フーケは牢屋の中でふぁ、と欠伸をする。
もうすぐ絞首刑、打ち首、良くても流刑に処されるというのに落ち着き払った態度は見張りである男達は首を傾げるしかなかった。
「諦めたのか?世間を騒がす盗賊様も捕まっちまえば大人しいもんだな」
「見張りとしては張り合いがねーよ。逆らってくれりゃ懲罰にかこつけていろいろできんのにな」
成熟した魅力を持つフーケを見て鼻の下をのばす看守。と、不意にフーケが目を開き立ち上がる。聞かれたかと体を震わせるが考えてみれば向こうは杖も持っていない。恐れる必要など何処にもなかった。そう考えた時足音が聞こえた。
「やあヘマをしたようだね」
「な、何者だ貴様は!?」
やってきたのは鉄仮面を被り、全身皮膚が出るところがない青い衣装に身を包んだ男。怪しさ全開の男に看守達は槍を向ける。が……
「釈放だ」
そう言って一枚の羊皮紙を見せてきた。そこに書かれた内容を見て目を見開く看守。男はそんな反応に気にした様子もなく懐から取り出した杖をフーケに渡す。
「………釈放?」
「この国には貧乏貴族が多いみたいでね。金で解決できて良かったよ、指名手配犯を匿うにはリスクが多すぎるからね」
フーケがアンロックを唱えると牢屋の鍵が開きフーケが出てくる。
「あんた金なんか持ってたのかい?」
「僕のゴーレムの核、此方で言うガーゴイルを簡単に量産できるマジックアイテムを売っていたからね。僕からすればさして価値のあるものでないけど、世間には有るみたいでね」
「戦闘能力もないゴーレムが売れんのかい?」
「売れる。さて、帰ろう。マスターが面倒なことを始めてしまってね」
やれやれと肩をすくめる男。フーケは眉根を寄せる。
「面倒な事って?」
「僕が教えた力を使って、アルビオンのために戦い始めた」
「はぁ!?そりゃいったいどういう───!」
廊下を歩きながら話していると認可できない言葉が出てきて驚愕するフーケ。思わず問いただそうとしたが自分達のモノとは違う足音に反応し顔を向ける。
「既に牢から出てるとは意外だな『土くれ』。まあ、楽になっていいか。マチルダ・オブ・サウスゴータよ、我らの仲間に───」
グシャリと壁から生まれたゴーレムに潰される仮面の男。
「……容赦ないね。似たような格好してるし友達になれたんじゃないかい?」
「冗談はよしてくれ。僕はあんな殺気を纏って交渉を始める輩と友達になる気はないよ………おまけに、大切な交渉に分身をよこすようではね」
帽子を深く被った金髪の美少女は地面に手を当てる。腕を覆うように緑に輝くラインが現れ、それが地面に広がっていく。すると散らばっていた紫色の結晶が輝きそれを包み込むように土が盛り上がり大量のゴーレムが生まれる。
「ゴー!」
少女が叫ぶとゴーレム達は駆け出し敵軍にぶつかる。多少の損壊は即座に修復し向かってくる不死身の兵に敵は恐れを無し蜘蛛の子を散らすように逃げていく。が、逃げずに魔法を放とうとするメイジ達もいる。少女は杖を構え呪文を唱える。
「ナウシド・イサ・エイワーズ・ハガラズ・ユル・ベオグ・ニード・イス・アルジーズ・ベルカナ・マン・ラグー………」
少女が杖を振り下ろす。白い光が辺りを包み、メイジ達は発動させようとしていた魔法を霧散させる。そして困惑するように己の杖や周りのメイジ達を見る。
「お、おい……俺、今までどうやって魔法使ってた?」
「知るかよ!それより俺に兵法を教えてくれ!ここは引くべきなのか?戦うべきなのか!?」
魔法の使い方や剣の振り方、指揮の仕方を忘れた兵達は終いには仲違いを始める。そして、「捕らえろ!」と男の声が響き次々捕らわれていった。
「君のおかげで何とか持ちこたえている。ありがとう、ミス・ウエストウッド」
社交界に行けばあらゆる女性が振り向くと言われるウェールズ・テューダがニコリと微笑む。それだけで大抵の女は天上にも昇る報償だろう。しかし目の前の少女はウェールズと目を合わせようとしない。テレているとかではない。帽子を深く被っているため、この身長差だと顔が見えないのだ。
「ミス・ウエストウッド殿、その態度は無礼ではないかね?」
「す、すいません……」
「良いんだよパリー。彼女一人のおかげで戦況は持ち直せているのだから。しかし君の魔法は凄いね、ゴーレムの軍勢に………魔法を失わせる魔法か…………」
