盲目少女が見る界境防衛機関   作:うたた寝犬

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初めて防衛任務に出た少女が、A級1位から初陣の手解きを受ける物語です。


File13「月を守護する三本太刀④前編」

『太刀川さん。盾花ちゃん止まりました』

 

 出水が飛ばした内部通話を聞いた俺は、盾花は()()()()()だったのかと思った。

 

『オーケー、わかった。出水、この群れを捌いとけ』

 

『了解』

 

 半壊させた群れを出水に任せて俺は一旦離脱して、モールモッドの前で固まっちまった盾花のフォローに入る。

 

 モールモッドは目の前にいる盾花に意識がいってて、完全に無防備。

 

 俺は隙だらけのモールモッドの横っ腹を、弧月を振り下ろして輪切りにした。綺麗に両断できたから()れたと思うが……念を入れて、断面から弧月の刃を通してモールモッドの目をぶった斬る。

 

 振り抜いた弧月の先には、ちょっと青い顔をした盾花がいて……その目には、分かりやすいくらいの怯えの感情が映ってた。

 

「よし、無事だな?」

 

「え、あ……はぃ……」

 

「ん。無事なら万事オーケーだ」

 

 盾花の無事を確認した俺は、残してきた群れの方に戻ろうとしたが……そっちは、出水がちゃんと撃ち殺してくれてた。

 

 唯我もなんだかんだでモールモッドを仕留めたし、ゲートから出てきたトリオン兵を全滅させたのを確認できた俺は、国近に通信を入れる。

 

『国近、殲滅完了だ。回収班呼んでくれ』

 

『はーい。もう声かけてあるから、ちょっとだけ待っててね〜』

 

『りょーかい』

 

 回収班の手配が済んだのを確認できたところで、俺は盾花に視線を戻す。

 

「盾花。トリオン兵倒した後は、回収班ってのに声をかけるんだ。そんで、その回収班が来るまでは一応、現場に残っとくようにな」

 

「……は、はい……」

 

 ちょっと顔色戻ってきたな。と思った矢先。

 

「太刀川さん、あの……」

 

 盾花が見るからに無理してるのが分かる声と顔で、俺に話しかけてきた。盾花が言わんとする事はだいたいわかってるから、俺は、

 

「怖かったことは、気にすんな」

 

 気にするなと、声をかけた。

 

「え……な、なんで、わかったんですか……?」

 

 盾花があんまりにも心底不思議そうに言ってくるもんだから、俺は思わずちょっと笑いそうになるのを堪えて、逆に盾花に問いかける。

 

「あのな、盾花。自分よりデカいやつが、自分を殺そうと武器構えて襲ってくるんだぞ? 怖いって思うのは、普通だろ」

 

 街を守るボーダー隊員だが……当たり前だけど、元は普通の一般市民だ。

 

 いくらトリガーで、あいつらと渡り合える武器があったとしても。

 いくらベイルアウト機能があって、命の安全が保証されてたとしても。

 

 怖いものは、怖い。

 

 自分がショットガン持って、百戦錬磨のベテランハンターがそばにいて助けてくれる状態だとしても、熊と正面切って戦うのが全く怖くないわけがない。

 

 ましてや、ボーダー隊員の多くは地元、三門市出身の奴ら……あの4年半前の大規模侵攻で、ネイバーの恐怖を大なり小なり味わってる。

 

 いざ、奴らと命をやり合う立場になって、あの時の恐怖が体を縛っちまうことは、初陣じゃ珍しくない。

 

「初陣で今の盾花みたいに動けなくなっちまう奴って、結構いるんだよ。けど俺は、それを普通の反応だと思ってる」

 

 盾花を落ち着かせるために、意識していつもよりゆっくりとした声の速さで説明する。

 

「初陣でトリオン兵と対面した時の反応は、ざっくり3つ。さっきの盾花みたいに動けなくなるか、テンパりすぎてめちゃくちゃな戦い方をしちまうか……度胸が据ってんのか、頭のネジが何本かぶっ飛んでんのか、危機感が薄いのか……どういうわけか、普通に戦える奴。このどれかだ。んで、大抵は最初の2つだ」

 

 前に1人、テンパりすぎて味方まで巻き込んじまったのもいるが……まあ、それは置いておこう。

 

「そんなわけだし、動けなくなっちまったことはあんまし気にすんな。人によるとは思うが……俺は初陣の奴と一緒に出る時、とりあえずそいつは見てるだけでいい、くらいに思ってるし、なるべくそういう指示を出す。()れるもんなら()ってもらうに越したことはないが……ま、初陣は慣れるのが仕事みたいなもんだ」

