旭日は昇っているか ~鹿屋基地攻防記~(休止中)   作:くろしお

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どうも、くろしおです。
全話PV2500越え、UA950越え達成しました。
ありがとうございます。<(_ _)>

さて、今話は後編ですが…分割方式となりました。(なかなか一話で収まりきらない)
後編の約七割ほどが今話になります。
アクションは、後編の残り三割である次話に飛び出します。

さて、第7話。広島貨物ターミナル駅からスタートです。どうぞ。

追記:最後の残り時間は、整合性を持たせるため訂正します。すみません。(訂正前:14時間→訂正後:12時間)


第7話 忍び寄る悪夢、その先に

 5月31日 午前0時10分 ―JR貨物 広島貨物ターミナル駅―

「こいつは酷いな。…この状況でよく脱線しなかったもんだな。」

 そう呟いたのは、広島県警鉄道警察隊の警部。

 彼の目線の先にあったのは、青い箱型車体が大きくひしゃげ、原形を辛うじて残したワム380000だった。

 

 この中には吹雪型の艤装が積まれていたのだが、現在はワムの車体の一部をエンジンカッターで切断した後、フォークリフトを使い中破した車内から艤装を取り出して、車両に横付けされた10tトラックに載せ替えている途中だった。

爆発の衝撃で、艤装の一部が破損してしまい、修理と捜査も兼ねて呉市にある呉鎮守府へと、これらの艤装を移送することになった。鹿屋基地鎮守府の提督も同意している。後日、これらの艤装は鹿屋の方から取りに向かう、とのことだった。

 

「警部!鑑識班が呼んでます!」

「分かった!すぐに行く。」

 部下から呼ばれた警部は、鑑識班が集まっているワムの車体下へと向かった。

 

「警部!お待ちしておりました。」

「何か見つかったのか!?」

「はい。これを見てください。」

 鑑識官の一人が、手袋を使って車体の破片の一部を取り出し、それに付着していた白いモノを指さした。

「…これってまさか…。」

「C-4爆薬…なのか。」

 

 C-4(コンポジションC-4)爆薬は、米軍で開発された軍用プラスチック爆薬の一種だ。

 その特性は、粘土のように捏ねられ(可塑性が高い)、様々な形で設置ができ、しかも輸送時の安全性などが高い利点を持つ。起爆するには、専用の起爆装置や雷管を詰め込む必要があるが、その威力はTNT(トリニトロトルエン)爆薬換算で約1.34倍の性能を持っている。(具体的には、3.5㎏あれば幅20㎝の鉄製H鋼を爆発の一撃でへし折ることができるほど)

 

 そんなものが、日本国内の鉄道車両の爆破に使われたのである。

 この時、これがテロ行為もしくは事件性を帯びた行為であることが明白になった。

 だが、幸いなことにC-4爆薬が爆発したのは、一ヶ所のみだった。

 仕掛けられたC-4爆薬はワムの車輪横の4輪すべてであったのだが、起爆に成功したのは一ヶ所のみだったらしい。とは言え、もし全ての起爆が成功していたら3695レはここまでたどり着くことは無かったであろう。

 

 車体下部からは、起爆に失敗した三つのC-4爆薬とその起爆装置が見つかった。携帯電話(今時珍しいガラケー)を使用した遠隔操作型の爆弾だった。ガラケーと雷管を繋ぐコードは、警察の手によってすぐに切り離された。

 

「艦娘さんたちに伝えますか?」

 鉄道警察隊の巡査長が、上司の警部に対して意見具申する。

「…今分かっていることだけを伝えよう。余計なことを言えば、彼女たちも困ってしまうだろうからな。」

 警部はそう言い、自らの携帯から神通の携帯に連絡を入れた。

 

 

 その頃、神通達は広島市内のお好み焼き屋に立ち寄っていた。

「やっぱり美味しいわね。ここのお好み焼き屋さんは。」

「もう、お腹いっぱいっぽい。」

「だらしないわね。ちゃんと食べきるのよ。」

「皆さん、がっつき過ぎです。もう少しゆっくり食べましょう。」

 人が多い店を選んだが、今彼女たちは私服で店に来ているため、艦娘とは気付かれていない。

 余談だが、一部の広島県民にとって『広島「風」お好み焼き』と言うのは我慢ならない為、広島のお好み焼きが話題の際には、普通に「お好み焼き」もしくは「広島のお好み焼き」と言った方が、知人・友人に対して火種を持ち込まずに済むだろう。

