竜の使い魔   作:超高校級の切望

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邪竜は神の盾に助言する

「この窓で良い。ありがとう……」

「ありがとねー!」

「キュルル」

 

 ジークの言葉に竜は寮の壁に身を寄せる。アストルフォが顎の下を撫でてやると気持ちよさそうに眼を細めた。

 

「お邪魔するわ!さっき竜が来たのはタバサの部屋よね!」

 

 と、その時ドアが勢いよく開きキュルケが入ってきた。鍵はかかっていたはずだが、開錠魔法の『アンロック』でも使ったのだろう。

 

「タバサ、街に行きましょう!その竜を貸して!」

「ジークとアストルフォの友達。そして今日は虚無の曜日」

 

 言外に休みたいから自分を巻き込むなと言うタバサ。タバサの言葉にアストルフォとジークに視線を向けたキュルケ。すぐさまアストルフォとジークの肩をガシリと掴む。

 

「二人とも!あの竜貸して!」

「お、落ち着いてくれキュルケ。いったいどうした……」

「あたしね、恋をしたの!でね?その人が今日、あのにっくいヴァリエールと出かけたの!あたしはそれを追って、二人がどこに行くのか突き止めなくちゃいけないの!わかった?」

 

 さっぱり解らない。混乱するジークに対してアストルフォはニッコリ笑った。

 

「OK!面白そう、行こうか!」

 

 アストルフォはそう言って再び竜に飛び乗る。

 

「恋は誰にでもチャンスがあるべきだからね!応援するよキュルケ!」

「ありがとうアストルフォ!やっぱり同じ恋する乙女として気持ちが分かるのね!私も貴方とジークの仲を応援してるわ!」

 

 二人は仲良く飛び出していった。嵐みたいな二人だな、とジークは離れていく竜の背を見送った。

 

「しかし、俺との仲とはどう言うことだ?それに乙女って…」

「………彼ならあながち間違いと言えないんですよねぇ」

 

 首を傾げるジークに対してジャンヌはあはは、と苦笑いを浮かべた。

 

 

 

───────────

 

 才人は剣を手に入れた。

 ボロボロの錆び付いた剣だが、喋る。名前はデルフリンガーと言う。彼は最初は才人を馬鹿にしていたが才人が握った瞬間『使い手』と呼び才人に自分を使うように言った。

 まるで小説の主人公になった気分だ。

 

「ダーリンったらすっかりあの剣にお熱ねぇ……私もあの剣プレゼントすれば仲良くなれたかもしれないのに~」

「えー?だってあの剣儀礼用だよ?あんなの鉄は勿論岩に叩きつけたら折れるって」

 

 デルフリンガーをプレゼントしたのはルイズだ。キュルケも対抗して店一番の剣を買おうとしたが同行してたアストルフォがナマクラ扱いした。結局何も買えず戻ってきたのだ。

 

「それにしてもダーリンったら凄い剣術ねぇ……」

「んー?」

 

 ウットリしてるキュルケに対してアストルフォは首を傾げた。

 英霊の座に刻まれたアストルフォからすれば才人の動きは稚拙も稚拙。だが違和感を覚える。

 単純な身体強化魔術かと思えば、一応基礎は一通り出来ているのだ。しかし剣を握っていない時の才人を見る限りお世辞にも剣の才能があるとは思えない。

 恐らく自分のあらゆる動物、幻獣と心を通わせその気になれば無理矢理操れる力同様、使い魔としての特性なのだろう。

 

「またえらく戦闘向きな力だけどね……」

「ん?何が?」

「才人の力の事。じゃ、僕はそろそろマスターの所に戻るね~」

「ええ。タオルや水を持ってくと良いわ、気遣いが出来る子はリード出来るの」

「別に僕とマスターはそんな関係じゃないって。ま、マスターが求めるなら喜んで相手するけどね♪」

 

 

 

 

 思い起こすのはあの剣戟。

 そこで自分は、英雄の皮を被った自分はどう動いたか思い出す。あれは借り物の経験とはいえ、確かにあの場にジークは立っていたのだ。ジークとしてではないが……。

 

「……………」

 

 相対する相手のイメージは赤雷の騎士。イメージが固まった瞬間、飛び出してくる幻影。

 

「───ッ!」

 

 それを避けるジーク。所詮は幻影だ、打ち合えば透けるし、仮に本物だったら弾き飛ばされて終わり。故に受けてはいけないという事に変わりはない。

 攻撃の隙をつき攻撃を放つが幻影の騎士はあっさりそれを避ける。そして、逆に攻撃の隙をつかれ首を幻影の剣が通過した。

 

「………っ………ふぅ、はぁ───」

 

 ドッ!と汗が吹き出てくる。思い出したように息を大きく吸い腰を下ろす。

 やはりまだまだ英霊の頂は遠い。裏技を使えばもう少し戦えるかもしれないがそれでも勝てないだろう。

 

「お疲れマスター!」

「ジーク君お疲れ様です」

「ライダー、ジャンヌ……情けないところを見せたな」

 

