盲目少女が見る界境防衛機関   作:うたた寝犬

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人を殺すために作られた機械兵に、たくさんの人に助けられた少女が挑む物語です。
後編です。


File14「月を守護する三本太刀④後編」

「はい! 行ってきます!」

 

 太刀川さんの許可を得て、私はモールモッドとの1対1の戦闘に入る。

 

 レイガストをホルスターから抜いて右手で持ち、モールモッドの前に立ち塞がります。

 

 敵の……モールモッドの目の前に立って、改めて、思います。

 

 怖い。

 

 モールモッドは戦闘用のトリオン兵……相手と戦って、相手を倒して、相手を殺すために作られた、トリオン兵です。

 

 さっき……最初目の前に立った時は、改めてモールモッドが戦闘用なんだと間近で見て思い知らされて……怖さで、身体が強張った。そして強張る身体と反比例するように、私の頭はあの瞬間、色んな事を考えました。

 

 トリガーに不具合が起こって、ベイルアウトがちゃんと作動しないんじゃないかという、ほぼありえない可能性。

 私の後ろには三門市があって、人が住んでいて……私が突破されたら、その人達の命が危険にさらされるという、防衛任務が存在する理由。

 

 そんな事を考えてしまって、結局何もできなくなって固まってしまい……太刀川さんに助けてもらいました。

 

 そして今も、それはあんまり変わってません。

 

 変わらず、モールモッドは怖いと思いますし、人の命がかかってることだって、ちゃんと分かってます。テンパってます。

 

 けど同時に……不思議と、落ち着いてるところもあります。

 

 吹っ切れてるけど冷静……みたいな状態です。

 

「すぅ……はぁ……」

 

 意識して、呼吸を一つしてから……踏み込む。

 

 モールモッドとの間合いを一気に詰めて、敵のリーチに入り込みます。

 

 自分のリーチに敵がやってきたのを見て、モールモッドはチャンスとばかりに二本のブレードを振るってきます。

 

 その攻撃をしっかりと見て、私はシールドモードにしたレイガストで攻撃を防ぐ。

 

「っ!!」

 

 ガツン、ガツンとした確かな衝撃が、レイガストを通じて私の身体をぐらつかせます。

 

 体勢を完全に崩される前に私はバックステップを踏んで距離を調整して、レイガストを構え直します。

 

 距離を取っても、そこは未だに相手の間合い。ラッシュとも言うべき攻撃が、私に襲いかかってきます。

 

 サイズで完全に負けてるので、踏ん張って防ぐ事は出来ても私の体勢はすぐに崩されます。けどその度に、私は距離を調整してレイガストを構え直し、受けに徹します。

 

 何度かレイガストにヒビが入りかけましたが、その度にスラスターを起動してモールモッドの間合いから外れるくらい距離を取って、レイガストを解除してすぐに再展開して耐久力を取り戻します。

 

 正面から受け止めるような形は分が悪すぎるので、受け流すような形にレイガストの構えを調整して……モールモッドの攻撃を、じっと耐えて、じっくりと観察します。

 

 そうして耐えるうちに、私は1つ確信します。

 

 勝てる、と。

 

 たしかにモールモッドの攻撃は重たいですし、速いです。

 

 でも。

 

 カゲさんみたいに、目で追いきれないような速さの攻撃じゃない。

 二宮さんみたいに、ガードをガン無視するような無茶苦茶な力じゃない。

 コウさんみたいに、突破できないような絶対防御じゃない。

 望先生みたいに、訳わかんない内に攻撃が当たってるようなトリッキーさは無い。

 

 ちゃんと見えるし、凌げるし……何なら、攻撃のパターンやリズムだって、何となく捉えてきました。

 

 ここまできたら、もう……ランク戦と同じです。

 

 相手の攻撃しやすい間合いを保って、攻撃させて、ひたすら受け潰して、カウンターを狙う。

 

 右のブレードからの、振り払うような一撃

 左右のブレードをリズム良く振るうワンツー

 左右同時の挟み込む力任せの一撃

 