 

 ヴーッ。  ヴーッ。

 神通の携帯が震える。

「ん? …皆さん、少し席を外しますね。」

「あっ、はい。」

 村雨が神通の姿を見送る。

 

 

 神通の携帯にかかってきた電話は、先程会った警部の番号だった。

 彼女は、番号を確認するとすぐに出る。

 

『もしもし、先ほどは済まなかった。今、食事中だったかい?』

「はい。どうかなさったのですか?」

『実は、例の車両の下側からC-4爆薬が見つかってね。…本当に、よく無事にここまで来られたね…。』

「そ、そうなのですか。…他の車両には有りましたか?」

『いや、今広島県警(うち)の連中が探しているが、今のところはそのような報告はないよ。』

「…そうですか。列車の方はどうなりますか?」

『ああ、そのことなんだが。今日の午前中にも、列車自体の証拠保全は解除される見通しだよ。ただ、爆発した車両と、その前の車両(19両目)に関してはここに残していくことになっている。元々の車両がどんなものだったのか、という比較対象が必要だからね。』

「確か…その前の車両には、駆逐艦が主に使う弾薬が積まれていたと思いますが。」

『それに関しては、防衛省からこちらに連絡があってね。その荷物は、広島港からそちらの方に送り届けるそうだ。安心してくれ、と言っても無理かな。』

「いえ、ありがとうございます。他の貨物列車の車両は、そのまま鹿屋に向かうのですね。」

『ああ、その手筈になっているよ。ここを発つまで、列車の警備は我々に任せて貰って構わないが…、その先は気を付けて行くようにしてくれよ。』

「ご忠告、ありがとうございます。それでは、また後でお会いしましょう。」

『短い時間でしょうが、広島の街を満喫していってくださいな。』

 ピッ。

 

 

 ガラガラガラ。神通が、店の引き戸を閉めて戻ってくる。

「ごめんなさい。遅くなりました。」

「さっきの電話は…刑事さん?からだったの?」

「満潮、警部さんよ。」

「何の話だったっぽい?」

「壊れた車両のことと、今日の警備の話でしたよ。…警部さんのお話だと、昼前くらいまでは広島観光が出来そうですね。」

「ホントですか!? この任務を引き受けた甲斐がありました!」

 …実際には警察の捜査が長引くというのが理由なのだが、ある意味艦娘たちにとっては気分転換になることは間違いなかった。

 翌朝早くから神通たち四人は、紙屋町や平和記念公園といった広島の街を(短時間ながら)観光することとなった。

 

 

 

 

 広島貨物ターミナル駅が望める、とあるビルの一角。

 赤外線付き双眼鏡で3695レを見下ろす者たち、有り。

 

「ちっ。しくじりやがったな。」

「大丈夫だ。すぐに機会はやってくる。それまで焦るな。」

「サツに気付かれたか?」

「いや。だが、向こうはこの先もっと警戒するだろうな。…そんな顔するな。人類の敵を滅ぼすための、手始めの一歩だ。刺し違えてでもやり遂げてやる。」

「そうだな。人の皮を被った化け物どもめ。この国を滅ぼそうとする奴らから、人々を解放しなければ。」

 艦娘たちに向けられた悪意。既に、彼女らに向けて賽は投げられていた。

 

 

 …しかし、彼らは知らない。

 今のやり取り全てを、広島県警のドローンに撮られていたことに。

 

 

 

 

 時系列は進んで、3695レの目的地である鹿屋基地。

 鎮守府本館では、提督と副司令が代わる代わる休眠を取りながら、夜通しで爆破された3695レについての情報を集めたり、広島県警や防衛省、果てはJR(貨物・西日本)のほうからも連絡を受けたりしていた。

 当然、この二人だけでは応対がかなりきつい為、青葉や衣笠、大淀や霧島、鳥海など情報収集や相手の対応に柔軟な艦娘たちを緊急招集していた。

 

 提督と副司令は、夜通しで作業してくれた艦娘たちを一回集めた。

「なんでよりによって、うちのところの荷物が狙われるのかね…。」

 ぼやく提督。

「そこの辺は後で考えるとして、皆、今までの情報を整理するわよ。」

 副司令は、集まった情報を執務室にあるモニターとホワイトボードに纏めていった。

 

