竜の使い魔   作:超高校級の切望

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雪風は任務を受け賢人は異教を賞賛する

「彼処で降ろして」

「ほーい」

 

 タバサの言葉にアストルフォがヒポグリフを開けた中庭に降ろす。ジャンヌが霊体化を解き着地して、それとほぼ同時に足音が聞こえてきた。

 

「動くな!何も───シャルロット様」

「おい……」

 

 槍を向けた兵達は警戒心を露わにし、タバサの姿を見ると驚愕したように槍の先を持ち上げる。シャルロットという聞き慣れない名前にジーク達が首を傾げているとシャルロット様と呟いた兵士を別の兵士が小突いた。

 

「人形七号、其奴等は?」

 

 先程の恭しい態度で接した兵士とは真逆の態度の兵士。タバサの立ち位置は複雑なのだろうと生前の自分を思い出すジャンヌ。聖女と崇める者もいれば啓示を信じず警戒を隠さぬ態度の者とも接してきたジャンヌはタバサの立ち位置について考える。

 敬う者も敬わぬ者……没落貴族か何かだろうか?片方はタバサの家に仕えていたとか?

 

「私の使い魔。それとその友人……」

「使い魔?ああ、召喚に失敗して平民の男を呼び出したんだったな。其奴か?」

 

 男は二人居るが迷わずジークを見た兵士。別に勘が鋭いとかじゃなくて男が二人居るとは思わなかっただけだ。アストルフォを初見で男と見破る事が出来る奴なんてまず居ないから。

 

「その使い魔も連れてこいとの要望だ。お前等は、そこで待て」

「………わかりました」

「はいはーい。マスター、早く戻ってきてね~」

 

 ジークが知らぬ地で自分から離れるという事に不安そうなジャンヌに脳天気に見送るアストルフォ。ジークはそんな二人に笑みを浮かべ、兵士はチッと舌打ちする。

 

「女三人も侍らせやがって、良いご身分だぜ………」

 

 もちろんそんな呟きはしっかり聞かれてたりする。

 

 

 

 

「七号様、ご到着!!」

 

 兵士に連れられてやってきたのはプチ・トロワの奥、この宮殿の主、つまりは北花壇警護騎士団の頭目にしてこの国の王女が待つ玉座。

 兵士の高らかな宣言と共に天井から垂れ下がった巨大なカーテンが開かれ中の様子が露わになる。

 同時に入り口前の両端に控えていたガーゴイルが手にしていた交差させていた杖を持ち直して道を空けていく。ちなみにこの交差した杖はこの国の紋章を指す物でもあるらしい。

 

「…………?」

 

 中に入ったタバサは思わず首を傾げそうになった。普段なら入って直ぐ何らかの嫌がらせか悪口を言ってくる従姉のイザベラが妙に大人しい。周りの侍女達も気味悪がっている。

 まあタバサとしてはさっさと話が進んで良いのだが。

 

「今回の任務は翼人の討伐だよ。知っての通り、先住魔法を使う連中の集まりだ。ちょっとばかり魔法を使えるからって楽に進めるなんて思わないことだね」

「…………」

「……うるさいね、解ってるわ…………」

「………?」

 

 と、不意にイザベラが顔をしかめた。誰かに叱られたかのようにばつの悪そうな顔だ。数秒タバサを睨んだ後、ジークに目を向ける。

 

「あんたが人形七号の使い魔?で、人間なの?」

「いきなり核心に迫った質問だな………まあ、俺は人間の紛い物だと思ってくれて良い」

「紛い物?亜人かい?」

 

 亜人という単語に反応する周囲の者達。人に近い亜人と言えば吸血鬼やエルフ、今回の翼人。どれもこれも特徴である牙、耳、翼を隠せば人間との見分けは殆どつかない。しかし彼等はハルケギニアの人間達が人間擬き、などと嘲笑するように人間達を下等と見下し合っている。自分を人間の紛い物などとはまず呼ばないだろう。

 

「亜人ではないな……」

「ふん、つまんない奴だね」

「すまない……」

 

 イザベラはつまらなそうに言うと羊皮紙を取り出す。

 

「詳しいことはそれに書かれてるよ。さっさと行きな」

 

 タバサは羊皮紙を受け取ると踵を返した。ジークもその後に続く。ふと視線を感じて振り向くと騎士の一人がジークを睨んでいた。

 

「………?」

 

 とはいえ見覚えがない相手だ。ジークはそのままタバサを追いかけた。

 

 

 

