光景を目の当たりにしていた。
ピーッ。ピーッ。ピーッ。 ピピィィッ。
駅構内に笛の音が響き渡る。
「オーライ、オーライ。連結まで後5m。速さそのまま~。」
作業員が赤と緑の手旗信号で、補助機関車の運転士に列車との距離と速度を伝える。
パタ、パタ、パタ。パタパタパタ。
ピッ。ピッ。ピッ。ピピッ。
列車と補助機関車との間隔が狭まるにつれ、作業員が手旗信号を振る速さと、笛を鳴らす間隔を速める。
ピピィー。『ガチャン』
「連結良~し。」
3695レと補助機関車が繋がった。作業員が最後尾の車両と補助機関車の間に入り、ブレーキ管やジャンバ栓を接続していく。
「連結作業、完了。」「了解。ありがとう。」
作業員が補助機関車の運転士にそう告げると、一連の作業を見ていた神通と夕立は、彼らに向けて思わず拍手をしていた。
「お兄さんや運転士さん、凄いっぽい!」
「少し、見とれてしまいました。素晴らしかったです。」
「いえいえ、私たちは私たちの仕事をしたまでです。それでは、目的地まで鉄道の旅をお楽しみください。私はここで失礼させて頂きます。」
西条駅の作業員は、二人にそう言うと駅の階段に去っていった。
「世の中には色んな人がいるっぽい。」
「夕立さん。彼らのような人々を守ることもまた、私たちの任務なのですよ。」
「分かったっぽい!」
「お嬢さんたち、そろそろ出発するよ。」
補助機関車の運転士が窓から顔を出して二人にそう言うと、神通と夕立はいそいそと、再びコンテナ内へ戻っていった。
大山峠を下る3695レ。長大編成であるため、運転操作一つ誤っただけで大事故に繋がることもある。先頭のEF210の運転士は、最後尾の補助機関車の運転士と列車無線を使いながら、速度調節を行っていた。いわゆる協調運転(あるいはプッシュプル運転方式ともいう)である。
「毎度のことながら、緊張するな…。この区間も、もう半分ほどまで来たのか。早く広島に着きたいぜ…。」
EF210の運転士はそう言いながら、機関車のマスコン(マスターコントローラー)を細かく操作する。
EF210のマスコンは、ツーハンドルマスコンと呼ばれる種類のもので、左手で力行(加速)右手で制動(減速)を行える。近年の大手私鉄やJRの車両(電車・気動車含め)は、ワンハンドルマスコン(こちらは片手・両手のタイプがある)が主流になっている。
ワンハンドルマスコンを採用している電車は、ある程度の輸送量が分かっているのに対し、機関車の場合は運用ごとに牽引する車両の重さが異なるため、ツーハンドルマスコンの方が扱いやすいメリットを持っている。
なので、機微な動きが行いやすくなっている…のだが…。
バキン。
ドカン。
「何?今の音は!」
「満潮ちゃん、これ!」
前方で積み荷の監視をしていた村雨と満潮は、20両目(ワム380000)の車内映像が土煙で見えなくなっていることに気が付いた。
土煙が無くなった車内を、カメラを通して再び見た二人は、その車両の状態に啞然とした。
本来、車内に差し込んではいけないはずの日の光が、車内を明るく照らしていたのである。
加えてその車内は、床下が大きくめり込んで盛り上がっていたのである。
一体この車両で何が起きたのだろうか?