 モニターには、列車が爆破された地点の地図や、広島県警の協力で六方向から撮影されている、被害車両のリアルタイム映像が映し出されていた。

 ホワイトボードには、今回の爆破に関する概要や確定・不確定を含めた情報が纏められていた。

 そのホワイトボードのごちゃつき具合を見る限り、いかにこの場が慌ただしかったものかが窺い知れる。

 

「では、爆破された車両や積まれていたモノについて…」

 と、まず提督が情報整理の音頭をとる。

 

 15分後

 …概要と現時点での情報を、この場に居る全員が整理・共有したところで、霧島が提督に疑問を投げかけた。

「司令、神通たちは、なぜ爆発物に気がつかなかったのでしょうか? 護衛任務とは言え、列車の床下くらいは確認できると思うのですが。」

「…恐らくだが、確認できないタイミングで設置されたのだろう。神通たちであっても、四人で数百mもある列車全ての床下を点検できるか、と言われれば…結果は分かるだろう?」

「…確かに、かなり時間が掛かるでしょうから、確認できる時間があるのは精々始発駅くらいですね。」

「うん。他に質問がある奴はいるか?」

 

「じゃあ、司令官。私が。」

「ん? 珍しいな。青葉、何が気になった?」

 比較的ゴシップなネタが多い鎮守府の日報(瓦版と呼んでもいいが)を、日々発刊している青葉だが、その情報収集・編集能力は新聞社の記者でさえ舌を巻くほどだ。そんな青葉が、珍しく食いついたのである。

「そうですね。…貨物列車がここに向かうことは、一般の人には知られているんですよね?」

「…そうだな。何だったら、先月発刊の鉄道ダイヤ情報を渡そうか?」

「いえ、そうではなくて。なんでわざわざ(・・・・)この列車を狙ったんですかね? 私たち以外にも、似たような列車が来る鎮守府だってありますよね?」

「…確かにそうだな。長距離移動するこの列車を狙うよりは、横須賀や佐世保へ向かう列車を狙った方が効果として大きいはずだからな。」

「…やっぱり艦娘が狙われたんですかね?」

「そこは分からん。だが、今のところ護衛任務に出ている艦娘は無事だ。」

「う~ん。司令官、貨物列車から降ろされた積み荷の一部は、宇品の方からこちらに来るんですよね。」

※宇品は広島港の一部を構成する港だが、ほぼ同じと捉えて頂いてよい。なお、戦後まで軍港機能があった。(この世界線でも既に無くなっている)

「そうだ。」

「でしたら、青葉が受け取りも兼ねて現地に向かってもよろしいでしょうか?」

「…何か引っかかるんだな。分かった。衣笠、青葉が変なことしないように見張っておいてくれよ。」

「了解!衣笠さんにお任せあれ!」

「では、司令官。すぐにでも出発しま~す! あっ、資料は通信室に纏めてありますから、皆さん良ければ確認しておいてください!」

 

「気を付けて行って来いよ。それとこれも持っていくように。」

 提督は執務室を去ろうとする二人に、武器庫から引き出しておいた自動小銃を手渡し、

 (何か分かったら連絡をくれ。)

 と二人の間に割り込んで、こう耳打ちした。

 二人は、ニッコリ笑うとすぐに工廠の方へと向かっていった。

 

「さて、もう、質問をする奴はいないか?」

 すると鳥海が手を挙げた。

「でしたら、司令官さん。私から一つ。朝潮さんは今どちらに?」

「あーっと、朝潮は…今小倉(こくら)に向かっているよ。」

「小倉、ですか?」

「ああ、そこで任務中の四人と合流する予定だ。」

 正確に言えば、朝潮が向かっているのは北九州貨物ターミナル駅なのだが、小倉と門司の間にあるためあながち間違いとも言えない。

 

 

「提督!失礼します!緊急伝達です!」

 執務室に駆け込んでくる、大淀。

「どうした大淀? 緊急伝達?」

「とりあえず、これを読んでください! 大本営(市ヶ谷)と横須賀の連署です!」

「!? そんなに重要なものなのか!」

 提督は、息も絶え絶えな大淀から大きな茶封筒を受け取る。

 大淀はその場に倒れかけるが、副司令がその体を支えた。鳥海が、大淀へ紙コップに入った水を渡す。

『速達』〈特急〉と判の押されたそれからは、とても事務的とは思えない、鬼気迫る内容が書かれていた。

「嘘だろ…。神通たちは! 直ぐに衛星電話を繋いでくれ! このままでは彼女たちが危ない!」

 

