竜の使い魔   作:超高校級の切望

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邪竜は己を知り騎兵と再会する

 食事も終わり、タバサ達は教室に移動する。

 段差のある床に横長の机が並んだ大学の講堂のような教室だ。タバサは男を侍らせているキュルケの下まで歩いていく。

 男達はタバサの使い魔であるジークに気付くとあからさまに見下すような笑みを浮かべた。

 

「ジーク、朝ぶりね。賄いを食べたそうですけどお腹いっぱい食べられた?」

「ああ。ジャンヌも満足していた」

「あの……ジーク君その言い方はあまり……」

「?マルトーも良い食べっぷりと誉めてたじゃないか」

「うう……」

 

 ジャンヌは恥ずかしいのか顔を赤くして俯く。

 

「安心して、私も良く食べる方」

「慰めになってません………」

 

 タバサの見当違いな言葉にジャンヌは肩を落とす。と、教室の扉が開き才人とピンクブロンドの髪をした少女が入ってくる。その瞬間、周囲からクスクスと嘲笑が聞こえてきた。

 侮蔑、軽視、それらの混じった視線を向けながら自分達はあれより上だと安堵している目。ジークやジャンヌは僅かに眉をひそめたが騒ぎを起こせばタバサの迷惑になると判断し声には出さずにいた。

 やがてふくよかな中年の女性がやってきた。年齢も違うし、彼女が教師なのだろう。

 

「皆さん。春の使い魔召喚の儀は大成功のようですね。このシュヴルーズ、毎年こうやって春の新学期に様々な使い魔たちを見るのがとても楽しみなのですよ」

 

 さらに、シュヴルーズと名乗った教師は続ける。

 

「ミス・タバサとミス・ヴァリエールは、実に変わった使い魔を召喚したものですね」

 

 途端、周囲が笑い声に包まれる。

 

「『ゼロ』のルイズ!魔法が使えないからってそこら辺歩いていた平民を連れてくるなよ!」

「タバサも、使い魔の召喚が出来ないなんて『トライアングル』というのは嘘なんじゃないか?」

「違うわ!ちゃんと召喚したもん!此奴が勝手に来ちゃっただけ!」

「嘘吐け、お前が魔法を使える訳ないだろ!」

 

 嘲笑が響き渡り、少女の顔が赤く染まっていく。いざ吐き出されようとしたその瞬間───

 

「そこまでにしなさい……」

 

 透き通るような声が騒がしい教室に響き誰もが口を閉ざす。

 カリスマ(C)は伊達ではない。

 

「一つ、お聞きします。私の国では、貴族とは税を貰う代わりに民草を守り導く、誇り高き者達をさしました。この国では違うのですか?」

「お美しいお嬢さん、それはこのギーシュ・ド・グラモンがお応えしましょう。応えは、是。こちらの国の貴族も、誇り高き血筋さ」

「では、級友を蔑み笑うのはこの国では誇り高い行為なのですか?」

 

 その言葉に教室の空気が凍り付く。ギーシュはグッと言葉を詰まらせ何名かはジャンヌを睨み何名かは目を逸らす。

 

「自らより劣っていると蔑み、恥辱に身を震わせる少女に手を差し伸べず笑い物にするのが、この国の誇りなのですね?どうやら、私の国の貴族とはだいぶ異なるようです」

「い、いや……それは、その………」

「それとミス……」

「な、何よ!」

 

 言葉を詰まらせるクラスメート達を見てにやけていた少女に声をかけると自分に向くと思っていなかったのかビクッと震える。

 

「勝手に来た、そう仰いましたが召喚された側から言えば、あれは触れてしまった瞬間から強制でした。何より、彼にも友や家族、ひょっとしたら恋人だって居たかもしれない。そこから引き離したのは貴方であるという事をお忘れなく」

「…………はい」

 

 本来プライドの高い彼女なら、何か言い返したことだろう。

 しかしジャンヌの放つ気配と反論しようのない正論に何も言えず押し黙った。それに、彼女とて家族は大好きだ。それに突然会えなくなったら、そう考えれば罪悪感は湧く。

 

「………少し、口が過ぎてしまいました。なれぬ文化で動転していたとはいえ、無礼をお許しください」

「い、いえ!貴方は私が言うべき言葉を、私以上に伝えてくれました。怒るなどしませんよ……」

 

 頭を下げたジャンヌに慌てるシュヴルーズ。

 そして授業が始まった。が、何故か錬金の授業で先程の少女が選ばれるとタバサが席を立ち歩き出した。

 

「タバサ?まだ授業は続いているぞ?」

「直ぐに中止になる。この学園で暮らすに当たって、街の場所は知っておいた方がいい。今から案内する………馬には乗れる?」

「はい。スキルにこそありませんが、過去何度か乗ったことがあります」

「俺は……無いな」

「解った……」

 

 

 