 

 オーケー? と確認すると、盾花はちょっとぎこちないながらも、オーケーです、と返事をした。

 

「よし。んじゃ回収班来るまで待つか」

 

 そう言って出水達のとこまで戻ろうとしたところで、俺はふと、思ったことを尋ねた。

 

「そういや盾花」

 

「はい……」

 

「俺さっき、怖かったことは気にするなって言ったけど……何が怖かったか、自分で説明できるか?」

 

 これも、ちょっとした確認だな。本当に知りたいのは「怖かった理由」じゃなく、盾花のタイプだ。

 

 答えや正解がなんとなくわかって、それに従える『感覚派』なのか。

 問題点を整理して、対策や答えを筋道立てて言葉にできる『理論派』なのか。

 

 質問の答え方で盾花がどっちのタイプなのか分かるし、他にも色々と分かる。

 

 盾花は俺の質問に対してさして間を開けずに答えた。

 

「その……モールモッドと目があった瞬間に……よくわからないけど、怖いって、思いました。……怖いというか……個人戦とは違う、真剣な戦いになるんだってわかったら、身体が強張ってしまって……それと、あと……」

 

 そこまで言った盾花は、チラッと視線を背後に……警戒区域外へと向けて、

 

「この先に、人の命があるって思ってしまって……絶対に、突破させちゃいけないって思って……そしたら、なおさら……」

 

 そう答えた。

 

「そうか。答えてくれて、ありがとな」

 

 ……理論派だとは思うが、なんかちょっと引っかかるな。

 あと、真面目だ。

 真面目な事が美徳だと思って意識して真面目であろうとするんじゃなく、息をするように無意識レベルで、生まれつきの真面目なタイプ。

 

 トリガーがレイガストなのもあって、なんとなく村上っぽい……そんな事を思いながら、唯我をしばく出水のそばに俺たちは戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 回収班の帰投を確認した俺たちは、巡回を再開。警戒区域の端っこに沿って歩き回る時間が続いた。

 

 けどしばらくすると、またゲートが開いた。

 

 出てくるトリオン兵はさっきと変わらないが……ちょっと間隔と数が気になるな。もしかしたら、俺たちが把握してない国が近くを通ってるのかもな……とか考えながら、ざっくざくとトリオン兵を斬っていく。

 

 陣形は変わらず、俺が特攻をしかけて拾いきれない分を唯我に任せて、出水が全体のフォロー。

 

 戦闘中、何度か盾花に目を向けたが……出水の半歩後ろで、レイガストを構えて俺たちの戦闘を観察するように立ってた。

 

 ……いや、俺たちの戦闘を、というよりは俺の戦闘か。目線を向けた3回とも視線が合ったし。

 

 そうやって3度目の戦闘を終えて、回収班を待ってると……また、サイレンが響いた。

 

「おーおー、また来たか」

「今日多いっすね」

 

 俺と出水が戦闘態勢に入り、

 

「ふぐぅ……」

 

 唯我がちょっとしんどそうな声をあげながらも、俺たちに続く。

 

「盾花、大丈夫か?」

 

 初陣で4回の戦闘は、精神的にかなりきつい。いくらトリオン体が身体的な疲労とは無縁でも、交戦らしい交戦をしてないとしても、きついものはきつい。

 

 きつそうなら戦闘に巻き込まれない範囲に下げて休ませようと思ったが、

 

「大丈夫です! 出水先輩のガード、やれます!」

 

 目をギラギラさせながら答えたから、まだ行けるなと判断。

 

「よし、わかった。んじゃ、行くぞ」

 

 国近からゲート発生位置を受け取り、現場に急行。

 

「……モールモッド5、バムスター2か」

 

 モールモッドが纏まってて、その後ろにバムスターが1匹、群れから外れて市街地に直行しようとしてんのが1匹。

 

「唯我、別行動してるバムスター仕留めとけ。出水は全体のフォローだ」

 

 全員がどういう意図で動いてるのかを盾花(新人)に分かってもらうために、普段は出さない指示を、あえて出す。

 

 ただなんとなく『多分こう』って思いながら戦闘の中に居るのと、『これはこう』ってハッキリ分かっているのとじゃ、覚え方や物の見え方やら、色んな物が違ってくる。

 

 そしてその違いは、動きや考え方に分かりやすく出てくる。

 

