盲目少女が見る界境防衛機関   作:うたた寝犬

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かつて大規模侵攻で視力を失った女の子が、4年ぶりに警戒区域に足を踏み入れて防衛任務の初陣を飾る物語です。


File12「月を守護する三本太刀③」

『警戒区域』

 

 ゲート誘導装置が有効に働いてるボーダー本部周辺の区域の名称で、一般の人は立ち入り禁止になっています。

 

 元々は普通に人が住む普通の街だったのですが、それはあの日……私が視力を失った、あの大規模侵攻が起こるまでのことです。

 

 異世界からのゲートが開いて街はめちゃくちゃにされて……それ以降、この場所に立ち入ることが出来るのは、基本的にボーダー正隊員だけになりました。

 

 正隊員になって防衛任務に参加できた私は、およそ4年ぶりに、この場所に足を踏み入れました。

 

「……」

 

 まだ街の形を保つ警戒区域の中を見渡して真っ先に思ったことは、『懐かしい』でした。

 

 警戒区域の中にこそ住んではいませんでしたが……仲が良い友達の家や、よくママと買い物に行ったお店、ちょっとした遊び場、そんな場所はいくつかあったので……そんな場所を何個も思い出して、懐かしいなと、思いました。

 

 続けて思ったのは、『寂しい』という感情。

 

 人の気配がまるでなく、街の所々に刻まれた戦闘痕が、ことさら人が住む場所ではなくなったことを強調してるみたいで……心臓が、キュッと締まった感じがしました。

 

 なにより……警戒区域の中に住んでいて、あの日以降連絡が取れなくなった親友の事を思い出すので……なおさら、寂しいです。

 

『テストテスト〜。桜ちゃん、どう? 聞こえてるかな?』

 

 センチな気分で黄昏てたら、国近先輩から通信が入りました。

 

「あ、はい。聞こえてます。感度良好です」

 

『はーい、こっちも感度良好だよ〜。基本的にうちの隊の通信はこのチャンネルでやってるから、チャンネルはいじらないようにね』

 

「わかりました」

 

 ……普通に受け答えしましたけど、通信機器っぽいのも無いのに受け答えしてるのを見られたら、なんだか独り言っぽく見えちゃう気がして、そこそこ気まずいです……。

 

 形だけでも通信機器を付けてくれるように、寺島さんにお願いしようかな。

 

「いや〜、悪い悪い。待たせたな」

 

 とか思ってたら、太刀川さん達が戻ってきました。

 

 なんとか15分で、前のチームと防衛任務を交代・引き継ぎをする地点を目指した私たちでしたが……間に合いませんでした。厳密には、太刀川さんだけは全力で駆けてギリギリ間に合いましたが、私、出水先輩、唯我先輩は遅刻でした。

 

 遅れて交代地点にたどり着いた私たちでしたが、太刀川さんに、

「盾花は向こうで待機しててくれ」

 と指示を出されて、私だけ少し離れた地点で待機してました。

 

 本音としては、遅刻した責任は私にあるので一緒にお叱りを受けないといけないと思いますが、任務中なので上長命令に従いました。

 

 きっと、私だけ別にした理由があるはず……そう思って、戻ってきた太刀川さんに問いかけます。

 

「太刀川さん、あの……」

 

「ん? なんだ?」

 

「その……遅刻した原因は私にあると思うので、私もお叱りを受けるのが筋だと思ったんですけど……」

 

 申し訳ないと思いながら太刀川と話す私でしたが、

 

「なんで原因が盾花にあるんだ?」

 

 この上なく真顔でそんな風に聞き返されて、言葉が止まりました。

 

「……というと……?」

 

「いいか、盾花」

 

 太刀川は至極真面目に、真剣な顔で私に説明します。

 

「確かに、俺たちが遅刻した理由は、盾花の能力を見るためにテストしてたからだ。それは間違いない」

 

 やっぱり私が原因じゃん……。

 

「けど、そのテストをやろうって言ったのは誰だ? 遅刻しないためにテスト途中で切り上げりゃよかったのに、最後までテストにストップをかけなかったのは誰だ?」

 

 それは……、

 

「……えっと、どちらも太刀川さん、ですけど……」

 

「だろ?」

 

 首をちょっと傾けて、ドヤ顔します。太刀川さん、ドヤ顔とても上手いです。

 

「何かをミスった時、誰か一人だけが原因って場面は、なかなか無い。大抵は、何人かがちょっとずつミスに絡んでるもんだ。そんでもって……」

 

 そこまで言って太刀川さんは、ちょっとだけ間を開けてから、

 

「そのミスで周りに迷惑をかけた時に頭下げるのが、俺たち隊長だ。もっと言えば、部下に責任がかかりすぎないように、自分に責任来るようにしていくのが、隊長の仕事なんだよ」

 

 終始、真剣な顔でそう言い切りました。

 

 なんというか……大人だなぁ、って思います。

 

