盲目少女が見る界境防衛機関   作:うたた寝犬

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正隊員になって色んなトリガーを使えるようになった女の子が、初めて正隊員として先輩と手合わせをする物語です。


File11「月を守護する三本太刀②」

「んじゃ、ざっくりとしたルール説明な」

 

 ルールっつールールも無えけど、と思いながら、おれは戦闘体に換装した2人にルール説明をする。

 

「トリガー制限なしの5本勝負。時間制限は無し……というか、この狭い訓練室マップじゃ長引くほどの試合は難しい。練習試合みたいなもんだから、ポイント増減は無し」

 

 ……マジでルールらしいルール無え。けど模擬戦なんてこんなもんなんだよな。

 

「盾花ちゃん、なんか質問ある?」

 

「いえ、特にないです」

 

 盾花ちゃんは迷わず答えた。

 

「出水先輩! ボクからは質問というより確認したいことがありますが!」

 

「終わってからなら聞くぜ」

 

「いえ! 今! 今すぐ聞いてください!」

 

 とりあえず唯我はスルーしとこう。

 

 ちなみに盾花ちゃんの戦闘体は、おれら太刀川隊と同じデザインの黒コートだ。一応違いはあって、右腕の部分に『見習い』って書かれた腕章があるのと、隊章の部分に丸々『見習い』の文字が書かれていた。換装直後、

「カッコいい……!」

 ってキラキラした目で言ってたし、お気に召したようで何よりって感じだ。

 

「んじゃ、適当に距離取って武器構えたら、おれが合図して試合開始だ」

 

「はい、わかりました」

 

 盾花ちゃんは素直に返事してトコトコと歩いて唯我と距離を取る。唯我も顔にこそ「納得いかない」って書いてあるけど、程よく距離を取って戦闘態勢に入る。

 

 おれたち太刀川隊の訓練室は、市街地の一角を模したデザインだ。唯我は民家の前で両腰のホルスターに差したハンドガンに手を当てる。

 

 唯我が戦闘態勢に入ったのを見て、盾花ちゃんもホルスターからゆっくり抜いたレイガストを、両手持ちで構える。……つか、レイガストか。珍しいな。

 

 さて、どんな戦闘スタイルなのか、見せてもらおうかね。

 

 2人に交互に視線を向けてから、おれはそれっぽく右腕を上げて、

 

「んじゃ……開始!」

 

 合図と同時に腕を振り下ろした。

 

 先に動いたのは唯我……って、あのバカ! やりやがった! 

 

 開始と同時にあのバカはカメレオンを起動して、その場で姿を消した。

 

「ぅえぁ?」

 

 踏み出そうとしてたっぽい盾花ちゃんは目の前で姿を消した唯我に対して、驚いたような声を上げる。

 

 そうしてるうちに唯我の姿はカメレオンにより、完全に透明になった。

 

 目の前で敵を見失う。カメレオンがないと現実では絶対に体感できない現象を前にして盾花ちゃんは戸惑い、辺りを見渡す。

 

 そして、

 

「はーはっはっは!」

 

 あっさり盾花ちゃんの背後を取った唯我はカメレオンを解除、そして高笑いしながら二丁拳銃のフルアタックをかましてきた。

 

「わわっ!?」

 

 完全な不意打ちを食らった盾花ちゃんはなんとか振り返って唯我の姿を確認するところまではこぎつけたけど、そこが限界だった。

 

 戦闘体に内蔵されてるトリオンがダメージを受けた箇所からガンガン漏れ出てあっという間に底を尽き、盾花ちゃんはあっさり一敗した。

 

『トリオン漏出過多で、盾花ちゃんダウン』

 

 国近先輩の声が、盾花ちゃんの敗北を告げる。

 

「はっはっはっ! どうだ見たかいルーキー! これがA級の力さ!」

 

 戦闘スタイル見るのが目的なのに初見殺しをやるなバカ、って言いかけたところで外から見てる太刀川さんから通信が入った。

 

『出水。とりあえず唯我には、まだ何も言うな』

 

『いいんすか? 戦闘スタイル見れませんよ?』

 

『3戦やって盾花が何もできないようなら、唯我に縛りを入れる。けど、そこまでは盾花の対応力を見る……つっても、軽くフォローだけは入れてやってくれ』

 

『うっす』

 

 その場でペタンと座り込んでる盾花ちゃんのそばに寄って、とりあえず声をかける。

 

「立てるか?」

 

「……はい」

 