「……………」
「父も是非君に会って礼を言いたいと言っている。会ってはくれまいか?」
「失礼だとは存じております。それでも私は、まだあの人と面を向かわせることができないんです」
「………そうか。まあ、下手に君と父を会わせたら僕の婚約者に、などと言いかねないしね。まだ時期ではないか……」
ははは、と陽気に笑うウェールズ。今度は若干のテレも混じり顔を赤くするウエストウッド。と、彼女の肩に土でできた鳥が乗る。
「あ、先生からだわ………良かった、姉さんは無事なのね」
「?君には姉がいたのかい?」
「あ、はい。血の繋がりはありませんけど、大切な家族です」
「そうか、何時か会ってみたいものだな……」
「あー、でもあの人……貴族嫌いで…………」
レコン・キスタ。それがアルビオン王家と戦っている者達の名乗っている組織名である。お題目は『聖地奪還』。そのためにハルケギニアを統一する必要があり、よって始祖の血統でありながら小競り合いばかりする現王家を打倒するのだと行軍を開始した。
途中までは上手く行っていた。勝っていた。しかし今は拙戦続きで折角奪った領地も取り返され始め、美味い蜜を啜りに来た者達は離れ始めた。
「おのれ王家め、一体どんな手を使った………そうだ、彼奴だ……全てはあの『土軍』が現れてからだ。忌々しい魔女め!」
彼こそはレコン・キスタ総司令官、反乱の首謀者オリヴァー・クロムウェルである。もっとも、髪をかきむしる様は小物にしか見えないが。悩みの種は報告書にあるメイジ、『土軍』である。
土軍というのは突如王党派に味方として現れた十数メイルから数十メイルの巨大なゴーレムを有り得ないほど大量に生み出す女メイジに付けられた名である。オマケに彼女は、メイジから魔法を奪うらしい。
彼女こそ現代に復活した『虚無』なのではないか?とまことしやかに囁かれ始める始末。
「おお!一体どうしたというのです我が友よ!」
と、扉を開きやたら甲高い声の男が入ってきた。道化のような格好をした男はギョロリとした目玉を動かしクロムウェルを見据える。
「おお青髭殿。見苦しいところをお見せした。いや、ここの所拙戦が続いていてね」
「ああ……誠に嘆かわしい!貴方は、誰よりも真摯に始祖の御許に向かおうとしてるだけだというのに!それを理解せず、貴方を賊軍と罵る者達が、貴方の覇道を邪魔しようなどと!」
青髭と名乗る不気味な風貌の男は、ある日ふらりとクロムウェルの元にやってきた。そして言った。
『王になりたくはありませんか?』
あの後、そうあの後だ……フードを深く被った女やら仮面の集団やら、とにかくそういった者達を彼に貸し与えここまで勢力を拡大させた。
「彼等の力を再び借りることは出来ないのか」
「そう言われましても彼等は再び力を振るうためには長い時がかかる。何より、未だ全ての駒が揃ったわけではないのですよ………何名かに、新たなる同朋を迎えに行かせております」
「おお!そうか、それは楽しみだ!」
「魔女に関しても此方で対処してみましょう。それで、報償ですが」
「ああ、うむ。今夜また君のアトリエに男唱を送ろう。何、働きに応じて褒美を出すのは当たり前さ」
「貴方のように話の分かるお方と手を組めて私は幸福です。感謝を……」
青髭はそう言ってその部屋から立ち去った。
「『土軍』?それまた、面白い敵が現れた……私としては、心情的に向こうに勝って欲しいからね」
黒いオーラに身を汚された男はそう言って笑う。笑ったと言っても、その顔をのぞき見ることは出来ないが。
「私としてはどちらでも良いわ。勝とうが負けようが、さっさと座に帰りたいだけ……そのために現地の人間を利用したのに、想像以上に役立たずね」
「君に見る目がなかったのだろう」
「………貴方、調子に乗らないことね。マトモに話が出来る程度の狂化ですんで、話せそうだから話してるだけよ」
「失礼。何せ自害すら出来ぬ身故、昔苦汁を嘗めさせられた相手に多少の意趣返しをするしか暇潰しが出来ぬのだよ」
「…………フン」
「あの犬に喋れるだけの理性が残っていれば良かったのだがね」
「まあ良いわ……それより………
「なっているな。世界を壊せと喧しい………」
二人は不機嫌そうな顔をして──どちらも表情が読みとれないが雰囲気で──呻いたのだった。