 右のブレードからの、振り払うような一撃

 左右のブレードをリズム良く振るうワンツー

 左右同時の挟み込む力任せの一撃

 

 右のブレードからの、振り払うような一撃

 左右のブレードをリズム良く振るうワンツー

 左右同時の挟み込む力任せの一撃

 

 完璧にパターンを掴んだところで、

 

 私は、勝負に出ました。

 

*** *** ***

 

 戦う前は心配してたが、いざ蓋を開けてみりゃ、盾花の勝ちはすぐに確信できた。

 

「盾花ちゃん、防御上手いっすね」

 

「だな」

 

 出水がボソっと呟き、俺が同意する。

 

 モールモッドの攻撃を受ける度に、盾花は防御を更新。攻撃をされる度に、受ける度に、盾花の守りはより強固に、より安全になっていく。

 

 トリオン兵ってのはパッと見だと生き物っぽいが、実際は作られた存在だからどっちかと言えば機械に近い。

 

 こんな状況で、こんな風に動く。

 そういう行動を取るように設定されてる、と言ってもいい。

 

 動きにパターンがあって、同じ状況を作ってやれば大体同じ行動を取る。

 

 盾花もそれを知ってるのか、あるいは今気づいたのか……間合いを上手いこと調整して、モールモッドの攻撃を観察し始めた。

 

 堅実な守りと、間合いをコントロールする感覚。この辺は多分本人が自覚してるっぽい長所だろう。

 あともう一個光る物があるんだが……それはまあ、自分でおいおい気づくだろう。

 

 危なげなく戦いを進めていった盾花に、動きがあった。

 

 今までは「どんな攻撃を仕掛けてくるか」と探るような動きだったが、一転して「狙った攻撃をさせる」動きに変わった。

 

 間合い、構え、攻撃後の対応、全てを同じように再現して、モールモッドに狙った攻撃をさせる。

 

 薙ぎ払うような一撃に続く、左右のブレードでのワンツー。

 そしてその後に来る挟み込むような攻撃……が来る前に盾花はモールモッドの間合いの、さらに内側へと潜り込む。

 

 レイガストがシールドモードのままで潜り込んでどうするのか……と思ったその瞬間。

 

 モールモッドの動きが、不自然に止まった。

 

 両方のブレードが盾花を挟み込もうとしたところで、モールモッドはまるで致命的な一撃を弱点である『目』に食らったみたいに、動きが止まった。

 

 何があったのか、それを探り切る前に盾花が王手をかける。

 

 シールドモードのレイガストをブレードモードへと切り替えて、両手で持ったまま右肩に担ぎ込むように構え、

 

「スラスターオン!」

 

 勢いよくトリオンを噴射しながらの、豪快な斬り下ろしを決めた。

 

 モールモッドの胴体が派手にぶった斬られて、中に詰まってたトリオンがガンガン漏れ出て……やがて動きが完全に止まった。

 

「おーおー、豪快な一撃だ」

 

「見てて気持ち良いくらいの一撃だったが……出水、最後の一撃の前に何があったか分かるか?」

 

「不自然に動き止まったやつ……っすよね。タイミング的に、至近距離で弾トリガー使って撃ち抜いたような感じでしたけど、銃もキューブも出してないんで……わかんないっす」

 

「出水もお手上げか……んじゃ、答え聞いてくるとするか」

 

 ちょっとした疑問を解消するべく、俺と出水は唯我に褒めちぎられてる盾花のそばに寄った。

 

*** *** ***

 

 分厚く堅い氷を砕くような感触と、硬さと粘着質が入り混じった肉を切るような感触を感じながら、私はモールモッドを一刀両断しました。

 

 任務中、太刀川さんや唯我先輩が狙ってたように、モールモッドの目の部分を切りましたし、そこから勢いよくトリオンが吹き出てきてるので、倒したとは思うのですが……不安と恐怖から私は構えを解けません。

 

 両手でレイガストを持ち、目線と剣先をモールモッドに向けたまま、その時を待ちます。

 

