正隊員に無事昇格できた私ですが、城戸さん直々にミッションを課されました。
あの後正式に書面が届いて、よりちゃんとしたミッションっぽくなりました。まあ、3日〜5日間くらいそのチームと一緒に任務をして、終わって次のチームに行く前にそのチームの反応を報告する、くらいのものですが。
そして今日は、記念するべき初チームの方々と合流する日……なのですが……、
「ええと……今日から太刀川隊に合流することになってる、盾花桜という者ですけど……」
「タテバナサクラ? ……聞いたことないなぁ。キミ、B級?」
「一応、B級です。昇格してまだ1週間も経ってないですけど……」
「ふん。そんなポッと出のB級がボクら……
育ちが良さそうな雰囲気の人に、堂々とそんな事を言われてしまいました。
……なんだか、幸先が怪しいスタートを切ってしまったみたいです……。
*** *** ***
「出水、国近。この前言ったB級が合流するの、今日だからな。というか、多分今頃作戦室にいるかもしれん」
揃って作戦室に向かう途中の通路で、太刀川さんはしれっとそう言った。ギリギリまで言わなかったりするのはいつものことだけど、さすがに今回はギリギリ過ぎないか?
「この前って……言われたの昨日なんすけど?」
「そうだっけか? まあ、伝えないよりはマシだと思ってくれ」
はっはっは、と太刀川さんは笑い飛ばす。……まあ確かに、何も言われないよりはマシだけどさ。
「ねえねえ太刀川さん、その子って本当に普通に普通の人みたく話して良いんだよね? 目、見えてないんでしょ?」
隣の国近先輩が、少し屈むような姿勢で歩きながら太刀川さんに確認する。
「むしろ、普通に接していいか確かめてくれ、って忍田さんから言われてるな。それに、見えてないのはガチの生身の時だけで、トリオン体なら見えてるんだろ?」
「ん〜、まあその辺は置いといて……。とりあえず、普通にしててオッケーならいいや」
国近先輩もいつもと変わらない、柔らかい雰囲気でそんな事を言った。
……しっかし、盲目の正隊員か……どんなもんかね。
どんな子なのか考えてたおれだけど、すぐにある事に気づいた。
「ところで太刀川さん」
「なんだ?」
「昨日この話した時も今も、唯我の奴いないっすけど……太刀川さん、ちゃんと伝えてます?」
おれの素朴な疑問に対して太刀川さんは、すげえ当たり前のことを言うみたいに、聞き返してきた。
「逆に……出水は俺が、唯我に伝えてると思うか?」
「思わないっすね」
「だろう? つまりはそういうことだ」
言って無えんだな。別にあいつが情報の1つ2つ知らなくても問題無えけど、今頃、作戦室にいるのにそれを知らないのは、ちょっと面倒な気がする。
すると案の定、
「とにかく! 今日はボクらの隊に来客の予定は無い! 帰りたまえ!」
「そこを! そこをなんとかお願いします! せめて、隊長さんに確認を取ってください〜!」
作戦室の前から、なんか揉めてる声が聞こえてきた。
「出水。唯我止めてこい」
「ういっす」
隊長命令を受けたおれは軽く走って勢いをつけて、
「おいコラっ! 唯我ぁ!」
怒鳴りながら、自意識が暴走してる唯我に回し蹴りを入れた。
「おぶっ!?」
いい具合に蹴りが入った唯我は呻き声を上げて近くの壁にぶつかった。同時に、
「ひぇ……」
唯我の前にいた例の子が、軽く驚いたような反応をした。
おれより頭1つ分くらい小さいその子に、確認がてら名前を尋ねる。
「えーと、今日からウチの隊に合流する子だよな? 名前は?」
「盾花桜……です」
「ん、おっけ。おれは出水公平。んで、こっちが唯我尊。いきなり迷惑かけて悪かったな」
ひとまず謝れたところで、唯我がおれに抗議してきた。
「出水先輩! 純粋な使命感で不審者を追い返そうとしてたボクになんて非道い仕打ちをするんですか!」
「やかましい。この子は今日からしばらくウチ預かりになんだよ。迷惑かけんな」
本当はもう少し強く言いたかったけど、事前に伝えてなかった太刀川さんも太刀川さんだし……とか思ってたら、
「そうだぞ唯我。先走って行動しすぎるのがお前のダメなとこだ」
すげえ上司顔で現れた太刀川さんが、さも俺は悪くないって体を装ってそんな事を言った。
おれと唯我が別の意味で驚いてる間に太刀川さんは盾花ちゃんに近寄り、
「A級1位太刀川隊の隊長をやってる、太刀川慶だ。んで、こっちがウチのオペレーターの国近柚宇。今日からしばらくよろしくな、盾花」
ここだけ切り抜いたら『俺、仕事できるぜ?』って雰囲気を出しながら自己紹介をした。
これが、おれ達と盾花桜との出会いだった。
*** *** ***
「立ち話もなんだし、作戦室に入ってくれよ。ちょっとばかし散らかってるけど、そこは、まあ……気にしない感じで」
そう言われて太刀川隊の作戦室に招かれた私ですが……太刀川さん、これは『ちょっと散らかってる』とは言いません。
「太刀川さん、あの……これは、皆さんが留守の間に空き巣が入ったとかでは、無いですよね……?」
「ボーダー本部の中まで侵入してくる空き巣なんてよっぽど命知らずだと思うから、それは無いな」