 修復され元の状態に戻ったトリオン体で盾花ちゃんが立ち上がったところで、カメレオンについて軽く説明することにした。Bに上がりたてじゃ、知らないだろうしな。

 

「あー……あのバカの姿が消えたのは」

 

「カメレオン、ですよね?」

 

 食い気味で答えを言われた。

 

「なんだ、知ってたのか?」

 

「姿が消えるトリガーがあるよ、くらいは寺島さんが前に教えてくれました」

 

「なるほどな」

 

 寺島さんとコネがあるのか。けどそれは置いといて。

 

「出水先輩。カメレオンって、姿()()()()()()()()()()()()なんですよね?」

 

「……ま、そうだな。その場から存在が消えるワケじゃない。姿が見えなくなってるだけだな」

 

「ですよね。なら、大丈夫です」

 

 大丈夫。その言葉を盾花ちゃんは力強く言った。

 

「唯我先輩の姿が消えてるだけで、私の目が見えなくなってるわけじゃない。それだったら、大丈夫」

 

 手首のスナップだけでレイガストを軽く上に放り、クルクルと回りながら落ちてきたレイガストをキャッチして、

 

「今日も世界は明るいです」

 

 そう言って、まるで新しいオモチャを見つけた子供みたいに、笑った。

 

*** *** ***

 

 カメレオン。

 

 姿が消えるトリガー……そう聞いてたけど、本当に姿が消えるのを目の前で見ると、なんだか不思議な感じがします。

 

 ビックリはしましたけど……なんとなく、突破口は見えました。

 

「んじゃ、2戦目やろうか」

 

 出水先輩に言われて、私は唯我先輩から距離を取ります。

 

 10m……いや、12mくらい。圧倒的に、ハンドガンの間合いです。

 

「はっはっは! かかってきたまえルーキー! 正隊員と訓練生のレベルの違いを、このボクがとことん教えてあげよう!」

 

 ぬぅ……唯我先輩に言われたい放題です。言われても仕方ないとは思うけど、さすがに言われっぱなしはちょっと悔しいので、なんとか一矢……出来れば二矢くらいは報いたいなと思います。

 

 お互いにトリガーを構えた所で、私達の視界の端に立つ出水先輩が腕を上げます。

 

「じゃあ……2戦目、開始!」

 

 スタートと同時に、私は唯我先輩の出方に意識を限界まで集中させました。

 

 今のところ、私が思いつく限りで唯我先輩の出方は3つ。

 

 ①さっきと同じ初手カメレオン

 ②最適な間合いを活かしてハンドガンで攻撃

 ③動いて私の出方を見る

 

 ②と③は訓練生の時の応用でなんとか対応出来ますけど、①はちょっと困ります。見えなかったら、どうしようもないので。なので①にヤマを張りました。

 

 唯我先輩が取ったのは、①でした。またもや開幕と同時にカメレオンです。

 

 私が思うに、カメレオンを何とかするポイントがあるとしたら、ここ……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()です。

 

 カメレオンはどうも、一瞬でパッ! と消えるわけじゃないみたいで……、ス……ゥ……。みたいな感じで、完全に姿が消えるまで少しのラグがありました。

 

 姿が完全に消えるまでは、唯我先輩の姿は半透明ながらも見えてます。

 

 だから、勝負所はここ! 

 

 唯我先輩がカメレオンを起動したと理解したのと同時に、私はレイガストを振りかぶり、

 

「スラスター・オン!」

 

 寺島さんにセットしてもらったレイガストのオプショントリガーである『スラスター』を起動させて、それを唯我先輩に向けて全力で投げつけました。

 

『スラスター』は、

「簡単に言うと加速装置」

です(寺島さん談)。

 

 レイガストのあらゆる(ポイント)からトリオンを勢い良く噴射して、斬るスピードを速くしたり、投げながら起動させて凄い速さで飛ばすことが可能になります。

 

 訓練生の時から石ころだったりレイガストを投げてた私は、実はちょっとだけ投げるコントロールには自信があります。

 

 投げたレイガストは狙った通りに、唯我先輩の胸元に向けて高速で飛んでいきました。

 

「ぬぉおおお!!?」

 

 不意をつけたのか、迫りくるレイガストにびっくりしたのか、唯我先輩は驚きながら飛び退いて避けました。躱されたレイガストは塀に突き刺さり、仮想コンクリに盛大にヒビを入れます。

 

 唯我先輩のカメレオンは失敗したみたいで、姿がくっきり見えてます。

 