 

 

 

 5月31日 午前11時57分 ―広島貨物ターミナル駅(広島県広島市)―

 次の中継点である、幡生操車場へ向かう準備を整える3695レ。

 前日の爆発の影響で、3695レは42両編成に減少したものの、それでもなお数百mの長さがあった。それを一車両ずつ確認していく警察官と警備員。

 

「ホントに大丈夫なんでしょうかね? 昨日の今日で出発させても。」

「仕方ないさ。JRさんだって、一民間企業だ。いつまでもここを占有し続けていたら、この先の運行とかにも支障が出かねないからな。」

 警部と巡査長は、3695レを見ながら言葉を交わした。

 とはいえ、こちらも夜通しで一両一両、鑑識班や広島県警が調べていったため、前述した二両以外は証拠保全を解除してよいという判断になったのだが。

「艦娘さんたちが、何も被害に遭わなければいいのですけれど…。」

「なに、彼女たちを見た目で判断してはいけないぞ。ああ見えて、かなりタフだからな。死線を幾重も潜り抜けてきたんだ。我々とは違う。」

「…そうですね。」

 

 巡査長が後の事態を聞いた際には、

「警部の言っていた通りになった…。」

 と驚きながらも、どこか納得していたそうだ。

 

 

 

 

 午後0時30分 ―広島貨物ターミナル駅 12番線―

「鉄道警察隊の皆様、そして広島県警や警備会社の方々。夜通しの警備と捜査、ありがとうございました。ここから先は、私たちの任務です。また会えるかわかりませんが、もしお会いできたならば、その時はよろしくお願いします。」

 神通は、今晩中列車を守ってくれていた彼らを前に、お礼を述べた。

「いえ、こちらこそ。あなた方が無事に、鹿屋基地に着くことを願っています。」

県警を代表して、鉄道警察隊の警部が返答した。

「ありがとうございます。捜査の方、よろしくお願いいたします。」

 こう神通が返すと、県警や警備会社の集団の方から

「おう、任せときな!」「こんな美人さんたちのお願いを、断れるわけないだろ!」

「全く、うちのところときたら…。」「まあまあ。」

 と、男女様々な返事が返ってきた。

 

 神通たちはこの光景をにこやかに笑いながら、全体に向けて敬礼をした。

 去り際になるため、県警や警備会社の方々も全員敬礼で返した。

 それから10分後、鹿屋基地へ向けて3695レは広島貨物ターミナル駅を後にした。

 最後尾にいた神通と夕立は、手を振って彼らに別れを告げた。

 

 

 

 

 午後5時10分 ―JR貨物 幡生操車場(山口県下関市)―

 本州と九州を隔てる関門海峡。資源も厳しいあの戦中の真っ只中に、日本国内初(旧内地)の鉄道用海底トンネルである関門トンネルは開通した。(海外では海底トンネルは先例があった。)

 この関門トンネルもまた、軍部の軍事物資輸送を目的として建設された。正確には本州・九州間の移動時間短縮の方が主目的だったのだが、軍部の後押しもあっても優先的に建設が進み、無事に竣工した。

 それから幾数十年、現在では貨物列車が数多く通る日本の物流の一大動脈を担う程にまでになっている。

 よく勘違いをされるが、この関門トンネルは路線としてはJR西日本の山陽本線(神戸~門司間)なのだが、関門トンネルの設備そのものはJR九州(正確には下関駅手前までの線路はそう)である。ややこしいが、これも国鉄分割民営化時の取り決めだったそうな。

 そこから少し手前の幡生操車場。ここで、吹田から牽引してきたEF210重連から、交直流対応のEH500へと交代する。

 

 このEH500だが、元々機関車二両分の牽引力を一両(正確には2ユニットで一両扱い)で賄うために設計された車両である。…ちなみにこの機関車、日本の電化区間であれば全国どこでも走ることが可能である。