 と、そこへタオルを持ったアストルフォと水を持ったジャンヌがやってきた。

 

「まー負けたみたいだけど仮想敵あのセイバーでしょ?仕方ないって」

 

 汗を拭き水を飲むジークにアストルフォは慰めるように言う。そもそも最優のクラスと呼ばれるセイバーを相手にしようと考える時点で無茶な話だ。

 

「お、いたいた……」

「才人?」

 

 呼吸を整え汗も引っ込んできた頃、才人がやってきた。隣にはギーシュも居た。

 

「俺と模擬戦しないか?」

「………何?」

「いや、ギーシュのワルキューレに付き合ってもらってたんだけど……」

「もう僕では相手にならなくてね。他の相手を捜していたんだ……君は以前メイジを下していたし、剣も使うようだからね……」

「な、頼むよ!怪我させないからさ!」

 

 と、頭を下げてくる才人。

 それを見たジークは暫く才人を見る。

 

「…………解った。ただ、主人から許可が貰えたらで良いか?」

 

 

 

 

 観客はアストルフォにジャンヌ、そしてタバサとキュルケにルイズ、さらにはメイドのシエスタまで居た。

 審判はギーシュ。

 タバサに報告すると同室でくつろいでいたキュルケが観戦すると言い出し廊下を歩いていたシエスタが聞き、それがルイズに伝わり今に至る。

 

「それじゃ、僕が合図したら始めてくれ」

「おお」

「解った」

 

 二人はある程度距離を取り、互いに剣を構える。

 

「才人……」

「ん?」

「俺と君は、少し境遇が似ている。予期せず〝力〟を手に入れた……」

「そうなのか?」

「ああ。だから………少し本気を出す」

 

 ピリッとジークの放つ気配が変わる。勘の鋭い者が今のジークの目を見れば竜の姿でも幻視したことだろう。

 

「では………始め!」

「だらぁぁぁ!」

 

 ギーシュの合図に才人が飛び出す。タバサも思わず目を見張る速度だ。それに対して、ジークは動かない。

 

「───!?」

 

 剣を打ち合うことになるのだと思い全力で剣を振り下ろそうとした才人は目を見開くが勢いが付いた身体は止まってくれない。

 危ない!そう思った瞬間ジークはデルフリンガーを片手で掴んだ。

 

「………へ?」

 

 一瞬だけジークの腕が人とは思えぬ異形に見えたが改めて見てもそんなことはなく、剣を素手で止められるという有り得ない光景に才人はポカンと固まる。

 そのままぶん投げられた。

 

「は───うぐ!?」

 

 背中から落下して咳き込む才人。その眼前に剣先が突きつけられた。

 

「───ッ!」

「………才人」

 

 ジークは剣を消すと手を差し伸べてきた。才人はその手に捕まり立ち上がる。

 

「俺は昔、予期せぬ力を手に入れた。強大な力だ………俺の時、周りに俺より強い奴が居た。救えなかった子供にもあった……だから、傲慢にならずに済んだ。才人、君も力を手にした。だが、それに飲まれてはならない」

「…………すまん」

 

 ジークの言葉に自分が調子に乗っていたことを思い知らされた。

 

「解ってくれれば良い───ッ!?」

 

 申し訳無さそうな顔をした才人にジークが笑みを返した瞬間、ジークが突然胸を押さえてうずくまった。

 

「マスター!?」

「ジーク君!どうしたのですか!?」

 

 

 

 

 

 サハラ。

 人間と敵対するエルフという種族が住む巨大な砂漠。その奥に、人間が聖地と呼びエルフ達が『悪魔(シャイターン)の門』と呼ぶ場所がある。

 数十年前から活動が活発化しており、数年前()()は現れた。

 それは触れた者を発狂させやがて死に至らしめる黒い泥を溢れさせていた。その泥から、ある日何かが生まれ逃げ出した。それも数匹。

 故にエルフ達は昼夜問わず、泥が出ぬように結界を張り監視していた。その泥の水面が、ゴボリと揺れる。

 

「───!?」

 

 エルフの青年はビクリと震え剣精に命じ複数の剣を浮かせる。何も起きない、気のせいか?そう安堵しかけた瞬間、水面が爆ぜる。

 

「くっ!」

 

 泥に当たらぬように距離をとるエルフ。泥から飛び出してきた物体は、泥を囲む砦の上に着地する。

 

「食らうが良い!」

 

 あの泥の中から出てくるのだ。まともな存在ではないのだろう。即座に剣を放つが現れたそれは高速に飛来する剣を掴み取る。途端、剣の制御がエルフから切り離された。

 

「Arrrrrrrrrrrr────!!!」

 

 獣のような雄叫びをあげエルフの男を切り裂く。物言わぬ躯になったエルフの横を通り抜け砦から飛び降りたそれは虚空を睨みつける。そこに敵が居るのかあるいはただ全てを破壊したいだけで、そちらを向いたのは偶然なのか定かではないがとにかくそれは、叫び声を聞いて集まってくるエルフ達の気配を無視して走り出した。


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