 そして完全に……吹き出るトリオンが尽き、モールモッドの目から光が失われ完全に沈黙したところで構えを解き、肩の力を抜きました。

 

 生身の感覚を再現したトリオン体が、私の興奮をバクバクとうるさい心臓の音で表現します。

 

 こっそり親の言いつけを破って、ちょっと悪い事をした時のようなドキドキとも。

 マラソンを全力で走った時のドキドキとも、違う。

 

 赤い血が沸き立つような。

 瞳の奥が冴え渡るような。

 口元が思わず綻ぶような。

 

 モールモッドを倒した事で得た、何とも言い難い興奮が少し引いたところで、

 

「良い! とても良かったよ盾花さん!」

 

 後ろから、唯我先輩が大きく優しい声で私を褒めてくれました。

 

 振り返り、まるで自分のことみたいに嬉しそうにしてる唯我先輩を見て、ペコっと頭を下げてお礼を言います。

 

「はい、ありがとうございます、唯我先輩」

 

「いやいや、ボクは何にもしていないさ。このモールモッドは、盾花さんが1人で倒したんだよ?」

 

「そうかもしれませんけど……唯我先輩、私が戦ってる時、常に何があったら助けに来れる位置に居てくれたので……心強かったです」

 

 戦ってる時、何回か唯我先輩がチラチラと視界の端に見えました。その立ち位置と距離が、まるで私をフォローしてくれるようなものだったので……もし負けても唯我先輩に任せられると思って、心強かったのは確かです。

 

 唯我先輩は「バレてたかー」って言いたそうな顔をしてから、

 

「ボクはたまたまそこに居ただけで、あくまでモールモッドを倒したのは盾花さん自身さ。いやでも、本当に良い動きだったよ盾花さん!」

 

 また私を褒めてくれました。そんなところを見て、第一印象から、『なんだかんだで良い人そう』とは思ってましたけど、本当に良い人だなぁ……と改めて思います。

 

 そうやって唯我先輩に褒められていると、遠巻きでどっしり構えてた太刀川さんと出水先輩が歩いてきてくれたのが見えました。

 

「あ、太刀川さん」

 

「おう。よくやったな、盾花。ナイス」

 

 言いながら太刀川さんは右拳を差し出し、私は何となくこうかな……と思いながら同じように右拳を出して、コツンと合わせます。

 

「気分とか悪く無いか?」

 

「大丈夫です。ちょっとドキドキしてるくらいです」

 

「はは、分かる分かる。まあ、それはさておき……盾花、1つ質問いいか?」

 

 質問、という言葉のトーンだけが少し重かったので、私は何がまずい事をしてしまったのかと思い、身構えます。

 

「そんな構えなくていいぞ。……最後のぶった斬りの前に、どうやってモールモッドの動きを止めた?」

 

「ああ、それなら……」

 

 それなら答えられると思って、よいしょよいしょとレイガストを構えて、シールドモードを起動します。

 

「こうやって両手で持ちながら……こうです」

 

 こう、と私が言うのと同時に、さっきモールモッドに仕掛けた攻撃と同じものを再現させて、

 

 シールドの表面に、ブレードを生やしました。

 

「ほーう……そりゃ面白い……」

 

 何が起こったのか理解した太刀川さんは、思わずと言った様子で唸りました。

 

 肩から指先くらいまでの長さの、ブレード。

 これをモールモッドの至近距離で展開して目を貫いたのが事の真相です。

 

 ぶっつけ本番だったけど、上手くいって良かった……と思ってたら、今度は出水先輩に質問されました。

 

「なあ、盾花ちゃん。ちょっといいか?」

 

「はい?」

 

「おれの記憶違いじゃ無ければ……レイガストのシールドモードって、モールモッドの装甲を破るくらいの攻撃力は、なかったような気がするんだよ。レイガストの機能変形って、ここまではシールド、ここからはブレード、みたいに細かく出来んの?」

 

「いいえ、出来ないです」

 

 レイガストはシールドモードにしちゃうと、強度が上がる反面、ブレードとしての攻撃力はガクッと落ちます。ブレードの達人だとしても、シールドモードのレイガストで何かを切るのは難しいくらいだと思います。