 チャンスを逃さないために、私は全力でダッシュして間合いを詰めました。

 

 走りながらトリガーを操作。

 起動していたレイガストを一旦破棄、それから再度レイガストを起動。

 眩い光を伴って、レイガストが私の右手に戻って来ます。お帰りレイガスト。

 

 もうちょっとでブレードの間合いに持ち込めたところで、唯我先輩が態勢を立て直してハンドガンを構えます。

 

「シールドモード」

 

 レイガストをブレードからシールドに切り替え、走る速度を落とさず唯我先輩との間合いを更に詰めます。何発も撃たれてますが、レイガストがしっかりと防いでくれました。

 

 おかげでやっと、私の間合いです。

 

 1、2発当たるのを覚悟の上で、レイガストのシールドモードを解除、からの反撃。

 

「スラスター!」

 

 勢い良く噴射されるトリオンに少し振り回されながらも斬撃の軌道を保ち、思いっきり振り抜きます。

 

「ぐぬぅぅう!!」

 

 振るった斬撃は、唯我先輩の胴体を真一文字に切り裂き、唯我先輩はどことなく悔しそうな声を上げながら上半身と下半身がバイバイしました。

 

「っし!」

 

 唯我先輩を切ったところからダダ漏れになるトリオンを見て勝ちを確信した私は、左手で小さくガッツポーズします。程なくして、

 

『トリオン漏出と伝達器官損傷で、唯我くんダウン。これでスコアは1−1だね〜』

 

 訓練室の外から試合を見てる国近先輩のアナウンスが聞こえてきました。

 

 ひとまず一矢報いることが出来た私は、ほっと一安心。

 

 視界の端で出水先輩がこちらに歩いてこようとしたのがわかって、そっちに視線を向けようとしましたが、

 

「ちょ、調子に乗らないでもらおうかルーキー! たまたま1本勝ちを引けただけ! ビギナーズラックだ!」

 

 トリオン体が復活した唯我先輩に捲し立てられて、視線が唯我先輩に戻りました。

 

「あ、はい。それはもちろんです。今のはちょっと、上手くいきすぎたと思うので……」

 

「そうだろう!? そうだろ!」

 

 唯我先輩は大ぶりな身振り手振りを交えながら、私のことをしっかり見て話してくれます。

 

「そうとなれば、さっそく次の試合をやろうじゃないか! 今の2戦は言うなればウォーミングアップ! ここから、A級たるボクの真の力をお見せしようルーキー!」

 

「わかりました」

 

 唯我先輩が次にどんな攻めを見せてくれるのか楽しみにしてワクワクしながら、距離を開けて再びトリガーを構えました。

 

*** *** ***

 

 面白え。

 

 5戦分の盾花の戦いを見て感じた率直な感想が、それだった。

 

 スコアは2−3で唯我の勝ちだが、内容的には盾花に軍配が上がる。

 

 戦ってた2人と出水はまだ訓練室の中……モニターで映像を見るに、出水が唯我をシバいてるな。初手カメレオンのこととか、色々言われてんだろ。

 

 3人が戻ってくるまでの間、俺は頭の中でさっきの盾花の戦闘を振り返ることにした。

 

 1戦目は初見の戦法(カメレオン)に驚いて敗北。

 

 2戦目は1戦目を踏まえた上で対策を練って勝利。多分、完全に消える前に殴ろう、的な考えだったんだろう。

 

 3戦目は唯我が建物で盾花の視線を切ってからカメレオンを起動。建物の陰から追ってきた盾花はそれに気づかず完全に見失って、その隙を唯我に狙われて敗北。

 

 4戦目は盾花の粘り勝ち。唯我が同じように建物で視線を切ってカメレオンをしたが、盾花は慌てて追わず、レイガストを構えてジッと待った。膠着しそうになったところで出水が唯我に喝を入れて、唯我が慌てて攻めにいったが……盾花がしっかりレイガストで守りながらジワジワとブレードの間合いに持ち込んで、スラスターでのぶった斬りが決まり手。

 

 5戦目は……結果こそ唯我の勝ちだが、盾花は何かを狙ってた。動きがどことなくぎこちなくなって……今までレイガストを両手持ちしてたが、途中で何度か左手が不自然にレイガストから離れた。サブ側にセットしてるトリガーを使おうとしてたっぽいが……そこに意識を持ってかれすぎて肝心の守りが崩れて、唯我に撃たれた。

 

 スコア的には盾花の負けだ。

 