 タバサは馬を二頭借りてきた。

 一頭に自分が乗り、残りの一頭はジャンヌとジークを乗せ街に向かう。

 

「ここが街ですか……」

「少し、汚いな……」

「ここは王都」

「ここが?」

 

 ジークは素直に驚いた。確かに見れば、大きな城も見える。が、人は道にぎゅうぎゅう詰めで路上で寝ている者も見受けられる。

 

「はぐれないで」

「ああ。これから何処に向かう?」

「本屋。基本的に、お使いはそれしか頼まない」

「そうか。本……」

「……お使いに行ってくれるなら、お金は余分に渡す。好きな本を買うと良い」

「すまない、助かる」

「気にしないで。行こう……」

 

 

 

「……はぐれた」

 

 まず言い訳をさせて欲しい。ジークとて最初ははぐれまいと歩いていた。が、大通りとは名ばかりの道に詰められた人に押される内に押し流され、はぐれてしまったのだ。

 街の出口で待つかと道を引き返そうとしたジークはふと足を止める。

 ぐったりした女性を運ぶ男達。そこまでならまあ、貧血か酔いつぶれた知人を運ぶ男達、で済むだろう。だがあの眼には見覚えがあった。

 嘗て自分達を見ていた自分達の創造主と同じ目。道具を見る目……。

 

「……………」

 

 ジークは男達の後をそっと追いかけた。

 

 

 

 

「お、また新しいのか。今日は中々商品が多いな」

「そりゃ、一々失踪者の捜索する衛兵の数なんてたかがしれてるからな。関所の奴らも調子づいてきたし、金はなるべく多く手に入れた方がいいだろ」

「ちげぇねえ!」

 

 ゲラゲラと下品に笑う男達は気絶した女を縛ると荷台に乗せる。荷台の中には怯えた表情の少女や妙齢の女性が居た。全員縛られ猿轡を噛ませられている。

 

「へへ。なあこんだけいんだし、味見しても」

「止せよ。未使用は高く売れる」

 

 男達の言葉に顔を青くする女達。そんな様子に愉悦感を覚えていると、不意に声が聞こえた。

 

「成る程、人攫いか……」

「……あ?」

 

 何時の間にかそこにいたのは茶髪の青年。あるいは青年一歩手前の少年。

 男達が睨むが怯えた様子もなく歩いてくる。その反応に苛立つ男達。

 どんな奴らも睨みを利かせて武器を構えれば顔を青くして逃げ出した。その様が面白く、酒の肴の笑い話にしている男達からすれば少年の反応はあまりにも不愉快だった。

 

「おい、やれ……いやまて、良くみりゃ男色に好まれそうな顔してるな………おい」

 

 と、男の一人が振り返るとその男が杖を構え何やら呪文を唱える。すると光る網のようなモノが少年に向かって放たれ、地面に落ちた。

 

「え?」

「──げぶ!?」

 

 少年が消えたことに戸惑っていると背後から悲鳴が聞こえた。振り返ると杖を振るった男が少年に頭を踏みつけられ気絶していた。

 

「………そうか、これが今の俺の身体か……」

 

 周りの反応を見て納得したように言う少年。他の敵など見えていないかのように、自分の体の調子を確かめる。

 

「なんだ今の?魔法か!?」

「魔法に決まってるだろ!此奴、メイジだ!」

 

 と、怯えたように後ずさる男達。この世界で平民はメイジに勝てない、それは刷り込まれた常識だ。世の中にはメイジ殺しと呼ばれる者達も居るが単身でメイジを殺そうと思えるのはよほどメイジに強い恨みを持つか、刷り込みが効かず己を鍛え続けた猛者ぐらい。弱者をいたぶる彼らの中にそんな者は存在しない。

 

「騒がしいねぇ、何事だい?」

 

 だが、先ほどの男のようにメイジは居た。

 現れたのは女だった。杖を構え、勝ち気に微笑んでいる。

 

「何でメイジが人攫いなんてやってるんだって顔だね」

「いや、すまない。貴方の身の上話には少しも興味がない」

「……………あたしは女騎士に憧れていたんだよ」

 

 どうやら構わず話すらしい。

 彼女はその昔女騎士に憧れ、なろうとした。が、両親に反対され家を飛び出てやっていることは庸兵以下の賊紛い。

 

「………俺の知り合いには女性ながら騎士になった奴が居た」

「へえ、そうかい……」

 

 もっともこんな台詞、彼女に聞かれたら間違いなく切りかかられるだろう。女扱いするなと。

 

「彼奴は粗野で乱暴で言葉遣いも悪くて、最初は出会いもあって好きになれなかったが………少なくともお前のような屑ではなかった」

「───ッ!言ってくれるね!お前ら、やっちまえ!」

 

 自分達の陣営にもメイジが来たからか余裕を取り戻した男達が迫る。少年は背後からよってきた男の腹を剣の腹で叩き吹き飛ばした。

 