 

 なので、この刺のようなブレードは、()()()()()()()()()()()()

 

 刺みたいなブレードを解いた私は……右手にレイガスト、()()()()()()()()()を展開しながら、太刀川さんと出水先輩に種明かしをします。

 

「メインで展開したレイガストのシールドの裏から、サブで展開したスコーピオンを使って、守りながら攻撃したんです」

 

 訓練生の頃、散々『守りながらの攻撃できたら良いのに!』って思ってたのを実現させた、レイガストとスコーピオンによる、変則フルアタック……いや、これはアタックじゃない……? まあ、いいや。

 

「レイガストとスコーピオンの、変則型フルアタックです」

 

 視覚と言葉で説明を終えたところで、

 

「へえー! 盾花ちゃん面白いことするな!」

 

 出水先輩がキラキラした目でそう言ってくれました。

 

「あはは、子供のイタズラみたいな、相手をちょっと驚かすぐらいの攻撃ですよ」

 

「やー、でもコレ初見だと分かんないと思うわ。レイガストで守りながら攻撃ってなると、どうしても村上先輩みたいなのを想像するから……一見何も持ってないその状態からのスコーピオンは刺さると思うぜ。……ってかそもそも、レイガストとスコーピオンを組み合わせ自体がかなり稀だし」

 

 ああ、やっぱり稀なんですね、この組み合わせ……。まあ、重くて硬くて防御型のレイガストと、軽くてスピード重視のスコーピオンとじゃ、使い方が真逆なのでそれは仕方ないとは思いますが……みんなもっとレイガスト使おうよ……。

 

 心の中でレイガストの使用率の低さを嘆いていたら、太刀川さんが声をかけてくれました。

 

「盾花。何はともあれ、お疲れさん。そろそろ交代の時間だし、多分今のがラストだな」

 

「はい。……あの、太刀川さん」

 

「なんだ?」

 

 私は太刀川さんの目をしっかりと見て、それから頭を丁寧に下げました。

 

「最後のモールモッド、私に任せてくれて、ありがとうございました」

 

「はは、礼を言われるような事じゃあ無い。気にするな」

 

 さすがA級1位、心が広いなぁ……と思いながら頭を上げたら……なんか、やたら目をキラキラさせて、イキイキとした太刀川さんがいました。

 

「まあ、それはさておき……」

 

 あれ? 

 何かこの顔さっきも見ましたよ?? 

 最初作戦室でテストしようって言った時と今の太刀川さん同じ顔してますよ??? 

 出水先輩に唯我先輩、なんで2人とも「あー、捕まったなぁ」って言いたそうな顔で私を見てるんですか???? 

 ねえ????? 

 

 心の中に沢山のクエスチョンマークが浮かぶ中、私は、

 

「ところで盾花、防衛任務終わった後暇か? 良かったら、ちょっと手合わせしようや」

 

 A級1位にしてブースの主に、個人戦のお誘いを受けました。

 

 任務中、たくさん迷惑かけて手間をかけさせて、わがままも聞いてもらった手前、断ることができるわけなく、

 

「あ、はい……わかりました」

 

 半分なし崩し的に、私は太刀川さんに約束を取り付けられました。

 

 

 

 

 そうして、最後にそんなちょっとしたオチを付けながら、私の防衛任務任務初陣は無事に幕を閉じました。




ここから後書きです。

変則フルアタックの発想は、原作で修がやってたやつですね。レイガスト便利〜、って思った決定的な技だったので。

最後カットしましたが、太刀川戦を終えた盾花の感想は、
「何されたか分かるけど、何もさせてもらえず負けた」
とのこと。無量空処か?

ちなみに盾花が作中で言ってた「親に隠れてやった悪い事」は、目が見えてた頃に夜な夜なこっそりカップ麺を食べてたことです。夜中のカップ麺は背徳の味。

「月を守護する三本太刀」編は、次でラスト(予定)です。黒コート盾花は次なるコスプレを求めて別チームへと旅立ちます。
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