「ですよね……」
ということは、この散らかり具合はこの部屋にとって普通なんですね……。
事故に遭って以来、目が見えなくなった私に気遣って両親は家の中の整理整頓片付けを徹底してくれてましたし、元々の私が片付けをマメにするタイプだったので……この光景は、軽いカルチャーショックでした。
「まあ、まだ足の踏み場があるから片付いてる方だ」
……太刀川さん、今の一言はさすがにジョークですよね? ジョークであってください……。
オペレーターの国近さんが「お茶入れるね〜」とふわふわとした可愛らしい声で言ったのが聞こえたので、私は遅ればせながらに持参したお菓子を差し出します。
「あの、これ……よかったらお茶菓子に……」
「え〜、いいの? ありがと〜。ちょうどお茶菓子切らしてたから、助かる〜」
にへら、っとした、これまた柔らかい笑顔で言われて内心ちょっと嬉しいです。
お茶とカステラの用意ができたところで、大部屋にあるソファに座ってそれを食べることになりました。
カステラを食べた太刀川さんが、一言、
「お、このカステラめちゃくちゃ美味い」
ちょっと驚いた顔で、カステラの感想を言ってくれました。
「マジっすか。……わ、ホントだ。すげえ美味い」
と、太刀川さんの隣に座る出水先輩も美味しいと感想を。
「どれどれ〜……ほんほら〜! ふはふはしへへほひひい」
太刀川さんの前、私の隣に座る国近先輩も、お口にカステラを含めたまま感想を言ってくれました。多分、ホントだ〜! ふわふわしてて美味しい、って言ってくれたのかなと思います。
「ありがとうございます」
「ねえねえ盾花ちゃん。この美味しいカステラはどこのお店?」
「えっと……うちのご近所さんにある、お菓子屋さんです。ちゃんとしたお店というか、そのお家の奥さんが趣味でやってるお店なので……ご近所さんしか知らない穴場なんです」
「そうなんだ〜。今度、みんなにお裾分けしたいな〜」
あとでちゃんとした場所、教えてね? と国近先輩はどこかイタズラっぽい笑顔で言って、それからまたカステラを食べ始めました。
ソファに座るところがないから、という理由で壁際に立たされてる唯我先輩は無言ですが、割とパクパクとカステラを食べ進めてくれてます。お口に合ったみたいで嬉しいです。
皆さんがカステラを食べて会話が止まってる間に、私は改めて太刀川さんの顔を見ます。
……実を言うと、この人は以前から知っていました。
色んな時間帯に個人戦のブースに出没して長時間居座るので、訓練生たちの間で「ブースの主」とコソコソと噂されてた人です。
時々モニターに太刀川さんの試合が映ることもあったので、何度か戦闘も観たこともありましたけど……よく分からなかったです。
なんというか、強いのは分かるんですけど、私や訓練生達とはレベルが違いすぎて、その強さがどのくらいのものなのかちゃんと判断できなかったです。
私のレベルが10だとしたら、太刀川さんは50かもしれないし、100かもしれないし、200かもしれません。
上なのは一目瞭然だけど、どれくらい上なのかが、わからない。
だからきっと、この人は凄い人なんだろうなぁ……と訓練生の頃から思ってましたけど、まさかA級1位だとは思ってなかったです。
皆さんがカステラを食べ終えたところで、太刀川さんが「んじゃ、ちょっと確認するぜ」と前置きをしてから、私に話しかけました。
「上から……忍田さんからは、とりあえずウチの防衛任務に君を混ぜてくれって言われてる。盾花も、言われてることは同じか?」
「そうですね。指定した期間、一緒に任務をするようにと言われてます」
「ん、わかった。とりあえず次の防衛任務からさっそく合流してもらうつもりだ。……けど、その前に1つ問題がある」
人差し指をピンと立てて、太刀川さんは楽しそうに言葉を紡ぎます。
「基本的に、防衛任務はチーム単位で動くモンだ。複数人が同じ場所で戦う以上、どうしても連携しなきゃならない場面が出てくる。まあ、この短い期間じゃ連携らしい連携は磨けないだろうし、基本的に盾花は自由に動いてもらって、俺と出水がそこに合わせる形になると思う」
連携らしい連携は磨けない……となると、必要なのは役割分担に近いかなぁと私は思いました。私にはまだ誰かに合わせる技量は無いので、自由に動かして必要ならフォローするのを太刀川さんはイメージしてるのかなと、なんとなく想像します。
「俺も出水も大抵の動きには合わせれるから、盾花はその辺はまだ考えなくていい。やりやすいように、やってくれていいが……」
ここからが本題、と言わんばかりに太刀川さんの目が輝きます。お顔の横にキラリと光る星のようなものが見えた気がします。
「戦闘スタイルを全く知らない相手といきなり合わせるのは、流石に心臓に悪い。防衛任務前に、盾花の戦闘スタイルを把握したい。そんなわけだから……ちょいと、バトってもらうぜ」
「え、あ……はい」
もちろん私としてもそれは願ったり叶ったりというか、戦闘スタイルを見てもらうことはやぶさかでは無いのですが……。
太刀川さん、なんでイキイキとした顔で立ち上がってるんですか?