「っ!?どっから剣を……!」

「魔法だろ!構うこたねぇ!」

 

 内蔵を押され口からも下からも体内のモノを外に出しビクビク震える仲間に怯えるもそれを振り払い迫る男達。と、女が空気の固まりを飛ばしてくる。

 それを避けた瞬間男達が短剣を振り下ろしてくる。少年は剣の柄で片方の剣を弾くと勢いそのまま身体を回転させて反対の男の腕の腱を切り裂く。

 

「ふっ!」

 

 少年は剣を弾かれ仰け反っていた男の喉を蹴る。喉仏が埋まり呼吸ができなくなる男はそのまま気絶する。

 

「このやろう!」

「調子乗りやがって!」

「ぶっ潰せ!」

 

 残り総出で迫ってくる男達。少年は一人の男の手を掴むと自分より遙かに大柄な男を振り回し全員気絶させた。

 

「動くんじゃないよ!」

「………お前……」

 

 女の声に振り返った少年は憤怒の表情を浮かべる。女は杖を、女達が乗せられた荷台に向けていた。

 

「あんたは随分速いようだね。けど、彼処の女達はどうかな?ほら!さっさと剣を捨てな!」

「……良くそれで騎士を名乗れるな」

 

 少年はそういって剣を放り捨てると剣は光の粒子になって消えた。恐らく何らかの魔法だろう。が、素手になったのは確かだ。

 

「このまま両手も付こうか?」

「解ってるじゃないか。早くしな!」

 

 と、女の言葉に少年が地面に手を着ける。瞬間、少年の身体に光のラインが走りバチリと小さな雷が生まれる。

 

理導/開通(シュトラセ/ゲーエン)!」

「な──!?」

 

 瞬間、地面が爆ぜた。その爆発に吹き飛ばされた女は壁にぶつかり気を失った。少年は女から杖を奪い取るとへし折った。

 先程の戦い、彼の主人やその教師達の魔法の発動方法を見ているかぎり、杖が無ければ魔法が使えないと判断したからだ。

 

「無事か?」

 

 と、少年は荷台に積まれた女性達に声をかける。怪我人は居ないようだ。縄を解いてやり、その縄で男達を縛らせる。

 

「ありがとうございます。おかげで助かりました」

「気にしないでくれ。俺が好きでやったことだ」

「ですが、何かお礼を……あの、もしよろしければ私の店に来ませんか?あれだけ動いたならお腹も空いて───」

「ジーク君!」 

 

 女性が何か言い掛けていると慌てたような声が聞こえて来た。

 

「無事ですか!?先程貴方の戦闘をタバサさんが見て………怪我は?何処か痛いところはありませんか?」

「俺は平気だよジャンヌ」

 

 オロオロ慌てるジャンヌと呼ばれた女性に笑顔を見せるジークと言うらしい少年。少年の言葉にジャンヌはホッとため息を吐く。

 

「ジャンヌ、慌てすぎ。私はきちんとジークが圧倒してると教えたはず」

 

 と、ふわりと空を舞う妖精のように可愛らしい少女が現れた。

 

「うう、でもジーク君が戦ってると聞いていてもたっても居られなくて……」

「心配してくれたのか。ありがとう、ジャンヌ」

「当たり前です。全くジーク君は………」

 

 ジークの言葉に拗ねたように赤くした顔を逸らすジャンヌ。同性の女性達も少し可愛らしいと思ってしまった。

 

「ジーク……」

「何だ、タバサ」

「貴方の強さ、見せて貰った」

「俺の?ああ、使い魔との契約の力か?」

 

 ジークの世界にも使い魔の視界を覗き見る魔術が存在する。それなのだろうと辺りをつけた。

 

「そんな所。私は、荒事に貴方を巻き込んでしまうと思っていた。置いていこうとも考えていた。でも、安心した。これなら背中を任せられる」

「そう言ってもらえて嬉しいよ」

「………本は買った。帰る」

「ああ」

 

 

 

 預けていた馬を回収し街の出口にたどり着いたジーク達。来た時同様にタバサとジャンヌが馬に乗り、ジークがジャンヌの後ろに乗ろうとした時──

 

「あー!居たー!」

 

 と、叫び声が聞こえてきた。周囲を見回すが三人以外には誰もいない。

 

「マス──!」

「上か!」

 

 ジークが上を見上げると満面の笑み浮かべる美少女のような顔をした美少年がジークに向かって降ってきた。

 

「──ター!」

「うぐ!?」

 

 地面を転がるジークと少年。木にぶつかり止まると少年はジークの胸にスリスリ頬をすり付ける。その光景に懐かしさを覚えるジーク。

 

「………ライダー、君も来てたのか?」

「うん!」

 

 黒のライダー、アストルフォは主従の再会を喜んでいた。

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