 こと関門間に関しては、下関駅あるいは門司駅での機関車交換を出来るだけ避けるために、この区間に特化した(遠くとも福岡貨物ターミナル駅までの)運用となっている。

 

 赤とグレーを基調としたこの機関車の愛称は「金太郎」。

 正に、その愛称に違わない力強さを発揮する。42両という長編成を、悠々と牽引していく。

 3695レは下関駅を通過し、ついに九州の地へと渡っていくのであった。

 

 

 

 

 午後5時54分 ―JR貨物 北九州貨物ターミナル駅(福岡県北九州市)―

 幡生操車場で付け替えたEH500とはここでお別れとなる。ここから先は、非電化区間の雄DD51の出番である。

 鉄道に興味が薄い方でも分かりやすい例とすれば、数年前に引退となりニュースにもなった寝台特急「北斗星」や「トワイライトエクスプレス」などを、北海道の雄大な大地で俊足に牽引し駆け巡ったディーゼル機関車である。

 現在は老朽化により、愛知県を中心に稼働しているものを残すのみとなったが、この世界線では深海棲艦による空襲などで電化設備が破壊されるなどしたため、急遽退役予定だったDD51が寿命延長工事を行うなどして生き残っている。

 そんなDD51が、今回3695レの牽引を行うのである。…牽引力不足を補うのと運行ダイヤ上の都合のため、重連となったが。

 

 

 3695レは、コンテナの荷役ができる4番線に滑り込む。

 村雨と満潮は、そのコンテナ置き場に人影を見つける。

「? 満潮ちゃん、あの姿ってもしかして。」

「朝潮…よね? 合流する予定の場所って、ここだったの?」

 二人は列車が完全に止まってから列車を降り、朝潮と思しき人物の方へと向かっていった。

 

「朝潮―! やっぱり、朝潮だわ。間違いない。」

「朝潮さ~ん! お疲れ様で~す。」

 二人は、朝潮の元へと駆け寄った。

 二人に気が付いた朝潮は、手を振ってきた。

「満潮、村雨さん。お勤めご苦労様です。…神通さんは、今どちらに?」

「ああ、神通さんと夕立は最後尾にいるから、ここに来るまでに少し時間がかかるわよ。」

「朝潮さん、佐世保への用事はもう済ませたの?」

「はい。昨日のうちに済ませておきました。皆さん、昨日は大変だったようですね。」

「そうよ。まあ、おかげでちょっとだけ広島観光が堪能できたけれど。」

 少し遅れて神通と夕立がやってくる。

「朝潮さん。こちらにいらしていたのですね。」

「神通さん。」

 朝潮は神通の前に立ち、敬礼をしながら

「駆逐艦朝潮、現時刻を持って軽巡洋艦神通の指揮下に入ります。お願い致します。」

 と、こう告げた。

 いわば、任務指揮権に関する口頭上の辞令ではあるが。

 神通は、礼を下した朝潮に対して

「了解しました。まあ、肩の力は抜いてください。今のところは、まだ何もありませんから。」

 と返していた。

 こうして、3695レの護衛任務を担当するのは五名となった。

 

 

 

 

 午後7時47分 ―JR九州 鹿児島本線上―

 DD51への牽引機切り替えが完了し、いよいよ3695レは東九州を南下し始める。

 夕方の帰宅ラッシュから少し時間が空いた頃に、3695レは北九州貨物ターミナル駅を出発した。

 北九州貨物ターミナル駅で、前後の警備・監視を行う組み合わせを変更し、前方側に村雨と夕立、後方側に朝潮と満潮、それに神通というふうになった。

 これは別に作為的なものではなく、駆逐艦たちであみだくじを行った結果こうなったのである。(神通は、警備責任者として最後尾に乗り込むことが、事前に確定していたため。)

 

 豊前路を進む3695レ。途中、西大分駅で運転停車を行うなどしながら、日豊本線を宮崎方面に向けてゆっくり下っていく。

 

 

 後ろに過ぎてゆく線路と架線柱を見送りながら、神通はこれ以上何事もないことを祈っていた。

 彼女は、幡生操車場に着く頃、提督から衛星電話の通信を受けていた。

 内容は簡潔に言うと、

『広島の件はまだ終わっていない。恐らくもう一度襲ってくるだろう。万が一に備えて銃火器等の準備をするように。』

 とのことだった。

 神通たちはこの時知らなかったが、提督をはじめとした鹿屋基地鎮守府の面々は、基地出入口周辺の検問や、広島で爆破された車両を監視していた集団(ドローンが捉えていたやつ)の情報解析を実施していたのである。