まさか太刀川さんと戦うの??
ブースの主と???
何もできないうちに倒される未来が見えますよ????
たくさんの疑問で私の脳内が埋め尽くされたその時、
「ねえ太刀川さん。ここはひとまず唯我くんでいいんじゃない?」
国近先輩が助け舟を出してくれました。
「ボ、ボクがですか!?」
壁際の唯我先輩が慌てますが、国近先輩と太刀川さんは何事もないみたいに会話を続けます。
「唯我を? なんでまた?」
「ん〜、なんとなく? 盾花ちゃんの実力を見たいなら、同じくらいの強さの方が良いかな〜、って思ったから」
「……まあ、それもそうか」
「でっしょ〜」
国近先輩の意見に納得したみたいでフムフムと頷く太刀川さんですが、
「待ってください! ボクはそれを断固お断りします! ボクの本領はチーム戦であり個人戦ではありません!」
壁際の唯我先輩の必死な抗議が聞こえてないみたいです。
「それに、全体の動きを見るって意味じゃ俺が外から見てた方がいいし、誰かと戦ってるのを見る方がいいよな」
「そうでしょ? あ、モニターで見る? それとも訓練室の中で見る?」
「モニターで。出水、お前は中で見てくれるか?」
「いっすよ」
出水先輩も加わって、なんだかあっという間に戦闘の段取りが出来上がっていきます。その一方で、
「せめて! せめてチームを! 2対2のチーム戦を希望します!」
壁際の唯我先輩は相変わらず抗議を続けてますが、声は届いてないみたいです。……これ、大丈夫ですよね? 私にだけ聞こえてるとか、そんなこと無いですよね? 皆さんのスルーっぷりが見事すぎて、本当に聞こえてないのかと思ってしまいます。
「出水先輩、後生です! せめてチームを」
「ウルセー唯我。さっさとスタンバイしろ」
ようやく唯我先輩の声は届いたみたいですが、出水先輩が手厳しいお返事をして首根っこを掴み、半ば無理やり訓練室へと連行していきました。
唯我先輩はいじられキャラなんだなぁ……と私が思っていると、
「盾花ちゃん、準備できたら国近先輩に頼んで訓練室に転送してもらってくれ。
出水先輩は私にそう言って、唯我先輩と一足先に訓練室へと転送されて行きました。
「桜ちゃん、準備できたら私に言ってね〜」
国近先輩に言われたところで、特に準備することもない……と思った私は、
「あ、じゃあ転送お願いします」
すぐに転送のお願いをしました。
それを聞いた国近先輩はパチパチと数回瞬きをした後、へにゃりとした柔らかく優しい笑顔を見せました。
「ふふ、おっけー。じゃあ、ここに立って。そしたら転送してあげる」
言われるがまま国近先輩が指示した場所に立った瞬間、私は太刀川隊の訓練室へと転送されていきました。
正式なランク戦ではありませんが……私の、B級デビュー戦です。
ここから後書きです。
盾花から見た太刀川隊の第一印象は、
太刀川さん→ブースの主……!
出水→良い人そう。
国近先輩→なんか……柔らかそう
唯我→A級としての意識がとても高そう!
になります。
次話、B級仕様になった盾花をたくさん動かしたいと思います。レイガストの可能性を開拓開拓。