「魔術を教えて欲しい」
「ん?」
タバサの言葉にページを捲ろうとする手を止めるジーク。
「貴方の記憶を見た時、魔術の利便性を知った。杖がなくても使えるから」
「俺はある程度の知識を与えられてはいるが………」
とはいえその知識も錬金術や基礎魔術ぐらいだ。
「それでもいい」
「そうか、なら強化と錬金術の応用である解析でどうだろうか?」
「よろしく頼む」
「強化の魔術は基礎中の基礎だ。が、極めるのは難しい」
「基礎なのに?」
ジークの言葉に首を傾げるタバサ。ジークはどう説明したものかと顎に手を当てる。
「そうだな……言うなれば、自由度が高すぎると言うべきか。ナイフを強化すれば切れ味が、ガラスなどを強化すれば強度が上がる。定規で鉄を切断することだって出来るし布で銃弾を防ぐことだって可能だろう」
とある世界では強化した傘を使い置換魔術で力を人形に移され、かつ英雄としてのランクは低いとはいえ攻撃を防いだ猛者もいるほどだ。まあそれはジークは知らないことだが。
「魔力の流し方は解るか?」
「…………」
ジークの言葉にフルフル首を振るタバサ。魔法とは唱えれば発動する物、それが彼女の認識だ。
「そうか、困ったな」
「私、魔術を覚えられない?」
首を傾げ尋ねるタバサにいや、と返すジーク。魔術回路事態は既に使用されていて魔術の使用に問題はないだろう。後は使い方を覚えるだけ。
「そうだな………俺とタバサにはラインが繋がっている筈だから……タバサ、俺の手を掴んでくれ」
「………ん」
ジークが差し出した手に己の手を添えるタバサ。ジークは己の掌に乗せられた小さな手を優しく包み目を閉じる。タバサも続いて目を閉じる。
「────ん」
流れ込んでくる魔力に眉根を寄せるタバサ。掌からじんわり広がり身体を這う熱に不快感を感じ手の位置を何度か動かそうとするがジークがしっかり握っている。
「タバサ、お邪魔するわ───ほんとにお邪魔だったかしら?」
と、キュルケが遊びにやってきた。ベッドの上で手を取り合う男女にニヤニヤからかうキュルケであったが朴念仁のジークはもちろんタバサの表情が変わることはなかった。
「ふぅん、ジークの国の魔法───魔術だったかしら?それを覚えようと?」
キュルケの言葉にコクリと頷くタバサ。杖を使わずに行使できる魔術は戦術の幅を広げる。タバサとしては是非とも覚えておきたい技術だ。戦術の部分をぼかし伝えるとキュルケは呆れたように肩を竦めた。この世界において始祖が残した魔法以外を使うのは異端審問にかけられ火炙りにされてもおかしくない事だからだ。
「全く、神をも恐れぬとはまさにこの事ね」
「神に祈ろうと私が救われたことはない。なら、神の教えなんて知らない」
と、そのタイミングで嘗て神に全てを捧げた聖女が帰ってきた。
「戻りました。マルトーさん、なかなか侮れませんね」
「ルーラーったら新しい料理の試食お願いされたのに鍋の全部食べちゃったんだよ」
「な!?ぜ、全部ではありません!あなただって食べてたじゃありませんか!」
「二杯だけね……お昼ご飯まだだけど大丈夫なの?」
「もちろんです。残すような失礼なことは致しませんとも」
才人がルイズに首輪を付けられたり殴られて気絶したりしていた。心配したジークだったがライダーから「僕の元マスターも似たようなことしてたよ。縛り付けられてペロペロされたっけなぁ。まああれも愛情表現なんじゃない?」という言葉にどうすればいいか解らずたまたま近くを通ったマリコルヌに尋ねると彼も恋人が出来たらして欲しいと言っていたのだ、才人に命の危険がなさそうな限り口を挟むのはやめておいた。
本日最初の授業はギトーが担当するようだ。彼が入ってきた途端生徒たちは一斉に席に着いた。
「では授業を始める。知っての通り、私の二つ名は『疾風』。疾風のギトーだ」
二つ名からして風系統のメイジなのだろう。ギトーは言葉を続ける。
「最強の系統は知っているかね?ミス・シェルプストー」
「『虚無』じゃないんですか?」