 彼女の不安は、募るばかりであった。

 

 

 

 

 6月1日 午前3時15分 ―JR九州 延岡駅留置線(宮崎県延岡市)―

 神通たちを乗せた3695レは、給油設備のある延岡駅へと到着した。ディーゼル機関車の燃料は軽油であるため、あちこちで補給する必要がある。

 最も、このDD51に関してはそんなに給油回数は必要無いのだが。(現に給油目的での停車はこの延岡駅のみ)

 作業員が、DD51の燃料タンクのバルブを開けて、給油ホースを繋ぐ。

 エンジンを少し冷却する必要もあったため、発車は午前11時半頃になるとのことだった。

 その間に神通たちは車両全体の点検や、延岡駅周辺の飲食店などで食事を済ませた。

 また、駅近くに銭湯もあったため、交代で汗を洗い流しに行った。

 

 

 

 

 午前9時35分 ―JR東日本・貨物 神奈川臨海鉄道 根岸駅(神奈川県横浜市)―

 JXTG根岸製油所横にある貨物線。その貨物線のうち石油タンク横に止められた、満タンのガソリンを搭載したタキ1000が8両。そのタンク車の車体下。

「ピッ」、「ピッ」、「ピッ。」

 …この場には、あまりにも似つかわしくない音が響く。

 そして…。

「ピ。」    

 ピカッ

 

 ボカーン

 

 

 

 ドドーン 

 

 

 

 ズドドドドカーン

 

 

 

 停車中のガソリン満載のタンク車が、宙に打ち上げられたと思うと隣接する石油タンクに衝突。

 その直後、石油タンクは小規模な核爆発に匹敵するほどの大爆発を起こした。

 

 …根岸駅や根岸製油所一帯は、ほぼ一瞬にして火の海と化した。

 根岸駅には、当時たまたま停車中だった京浜東北線直通の根岸線E233系電車2本と、ホーム上に居た乗客や駅員が爆風や火焔に包まれた。

 そのほか、根岸駅の貨物線に止まっていた貨物列車にも火が次々と燃え移り、周辺は灼熱地獄…いや、地獄絵図と化していった。

 貨物線と根岸駅の間を通る首都高速湾岸線にも火の手は回り、車両が次々に炎上。逃げ場を失った人々は、筆舌し難いほど悲惨な結末を迎えていった。

 そして、結果として横浜の都市機能の一部も麻痺する、深刻な事態へと発展していった。

 

 死傷者数、約数千人という被害者を生み出した、後に「根岸事件」と名付けられたこの大惨事が、まさか1000㎞以上も離れた鹿屋基地への攻撃に繋がろうとは、この時3695レに乗っていた神通や朝潮たち、更には当該基地にいた提督や副司令、艦娘たちでさえも思ってもみなかったことだった。

 

 

 

 

 神通たち護衛任務メンバーが、その根岸事件の第一報を耳にしたのは、意外にも延岡駅舎内だった。

 駅員が、速報ニュースを見て話していたところを、たまたま3695レに戻ろうとした際に聞いたのである。

『こりゃあ、ひでえ。』『…なんてこった。一面火の海じゃねえか…。』

 最初、夕立や満潮はどこかの海上で深海棲艦との大規模な戦闘か何かかと思っていたらしい。

 だが、列車のコンテナに戻ってパソコンを開いた際に、乗っていた艦娘全員の血の気が引いたのである。

 …広島の時と状況が似ていたからだった。

 広島の場合も、最悪の場合このような事態があり得たのは事実であった。

 神通は、この時予感していた。提督の予測は、往々にして当たるのではないかと。

 そして神通のその予感は、この数時間後、正に的中することになる。

 

 自分たちの守ろうとしている列車が、自分たちの居場所を破壊しようとしていることに気づかぬまま。

 

 

 3695レの鹿屋基地到着まで あと12時間。




ご拝読頂きありがとうございます。

さて、神通さんたちは無事に荷物を鹿屋基地まで運びきることができるのでしょうか?

…なるべく次話投稿の間が空き過ぎないよう頑張ります…。

それでは、また。
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