「どうだいアレがシャルル派の御輿だよ。私よりずっと王に相応しいとか言われてるけど、そんなこと無いだろう?」

「そうですね……どちらが王に相応しいかと言われれば貴方でしょうね」

「ッ!そうだろう!?」

 

 今まで誰もが口ばかりで従姉の方こそ王位を継ぐに相応しいとばかりの目で見られてきたイザベラは使い魔の言葉に笑みを浮かべる。そうしていれば敵は減るだろうにと思いながら使い魔は言葉を続ける。

 

「とはいえ、あくまであなた方二人なら、です……どちらも王族としては落第点」

「な、なんでだい?」

「一つ。貴方は裏を仕切る立場でありながら私情が過ぎる。一々嫌がらせをして、それが理由で現地に間に合わないとなったら貴方の責任ですよ?それとも、押し付ければいいと思ってましたか?」

 

 もしそうだとしたら、あちらの少女の方がまだマシになったかもしれませんね、と言う言葉に顔を赤くするイザベラ。しかし彼女とて無能ではないし、一々従姉と比べて見下してくる連中とも違うので吐きそうになる文句をぐっと我慢する。

 

「二つ。貴方は従姉に対する嫌がらせや嫌悪に眼を曇らせ周りを見ていない。これは一に通じるところがありますね。ああ、では一つ宿題。この城で貴方に敵意を持っているとある騎士を当ててみてください。答えは一週間後に聞きましょう」

「あ、彼奴が王族に相応しくない理由はなんなんだい?やっぱり聡明じゃないから?」

「それは見た限りでは判断し切れませんが、頭の良さでいったら向こうが上でしょう」

「お前はどっちの味方なんだ!」

「私は貴方の使い魔ですよ。だから正直に答えているのです。彼女が王族として落第点なのは、王族の持つ力に自覚がまるでなさそうでしたから」

「?そりゃ、彼奴はもう王族じゃないし………」

「いいえ。たとえそうでも彼女は王家の血だ………見たところあの眼は復讐者の眼。しかし、現王を殺せばどうなるかまるで考えていない」

 

 王位の正式な継承者が今は亡き現王の弟のモノだったにしろ無能王と揶揄される現王のモノであるにしろ、今王になってしまった時点で殺すのは国を滅ぼすことと同義だ。

 もし現王が圧政を敷き民草を苦しめていたなら蜂起する旗印になるだろう。多くの者も付き従う筈だ。が、現状王は国をうまく纏めている。醜聞に耳を傾けず、自分の目でそれを判断する貴族も多く居るだろう。そういった者がジョゼフ派になっているはずだ。

 もし彼女がジョゼフを殺そうとすれば彼女が巻き込みたくないと願おうがシャルル派とジョゼフ派の戦争になるし、仮に暗殺しても今度は彼女とイザベラ、どちらが王位継承に相応しいかで戦争になる。

 だが彼女はその辺りを考慮してないように見受けられた。悪い魔王を倒してそれで終わり、など………空想の御伽話でしか無い。

 

「まあ気になると言えば現王の姪に対する処遇も気になるところですか……」

「というと?」

「彼女はシャルル派の御輿になる。何故それを今も生かしているのか……」

「任務に託つけて殺そうとしてるじゃないか」

「そんな回りくどいことせずとも、シャルル派の集まりを利用して謀反の疑いありとしてしまえば良い。そうすれば処刑できた」

「じゃあ何でそれをしなかったのよ?」

「殺したくなかったからでしょうね………」

 

 使い魔はここ最近、シャルル派の者達を監視していた。その上で判断するならジョゼフが王位継承する発表がなされた時点で本人の意思関係なくオルレアン公を御輿に蜂起しようとしたとしか思えない。それだけ盲信的にオルレアン公を崇めており、蛇蝎の如くジョゼフを嫌っている。

 

「厄介なものですね、魔法至上主義というのは………政争の才能よりもそちらを重視するのだから」

「ま、それがブリミル教だからね……」

「ブリミル教と言えば、『魔法は始祖より授かったもの。故に個人の自由にしてはならない』という教えがありましたが、それも良くできてますよね」

「どう言うことだい?」

「新しいモノを発明しようとすれば直ぐ異端視される。もちろん、実際に異端審問は行われませんが魔法の研究に至っては即異端として処罰される。6000年という長い月日を以て未だこの国が進歩していない訳です。しかしこれは、要するに神秘を保たせるための法だ……解明されない限り神秘は神秘であり続けるのだから」

 

 それを考えたのが始祖ブリミルなのか或いはロマリアの祖なのかは知らないが、この価値観のおかげでこの世界は神代に近い神秘の純度を保っていた。




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