「伝説の話をしているわけではない。現実的な答えを聞いているんだ」
と、生徒から人気がない理由の一端を見せるギトーにキュルケはむっとし、ついで不敵な笑みを浮かべた。
「『火』に決まっていますわ。ミスタ・ギトー」
「ほほう?どうしてそう思うかね?」
「全てを燃やし尽くせるのは、炎と情熱。そうじゃございませんこと?」
「残念ながらそうではない。試しに、この私に君の得意な『火』の魔法をぶつけてみたまえ」
杖を引き抜き言いはなったギトーにキュルケは目を丸くした。この先生は何を言っているのかと。その様子に挑発を繰り返したギトーに流石に我慢の限界がきたのかキュルケが炎の玉を放った。生徒たちはすでに机の下に隠れていた。
ギトーは避けようともせず杖を薙ぎ払う。
烈風が舞い上がる。一瞬にして炎の玉が欠き消え、キュルケの前に何時の間にか移動したジークが片腕をなぐとバフン!と風が吹き荒れる。
「彼女は貴方の生徒の一人だろう。力を見せびらかすために傷つけるような行為は、あまり褒められたものではない」
「………っ。魔法も使えぬ平民が、何をした?」
「?何と言われれば、こう……腕を振るって貴方の風を払ったわけだが」
ジークとしては素直に答えたわけだがギトーからすれば貴族に劣る平民に、お前の魔法など微風同然だと言われたと判断したのか憎々しげな顔になる。何故そんな顔をするのか解らないジークが首を傾げ、ますます機嫌が悪くなるギトー。と、その時───
「ミスタ・ギトー!失礼しますぞ!」
と、ロールした金髪のカツラをかぶり妙にめかし込んだコルベールが入ってきた。
カツラが落ちるなどのハプニングが起きたが彼は目的の連絡だけは伝えた。トリステインの姫君、アンリエッタ姫殿下が学院にやってくるので授業を中止し式典の準備を行うのだとか。
トリステイン魔法学院に続く街道で観衆たちに手を振った後、カーテンをおろしため息を吐くアンリエッタ。それを見た現トリステインの実質的な権力を握るマザリーニは眉間に皺を刻む。
「姫で──」
「
マザリーニが何かを言おうとした瞬間、不意に子供の声が響く。マザリーニは頭痛がすると言うように頭を押さえる。
「アサシン、お主の役目は外での見張りであろう。それと、みだりに姫殿下を母と呼ぶな。何処に目がありどんな噂が立つのかも知れぬ………」
「ごめんなさいおじいちゃん………」
と、何処からともなく白髪の少女が現れる。アンリエッタの隣に座った彼女はしょんぼり落ち込んでいる。アンリエッタは少女の頭を優しく撫でた。
「良いのよ、ジャック。彼はああ言っているけど、目や耳を残したりはしてないでしょうから、こういう場所でだけなら」
「うん!おかあさん!おじいちゃんもごめんなさい、もう少し気を付けます……」
「………はぁ、規格外の性能を持った使い魔だというのに、姫殿下は扱いに甘さが見える」
「この子は人間です。そのような言い方は控えて欲しいわ」
「ほほ。これから友を戦地に送ろうとする女の言葉とは思えませんな。一歩間違えれば公爵家が敵になりますぞ?」
「────っ!!」
その言葉に黙り込むアンリエッタを見てマザリーニは眉間を揉む。
「まあ、そうならぬように此方も努力しますが」
「………感謝します」
お菓子さえ上げれば口の軽い彼女の使い魔を通して知った彼女の策略とも呼べぬ子供の考えた計画にも劣る計画。
それを知り、止めようと思ったがそうなれば信用できぬ者に縋るだろう。今度はバレぬように口止めして………監視したとしてもアサシンを使われれば此方から誰に依頼したか調べる術は存在しない。
とはいえ目の前の姫には悪いが『影』を付けさせて貰う。護衛という側面は確かにあるが、いざという時証拠を残さず切り捨てられるようにが大きい。最善としては無事に帰ってきて貰うことだが、どうも目の前の姫は無事に帰ってきて当然だと思っているらしい。
「全く。国を導く王族が何故こんな───」
マザリーニの言葉は残念ながら目の前で戯れる親子には聞こえなかったようだ。