竜の使い魔   作:超高校級の切望

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騎兵は邪竜の秘密に気づく

 ごう!とハルケギニアの空を駆ける影があった。

 ヒポグリフ。この世界ではヒポグリフ隊なるモノが存在するほど、珍しくもない幻獣。それがこの世界基準では考えられない速度で進んでいた。

 

「どうだいマスター!ヒポ君は相変わらず速いだろお!」

「ああ……」

『クアァ……』

 

 ライダーの背に掴まりながら反対の手でこの世ならざる幻馬(ヒポグリフ)の背を撫でる。

 ヒポグリフも嘗て乗せたことのあるジークとの再会を喜ぶように鳴いた。

 あの後、一度学園に戻ることになったのだが、そこでアストルフォがヒポグリフを召喚し同乗を立候補。ジークも数万年ぶりの再会に、その案を受け入れたのだ。

 

「にしても数万年かー。僕的にはそんなに経ってなかったと思ったんだけどなぁ」

「其処は時間の流れすら曖昧な切り離された世界だ。それに加え、ここは異世界。時間のズレがあってもおかしくはない」

「それもそっか!」

 

 ライダーは深く気にせず突き進む。そもそも平行世界の移動自体、魔法に数えられる、つまり不可能な奇跡なのだ。どのような事が起きても何ら不思議ではない。

 

「あ、あれがマスターの通っている学園?」

「通ってはいない。が、此処が今の拠点だな」

「オッケー。じゃ、降りるね………ん?」

「どうした……?あれは……」

 

 不意にアストルフォが何かに気づき、その何かを目で追ったジークは顔をしかめる。

 広場に人が集まっており、その中央を広げそこには気絶した黒髪の少年とその少年の前に立つピンクブロンドの少女。その前には杖を持った生徒が一人。

 

「穏やかじゃないなー。喧嘩?」

「ライダー、降ろしてくれ」

「いいよー」

 

 面倒事は嫌いなライダー。人気のない場所に降りようとしたがジークの言葉に迷い無く降下を始めた。

 

 

 

 ヴィリエ・ド・ロレーヌは苛立っていた。というのも、平民、才人がギーシュを倒したからだ。

 事の発端は才人がギーシュの香水を拾い、それが原因で浮気がばれて謝罪しろと言ったギーシュと才人が口論になったから。

 貴族への礼儀を教えてやると息巻いていたギーシュがやられるだけなら情けない、で済んだだろう。問題は、タバサの使い魔も平民だったという事だ。

 ヴィリエは昔、タバサに苦汁を嘗めさせられた。完全なる自業自得だが今もタバサを恨んでいる。

 そんなタバサが使い魔召喚に失敗し、平民を呼び出した。ランクで劣っているくせに彼はやはり自分はタバサより優れているのだと調子づいた。だが、呼び出された平民がギーシュを圧倒するのを見た。

 メイジの実力は使い魔を見よ………もしタバサの召喚が、失敗ではなかったら?タバサの呼び出した平民も、メイジを圧倒するほど強かったら?

 そうなれば折角ついた自信も無に消える。それだけは認められなかった。

 

「さあルイズ!そこの使い魔をとっとと起こせ!」

「何言ってるのよ!酷い怪我なの!」

 

 ルイズの主張はまさしくその通り。怪我人をいたぶろうとしているヴィリエの何処に貴族の誇りがあるのか定かではない。殆どの観衆が剣舞を魅せてくれた才人の味方でヴィリエを睨むが、平民を心底見下す者達はヴィリエの言葉に賛同する。と、その時───

 

「ちょーっと待ったー!」

 

 そんな間の抜けた声が響き渡り、空から一匹の幻獣が降りてくる。

 背に乗ったのは貴族でも見惚れる美しい少女、そして完璧な配列がなされた顔立ちの青年。青年には見覚えがあった。タバサの使い魔、ジークだ。

 

「誰だあの女……」

「おいあれ、マントだ!」

「え、てことは貴族!?」

 

 ざわざわと騒がしくなる周囲を無視してジークはヒポグリフから降りる。

 

「すまないライダー。降りてくれてありがとう」

「気にしなーい気にしなーい。僕は君のサーヴァントなんだからね」

 

 天真爛漫な笑みを浮かべるライダーと呼ばれた少女。ジークはヒポグリフにも礼を言うように顎の下を撫で、ヴィリエに振り返った。

 一瞬だけ、ジークの目が瞳孔が縦に避けた翡翠の瞳に変わる。ヴィリエはその瞳を見てまるで竜のアギトが眼前に迫っているような錯覚を覚えた。が、持ち前の虚栄心で恐怖を取り払う。

 