 言いたいことを言い切ったらしい太刀川さんは、ついさっきまでの真面目な雰囲気を崩して、

 

「ま。欲を言えばミスしないのが一番だし、ミスが起こらないように……マ……あれこれすんのが、良い隊長なんだけどな」

 

 朗らかに笑いながら、そう言いました。

 

 ……太刀川さんの笑い声は、不思議です。

 生まれ持った雰囲気なのか、個人・部隊共に1位という実績のおかげなのか……あるいは、どちらもなのか。

 不思議と、なんだか大丈夫そう、って思わせる不思議な力があるように、思いました。

 

 私に対する説明が終わったところで、太刀川さんは私や出水先輩、唯我先輩を見ながら指示を出し始めました。

 

「んじゃ、ぼちぼち防衛任務やってくが……盾花は初めてだし、軽ーく説明するぜ」

 

 太刀川さんは警戒区域の一画……警戒区域と市街地の境目である、有刺鉄線を指差しました。

 

「あそこが警戒区域の端っこ……境界線だな。有刺鉄線(アレ)はグルッと警戒区域を取り囲むように張り巡らされてる。俺たちは担当区域内の端っこをウロウロ歩きながら、ネイバーが攻めてきたら現場に急行して対処する。それを交代時間まで続ける。ここまでで、なんか質問は?」

 

「ないです」

 

「よし、優秀だ」

 

 ニッ、と笑って太刀川さんの説明は続きます。

 

「んでもって、俺たちの隊の戦い方だが……俺がネイバーの群れに突っ込む。出水がそれをフォローする。時間差で出てきたり、群れから外れてたりして、俺たちがどうしても対処しきれないのを、唯我が足止めする。基本的にこれだけだ」

 

 とてもシンプルというか……まあ、それ以外にやりようはないかな、と思います。

 

「それで盾花に頼みたいのは……」

 

 しかしそれだと……私の役割は、唯我先輩と同じになりそうです。太刀川さん、出水先輩、唯我先輩で裁ききれなかったネイバーを足止めして、太刀川さんが来るまで凌ぐ……に、なるのかな。

 

「出水のフォローだ」

 

「……ぬゅ?」

 

 まさかの答えで、思わず変な声が出ました。

 

「出水先輩のフォロー……ですか?」

 

「おう。フォローってか、出水のガード役か。そうすりゃ、出水は守りを気にしないでゴリゴリ火力出せるからな」

 

 言われてみれば妥当性があるように思いますが……それでも、なにかモヤモヤします。

 

 モヤモヤしてた私を、太刀川さんはジッと見て、

 

「不満か?」

 

 ストレートに、そう聞いてきました。

 

「うぇぁ……っと、はい……。顔に、出てましたか……?」

 

「んー、出てるってほどじゃないが……なんとなくそうかもなって思ったし、俺があえてそう思っても仕方ない指示を、ワザと出したからな」

 

「ワザと……?」

 

 なんでまた……? 

 

 私の疑問をよそに、太刀川さんは少し考えたそぶりを見せてから、

 

「……よし、指示変えるか。盾花、ひとまず唯我と同じ役割をやってみてくれ。出水のそばで待機しつつ、唯我でもカバーしきれない場合があったら、そのネイバーの足止めを頼む」

 

 私に対する指示を変更しました。

 

「え、あ……はい。わかりました……。あと……ごめんなさい」

 

「ん? なんで謝るんだ?」

 

「だって、その……隊長である太刀川さんの指示に不満そうな態度を取ったりしちゃって……生意気じゃ、ないですか?」

 

 少なくとも、私が先輩とか上の立場だったら、今みたいな私の事を生意気だと感じると思う。

 

 生意気じゃないか、という問いかけに対して、太刀川さんは笑いながら答えてくれました。

 

「はっはっは。気にすんな。新人はちょっと生意気なくらいが、ちょうどいいもんだ」

 

 太刀川さんの答えは真意かどうか測りかねますが……兎にも角にも、私の防衛任務初陣はこうして始まりました。

 

 

 

 作戦室でも思いましたが、防衛任務中でも太刀川隊の雰囲気は明るかったです。アットホームというか……放課後、教室でお喋りしてる雰囲気が、ずっとありました。

 

「緊張しなくてもいいんだよ、盾花さん。このボクがいる限り、大船に乗ったつもりでいたまえ!」

 

 唯我先輩は初陣で気が張ってる私に絶えず話しかけてくれましたし、

 

「だーいじょうぶ大丈夫。おれも出来る限りサポートするし、ヤバいと思ったら太刀川さんに投げりゃいいから」

 

 出水先輩もそんな風に気さくに話しかけてくれましたし、

 

「はぁ……任務終わったらレポートか……終わっかな……」

 

 太刀川さんに至っては、任務が無事終わると確信してるみたいで、大学のレポートの心配をしてました。

 

『太刀川さん、レポート終わらないの? 風間さんに声かけよっか?』

 