 そんな事を思いながら、俺は一瞬だけ盾花に視線を向ける。

 

 この先、盾花がウチの隊に入ったり、遠征部隊に選ばれるような事が無い限り……俺が()()()()()コイツに何かを指導してやれる機会は、多分無い。

 

 指導してやれるのは臨時で見習い入隊してる、今しか無い。

 

 俺は東さんや忍田さんと違って、人に何かを教えるのは、多分そんな上手くない。

 そんな俺が、たった何日かで盾花に何かを教えるには、あまりにも時間が足りない。

 

 だったら、せめて。

 

 覚えておいて損が無い事を……チームがどんな風に動きたいか分かってると戦闘のやりやすさが段違いになる、って当たり前で絶対困らない事を、コイツに教えておくことにした。

 

「よっと」

 

 考え事をしながら、モールモッドをザクザクと削り斬る。

 

 このまま問題無く終わる……と思った、その矢先、

 

『太刀川さん、ゲート1個追加で開くよ!』

 

 国近からそんな音声が届いた。

 

 視界の端に、黒い雷みたいなモノが見えて、それがゲートになっていく。

 

 出てきたのは、1匹のモールモッド。

 

 こんな微妙な時間差でゲートが開くのは絶妙にいやらしいが、まあ何とかなる。

 

 ちょうど俺がモールモッド共を全部切り伏せて、唯我と出水もバムスターを仕留め終わったタイミングだった。今から1匹だけ相手する分には、十分すぎるくらいに態勢が整ってる。

 

 のこのこと出遅れた1匹を仕留めようとした、その瞬間、

 

「た、太刀川さん……!」

 

 出水の隣にいた盾花に呼び止められた。

 

「んー? どうした?」

 

 振り返りながら尋ねるが、盾花からの答えを聞く前に……盾花の目を見た瞬間、何を言いたいのか分かった。

 

 目は口ほどに物を言う……だっけか。昔の人は上手い事言うもんだ。

 

 盾花の目は、さっきと同じような恐怖の色が残ってるが……同時に、それ以上にギラギラとしたやる気の色が見えた。

 

 盾花はその目で俺をしっかり見ながら、言う。

 

「あのモールモッド、私が相手しても良いですか……?」

 

 それを聞いた出水が、唯我が、国近が。何か言おうとする。

 

 けど俺はそれより早く、

 

「ああ、いいぞ。けど……やれるか?」

 

 そう言って、確認を取った。

 

 ボーダー正隊員のトリオン体には、緊急脱出(ベイルアウト)機能がある。負けてトリオン体が壊れた時、もしくは自分の意思で戦闘から離脱したい時に起動して、基地に生身の身体を転送できる、セーフティーシステム。これがある以上、俺たちは負けても命の危険は無い。

 

 ただ、『命の危険が無い事』と『安心』は、イコールじゃない。

 

 死ぬ事は無くても、怖いものは怖い。

 

 そして今、盾花はその『怖い』と真正面から向かい合おうとしてる。

 

 その向かい合おうとする姿勢は、多分普通なら称賛されるものなんだろう。だけど俺は、無理してまで乗り越えなくてもいいんじゃないかって、思う。

 

 どれだけ気張ろうが、出来る事しか出来ないんだから。

 

 だから俺は、『やれるか』と確認する。

 出来るのかと、問いかける。

 

 そして盾花は迷わず、真剣そのものの顔で、

 

「やってみます」

 

 そう答えて、その恐怖を乗り越える事を選んだ。

 

 自分がそうするって決めたなら、俺は止めない。止めない代わりに、

 

「よし、いいだろ。もし負けても俺たちがきっちり仕留めてやる。だから、思い切って……行ってこい」

 

 負けても大丈夫だと安心させて、盾花を戦闘に送り出した。




ここから後書きです。

個人的に、初陣の新兵が受ける命令は、ゴッドイーターってゲームの序盤で出てきた、
「いいか、命令は3つ。
死ぬな。
死にそうになったら逃げろ。
そんで隠れろ。
運が良ければ、不意を突いてぶっ殺せ。
……あ、これじゃ4つか?
とにかく生き延びろ。命さえあれば、後は万事どうとでもなる」
が最適かなぁ、とずっと思ってます。とにかく生き残れ。

タイトルにあるように、今回は前後編に分かれてます。元々1話だったのですが、分けた方が読みやすい感じになっちゃったので、分けました。
なるべく早く……できれば同日中に更新したいと思いますので、待っててもらえると幸いです。
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