「ふん。誰かと思えばタバサの使い魔か。今、僕は決闘中なんだ。邪魔をしないでくれたまえ」

「お前の国では死にかけの怪我人をなぶることを決闘と言うのか?俺の知る決闘は、お互いの誇りを賭ける事だが──」

 

 ジークはそこで言葉を区切り太陽の力を持つある槍兵を思い出す。

 

「──此方の決闘は誇りを賭けなくて良いのか」

「っ!貴様………貴族の誇りを汚すか、平民め!」

「怪我人をいたぶっただけで誇れるとは安い誇りだな」

「………………」

 

 ヴィリエが忌々しげにジークを睨みつける。が、憤慨しているのはジークも同じだ。怪我人をいたぶることは勿論、それをあまつさえ決闘などと自賛する始末。赤の槍兵との決闘を侮辱された気分だ。

 

「良いだろう。先に君だ……君と先に決闘しよう」

「そうか……生憎、俺には賭ける誇りは無いのでな。勝利した暁には一つ願いを叶えてもらえるか?」

「浅ましいことだね。なんだい?」

「薬と治療費は全てそちらで持ってくれ」

「ふん。君はここで死ぬんだ。怪我など気にする必要はない」

「違う………」

 

 ジークは静かな声で淡々と言の葉を紡ぐ。

 

「この世界では、平民が貴族に怪我をさせたと騒ぎそうだからな………俺は今、苛立っている。手加減し損ねるかもしれない。そうなったらすまないが、治療費を請求されても持ち合わせがないんだ」

「…………!」

 

 怪我をさせること前提、怪我をさせること前提のその言葉にヴィリエはギリィと歯が砕けそうなほど歯噛みする。しかし、油断する気はサラサラ無いがどう見ても彼が先ほどジークが降した女メイジよりやれるとは思えない。

 

「フレー!フレー!マ・ス・ター!」

 

 と、アストルフォが群衆の位置まで下がり声援を飛ばす。

 

「では始めようか。食らえ!」

 

 と、風系統魔法『エア・ハンマー』を発動させるヴィリエ。魔法の威力はたとえ同じ魔法であっても、使用者によって発揮される威力が違う。風系統が得意かつトライアングルと呼ばれるランクのタバサなら、ジークの世界に於いてもかなり上位に位置するだろう。

 そしてヴィリエはライン。それはトライアングルより…………下である。

 

「………は?」

 

 バァン!と音が鳴り響き圧縮された空気の固まりは霧散する。ジークはヴィリエの魔法を拳であっさり打ち払ったのだ。

 

「ぐ、偶然だ!平民如きが、僕の魔法を破るなんてあるわ───カペ!?」

 

 再び魔法を放とうとしたヴィリエだったが、突然ビクン!と身体を跳ねさせ、白目を向いて気絶した。その身体はまるで雷に撃たれたかのように赤くなっており、服は所々焦げ、全身から湯気を出していた。

 

「ふふーん!どうだい、僕のマスターは強いだろう!?」

 

 と、アストルフォが満面の笑みで叫ぶ。周囲の者は何が起こったのか理解できずに固まっている。

 そんな周囲を無視してジークは傷だらけの才人に近付く。

 

「な、何する気……」

「安心してくれ。酷いことはしない……」

 

 そう言って才人の頭に触れるジーク。その掌に光のラインが生まれ、それは才人の身体まで伸び全身を埋め尽くす。まるで身体を探っているようだ、とルイズは思った。

 そして、ラインが一際強く輝くと才人の傷が消えた。

 

「…………マスター、君、もしかして………」

 

 それを見たアストルフォが何か言い掛けた時、ジークは不意に顔を上げる。アストルフォも顔をそちらに向ける。ジャンヌの気配。どうやら戻ってきたらしい。

 

 

「どうしてあんな短時間でジーク君が決闘しているんですか!?しかも相手はメイジとしてのランクはライン?何を考えているのですか!」

 

 才人と戦っていたギーシュと言う貴族はドット。しかし二年では優秀な部類に入る実力者らしい。そもそもラインに至るのは殆どが二年からで、しかも全員が至れるわけではない。ラインはそこそこ優秀。

 それとジークが決闘した。結果としてジークが勝ったがジャンヌはご立腹だ。

 

「ま、まあまあ落ち着いてよルーラー。勝ったから良いじゃん」

「そういう問題ではありません!いくらジーク君が人であった頃より丈夫になったとはいえ、生きている限り殺されることもあるのですよ?」

「そうだな………すまない、いささか早計だった」

「解ってくれたなら良いのです……」

 

 説教は終わった?と言うようにチラリと本から視線を移すタバサ。アストルフォはそう言えば、とジークを見る。

 

「ねえマスター、もしかしてだけど………今君、聖杯持ってるの?」

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