「やめろ国近。風間さんにレポート終わってないのバレた日には、一日中監視されてレポート三昧になる」

 

 国近先輩も時々話しかけてくれたので……巡回中の雰囲気は、本当に暖かかったです。

 

 けど、その暖かな空気は、耳をつんざくようなサイレンの音と共に消えました。

 

「っ!」

 

 そのサイレンの音の正体は、警告。

 

『ゲート発生、ゲート発生。座標誘導誤差5.62』

 

 サイレンに続き、敵襲、を知らせるアナウンスが響き、

 

『近隣の皆さまは注意してください』

 

 その、アナウンスが終わる頃、には、

 

「国近、位置情報くれ」

 

 太刀川隊の皆さんの目が、戦う人のそれに変わってました。

 

「……っ」

 

 空気が変わる。目に見えないモノの、変わりようなんてわかるわけない、と思ってた私ですが……空気が、変わるというのは、こういう事かと、嫌でも理解、させられました。

 

 国近先輩から、位置情報を受け取った皆さんは、現場へと急行し、私は、少し遅れて皆さんの後を、追います。

 

 そして、すぐに、ゲート発生、地点へ、と、辿り着きます。

 

 空中に黒い、歪が生まれ、それがどんどん、大きくなって、黒い球体に……その中から、ネイバーが……トリオン兵が姿を現しました。

 

「モールモッドが7体、バムスターが4体、中々に賑やかだな」

 

 ゲートは、1つじゃなく、何個もあり、ますが、私が、ゲート、の数を数え切る前に、太刀川さんは、トリオン兵の数まで、把握、してました。

 

 モールモッドは、自動車くらいの、大きさで、蜘蛛とカマキリ、を、混ぜ込んだ印象のトリオン兵です。鎌を連想させるブレードを装備した、戦闘用のトリオン兵になります。

 

 バムスターは、二階建ての、お家くらいの大きさのトリオン兵で、多分、三門市民が思い浮かべる、ネイバーは、だいたいコレだと思います。見た目は大きい、けど、役割は人の捕獲、なので、そこまで強くないトリオン兵です。

 

 太刀川さんは、ブレード型トリガー弧月を抜刀しながら、私たちに指示を出します。

 

「俺が真ん中の群れに突っ込む。出水は俺のフォロー、唯我は左から抜け出そうとしてるモールモッドを止めとけ」

 

「出水了解」

「唯我了解!」

 

 出水先輩と、唯我先輩は素早く答え、戦闘態勢に入ります。そして、

 

「盾花は出水のガード。出水、盾花の扱いはお前に任せる」

 

 私たちに、そう指示を出しました。

 

「出水了解」

「た……た、盾花! 了解ですっ!」

 

 指示、を出し終えた太刀川さんは、視線を眼前のトリオン兵の群れに向けて、

 

「さーて……お仕事お仕事」

 

 躊躇の、欠片もなく、群の中へ飛び込んでいきました。

 

 一瞬、無謀に思えた、特攻でしたが……

 

 私は、『個人(ソロ)1位』という肩書が持つ意味を、理解させられました。

 

 2本の弧月を自由自在に振るい、敵の攻撃が予め見えているようなタイミングで回避し、危なげなくトリオン兵を削ぎ、着々と屠る。

 

 太刀川さん1人だけでも十分すぎるくらい勝ち目があるのに、そこへ、出水先輩が的確にフォローを入れます。

 

「ハウンド」

 

 出水先輩のポジションは、二宮さんと同じ、シューターです。手のひらから生成したキューブを細かく分割して放ち、トリオン兵の注意を引くような射撃をしてます。

 

 唯我先輩も、太刀川さんの指示通りに、群れから外れて動くモールモッドの前に立ち塞がり、モールモッドのブレードが当たらない距離を保ちつつ牽制のような銃撃を重ねます。

 

 太刀川さんの奮闘もあり、トリオン兵の群れは見るからに劣勢に立たされてていきます。

 

 これ、もしかして、私要らないのでは……と思った、その矢先、

 

「……! 盾花ちゃん、右! モールモッドが逃げ出した! 足止め頼む!」

 

 出水先輩が群れから外れたモールモッドに気づき、私に指示を出しました。

 

「わ、分かりました!」

 

 出水先輩の元を離れ、モールモッドとの間合いを詰めながら、ホルスターからレイガストを引き抜き両手で持ちます。

 

 私はレイガストを構え、モールモッドの前に立ちはだかり、真正面から見据えて視線が交錯した、

 

 そ

 

    の

 

        瞬

 

            間

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ぁ……」




ここから後書きです。

途中、太刀川に「マネージメント」という言葉を使わせようとしましたが、
「やつがマネージメントという言葉を言えるか…?」
みたいな懸念に駆られて、最終的にカットしました。

このお話の投稿日がバレンタインなので、そのうち盾花も誰かにチョコあげる日が来るのかなぁ……みたいな事を考えました。物語書きながらも、出てくるキャラに対してどこか他人事になる……。

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