 だが、初見のトリガーにやられたり、複数のトリガーを使えるようになって選択肢が増えちまって隙が出来るなんて、Bに上がった奴らの大半が通る『正隊員あるある』だ。

 

 負ける理由がわかってる以上、見るべきなのは、『どうして負けたか』じゃなくて『負けた後の対応』だ。

 

 盾花が唯我の取った戦法に対して、負けた後に自己流でちゃんと対応してみせた。

 

 恐らくこのまま戦い続ければ……20戦越えた辺りで、盾花が勝ち越すスコアが続くだろうな。

 

「太刀川さん、なんだか楽しそうだね」

 

 不意に国近にそんな事を言われた。

 

 オペレーター用デスクの隣に立つ俺に対して、国近は座ったまま見上げるみたいな形で目線を合わせながら言葉を続けた。

 

「今の太刀川さん、個人戦でノッてきた時みたいな顔してるよ」

 

「そんなわかりやすい顔してるか?」

 

「うん」

 

 思わず顔に出てたらしい。

 

 けどまあ、盾花を見て多少なりともワクワクしてるのは事実だし、顔に出るのはしゃーない。

 

 何戦か手合わせしたいとこだが……時間だ。

 

「国近、訓練室から全員呼び戻してくれ」

 

「はーい」

 

 国近が訓練室に音声を繋いで、戻ってくるように言うと3人はあっさり戻ってきた。

 

 戻ってきても唯我はまだ出水にしばかれてるが、とりあえず放置して盾花に声をかけることにした。

 

「盾花」

 

「はい」

 

 呼ばれた盾花は姿勢を正して返事を……って、姿勢めちゃくちゃいいな、コイツ。背筋ピンって感じ。

 

「モニターで動きを見せてもらったが……まあ、いいんじゃないか?」

 

 何か上手いこと言いたかったが、思いつかなくて疑問形になっちまった。

 

「あ、ありがとうございます……?」

 

 俺に釣られたのか、盾花も疑問形だ。キョトン顔ってこういう顔なんだなって感じの顔だ。

 

「変な癖も無いし……こういう事をしたいって意図が伝わる動きしてたし……ま、ひとまず防衛任務参加は大丈夫だな。とりあえず一緒に活動する期間中、よろしく頼むぜ」

 

「わかりました。それで、あの……防衛任務のシフトは、いつになりますか……?」

 

 不安そうに尋ねてくる盾花を見て、そういやシフト言ってなかったっけなと反省した。

 

「シフトは今日。あと15分後だ」

 

「……キョウ? ジュウ、ゴフンゴ?」

 

 あと15分で初の防衛任務出陣を知った盾花は、カタコトというか機械の声っぽい感じで呟いて、さっきのを越えるキョトン顔を浮かべてフリーズした。

 

 ……アレだ、これ笑っちゃいけないけど笑いそうになるやつ。

 

「……さあ、そんなわけで。みんな、急いで準備しろ。前のシフトが風間隊だから、遅刻は絶対許されないからな」

 

「うーす」

「は、はい」

「はーい」

 

 出水、唯我、国近が返事したところで、

 

「ちょっ、ま、待ってください太刀川さん!? あと15分ってホントなんですか!?」

 

 盾花がフリーズから溶けて再起動した。

 

「もちろん、本当だ」

 

「……ドッキリ?」

 

「ノットドッキリ」

 

「……マジ?」

 

「大マジだ」

 

 中々現実を飲み込めないみたいだな。

 気持ちは分からんでもない。

 俺だって急に「太刀川くん、このままだと単位貰えないけど、いいの?」なんて大学で言われたら流石に焦る。まあ、焦るのは去年までの話だがな。

 

 事態が中々飲み込めない盾花に向けて、俺はにっこりと笑って、

 

「さ。思い出に残る初陣がこれから始まるぞ」

 

 優しく、現実へと引き戻した。

 




ここから後書きです。

そりゃ1時間もしないうちに防衛任務があれば、客人は追い返しますよね。前の話で唯我はちゃんと正しい行動をしてました。

あと15分で防衛任務なのを知って慌てる盾花を見て、普段は5分前行動とか、1日のスケジュールをちゃんと立てるような性格なんだろうなぁ……って思いました。

次話、防衛任務デビュー!

……そういえば今更ながらになりますが、本作主人公の盾花桜ですが、半分くらい狙って外見の描写してないです。身長と、生身の時目に傷があるくらいしか、外見描写はしてない筈。
そのうち彼女のビジュアルに関して、何かしらのアンケートを取るかもしれません。
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