これは後に判明することになるが、この車両の台車近くに仕掛けられた爆弾が爆発し、その衝撃で車両そのものが変形するほどのダメージを受けてしまったのである。
この20両目に搭載されていたのは、主に吹雪型の艤装(三人分)で弾薬などは積んでいなかった。
だが、結果的には脱線転覆を免れたとはいえ、運良く二系統あるブレーキ管が損傷しなかったことが災いし、異常が発生しても直ぐに停車することが出来なかったのである。
更に、この20両目の床下にある空気ブレーキ用の空気溜めが、爆発の衝撃で故障し(この車両の)ブレーキがかからない状況になってしまった。本来日本の鉄道車両においては、あってはならないことが起こってしまったのである。
台車や台枠も歪んでいるこんな状況下で、この車両が進み続けているのは奇跡的な状況であった。
『神通さん!大変です!』
「どうしましたか?」
『一部の車両で異常発生です!すぐにでも列車を止めるように、運転士さんに伝えてください!』
「!? 村雨さん、落ち着いてください。何がどういうことなのか、説明してください。」
村雨の急な無線に驚く神通。
彼女がこう言ったのは、爆発音が後方にまで届かなかったからでもあった。
村雨や満潮は、異音とカメラ映像から異常に気がついたのだが、神通や村雨、更には運転士たちに異変が伝わるのはこれより少し後のことになる。(運転士たちがすぐ気が付かなかったのは、運転席のデジタルディスプレイ上では各車両異常なしという表示だったため。)
村雨たちから情報を聞くにつれて、顔を真っ青にする神通。戦闘とはまた異なる緊迫した状況に、焦燥感を持ち始めていた。
「まずいですね。本来なら、直ぐにでも列車を止めなければなりません。ですが…。」
すでに列車は瀬野駅を通り越して、呉線との接続駅である海田市駅へと迫っていた。(呉線は呉鎮守府への最適なアクセス線。)
この駅を過ぎると、本日の目的地である広島貨物ターミナル駅はもう目前であった。
「村雨さん、満潮さん。お二人は、異常のあった車両を監視し続けてください。このまま、広島貨物ターミナルまで向かいます。私は運転士さん達に事情を伝えます。」
神通はそう言い、無線機を切る。
「神通さん…。」
不安そうな顔をする夕立。
「大丈夫です。皆さん、素晴らしい人たちですから。」
そう夕立に言い、運転士たちに現状を伝えるべく列車内無線を使用した。(無線周波数を設定済み)
「本当ですかそれは!」
EF210の運転士は、思わず声を上げた。
『はい、間違いありません。私たちで確認しました。』
「列車は止めるべきですか?」
『いえ、このまま広島貨物ターミナル駅までお願いします。下手に止めると危険でしょうから。』
「分かりました。補機の方にも伝えておきます。あと、運輸指令の方にも。」
『お願いします。』
神通から状況を知らされたEF210の運転士は、運輸指令に緊急事態と報告の後、速度を時速50㎞以下まで減速させた。
運輸指令とEF210の運転士で交わされたのは、現場の緊迫した状況と事態に判然としない中での指令室の判断だった。
「運輸指令、こちら3695レ。広島貨物ターミナルまでの本線上の列車を、全てどけてください!」
『こちら指令室。3695レ、何かあったのか?』
「車輌の一部が吹き飛んだ‼ いつ脱線するか分からない! 広島貨物ターミナルの中で最も安全な線に誘導してくれ!」
『りょ、了解。12番線が空いている。35㎞以下で進入するように。』
「3695レ、了解。これより広島貨物ターミナルに突入する!」
キィィー、ギィィー、ガンッガンッ。
車輪から悲鳴を上げながら、3695レはなだれ込むように広島貨物ターミナル駅へと突入していった。
列車は…
無事に、止まった。
すぐさまJR貨物の職員たちが、中破した20両目付近へと駆け寄っていった。
「疲れたっぽい~。」
「ホント、生きた心地がしなかったわよ。」
「神通さん、よく冷静でいられましたね。」
「いえ、私も実は少し手が震えていたんですよ。列車が止まった途端、ちょっと腰が抜けてしまいましたけれど。」
コンテナから降りて、歩き話をする四人。
艦娘たちは、広島貨物ターミナル駅の事務所を訪れた際、JR貨物の幹部職員から謝罪を受けたが、
「今回は、異常発生後すぐに報告しなかった私たちもお互い様です。あなた達が謝ることはありませんよ。」
と神通が返したことで、これに関しては丸く収まった。
マツダスタジアムの真横にある、広島貨物ターミナル駅。
中国地方の中心とも言われている広島市(岡山の方すみません)中心部付近にあるここは、山陽本線や九州方面に向かう貨物列車の中継点だ。
神通たち四人は、翌朝の出発までの間、広島貨物ターミナル駅近くのホテル(セキュリティ万全な施設)で急遽宿泊することになった。(これは提督の手配)
その間、列車の警備や監視は後から来た警備会社と、数名の広島県警の警察官によって行われることとなった。(警察官たちは、20両目の件での証拠保全のため。翌朝には解除予定)
ホテルに荷物を置いた四人は突然の休暇を満喫すべく、その後夜の広島の街を満喫するのであった。
だが、彼女たちはまだ知らない。先程の出来事が、これから襲い掛かる悪夢へのほんの序章に過ぎなかったことなど。
3695レの鹿屋基地到着まで あと二日。
ご拝読頂きありがとうございました。
さて、文章中盤から瀬野八越えのくだりが登場しますが、残念ながら筆者は、自動解放や西条駅での直接切り離す作業を見たことはございません。(補機連結での貨物列車の姿は見たことがありますが。)
なので、筆者にとって西条駅はもう一度行ってみたい場所でもあります。(呉を見に行った時に一緒に行こうかな…。)
次回は、いよいよ九州到達…そして物語もちょっと動きます。ダラダラ進んでいるのはご容赦ください。
それではまた、次回お会い致しましょう。